序
茜色に染まる煉瓦街を、白色の軍服に身を包んだ双子が走っている。
金色の機械仕掛けの長銃を持った白髪の少女と、同様の造りの太刀を持った黒髪の少年だ。
「御桜より本部へ。怪異因子は大通り、ランプ堂付近を逃走中」
『了解。その先は閉鎖済みだ。追い込んで速やかに討伐せよ』
「了解しました」
左耳につけた通信機で、本部とのやり取りを終えると、ホノカは進行方向へ目を向けた。
そこには大型犬のような姿の黒い影が走っている。
あれは怪異因子という、人の世に害を成す化け物だ。
双子はあの化け物を退治しにやって来た。
「ヒノカ。私が誘導しますので、始末は任せます」
「了解!」
ホノカの双子の弟は短く、それでいて元気に返事をすると、走る速度を上げた。
逆にホノカはその場に止まる。そして膝をついて長銃を構え、目の前の怪異因子に照準を合わせた。
(――足)
怪異因子の四本足の一本に狙いを定めると、ホノカは引き金を引く。
ガウン、と発砲音と共に、銃口から金色の炎を纏う弾丸が放たれた。
銃弾はヒノカを追い越して、そのまま真っ直ぐに怪異因子の後ろ足を貫通する。
怪異因子はギャン、と悲鳴を上げた。
よし、とホノカは頷く。
怪異因子がみるみる内に速度を落とす。もう間もなくヒノカが追い付くところだ。
(これで解決ですね)
そう思っていると、脇道から予想外の第三者が飛び出して来た。
双子と同じく白色の軍服を着た少年だ。
「ぼぼぼ、僕が相手だッ!」
少年は震えて上擦った声でそう叫ぶと、手に持った刀を振り上げる。
その声に怪異因子は反応した。逃げられないと判断した化け物は、近くに現れた人間から力を奪う事を選択したようだ。怪異因子が少年に向かって牙を剥いた。
「ひい!?」
とたんに少年は青褪めて腰を抜かし、その場に尻もちをつく。
――まずい。
そう判断したホノカは怪異因子の気を逸らすため、もう一度長銃を撃った。金色の炎を纏った弾丸が怪異因子の顔を掠める。すると怪異因子は振り払うように顔を振った。
「ヒノカ!」
「まかせて!」
その隙をヒノカは見逃さなかった。
ヒノカが両手で太刀を握ると、刀身に金色の炎が宿る。そして「せい!」と力強い掛け声と共に怪異因子目掛けて太刀を振り下ろした。
金色の炎が美しい線を描きながら怪異因子を一刀両断する。
怪異因子は炎に焼かれながらぐらりと倒れ、ゆっくりと消滅していく。
「あっちぃ!?」
――腰を抜かした少年の髪も、ついでにちょっと焼きながら。