表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/37

第三話 黒猫と殺人現場 下

「猫だねぇ。にゃーん」

「黒猫に目の前を通り過ぎられてしまうと縁起が悪い、とは言いますが。この場合はどちらなんでしょうね、にゃーん」

「何故この場で猫語を」

「挨拶してくれたから」

「お二人はもしや、猫の言葉がお分かりに……?」

「いいや、全然」

「はあ……」


 呑気なやり取りをする双子に阿良々木は少々困惑したような顔に鳴った。

 ここに司令のミロクがいれば「お前らな、相手が混乱するからそういうやめろって言っているだろ」と注意が飛んで来そうである。しかし生憎とミロクもツッコミ役もここにはいないため、双子は野放し状態だ。


「と、とりあえず報告を続けさせて頂きますね」


 どういう反応をするのが良いのか悩んだ様子の阿良々木だったが、とりあえず話を進める事にしたらしい。実に真面目で何よりだとホノカは思った。 


「あの黒猫は、通報を受けて駆け付けた時からずっと被害者の傍にいて、離れようとしないのです」

「なるほど。そうなると……被害者の飼い猫かな? その辺りはどうだい?」

「可能性は高いかと。今現在、調査中であります」


 ヒノカの質問に阿良々木はハキハキと答えてくれた。

 簡潔だが分かりやすい返事に双子は何だかジーンとしてしまって、揃って胸に手を当てた。彼とは会話がスムーズに出来るし、相談や連携も取りやすそうだ。もしも最初から阿良々木と同じ班だったなら、今までの任務はどれだけ楽だったろうか。

 双子は先日まで組んでいた髪がちょっと燃えた彼を思い出して遠い目になった。


「ねぇ、ホノカ。何でこうじゃなかったんだろうね……」

「ええ、ヒノカ。仕事、絶対楽でしたよね……」

「あ、あの、お二人共、突然涙ぐんで……ど、どうされました……?」

「大丈夫、何でもありません。あなたはそのままでいて下さいね」

「汚れずに真っ直ぐに育ってね……」

「は、はあ……」


 急に母親みたいな事を口走ったものだから、阿良々木は心底困った顔になった。この人達は大丈夫だろうかと思っているのが、阿良々木の目から伝わって来る。

 大丈夫ではないかもしれないが、まぁ、それはそれとしてだ。今は事件について思考を戻さねばと、双子は自分の頬をぱちぱちと軽く叩いた。


「ごめんね、ちょっと話が逸れちゃった。ところで、まさかあれから事情聴取しろとか言うんじゃないよね? さすがに大天才の僕でも、猫との会話は無理だなぁ」

「ミロクさ……浅葱司令なら言いそうですけれど。さすがにないですよね?」

「はい。浅葱司令からの指示では、重要参考猫……的な扱いで良いとの事です」

「重要参考猫的な扱い……」


 さすがに猫にそういう扱いをした事がないのでホノカは少し悩んだ。とりあえずあの猫を保護すれば良いのだろうか。

 そう考えたホノカはその場にしゃがんで猫に向かって、おいでおいで、と手招きをしてみた。すると猫はしばしホノカを見つめた後で、のそりと立ち上がるとこちらへ近寄って来る。

 そしてホノカの目の前で止まると、顔を見上げて「にゃあ」と鳴いて、軽捷な身のこなしでホノカの腕の中に納まった。


「あら。かあいらしい」


 猫はホノカの腕の中でごろごろと喉を鳴らしている。どうやらお気に召されたらしい。

 ホノカが微笑んで立ち上がると、ヒノカが口を尖らせた。


「ホノカってば、相変わらず猫に好かれやすいよね。いいなぁ。僕には全然懐いてくれないのに」

「あら。でもヒノカは犬に好かれやすいじゃないですか。私は吼えられてしまいますよ」

「あれ、何でだろうねぇ」

「何ででしょうねぇ」


 うーん、と首を傾げていると、阿良々木から「あのう……」とおずおずと声を掛けられた。色々と話が脱線し続けているが、まだ報告の途中である。


「ああ、ごめんね。それでは、続きを聞いても良いかい?」

「はい。被害者は帝都在住の間内キヨコ、二十三歳。白椿館という娼館で働いていたそうです」

「間内……あ、もしかして間内呉服店と関係がある?」

「はい。一人娘だそうです」

「なるほどねぇ。間内呉服店は厳しい家柄だと聞いているけれど、何でまた白椿館に?」

「被害者は両親と折り合いが悪く、そのせいで三年前に家を出ていたらしいですね。それで白椿館で働き始めたらしいです」


 阿良々木の報告を聞きながらホノカは軽く頷いた。


(……切り裂き男の条件には当てはまりますね)


 切り裂き男が狙った相手は、ただ一件を覗いて(・・・・・・・・)すべてが娼婦だ。この事件の犯人が切り裂き男ではなかったとしても、殺害方法を含めてずいぶんしっかりと合わせている。

 そう考えながらホノカとヒノカは遺体に近付いてシートを捲った。そして遺体に向かって手を合わせてから状態を確認する。


「……これは酷いね」


 身体が繋がっている事が奇跡的なくらいにめった刺しにされている。しかも致命傷は避けてじわじわと相手を苦しめるやり方だ。よくもこれだけ残酷な事が出来るものだと犯人に対しての怒りがふつふつと湧き上がって来た。


「このやり口は怪異因子じゃないね。切り裂き男とそっくりだ」


 ヒノカの言葉にホノカも「ええ」と頷く。


「ですがおかしな話です。切り裂き男はつい先日、捕まったはずなのに」


 そして、そう続けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ