英雄。進級と暗殺予告。
地下迷宮にいた“アステリオン”、“獅子盗賊団”、“大食らいの悪魔団”、“魔王傭兵団”と“ティーターン学園”に入学して早々、波瀾万丈の一年を過ごした俺、ズィルバー・R・ファーレン。
“大食らいの悪魔団”と“魔王傭兵団”の連合軍から数ヶ月が経ち、学園にも平穏が訪れた。
選択学科の授業に出席したり、風紀委員の仕事をしたり、貴族としてダンスパーティーなり、交流会に出席したりと争いごとの半年とは打って変わり、交流という名の半年を過ごした。
俺って、学園の生徒だよな? っていう気持ちを抱いたこともあったのも数知れず。でも、今まで類を見ない危機的状況に陥り、学園行事が執り行えなかったので、それが一気に押し寄せてきた。
休講期間があったせいか。授業が過密になり、俺たち生徒はひいひいと泣き言を言いながらも授業に取り組んだ。
冬が過ぎ、新年度に突入する。
今年も今年で新たな災いが起きるのかなと思い、憂鬱な気分になった。
「今日が入学式と始業式か。一年って早いもんだな」
「いやいや、大人のように感慨深くもなるなよ」
感慨に耽る俺にジノは“耽るな”と言ってくる。
「でも、昨年、俺たち、学園にかなり迷惑をかけたじゃないか」
「良い意味でも悪い意味でもな」
「だから、今年は穏便に過ごしたいものだよ」
「それはねぇから安心しろ」
と、シューテルが俺の高望みをぶった切る。
「なんでさ!?」
「ズィルバーはトラブルを呼び寄せてくる。そんなオメエが平穏なんて言ったら、明日にでも、雪かあられが降るんじゃねぇか」
「嫌みを言うんじゃない」
余計に悲しくなるからな。泣いていいか? いいよな?
俺は心の中で盛大に泣く。
「はいはい。おふざけはここまでにして。今年の新入生。えらく面倒くさいことになった」
新入生への挨拶に出てたティア、ニナ、ナルスリーが帰ってきた。
「面倒くさいって?」
「今年の一年にも“問題児”を送り込んだらしいよ、モンドス先生は」
「懲りないのかね、あの人は……」
俺たちはモンドス先生に悪態をつく。
「モンドス先生から“問題児”リストをもらったわ。見てちょうだい」
俺はティアからリストを渡され、中身を見る。
「おうおう。結構な新入生で」
ぼやきつつ、俺はリストの名簿を見る。
どいつもこいつも曰く付きの“問題児”ばかり。その中で、かなりヤバメな名前を発見した。
「おいおい、こんな奴が学園に入学したのか!?」
俺の驚きように顔を見合わせるジノとシューテル。俺は二人にリストを見せる。
二人も、ある新入生の名前を見て、「ハッ!?」と目を見開く。
「おいおい、なんで、こんな生徒が!?」
「モンドス先生。いい加減にしろ!」
怒りを露わにするシューテル。ジノは俺と同じように驚いてしまう。
俺やジノ、シューテルが驚いたり、怒りを露わにしたりするのも無理もない。
俺は再度、ジノとシューテルからリストをもらい、読み返す。
「“アルス・ファング”……」
チッと、これには俺も思わず舌打ちをする。
「ったく、モンドス先生もそうだが、学園も正気なのか疑いたくなる」
「僕もそう思っちゃう」
「ティア殿下。オメエらもモンドス先生に抗議したか?」
シューテルは、この異例の事態に文句を言ったのかを訊ねる。
「もちろん。私たちもリストを見たときはもう抗議したわ。でも、学園側は無視を決め込んだのよ」
「おそらく、私たちに押しつける気よ」
「全く、風紀委員を“問題児”のたまり場にでもする気かしら」
ティアたちも学園の裁定に非難囂々だ。俺でも正気を疑いたくなる。
俺はティアに目を向けて、生徒会の判断を聞く。
「ティア。エリザベス殿下や姉さんたち、生徒会の判断は?」
「お姉様も断固反対のそうよ。でも、学園側は拒否を示したそうよ」
「そうか」
う~んと考える。この事態を皇宮は知っているかだ。
「皇帝陛下はこのことを知っているか?」
「いえ。父様は学園に干渉しないわ。だから、これは……」
「学園の独断専行……」
ますます、事態が悪化を辿るな。
「とりあえず、モンドス先生に直談判だ。詳しい事情を聞かないと腹の虫が治まらない」
「同感だ。学園側の意図を読めないと対応もできない」
「あと、生徒会ではどうすべきか、も聞いてきてほしい」
俺はティアにエリザベス殿下の真意を問い質すのを頼む。
ティアも聞きたかったのか、“任せて”と意味を込めて頷き了承した。
俺は他にもブラックめいた“問題児”がいないかリストを見返す。
「う~ん。これはノウェムたち、ハクリュウたちに聞いてみるか」
あいつらなら、その手の事情を知っているかもしれん。
ティアたちも、その考えに同意で聞いてみる価値がある。
「じゃあ、ナルスリー。戻ってきたばかりですまないが、皆に、このリストを見せてくれ」
「わかったわ」
ナルスリーは俺からリストを受けとり、委員長室をあとにする。
「さて……」
俺は椅子にもたれ掛かり、“今年も今年でなにが起きるのやら”と愚痴る。
「分からんな。でも、言えることがあるとするなら……」
「なにか大きな出来事が起きる気がする」
大きな出来事、か。
「確かに半年前でも波瀾万丈だったんだからな」
俺もこれまでに起きたことを思いだす。
なんか、今更感が出てきた。
一方、ナルスリーから今学期の新入生、“問題児”リストを見るノウェムたち。
彼らはリストの名前を見た途端、驚愕で目を見開いた。
「冗談でしょう!?」
「よくこんな奴らを学園に入学させようと思ったな」
「正気か疑います」
ノウェムたちもズィルバーたちと同じで学園上層部の気が知れてる、と宣う。
「どんなことでもいいから。些細なことを教えてくれる。下手したら、私たち白銀の黄昏の将来が危ぶまれるから」
ナルスリーはノウェムたちから些細な情報を得ようと努める。
「まず、言えることが今年の“問題児”は“暗殺者”がいるんだ!?」
「それって、アルス・ファングがってこと?」
「アルスもそうだが、他にも“暗殺者”として生き続ける“問題児”がいる」
「それはどいつ? 鉛筆渡すから。知ってる範囲でチェックして」
ナルスリーは鉛筆を渡し、ノウェムたちはリストに書かれてる名簿で“暗殺者”なのをチェックを入れていく。
チェックを入れたリストをナルスリーは目を通す。
「ちょっと!?」
チェックの多さに動揺が隠しきれない。
「半分以上、チェックしているじゃない!!?」
「ファング家もそうだが、チェックが入ってる奴らは“暗殺者”っていう曰く付きの“問題児”」
「僕もクソ親父の関係で一度だけ相手をしたことがある」
ヤマトも一度だけ手合わせしたのを言う。
「私も同じだ。いや、コロネやカナメも相手をしたことがある」
「大抵の理由は、親関係って感じ」
ノウェムとカナメも手合わせしたことを告げ、理由まで告げてくれた。
「とにかく、学園に入学するのは可笑しな話だ」
「連れてきたのはモンドス先生?」
ノウェムは学園に入学させること自体、可笑しな話だと言い、モンドス講師が連れてきたのかと、かなめが確認を取る。
「その通りよ」
ナルスリーはありのままに事実を話した。事実を聞き、生徒会や学園上層部の真意を訊ねる。
「生徒会も反対の意見を書面して提出したらしいけど、学園側は断固拒否したそうだ」
学園上層部の拒否する体勢に違和感を覚えるノウェムたち。
「ズィルバーたちも不信感を抱き、ティア殿下に生徒会からの意見を聞くよう頼まれている」
「そう」
ノウェムは手を顎に添えて、考えごとを始める。
カナメは護衛を付けるのかという案を進言する。
「緊急事態になるかもしれんから、ズィルバーは護衛を出すのか。検討している。確かにズィルバーとティア殿下は強い。でも、奇襲されて深手を負わされては本末転倒だ」
「護衛を出すと思うけど……」
カナメはズィルバーが護衛を出すと考えてる。
と、そこに見回りに出ていたハクリュウたちが帰投してくる。
「帰ってきたぞ」
「お疲れさま」
「何かあったのか。妙に考え込んでるようだが」
「実はね」
ナルスリーは事情を説明するためにリストを見せる。
ハクリュウたちはリストを受けとって見始める。
「今年度の“問題児”リストよ」
ナルスリーが説明する中、シュウがリストを見て、言葉を漏らす。
「おい、メイア、ギリス」
「間違えない」
「うん。これはまずい」
ハクリュウたちは危機感を抱き始めた。
「なにがまずいの?」
ナルスリーはハクリュウたちまずいわけを聞く。
「ノウェムたちがチェックした奴らが“暗殺者”というのは僕たちも知っていた」
シュウがわけを教えてくれる。
「でも、チェックが入っていない“問題児”も名の知れた不良」
「それって、シュウくんたち間で有名なの?」
「うん。有名」
シュウは裏街界隈で有名だと言い切った。
チェックされていないメンバーのほとんどの出自でハクリュウたちの間で噂が飛び交う。
「確か、貴族出身って聞いたことがあるけど」
「商家出身って話もあるぞ」
「家に捨てられたって話も聞いたことがある」
いろんな噂が飛び交っている。
ナルスリーも噂の信憑性を一々問う気がなかったが、少なくとも曰く付きであることだけ知れた。
「ありがとね。皆、私たちじゃあ、アルス・ファングのことしか知らないから。それ以外の情報に疎いのよ」
「貴族や名高い剣豪の家系だと知らなくても当然だ」
「住む世界が違うのだから、当たり前よ」
ノウェムとカナメがフォローしてくれる。
「でも……」
メイアは“問題児”リストを見て、不思議そうな顔をする。
「どうした、メイア?」
「この、“カルネス”っていう女の子だけは知らない」
「ああ、私も知らない。カナメやヤマトたちは?」
ノウェムも知らなかったようだ。
ノウェムはカナメたちにも“カルネス”っていう女の子を訊ねるもカナメたちも知らないと首を横に振る。
「ギリスや皆はどう?」
メイアもハクリュウたちに確認を取らせるも知らないと首を横に振る。
ナルスリーはチェックが入っていない“カルネス”っていう名簿を見る。
「この娘だけは謎か」
(この“カルネス”という女の子。いったい、何者なんだ?)
ナルスリーは情報が少なすぎて不気味に思えてしまった。
「なるほど。ノウェムやシュウたちでも知らない新入生がいるのか」
「ああ、“カルネス”。彼女だけは全員、知らなかった。一応、ルアールやティナにも聞いてみたが、知らないの一点張りだった」
「獣族でも知らないとなると不気味だね。名前と性別だけでは、どういう人物なのか分からない。もう少し、情報を集めてみるしかなさそうだ」
俺は席を立ち上がる。
「モンドス先生に会いに行くのか?」
「ああ、ごうも……コホン、じんも……コホン、直談判すれば、話してくれるだろう」
「今、オメエ、酷ぇことを言わなかったか?」
「気のせいだ。っで、ティアたちはエリザベス殿下、姉さんたち、生徒会の意見を聞いてきてくれ」
「ええ、わかったわ」
「ジノとシューテルは俺と一緒にモンドス先生のところへ行くぞ」
「先生たち会議してるんじゃねぇか?」
「知るか! こっちにとんでもない“問題児”を押しつけようとする連中の考えなんて知ったことか! 文句を言わなきゃ、腹の虫が治まらん」
「違ぇねぇ」
「僕も同感」
ジノとシューテルも俺と同じように腹の虫が治まらなかった。
「やぁ~ねぇ~。ちょっと野蛮」
「でも、同情しない」
「それは言えてる」
ティアたちもティアたちで腹の虫が治まらなかった。
「本部をノウェムとハクリュウたちに任せて、俺たちは生徒会と学園上層部に事情を聞きに行くぞ」
『了解』
俺たち、風紀委員上層部は“問題児”を送り込もうとしたわけを詳しく聞くために学園上層部にかちこみに向かった。
「生徒会は、今回の“問題児”に関して、反対しているわ」
エリザベス殿下は、裏世界の住人を学園に入学させたことに反対していると声明する。
ティアも彼女から詳しい事情を訊ねてみた。
「事の発端は半年前の“獅子盗賊団”との衝突。最初は追い返してくれたズィルバーくんたちに感謝していたけど、“大食らいの悪魔団”と“魔王傭兵団”の連合軍を追い返したとき、学園は思ったそうよ。ズィルバーくんたちが学園を乗っ取るんじゃないかって……」
「思い違いも甚だしいわ」
「そうね。まだ十代の妹たちになにができるって話よ。でも、貴方たちは“獅子盗賊団”らを追い返してしまった。それだけでも学園は危機感を抱いたってわけ」
エリザベス殿下は言うも。
「もっとも、これは私の予想であって、真実ではないわ」
付け加えておく。
でも、なにがうそで、なにが真実か分からない状況だと。
「リズ姉様のお考えも正しく思えてしまいますね」
「ティア……」
珍しく悄げているティアを見て、エリザベス殿下はう~んと頭を捻った。
捻った後、自分を鼓舞する形で声をあげる。
「妹を悲しませたんだし。お姉ちゃんが一肌拭ってあげますか」
「リズ姉様……」
「それにズィルバーくんたちに大きな借りを作っちゃった以上。ここできっちり返さないと皇族としての名が廃るわ!」
エリザベス殿下はメラメラと瞳を燃やしてる中、エルダとヒルデは、“また付き合わされるのね”と諦めの域に達した溜息をついた。
「それじゃあ、今回の“問題児”入学には学園でも皇宮でもない第三者が介入されてるってことでいいんですね?」
職員会議に割り込む形で入ってきた俺、ジノ、シューテルの三人。
俺が学園講師陣に今回の“問題児”を入学させた審議を問い質した。
すると、学園長は、“第三者が介入されている”と弁明した。
「なぜ、学園に暗殺者などの“問題児”を入学させる必要があるんです! しかも、第三者が介入されるなんて言語道断なのでは? 学園は中立的な立ち位置だったのでは?」
詰問する俺に学園講師陣は口を閉ざしてしまった。
俺はモンドス講師に視線を転じる。
「モンドス先生。今回もキミが“問題児”を入学させたのですか? 答えてください!」
「…………」
モンドス講師は俺の詰問に口を閉ざしたまま、答えなかった。
「下手に沈黙すると、こちらとて。相応な手を考えなければなりません。なので、答えてください」
「…………」
俺が真実を知りたく、モンドス講師に話しかけるも渠は口を閉ざしたままだった。
俺はこれ以上、答えてくれないと分かったのか。
「分かりました。答えてくれないのなら、こっちもこっちで考えさせてもらいます。ですが、くだらない面子で隠し通せたとしても、いずれ、暴かれます。皇宮も知らないとなると、皇家も動くかもしれませんし。親衛隊が動くかもしれません。その時にはきっちり、説明させてもらいます。なお、俺たち風紀委員が今年度の“問題児”とトラブっても学園側にも責任があると追及するかもしれないのであしからず」
と、だけを言って、俺はジノとシューテルを連れて、大会議室をあとにした。
俺たちが部屋を出た後、講師陣の視線がモンドス講師へと集中する。
「このままではズィルバーくん。いえ、風紀委員からの信頼を失いかねません。いくら、向こうから口に出せないと言われていても、彼らは、それで納得するとは思いませんよ」
「…………」
講師の一人がモンドス講師に一行に口を開かなかった。
「モンドス講師。今回の“問題児”も貴方の独断が目に余ります。もし、ズィルバーくんたちに何らかの形で迷惑をかけた場合、相応な処分が出るかと思いますが、構いませんよね?」
キンバリー講師がモンドス講師に圧をかけていく。
「それで構わん。今回は俺の失態だ。俺の首一つで状況が変わるのなら、喜んで、この首を差しだそう」
「ならば、なぜ、“問題児”を入学させようと考えるのです! 貴方だって分かってるはず。昨年の“問題児”は学園側である私たち講師陣が恥を忍んで、ズィルバーくんたちに依頼しました。その結果が風紀委員を設立するに至りました。今年度の“問題児”をズィルバーくんたちに依頼する形で押しつければ、彼らは、もう学園側に恩賞を求めないと思います。ただ、学園生徒としての義務で学園に通い続けることになります」
キンバリー講師は、あり得そうなことを口にして、モンドス講師に、さらに圧をかける。
「俺の首一つで済まされるのなら、喜んで差し上げると言った。それに今回、ファング家のガキを入学させるように言ってきたのは向こうだ。俺は口止めされてる。口外すれば、俺の首が飛ぶからだ」
「飛べばいいでしょう。そんな口止めで死ぬようなら、最初から貴方を雇いません」
キンバリー講師はモンドス講師に言えるだけの毒を吐く。
「ファング家を舐めるな。あそこは裏社会の重鎮だ。下手に逆らえば、ただでは済まねぇぞ」
「元より、貴方がファング家の子供を入学させなければ、このようなことにならなかったでしょう! なに、被害者ぶってるんですか! 恥を知りなさい!」
キンバリー講師は堪忍袋の緒が切れたのか、毒を吐けるだけ吐いた。
モンドス講師は反論が言えなかったからか「ぐぬぬ」と項垂れることしかできなかった。
「まあまあ、キンバリー講師。お気持ちが分かりますから。ここで落ち着いて」
「学園長……しかし……」
「ですが、モンドス講師。今回の“問題児”入学をズィルバーくんたちに押しつける気なら、エリザベス殿下からバッシングを止められるとは思いません。その場合は、それ相応の処分を下します。努々忘れずに」
学園長からの鋭い眼差し。その眼差しにモンドス講師は萎縮することなく頷いた。
「その時は、甘んじて受け入れましょう」
「どう思った。ズィルバー」
「モンドス先生は誰かに口止めされてる。これは間違えない」
「僕も同じかな。モンドス先生。一度も口を開かなかったのもあるけど、キンバリー先生が苛立っていたから」
「ズィルバー」
「ああ。学園講師陣は、もう言わないだろう。もし、問題を起こせば、学園の存続に関わる事態に発展する。それだけは避けないとな。ひとまず、本部に帰るぞ。ティアたちと話し合って、方針を考えてみよう」
「ああ」
「うん」
と、いった感じで俺たちは風紀委員本部へ戻ることにした。
「ガイルズ。今年度の“問題児”はどう思っている?」
帝の間にて、皇帝は対面して座るガイルズ宰相に向けた。
「どうと言いますも、明らかに圧力をかけているとしか思えません」
「ふむ、そうか」
皇帝はワインを片手に、ガイルズ宰相の言い分を聞く。
「余も同じだ。今年度の“問題児”には陰謀が見え隠れしておる」
「既に聖霊機関に調査を命じています。ですが、黒幕は分かっている所存」
「ふん。古貴族共か。彼奴らはエドモンドを謹慎処分程度でざわつきおって」
「黒幕が判明次第。如何様な処分を?」
「少しずつ財産を徴収せよ。暴走した際、改易させれば良い」
「御意。なお、エリザベス殿下、ティア殿下から陛下のご判断を聞くための催促状が届いております」
「そうか」
皇帝は愛娘からの催促状が届いたのを聞き、少しばかし表情が朗らかになる。
「陛下」
「すまぬ。取り乱してしまった。余から返答を送る。して、白銀の黄昏の方はどうなっておる」
「“獅子盗賊団”、“大食らいの悪魔団”、“魔王傭兵団”を追い返して息巻いてるかと思いきや、己を高めようと邁進している所存。中には貴族の子供が在籍しております。こちらが、その資料です」
「ふむ」
皇帝は風紀委員、白銀の黄昏に在籍している生徒リストを目に通す。
「確かに複数名。貴族籍の子供がおるな」
「いかがなさいます?」
「子供とは言え、貴族の娘だ。半年前の功績として家に褒美を与えよ」
「しかし、それでは……」
「分かっておる。子供を利用して褒美を得ようと画策するかもしれんと、此度は臨時だ。あれだけの功績を残して、なにも褒美を出せないようでは皇家の信用を落としかねん。第二帝都の親衛隊支部にも別の形で報酬を与えよ」
「御意に」
その言葉を最後にガイルズ宰相は帝の間を退出した。
風紀委員本部に戻ってきた俺たち。
その俺たちは今、もっとも、理解しがたい局面に陥っている。
委員本部、出入口の前で陣取っている一人の少年。
プラチナブロンドの翡翠の瞳を持つ少年。
でも、その身のこなしから只者ではないことが物語っている。
「なんの用かな。こんなところに陣取って」
はっきり言って、邪魔なんだけど。
「僕の名はアルス・ファング。お前を殺しに来た男だ」
少年、アルス・ファング。
俺は彼から暗殺予告を受けられてしまった。
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