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第五話 塗り分けられた桜花寮 下


 ヒノカの言葉にシノブが軽く目を見開いて「そんな事は……」と言葉を濁す。


(あ、これは少し失敗しましたね)


 シノブの反応を見てホノカはそう判断した。

 ヒノカは嫌味のつもりで言ったわけではなく、単純に、自分達を心配してくれているシノブの気持ちを和ませようと言ったのだ。

 ホノカの双子の弟は相手の機微に鋭い。なのでこういう言動を取る事がそこそこあるが、どうやら今回は逆効果だったらしい。

 ホノカは直ぐにそのフォローに入った。


「こら、ヒノカ。シノブさんが困るような事を言わないの」

「えっ本当!? ごめんね、シノブさん!」


 ヒノカもそれに乗って、両手を合わせてシノブに謝った。


(……とは言え、ヒノカの言葉は別に間違っているわけでもないんですよね)


 ホノカは心の中でそう付け足した。

 帝国守護隊の上層部でも、最年少で異例の出世を果たした双子に対して、悪い感情を抱く者はいる。 

 生意気なとか、大した実力もないくせに、とか。大体はそういうやっかみだ。

 ホノカ達は出世し始めた頃から頻繁に嫌がらせを受けていたので、そういう悪意に関してはさすがに慣れた。そもそも、そんな程度の低い事しか出来ない奴らの言葉なんて、いちいち真に受ける必要がないのだ。だってシノブやミロクのように味方だっているのだから。

 その信頼している上司(ミロク)から両隊を頼むと言われたのだ。だからこそ応えたいという気持ちはある。どんな経緯と思惑があるにせよ齢十六(・・・)に隊長職を任せようと、自分達の大事な人が推してくれたのだから。


「……お二人は変わりませんね。これはこれで心配になってきました」

「あれ? おかしいな、変わっていませんねって安心するところじゃない?」

「時と場合によりますよ」


 そうして話しているとシノブの表情がふわっと和らいだ。


「それでは、ご案内しますね。……あ、先に書類をお預かりしても宜しいですか?」

「あ、はい。どうぞ」

「お願いします」


 シノブに言われて、ホノカは鞄から封筒を取り出した。隊長就任に関する書類が入ったもので、ミロクから「到着したらこれをシノブに渡してくれ」と言われていたのである。

 封筒を手渡すとシノブはその場で中の書類の確認を始めた。すると、彼女の目がある一点で止まる。


「……ちなみにお二人は、事前に書類の内容を確認されました?」

「ううん、特には。ミロクさんから『開封厳禁だから』って言われていたし。そうだよね、ホノカ」

「はい。中の書類については、ざっと説明は受けましたけれど……。何か不備でもありましたか?」

「不備と言いますか……ううん、これぜったいわざと……。まったく、もう。あの人ったら……」


 双子がそれぞれそう言うと、シノブは眼鏡を押えて深くため息を吐いた。

 何だか嫌な予感がする。そう思っていると、シノブが書類をホノカ達にも見せてくれた。

 それから言い辛そうに、


「その、この書類なんですけどね。伺っていたお二人の配属先が……逆、なんですよ」


 なんて言葉を続ける。


「逆だって?」

「逆ですか?」


 聞き返すと、シノブは困り顔で「ここです」と書類の一部を指さした。

 そこに記載されているのは二人の所属先だ。


「日向隊隊長に御桜ホノカ……」

「月花隊隊長に御桜ヒノカ……」


 それぞれに読み上げて双子はピシリと固まった。

 日向隊――荒事や戦闘専門の前衛部隊に姉のホノカ。

 月花隊――情報収集や戦闘支援専門の後衛部隊に弟のヒノカ。

 そうなっていた。

 

「ちょっ、えっ!? 僕が日向隊のはずでしたよね!?」

「私は月花隊と伺っていたのですが……あれ? え?」

「か、確認してきます!」


 ホノカ達が目を丸くしていると、シノブが慌てて走って行った。

 その背中を見送りながら、残されたヒノカとホノカは呆然とした面持ちで桜花寮を見上げる。

 お互いを拒絶するように白と黒で塗り分けられた隊舎。これを見た時から大変そうだな、とは思ったが、それ以上に面倒な事になりそうな予感がする。

 覚悟はしていたが、そこに新たなフレーバーが加わるとはさすがに予想していなかった。ホノカの脳裏に浅葱ミロクの良い笑顔が浮かぶ。


「やられた」


 双子がそう呟くと、ホノカの腕に抱かれた黒猫が、どうしたのとでも言うように「にゃあ?」と鳴いた。

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