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豪華客船4

「さあこいよ、ナツネ。また君の雄姿を見せてくれ」

ギラギラと光り輝くその目が、痛いほど心にささってくる。

ちがう、ちがう。

そうじゃないでしょ。私が今したいことはーー!

彼に向けていた拳銃を、ゆっくりと下げた。

同時に、柳田さんの眉はくっと上がる。

「怒りに身を任せて、人を殺すようなことはしたくないっ…!」

駄々をこねる子供のように、かぶりをふる。

キンとホールに響いた声は、やけに鋭く聞こえた。

数秒の沈黙の後、はっと空気がもれる音が耳に届いた。

「君ほんとにナツネ?……つまんな」

パアンッ!

彼が一発撃った。弾は、ギリギリ私をかすって後ろへと流れる。

私は、避けなかった。

「今日久しぶりに会ったときに、胸が躍ったんだ。俺は一度だけ、君が“仕事”をする姿を見たことがある。美しかった。その一言で全てを言い表せるほど、ただただ、君に魅了されたんだよ。なのに“人形”だった君は、今では“人間”だった。あの男の子か?君に魔法をかけたのは」

一歩一歩、拳銃を向けつつ、歩いてくる。

私は、後ろに下がらなかった。

彼の目の瞳孔が見える位置まで来た。

トンッと硬い金属で、心臓の部分をおされる。

「期待外れだよ、君は」

パンッと拳銃を払った。

とっさのことに反応できなかった彼から、それは簡単に空中へと投げ出され、硬い音をだして落ちた。

「他人からの期待とか、いらないです。私は私の生きたいように生きる」

言い返した私に驚いたのか、彼は動かない。

その隙に、バッと彼の胸ポケットから封筒をとりだす。

「まっ、それは…!」

「驚いた。こんなとこにこんな大金を隠しておくなんて、警察としてどうなんですか?とられちゃいますよ?」

封筒に入っているのは、たぶん50万ぐらい。

「なんて、ほんとはずっと気づいてましたよ。異様に服が膨らんでますもん。で、これは誰からのお金ですか?」

眉をひそめ黙ってしまった柳田さんから一歩距離をとる。

そして、ポケットに手を入れた。

「これは私の憶測ですが、あなた、共犯ですよね?たぶんこのお金も、犯人から口止め料的なものでもらったもの。私とフウゲツにヒントを与えて、自分も味方だと思わせようとしたのかもですけど、なんでそのときに、他の警察は眠っていたのに、あなただけ無事だったんですか?警察が泊まっていたフロア全部に、催眠ガスが充満してたのに。それは犯人に、催眠ガスを充満させる時間帯を事前に知らされていたからなのでは?となると、犯人は船をあやつれる誰か。船の乗組員?だけど一般人の乗組員が、京真さまと香穂さんを殺そうとする理由がわからない。となると犯人は、あなたみたいに、口止め料を渡して従わすことができる人物」

バサッとお金をばらまく。

月光に反射して、まるで銀の雨みたいに、空中を泳ぐ。

「こっちは犯人に検討がついてるんですよ。まだ続けましょうか?」

「……君の、言うとおりだ。俺は、あの人からお金をもらって、動いてた。警察として、最低だよな……でも、目の前の金に目がくらんだんだ。俺は結局、自分の欲望にがめつすぎたんだろうな…」

目元をおさえる彼を、静かにみつめる。

「ナツネちゃんっ!」

ホールに大きな声が響いたと思うと、肩を上下に動かす白雪さんとイブキさんだ。

「どうしてここに…!」

「さっき拳銃の音がしたやろ!?あれナツネちゃんやなかったん!?いっちゃん端から走ってきたんやけど!?」

「私もよ!!」

「えっ、柳田さんやん!わーおひさしゅう!なんでんなとこに…」

柳田さんが気をとられているすきに、私はステージへ!

「しまった…!」

柳田さんが声をあげても、もう遅い。

彼が私をステージから遠ざけたかった理由。

それは、ステージで伸びてる殺し屋たちから話をきかせないためでもあったけど、理由はほかにもあるはずだ。でないと、あんなに私を警戒しないと思う。

グルリとステージを見回すと、奥のカーテンの端に、ドアノブが見えた!

「やめろっ!!」

追ってくる柳田さんの手をかいくぐり、バンッと扉をあけ放つ!

そこにいたのはーー

「こんなとこで何してるんですか」

真っ暗な部屋、監視カメラの光だけに照らされた、茉莉花さんだった。

「ちっ、違うの!私はただ、ちょっと眠れなくて、その、船員さんがこの場所を教えてくれて、ちょっと気になったからのぞいてただけっていうか…!」

あからさまにあたふた慌てる彼女を、感情がない瞳で見下ろす。

「いいかげん白状したらどうですか。香穂さんは死んでない。柳田さんが共犯だということも判明した。京真さまはーー」

京真、さまは……。

そこで黙ってしまった私を、フンッと彼女は鼻で笑った。

「だからどうしたっていうのよ?私はたまたまこの部屋に入っただけだから、香穂ちゃんと貴堂さんが死んでないことなんて知らないわよ」

「私は、京真さまが“死んだ”なんて言っていませんよ?」

茉莉花さんが、しまったという顔をした。

「たまたまここに来ただけなのに、ですか?」

ふっと笑えば、彼女は唇をかみ顔を歪めた。

「……そうよ…」

低く、うめくような声で言ったかと思えば、今度は耐えきれないとでもいうかのように、すごい剣幕でしゃべりだした。

「ああそうよ!この船に監視カメラをつけたのも、船員や殺し屋たちや、そいつを雇って小細工をしたのも、すべては香穂ちゃんを殺すためだったのよ!豪華客船っていうパーティーを催すことで、誰かにどうにかして罪をなすりつけようとしたのよ!そこにたまたま、貴堂京真もいるじゃない?彼を殺してほしいやつらは少なくないからねえ。それだったらついでに殺して、あとで報酬をもらおうと」

パンッと鋭い音が響く。

私が、茉莉花さんの白い頬をはたいた音だ。

さあっと彼女の頬に、赤みが増す。

「なっ…」

「ついでで、あの人は殺されそうになったんですか?今も生死の境をさまよってるのに、あんたの自分勝手な判断でっ…!」

悔しくて悲しくて、思わず水滴が頬を伝ってしまった。

後ろにいる柳田さんも、イブキさんも白雪さんも、何も言わない。

「あなたねえっ…!この私に、こんなことしていいと思ってるの!?あなたなんかすぐに、権力で消すことができるんだからねっ!?」

『権力と地位に依存して、国民を従わせてるようなやつらみたいには、なりたくないんだ』

いつしか京真さまが言っていた言葉を思い出す。

あなたのその真っすぐな姿勢と笑顔は、いつだってまぶしいなあ。

「…そうですね、京真さま」

「はあ!?」

「あいにくですが」

ずっと前から、ポケットの中で起動していた録音装置をとりだす。

柳田さんも茉莉花さんも、さあっと血の気をひく。

「証拠はここにあります。社会的に消されるのはどちらでしょうね?」

そして二人とも、力なくへたりと崩れ落ちたのだった。


二人は警察に引き渡され、豪華客船の旅は幕をとじた。

あのあとの二人がどういう処罰を受けたのかはわからない。

あの録音装置を警察に引き渡して、それからは警察と連絡をとりあっていない。

この事件をきっかけに、変わってしまったことはたくさんあった。

不覚にも催眠ガスを吸って全員寝落ちてしまったという事実がニュースで放映された。さらに気をひきしめて善処していく、といった内容で、警察はさらに威信をかけてよりよいものへと変わるだろう。

さらに、フウゲツの姿が見えなくなった。

事件の真相を全部知っているわけではなかった彼に、せめて話すことはあると思っていたのに、全く顔が見えないのだ。

そして。

京真さまが、屋敷から少し離れた病院に入院することになった。

入院してから3日、いまだに目を覚まさない。

窓の外では、冷たい木枯らしが茶色の葉っぱを転がしている。

私は今日も、彼のベッドの横に座って、彼と窓の外の曇天を見つめるしかない。

「京真さま……」

私、あなたに伝えたいことも、伝えきれていないことも、たくさんあるのに。

はやく、目を覚ましてよ……                      つづく








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