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第六話 日向隊と月花隊 上


 シノブがミロクに問い合わせたところ、結局、双子の配属先は書類の通りにとの事だった。

 ちなみにミロクは「おう、その通りだ。任せたぜ!」なんて笑っていたらしい。その事を報告してくれた時のシノブは据わった目で「後でシメてやります」と言っていた。存分にシメたら良いとホノカは思った。


「ま、決まっちゃったものは仕方がないね」

「そうですね。私達があたふたしていると、隊員達にも余計な不安を与えるでしょうし。しれっとした顔で挨拶だけ済ませておきましょう」

「お二人がしっかりしていて嬉しいやら寂しいやら……」


 そんな話をしながら、双子はひとまずそれぞれの部屋に黒猫と荷物を置いて、隊員達が待っている会議室へと向かった。 

 会議室へ入ると、普段置かれているであろう机や椅子は後ろの方に移動されていて、空いたスペースに日向隊と月花隊の八人が整列していた。


(確か……日向隊は嵐山ウツギ、朝比奈アカシ、大門ヒビキ、佐々木スギノの四人。月花隊は篠塚トウノ、神崎ユリカ、五十嵐イチコ、住良木セツの四人、でしたね)


 事前に読んだ資料を思い出しながら、ホノカは頭の中でそれぞれの顔を確認する。出自や経歴、年齢も違うが怪異因子討伐に関する能力はとても高いらしい。

 しかし、やはり帝都全体の怪異因子を対応する事を考えると、人数の少なさは否めない。

 確かに怪異因子討伐の際には一班が三人か四人で組むので、最低限の人数はいると考えて良いだろう。けれども現状、二班しか(・・)動けないというのはかなりの弱点である。ホノカ達が入って十人でも三班にしかならない。今のところは何とかなっていたとしても、怪異因子が複数地点で同時に出現したら対応が追い付かないだろう。


(様子を見つつ、本部から応援を回してもらう事になりますかねぇ。まぁ、それはそれとして、あとは……空気がとても悪い)


 ホノカは僅かに目を細くした。会議室に入った時に感じていたが、ギスギスしているのだ。

 隣のヒノカにちらりと視線を向けると、彼もそれに気付いているらしく、表情は平静を装ったまま小さな声で「うわぁ……」と呟いていた。

 仲が悪いと聞いていたが、本当にそうなのだなとホノカは悪い意味で感心する。ただ、それでも隊長を迎える場という事もあってか、喧嘩をし始める様子はなかった。ひとまずそういう理性は働くらしい。

 なるほど、とホノカが心の中で呟いていると、シノブが自分達の紹介を始めてくれた。

 

「こちらが本日より、日向隊、並びに月花隊の隊長に就任されました、御桜ヒノカ隊長と御桜ホノカ隊長です」


 すると、そのとたんに隊員達が「御桜……?」とざわついた。

 彼らの反応を見てホノカは目を瞬いた。新しい隊長が来るという事は知っていたようだが、名前については知らされていなかったらしい。たぶんこれはミロクの指示だろう。『御桜』という名前は、両隊にとって特別な意味を持つだろうから。


「御桜って……」

「それでは隊長、よろしくお願いします」


 一人の隊員が何か言いかけた時、シノブがそれを遮ってホノカ達に話を振った。


(さすがシノブさん。上手いですね)


 ふふ、とホノカは微笑んだ。

 隊員達は双子の苗字を聞いて、自分達が従っていたかつての隊長を連想したのだろう。実際にホノカ達は両隊の初代隊長だった御桜ミハヤの子供だ。

 けれどもこの場にそれは関係がない。どこの誰であろうと、正式な手続きで隊長として配属されたら、その人が隊長なのだ。

 父親が誰であれ帝国守護隊の一人の隊長としてホノカ達は動くべきだし、隊員達もそういう風に対応するべきなのである。

 これまでに日向隊・月花隊に配属された隊長は悉く辞めていると聞いたが、それは仕事が合わないとか、両隊の指揮が大変だとかではなく、原因は『御桜ミハヤ』だとホノカは思った。

 恐らく彼らは御桜ミハヤと他の隊長を比べていたのだ。御桜ミハヤのような隊長でなければ認めない、と態度に出ていたのではないだろうか。

 その事をミロクやシノブは察していたから、誰が来るかを事前に彼らに伝えなかった。もちろん隊員達も新しい隊長に大して興味を示さなかったのだろう。

 なるほど、なるほど。心の中でそう呟くと、ホノカはヒノカとそっくりな笑顔を浮かべて、二人揃って一歩前へと出た。


「ただ今ご紹介に預かりました、御桜ヒノカです。階級は銀壱星。よろしくお願いします」

「御桜ホノカです。階級は同じく銀壱星。未熟者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 双子は朗らかに挨拶をする。隊員達からは探るような目を向けられてはいるが、まだ落ち着いている。それよりも問題はここからである。


「御桜ヒノカ隊長は月花隊を、御桜ホノカ隊長は日向隊を受け持って頂く事となります」


 シノブの言葉に隊員達に動揺が走る。全員女性の隊に男性が、男性の隊に女性が入るのだから、ここの隊員でなくてもそういう反応になるだろう。


「どういう事ですの? 月花隊の隊長には、女性の方がいらっしゃると伺っていましたのよ?」


 まず最初にそう言ったのは月花隊のユリカだ。黒髪のマガレイトが特徴的で、歳は二十二歳。気の強さが良く出ている目を吊り上げて言う彼女にシノブは、


「それが、少々事情がありまして……」


 と言葉を濁した。さすがに「司令の仕業です」とは言えないだろう。しかし、それでは納得はされないだろうと思い、ホノカ達も彼女にフォローを入れる。


「上の方で、書類が行き違いになってしまったようで」

「僕達もシノブさんも、今さっき知ったところでね」


 そう言うと、一同は目を剥いた。


「はあ!? 何だそりゃ。上の連中、いい加減な仕事を……」


 そう言って怒りを露にしたのは朝比奈アカシだ。歳は二十五歳の赤毛で大柄の男性で、粗暴な雰囲気が感じられる。日向隊の隊員達の中では彼が一番の年上だ。


(雰囲気としては、彼がまとめ役……というわけではなさそうですね)


 彼らを様子を観察しながらホノカはそう思った。そうしているとシノブが話を進める。


「そこには同意しますが、決まってしまったものは仕方がありません。責任者に確認をしましたが、ひとまずは書類通りにとの事です。今から月花隊にはヒノカ隊長、日向隊にはホノカ隊長の指示に従って頂きます。これは決定事項です」

「それはちょっと強引すぎやしませんの?」

「しかも、どう見ても若すぎるだろ」


 なおもユリカとアカシが食い下がろうとした時、


「待って待って、シノブさんが悪いわけじゃないだろう?」

「そうですよ。シノブさんだって、さっき聞いたばかりでしょうに」


 そう言ってシノブを庇った隊員が二人いた。日向隊の嵐山ウツギと月花隊の篠塚トウノだ。

 ウツギは黒髪の爽やかそうな青年で、歳は二十二歳。トウノは真面目なそうな顔立ちで、黒髪を一本三つ編みにした二十一歳の女性だ。

 二人が宥めているものの、空気は相変わらず悪いままである。この辺りでそろそろシメた方が良いだろう。そう考えたホノカはヒノカと目くばせし、


「まぁまぁ、一応、僕もホノカも、どちらの隊の役割もこなせるよう訓練を受けているから、大丈夫大丈夫」

「ええ。最初の内はご迷惑をおかけするかもしれませんが、足は引っ張りませんので。今回は納めて頂けませんか?」


 そう言って「ね?」と揃って笑いかけてみせた。

 こういう時は笑顔を浮かべて下手に出つつ、反論し辛い言い回しをするのが効く(・・)

 二人の上司である浅葱ミロクの真似事だ。話し合い等で波風を立てたくない時にミロクが使う常套手段である。面倒くさい権力者の中で、司令にまで上り詰めたミロクの言動には、色々と学ぶべきところがたくさんある。


「良くないところが似てしまったわ……」


 シノブがそう呟いたが、双子は聞こえないフリをした。

 そうしていると、隊員達も渋々と言った様子で頷いた。


「……分かりましたわ。こちらこそ初対面の方に、文句を言って申し訳ありませんでした」

「ああ。……あんたらも緊張してるだろうに、悪かったな」

「いえいえ」

「お互いさまです、お気になさらず」


 にこにこと人懐っこい笑顔を浮かべる双子に毒気を抜かれたらしい。ようやく落ち着いた隊員達を見て、シノブがホッと胸を撫でおろした。


(ですが、もう少し噛み付いてくるかなと思ったのですが、そうでもありませんでしたね)


 苗字のせいなのか、年下だったからなのか、その辺りは分からないが、とりあえず彼らはそれ以上は強く当たって来る事はなかった。


「では、ヒノカ隊長の案内にはトウノさん。ホノカ隊長の案内にはウツギ君、お願い出来る?」

「分かりました」

「了解です」


 シノブの言葉に先ほど彼女を庇った二人が一歩前へ出た。この二人が両隊のまとめ役的な立ち位置の人間なのだろう。ホノカとヒノカが「よろしくお願いします」と言うと、二人はにこっと笑い返してくれた。


「それじゃホノカ、あとでね」

「ええ、ヒノカ、あとで」


 双子はそう言って、ウツギとトウノの後をそれぞれついて歩き出した。


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