魔王へいがーすさん
下町~ロロイ~ in 神さん
「異世界ライフ第1歩目でずっこけるとはな。」
神さんは下町を観光していた。
王都近辺の下町の一つロロイ。
ここは出店をしているところも多く、毎日がお祭り騒ぎのような賑わいを見せている。
「よっそこの色男さんよ!どうだい?うちの特製タレで仕込んだ猪串いかがかなっ」
「む?おぉこれはなんと・・・ふむ香しいな。匂いだけでもジューシーさが伝わってくるぞ」
店主から串を1本もらいその味を堪能する。一嚙みすれば溢れるジューシーな油。異世界なだけあってはやり未知の味である。だがいやらしさは全くない。
串といえばお決まりは醤油ベースのタレだが、これは酸味が強い...たとえるなら、レモンと塩をベースに何かしらの香辛料を加えた様な味だ。猪肉の油は野性味が強いのはあちらとなんら変わらないらしい。
ちなみに金銭面は問題ナッシングである。王城から抜け出すときに金庫らしき扉の向こうからいくばか頂いたものがあるのでしばらくは困ることはないだろう。
その世界の通貨を生み出すことはたやすい。だが、いくら神であっても世界の均衡を崩す行動をとってはいけない。異世界でもそれは変わらない
「店主よ。この町はいつもこう賑やかなのか?なにか催し物でもあるのか?」
「ん?あぁそうか。にいちゃん他所者だったな。ここはいつもこんな感じさ。見ての通り人が多いからなぁ。だけど、郊外とかはもっとすごいぞ?」
この国の周辺には鉱山都市や大商業港、皇国などの大規模な町があるらしい。
特に大商業港なんかはここよりも人が多いらしく、シーズン時期になると入手が困難なアイテムや交易品が出回るらしく、それを狙った商人や観光人、ハンターがごった返しになるほどだとか。
陸も海も目の前だとそりゃ賑わうだろうな。
「俺は見ての通り串屋だ。串の味の決め手になるタレの材料は最高の物を使う。その最高の物を取り扱ってるのが大商業港なのさ」
「中々に興味がそそられるな。近いうちに行ってみるとしよう」
あそこまで熱弁されてしまっては行かないわけにはいかない。というか聞いたんなら絶対に行こう。新鮮な海産物とか食べたい。
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魔界 ガトロン
「・・・・・」
「魔王様。至急お知らせしなければならない情報が入りました。」
「・・・・・」
大広間の最奥に1つの玉座。そこに静かに鎮座している。
何も言わず、ただ腕を組んでそこに居るだけで周囲を脅かしてしまう存在。
そう、彼がこの魔界五大大陸を統べるもの。”魔王ヘイガース”である。
情報を持ってきた部下の1人である魔人は頭をたれ、魔王の許しを待つ。
早く情報提供を終わらせたい。この許し待つ時間でさえも魔人にとっては生きた心地がしない。どれだけ慕っている上司であろうがその存在自体が恐怖の塊なのである。
ふと魔王の魔力の揺らぎを感じた魔人は、それを合図に情報を開示した。
魔人が持ってきた情報によると、人界の王国にて異常な魔力場の乱れが観測されたこと。近々大規模な催し物があること。貿易間の摩擦が懸念されてること。
続けて魔人は述べた。これだけ人界の動きが活発になるのはある条件が重なった時だけですと。
”人界に勇者が召喚されたのでは?”
異界から勇者が召喚されたのは今から200年前も前の話。人界と魔界の戦争が激化の一途をたどり、これ以上長引けば双方の国が再起不能の状況に陥り利益もへったくりもないとお互いが冷戦を承諾。
勇者はその冷戦された直後に召喚されたそうだ。そう、一時的ではあるが戦争が終わったその日である。
戦争に加担したわけでもなく。誰かを殺めたわけでもない。そもそも、召喚されたばかりの勇者など使い物になるはずもない。
ならどうして召喚されたのか?そのタイミングで。
詳しく調べてみるとそれが王国の王の独断だったことが判明した。調べに現地に赴いたのもこの魔人だ。
夜、人間が寝静まったタイミングを見計らい王の寝室へ侵入し、そこで尋問をしたところ
「馬鹿な!勇者だぞ!?おまっ最初から強くてにゅーげーむだぞ!無敵無双最強の三拍子そろって勇者って呼ばれてるんだぞ!お前らなんてデコピンで1発KOだKO!!」
指を弾く仕草をしながら間抜けで馬鹿な発言をしながら稚拙な考えを披露してくれた王様。
魔人は無言で王にデコピンを食らわせ、保険で記憶消去魔法も施してその場を後にした。
なんとも幼稚な人間が後先も考えずやらかしてしまった事故である。
因みに、召喚された勇者はというと。現在は魔界のとある町で喫茶店を営んでいる。
王の自己中心的な行動の犠牲になった勇者。魔界の住民はそんな勇者を快く受け入れてくれた。
見た目は異形の物が多いが、基本穏やかで優しい性格をしている者が多いのだ。
今年で御年231歳になる彼だが、見た目は冷戦日当時のまま。彼の後日談を聞けば「召喚されたとき?神を名乗るにしてはやる気が無さ過ぎる人?に不老不死のスキルをもらったんだ」
そのスキルのおかげで今も元気に町に貢献してくれている。
情報のすべてを話し終えた魔人は「情報は以上です。魔王様。」
そういって魔人はそそくさと扉の向こうへ消えてしまった。
そして一人残った魔王は顔を上げる。
「・・・やっべぇどうしよ寝てた。」