第1話 目覚めの良い朝
世の中には本当に色んな人が居る。
そりゃ地球上には78億強の人間が居る訳で、
『突然だけど、仕事の都合で青森に行く事になった』
なんて、新学期の始まる数か月前に突如として言い出す人もいれば、
『それに伴って、ママとおチビちゃん2人も付いて行こうと思ってるの』
高校2年の息子2人と、中学2年の娘を置いて行こうとする人もいる。そして更には、
『ちょっと待って。チビ達連れて行くって、俺達は?』
『えっとね4月からは……月城さんのお家でお世話になる事になりましたぁ!』
いくら近所で仲が良いとはいえ、他人の家への居候を勝手に決める親もいる。
全くひどい話だろ?
いくら仕事の都合とは有り得ないだろ?
本当に軽蔑するね。
………………とは言え、いくらそんな事を愚痴っても、今現在の状況を変えることは出来ない。
それ程までに俺、雨宮湯真はピンチを迎えている。
どれ程のピンチか。
昔々隣の席の子から消しゴムを借りた時、冗談半分に目の前でカバーを取ったら……男の子の名前が書かれていたあの瞬間。
バレンタインのチョコを渡して欲しいと言われ、包装されてた紙が2つとも一緒なもんで適当に渡した結果……こっぴどく怒られた時。
掲示板の前でクラス分けを見ていた子が、俺と目が合った途端大きな溜息をついた……いつぞやの春。
それら過去の出来事を凌駕する、今まで生きてきた中でも圧倒的なピンチ。
般若の形相をした人が仁王立ちしている様に、感じたことのない殺気を感じる。
……正直思い当たる節はあるよ? でもさ、言い訳させてくれ。
俺はいつも通りの時間にセットしたアラームで目覚め、いつも通り洗面所へ向かい顔を洗おうとした。
そう、これが俺の毎朝のルーティン。物心付いた時から続けてきたルーティン。
そしていざドアを開けると、まさかそこに誰かが居るなんて想像もつかないだろ?
俺だって驚いたよ。般若さんも驚いてたよ?
でもさ? 俺だって普通の人。健全な男子高校生。
驚きつつも、目の前に…………
限りなく裸に近い姿があったら思わず見ちゃうでしょ?
白い肌。
細い手足。
メリハリのあるくびれ。
そして、ピンク色の肌着に包まれた2つのたわわなモノ。綺麗な曲線を描き、程良く突き出た膨らみ。
そのスタイルと、鎖骨辺りに光る滴が織り成す色っぽさは……悔しいが認めざるを得ない。
とまぁそんな事をしている間に、このような状況になってしまった訳だけど……むしろこれは仕方のない事なのでは?
ワザとではない、不可抗力。偶然の産物。奇跡の出来事。
そうだ。そうだ。
きっと般若さんも分かってくれる。落ち着いて話せば分かってくれるはず。
「ちょっ、ちょっと待っ……」
「バッ、バッ……」
分かって……
「バカぁぁぁ!」
その刹那。巻き起こる怒号!
パッチーン
響き渡る乾いた破裂音!
一瞬の出来事に為す術はなく、その衝撃に首が捻じれる。
頬から伝わる痛みが、まるで電気の様に隅々まで行き渡ると……微かに残っていた寝ぼけた意識を完全に目覚めさせる。
……あっ、そうですね。ハッキリ思い出しました。そういえばここ……
あなたの家でしたね?




