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IQ200の凄腕冒険者と一緒にゴブリン討伐することになったけど、その戦い方は凄まじいゴリ押しだった

 俺はアモン・メイス、冒険者だ。

 今日もギルド受付の姉ちゃんに何か仕事はないか聞く。なにしろ仕事しなきゃ食ってけないからな。

 俺の問いかけに、澄ました美人の受付の姉ちゃんは――


「先ほど入ったばかりの依頼がありますね」


「どんな?」


「ゴブリン討伐です。この近くのゴア村がゴブリンの集団に占拠されているので、大至急討伐して欲しいと……。報酬は20万リルです」


 かなり高額な仕事である。20万リルあれば当面の生活には困らない。

 報酬は申し分ないが俺は難色を示す。


「ゴブリン討伐か……俺はBランクだし、一匹二匹ならなんとかなるけど、集団となるとなぁ……」


 俺が二の足を踏んでいると――


「ならば私と仕事をしないか?」


 声をかけられた。

 振り向くと、そこには銀髪で眼鏡をかけ、白い鎧をつけた冒険者が立っていた。

 俺はこの冒険者を知っていた。カトラス・クルーガー、俺より格上のAランク冒険者だ。この男がAランクまでのし上がったのは剣の腕というよりは、むしろ――


「IQ200の……この私とな」


 IQ200という規格外の頭脳によるものだと言われている。

 おそらくさほど高くない戦闘力を作戦や判断力などで補っているのだろう。

 こっちとしては願ってもない話だし、あちらとしても徒党を組んだゴブリンは面倒なので補佐役が一人ぐらい欲しいといったところか。

 なるほど……さすがはIQ200だ。


「報酬は山分けってことでかまわないですよね?」


 相手は格上だし、俺は敬語で接する。


「もちろんだ。なにしろ私はIQ200だからな」


 報酬を山分けすることとIQ200になんの関係があるのかはよく分からないが、10万リルでも十分上等である。

 俺はこのカトラスという男と手を組み、ギルドから正式に依頼を引き受けた。



***



 ゴア村へ向かう俺とカトラス。

 その道中――


「カトラスさん、ゴブリンはおそらく十数匹ってところでしょう」


「IQ200の私が推測してもそのあたりが妥当だろうな」


「なにか策や作戦は考えてあるんですか?」


 あるのならば今こうして歩いている間に打合せしておきたい。

 だが、カトラスは予想に反してこう答えた。


「そんなもの不要だ」


「え、作戦なしでいくんですか」


「IQ200だからな」


 よく分からない答えだが、ようするにゴブリン程度ならばその場で思いついた策で十分倒せるということか。それに作戦を事前に決めてしまうと、決めていた作戦に縛られて柔軟な対応ができなくなるかもしれない。

 そこまで考えてるのか。やはりIQ200は違うなぁ、と俺は思うのだった。


 せっかくなのでこんな質問もしてみる。


「ところで、いつからIQが200になったんです?」


「私は生まれつきIQ200だった」


「へえ、測ったんですか?」


「測ってはいないが……IQ200だ」


 こう言われてはそうだったのだろうと認めるしかない。変に食ってかかって機嫌を損ねても得することはない。


 おっと、そうこうしてるうちにゴア村が見えてきた。俺も気を引き締めねば。


「カトラスさん、ゴブリンどもをブッ潰したら酒場で一杯やりませんか?」


「ああ、いいだろう。ただしワリカンでな」


 俺より稼いでるだろうに、IQ200は案外ケチだった。

 酒の約束を交わし、俺たちはゴア村へ突入する。



***



 村に入ると、ゴブリンどもが我が物顔で振舞っていた。

 家を破壊し、食料を食い散らかし、村人たちを奴隷のように扱っている。反吐が出る光景だ。

 しかもどいつもこいつも斧や棍棒で武装しており、やはり一筋縄ではいかないようだ。

 ゴブリンらも俺たちに気づき――


「なんだぁ、てめえらは?」


「冒険者だよ。お前らを討伐しにきた」俺は答える。


 ゴブリンどもは顔を見合わせて、笑う。


「ゲヒャヒャヒャ! たった二人でオレらとやり合おうってか! おもしれえ、返り討ちにしてやらぁ!」


 血の気の荒そうなゴブリンが二匹、俺たちに突っかけてきた。


 俺は向かってきたゴブリンの棍棒を受け止めると、まず一太刀入れる。しかし、一撃では致命傷を与えられず反撃してきたので、すかさず二撃目。これでどうにか倒すことができた。


「……ふぅ」


 一方のカトラス。

 ゴブリンが斧で襲いかかる。果たしてカトラスはどんな頭脳プレイを見せてくれるのか。俺はつい期待してしまう。

 すると――


「私は……IQ200だ」


 これにゴブリンはビクッとする。


「IQ……200!? なんて賢さだ……!」


「せやぁっ!」


 隙ありと言わんばかりにゴブリンを斬り倒した。


 さらにカトラスは、他のゴブリンたちに斬りかかる。

 当然、ゴブリンらも迎え撃つ。

 俺からすればかなり無茶な突撃に思える。

 だが――


「私のIQを教えておくが……私はIQ200だ」


 これにゴブリンたち。


「な、なんだとぉ!?」

「IQ200もあるのかよ!」

「高すぎる……!」


 驚いているゴブリンたちを次々斬り倒していく。


 中には背後からカトラスを襲うゴブリンもいたが、


「IQ200の私を背後から狙うとは……愚か者め!」


「IQ200だとォ!?」


 IQ200に怖気づいた隙に斬られてしまった。


 その後も「IQ200」と言えばゴブリンたちがビビり、その隙に斬る。ひたすらこれを繰り返す。

 これって頭脳プレイなのか? いくらなんでもゴリ押ししすぎでは……。


 またもゴブリンの一匹がカトラスに殴りかかる。


「うおおおおおおっ!」


「私はIQ200だ」


「だからどうしたぁぁぁぁぁ!」


「私は……IQ200だ!」


「て、天才だ……!」


 ちょっと頑張ったがやっぱり斬られた。IQ200恐るべし。


 カトラスのこの力は一体なんなのだろう。

 催眠術? 魔法? 気迫? 言葉の力? それとも声の力? しかし、俺の思い浮かべたどれもが、なんだかしっくりこない。IQ200ってすげえとしか言いようがない。

 

「必殺……IQ200!」


 ついに必殺技も飛び出した。IQ200冒険者の必殺技はやはりIQ200らしい。俺の目には「IQ200!」と叫びながら普通の袈裟斬りをしただけにしか見えなかったが。


 もちろん俺もただ見物してたわけではない。どうにか数匹を倒し、ゴブリンどもは全滅した。

 これで依頼達成である。


「ふぅー、なんとかなりましたね」


「IQ200IQ200IQ200……」


「え、なんですか、今の?」


「ああ……私の笑い声だ」


 IQ200ともなると、笑い声までIQ200になってしまうようだ。


 だが、これで終わりと思いきや、俺たちはさらに恐ろしい敵を遭遇することになる。


「ふん、役に立たねえ手下どもだ」


 村の奥から現れたのは、今までに倒したゴブリンの数倍の巨体を誇る怪物――キングゴブリン!


「キ、キングゴブリン……!」


 その迫力に思わず後ずさってしまう。

 ちくしょうギルドめ、こんなのがいるなんて聞いてねえぞ。どうりで妙に高額報酬だったわけだ。さては意図的に隠していやがったな。絶対後で文句言ってやる。もっともそれも生きて帰れればの話だが。

 キングゴブリンはBランクの俺では手に負えないし、Aランク冒険者でも勝ちの保証はない。


 俺が尻込みしていると、カトラスが前に出た。


「ここはIQ200である私に任せておけ」


 ううむ、悔しいが頼もしい。しかし、キングゴブリンほどの相手に今までのIQ200戦法が通じるのだろうか? 不安もよぎる。


「IQ200の剣技、受けてみよ!」カトラスが駆ける。


「むんっ!」


 キングゴブリンが金棒を振るうと、カトラスは派手に吹っ飛ばされた。


「カトラスさん!」


 俺が駆け寄ると、どうにかカトラスは起き上がった。


「ふう、IQ200でなかったら危なかった……」


 よく分からないが、あの一瞬でIQ200の判断力で超絶的な防御や受け身をこなしたのだろうか。

 だが、今の一撃で分かったこともある。キングゴブリンは俺たちが勝てる相手じゃない。

 キングゴブリンは無慈悲に間合いを詰めてくる。

 しかし、カトラスは臆せずキングゴブリンを睨みつけた。


「なんだ、まだやる気か。貧弱な人間め」


「貴様……自分が今何をしたか分かっているのか?」


「?」


「今貴様はIQ200の私を傷つけたんだぞ」


「それがどうしたってんだ」


 キングゴブリンは余裕の表情。そう、カトラスのゴリ押しもやはり桁外れの怪物には通用しない。戦法が空回りしてしまっている。今の彼は冒険者というより完全にピエロだ。


「まだ分からんのか? 私は……IQ200だ」


「だから今聞いたって」


「私は……IQ200だ」


「え……」


「私のIQは……200だ!」


「な、なにっ!?」


 なんだか風向きが変わってきた。


「教えてやろう。IQ200というのは……ものすごく賢い」


「ひいいっ!」


 なぜ悲鳴を上げる。


「さらに言うと……IQ200には不可能がない」


 ずいぶん大きく出たな。


「な、なんてことだ……! 不可能がないなんて……!」


 震えるキングゴブリン。不可能がないわけないだろ。

 これでカトラスの舌はさらに勢いづく。


「IQ200の私を怒らせたということは、貴様の運命は……終わりだ」


「そ、そんな……!」


「なにしろIQ200の私がただ黙って殴られることなどありえないのだからな」


 ここでキングゴブリンはハッとする。金棒で彼を殴った瞬間を思い出したのだろうか。


「――まさか、あの一瞬で罠を!? オレに殴られながらも抜け目なくトラップを仕掛けてたのか!?」


「その通りだ」


「それもオレが一歩でも動けば発動するような罠を!」


「その通りだ」


 なんか勝手にものすごくこっちに都合のいいように解釈してくれてる。


「一歩でも動けば貴様は……地獄以上の苦しみを味わいながら死ぬ」


「うわあああああああっ!」


 キングゴブリンは勝手にとんでもない罠を想像し、勝手に絶望している。凍ったように動かなくなってしまった。これがIQ200の力なのか。


 やがて、キングゴブリンは膝から崩れ落ちた。


「オレの……負けだ……」


「賢明だ。貴様もIQ150ぐらいはあるかもしれんな」


「フッ、ありがとうよ……」


 なぜか爽やかに自らの首を差し出す推定IQ150のキングゴブリン。

 まもなくカトラスの手で討ち取られた。

 こうしてIQ200の冒険者カトラスは、IQ200のゴリ押しでゴブリン集団を倒してしまった。色々言いたいことはあるが、結果を出したことは確かだ。この業界、結果が全てだし。


 とにかく村に平和が戻った。


「ありがとう……!」

「ありがとうございました!」

「救われました!」


 ゴブリンに苦しめられていた人々が俺たちに感謝を述べる。俺は所詮金目当ての冒険者だが、こういう場面こそ冒険者をやっててよかったな、と思う瞬間かもしれない。


 カトラスは村人たちに言う。


「村の復興は順調に進むだろう。IQ200の私が言うのだから間違いない!」


 歓声が上がった。

 IQ200のお墨付きをもらい、彼らは安堵し、心に火がついた。

 村人たちを安心させるカトラスを見て、誰がなんと言おうとこの人はIQ200だ……と俺は感激した。



***



 その後、俺たちはギルドにたっぷり抗議した後、報酬を受け取り、約束通り酒場へ寄った。

 丸テーブルの席に座り、二人でぶどう酒の入ったグラスを手に取る。


「それじゃ乾杯しましょうか」


「ああ、私のIQ200と君の未来に……乾杯!」


 仕事を終えた後の酒は格別である。


「ぷはーっ、うまいですねえ!」


「ハハハ、この時のために生きてるという感じがするよ」


「あれ? カトラスさん普通に笑えるんですね」


「ああ、IQ200IQ200IQ200」


 指摘されて平然と「IQ200」に笑い声を直すあたりが只者ではない。


「そういえばカトラスさん、さっきのIQ200戦法なんですけど……言葉が通じない相手にも通じるんですか?」


「むろん通じる。なにしろIQ200だからな」


 通じるんだ……。だが、確かにそうでなければとてもAランクにはなれないだろう。IQ200にビビらない生き物はいないのだ。


 酒は進み――


「……よかったらまた組みませんか?」


「いいだろう、君もなかなかの冒険者だった。IQ200の私としても異存はない」


「ありがとうございます!」


 近いうちまたカトラスと一緒に仕事ができるかもしれない。傍で勉強させてもらおう、と俺は思った。

 仕事をこなし、うまい酒を飲み、いい出会いができた。今日は俺にとって素晴らしい一日となった。


 店員に勘定を頼む。


「お会計3200リルになります」


「じゃあさっき決めた通りワリカンにしましょうか」


「ああ。3200を二人で割るとえーと、えーと……」


 カトラスが指を使い始めたので、俺はすぐに彼に教えてやった。


「一人1600リルです」






おわり

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい面白かったです! ちなみに数学者には四則計算ができない人結構いるらしいです。 数学も上の方になると『数』は使わないんだそうで……。 それにしても強いな! [一言] 笑ってしまいました…
[良い点] あはは...いてて もぅ〜痛いです。エタメタノール様の作品は笑ってしまうのでとても痛いです。てへ IQ 200がどれほど凄いか分かりませんが、これだけは言えます。 「なんでゴブリンにIQ …
[一言] IQ200は思い込みなのかな笑 主人公の方が頭良かったっていう。 ゴブリン討伐でオチを付けるのかなとおもったら、不意打ちでした(;´∀`)
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