英雄。連戦で敵と死闘する。
“ティーターン学園”、生徒会室。
生徒会長、エリザベス殿下は一枚の通達を目に通していた。
「いよいよなのね」
(おそらく、エドモンド兄さんの手にも渡っているはず)
彼女が手にしている通達。その内容は今後、ズィルバーたちに多大な影響を及ぼすとは夢にも思わなかった、と記載しておこう。
同じく、学園、大図書館。
“ティーターン学園”。最西端に位置する大図書館は帝国で二番目の蔵書量を誇る。
もちろん、一番は大帝都にある帝立大図書館。
あそこには帝国の歴史の全てが安置されている。学園の大図書館にもそれ相応の歴史書が安置されているが、学園という理由で数多のジャンル本が安置されてる。
で、今、俺たちは大図書館にいるのだが、皆、得意分野がバラバラなので各項目ごとに移動し、本を取り、指定した丸テーブルに集合する。
ちなみに学園講師陣は帝国指名手配との戦いで一時的な休講措置を執ってる関係で埋め合わせで復習課題や予習課題を山のように渡して、休講措置を執った。
その所為で今、大図書館はいろんな生徒がわんさかといる現状だ。
ほとんどが選択学科の課題で大図書館に来ている生徒が多く、見識を深めるための本が借りられている状況が多かった。
よって。
「結局、一人で借りれたのは一、二冊程度」
「仕方ないんじゃない」
「そうだな。“獅子盗賊団”を追っ払っても、次は“大食らいの悪魔団”に“魔王傭兵団”が控えている現状。学園の生徒もビクビク怯えながら課題に取り組んでいるって話だ」
「そうじゃなきゃ、ここまで生徒が集まるわけないよ」
ニナ、シューテル、ナルスリーの順に言って、かなり、危険な状況なのがよく分かった俺たち。
「仕方ない。今ある分だけの本を読んで知識を深めていこう。独学でも限界が来るから選択学科の授業だけはしっかりと受けようぜ」
なんせ、俺たち風紀委員は基礎学科を学園側から免除されてしまったからだ。
よくよく考えてみると、風紀委員って一つのことにとことん極めていこうとする奴らが集まったな。
普通、噛み合わないんだが、特異的な者同士だと意外と噛み合うことがある。
わかりやすく言えば、特異な能力を持つ者は同じような才能を発掘することが多いし、惹かれあう。
そういう意味では俺たちって互いに優秀なメンバーが集まったんだな。まあ、裏を返せば、我の強いメンバーが集まったとも起因するけど。
でも、そこはリーダーである俺の度量が試されるってわけだ。
「とりあえず、読めるだけ読んでおけ。数日後には、また大物とやり合う羽目になるんだからな」
「はーい!」
皆、自分たちが取ってきた本を読み始めた。読めないものは学園が用意した山のような課題を取り組むことにした。
それから数日後。
レインとティア殿下が情報紙を手に執務室にやって来て、俺にこんな報告してきた。
内容は“女王”と“魔王”撃退。“獅子” 襲撃に遭い、瀕死の重傷。
情報紙に書かれた内容に俺は驚いた。わかりやすく言うなら、二つ目だ。
「ヴァシキが何者かに襲われ、瀕死の重傷、か」
「うん。情報紙にはそう書いてあるの。いったい誰が」
「子供の俺たちに撤退され、名を上げようと息巻く冒険者が多くなろうとヴァシキほどの実力者なら返り討ちにされるのが関の山。だとすれば、襲撃者はヴァシキ以上の実力者。しかも、俺との戦いで手負いになった奴に瀕死の重傷を負わせるとなると……」
おそらく、相当な手練だ。
クレトが言っていた“オクタヴィア”っていう女が倒した線も薄くない。
「情報紙によると襲撃者の人相は書かれていないわ。お父様だったら、知っているかも」
「いや、それはいい。問題は一つ目の“女王”と“魔王”が撃退とされたら、向かう先なんて決まってる。クレトたちが口を噤んでいた理由も判明した」
俺は納得する。
占領してた砦を捨て、どこに行ったのかという疑問があるけど、その答えは分かってる。“獅子”と話したとき、どうも部下のヤマトたちの上に立つ俺を狙ってると取れる発言してた。
様子見ができなくなったとすれば、おそらく、次に狙う場所なんておのずと絞れる。
俺としては最悪に近い予想だが。
――そして、その予想は的中する。
学園中に警報音が鳴り出す。それだけで理解できた。
警報は内容まで発表してくれた。
「第二帝都、北西部から“女王”と“魔王”の連合軍が接近! 第二帝都並びに学園の生徒たちは学園に避難してください!」
避難警報まで発令したか。
「どうして、こうも狙われるのよ」
「警報が本当なら親衛隊が見ているはずよ」
「情報紙の内容では砦から追い出されたって書いてあるからな」
まったく、「溜息を吐きたいのはこっちの方だ」と俺は肩を竦める。
帝国指名手配、“獅子”に続いて、“女王”と“魔王”の連チャンかよ。俺としては気の休まる暇がない。
「位置的に貴族区がある。あそこの外壁は俺とヴァシキの戦いで崩れてるから壊れやすい。街で戦うのは得策じゃない。待ちの外で戦う準備をしておけ」
俺の指示にティア殿下とレインは頷き、執務室を出て、皆に「戦闘準備」の号令をあげる。
各々、武器を持ち、風紀委員本部を出て、第二帝都、北西部へ走りだす。
崩れた外壁から街の外に出て、迫りくる連合軍を見る。
ある程度、距離を詰まると、連合軍から強烈な“闘気”が発された。
大地が震えて暗雲に覆われ始めた空を視界に入れつつ、俺は同じように“闘気”で威嚇する。
「ヤバイよ、ズィルバーの奴……冷や汗が出てくる」
「向こうの連中は若ぇのが多い。あれが“女王”の子供か。モンドス先生の話だと僕らと同い年らしいぜ」
「“魔王”の方は年齢がバラバラね。子供もいれば、大人もいるって感じ」
「「…………」」
「…………クソ親父……」
肌を突き刺すような殺気ならぬ“闘気”を前に、意識を飛ばされないと気合いを入れる者。強者の気配を感じて笑みを浮かべる者などさまざまだが。
その中でもヤマト、ムサシ、コジロウの三人だけが複雑そうな顔で連合軍を見てた。
「征くぞ。相手が極悪人だろうと構うな、全員、叩き潰してしまえ!」
『おおぉぉぉ!!!』
皆の掛け声で大気が震動し、闘志を漲っている。
連合軍の動きが苛烈になり、俺たちに向けて、槍や矢、魔法が飛んでくる。
それをレインが翼をはためかせ、盾となる旋風を起こして防ぎつつ、着実に前進して距離を詰めていく。
中遠距離攻撃では埒が明かないと判断したのか、連合軍の中から幹部勢と思しき敵が前へ出て行く。
その中で一際、存在感を放っていたのは、やはり――
「――お前が“白銀”か?」
「――オメエが“ズィルバー”か?」
一人は二本の角が特徴な種族、鬼族で、もう一人は朱色の髪を靡かせ、三角帽を手で押さえながらギロリと俺を睨んでくる大男と美女。
美女の傍には魔法で生み出した雲と火の玉が漂っており、“アステリオン”とためを張れるデカさを持つ巨体に俺たちの足が止まった。
「ああ、俺が“ズィルバー”だ。で、狙いは俺か?」
「ハーハハハハハ! 当然さ!」
「ギョロロロロロ! オメエを殺しに来たんだからよ!」
ったく、俺に対して、恨みが大きすぎないか?
自分の子供が連れ去られ、俺の部下になったのが不服なら自分でしっかりと面倒見ろって話だ。
でも、二人の目線が俺だけじゃなく、ヤマトやムサシ、コジロウを見て、最後にノウェムを見る。
最後にノウェムの顔を見たのかは知らないが、二人の顔を見るかぎり、余程、恨みが溜まってると見てとれる。
だって、二人とも怒りの形相でノウェムを睨みつけているからだ。
「“オクタヴィア”そっくりのムカつく顔だぜ」
「ああ、クソッタレな顔で俺たちの前に出たことを後悔しなァ!!」
二人の目が俺へとシフトする。
「あのムカつく顔を殺してぇが、まず、お前だ。クソガキ!」
「俺のガキを連れ去り、部下にしたことを死んで後悔しろ!」
すると、手で押さえてた三角帽が一振りの剣となり、手に持った途端、“闘気”を纏って叩きつけるように俺へと振り下ろした。
大男も女に続いて棘突き金棒を振り下ろした。
俺は臆さず、一歩退くこともなく“虹竜”と“閻魔”で受け止め、バリバリと三人の“闘気”が激突する。
巻き起こる爆風に髪を靡かせながら俺は二人の攻撃を受け流す。
カイが一歩下がって金棒を振り上げた。
「“雷鳴撃墜”ッ!!」
雷が迸る金棒が迫りくる。しかも、躱せば、リンネンっていう女が挟撃してくる。
「だったら」
俺は二本の魔剣で突きの構えをする。
「“我流”――“神剣流”、初ノ型、“紫雷電・改”」
二本の魔剣による別次元の突き技。
二本の魔剣と金棒が激突し、バリバリと衝撃波が飛び交う。
衝撃波がティア殿下たちへ広がりを見せ――
「“聖なる旋風陣”!!」
レインが翼をはためかせ、盾となる旋風を展開した。
旋風はすぐさまに消し去っていくが、少なくとも衝撃波はそこで止まって、ティア殿下たちにまで被害はいかなかった。
軽い手傷を負った俺は厄介な相手を二人同時にしなければならないと判断し、距離を置きながら相手の軍隊へ向かうよう指示を出す。
リンネンもカイの目には俺しか映っていなく、ヤマトやムサシ、コジロウ、ノウェムの方には見向きもしない。
「ここら辺で戦うのはまずいな……」
リンネンの剣戟とカイの攻撃はいくらでも捌けるが、リンネンと一緒にいる雲と火の玉が邪魔だ。
隙を見て、“闘気”を流した斬撃を飛ばすも、あんまり効果が見られない。攻撃範囲が広いので下手に近くで戦うとティア殿下たち皆を巻き込みかねない。
少しずつだが、距離を置きながら、皆から引き剥がすように誘導する。
どちらにしても、街の外なら俺にだって分がある。リンネンとカイも周り関係なく、攻撃を繰り出すのでところどころ、木々が折れたり、地面が割れたりはしているが気にする必要がなかった。
「ちょろちょろと――」
「逃げまわんじゃねぇ――ッ!!!!」
的確に俺を狙って剣を振るうリンネンと金棒を振るうカイ。皆から十分、離れたところで俺は反撃に転じる。
「――“双蛇・剣舞”!」
「なに!?」
「その技は、“北蓮流”!? なんでオメエが……!」
斬り裂くように放たれた無数の斬撃が蛇の如く、しつこく襲いかかる。襲いかかる斬撃を受け止め、リンネンとカイが驚愕に目を見開く。
「俺が“北蓮流”の技を使っておかしいのか?」
そもそも、“北蓮流”の創始者は俺だ。俺がその剣技を使用してなにが悪い。
まあ、見たところ、俺が“北蓮流”を使って正解だな。リンネンとカイの顔色がみるみる怒気に支配されていく。
シューテルの親族となにかあったんだろう。だったら、それを揺するまでだ。
「キミらと違って、俺には仲のいい“北蓮流”の剣士がいるんでな」
「て、めぇ……」
「死にてぇらしいなァ!! おい! リンネン! このガキを、部下もろとも消し飛ばすぞ!」
一層激しさを増す二人の攻撃を俺は二本の魔剣だけで捌き、隙がないか“静の闘気”で探る。
ただの攻撃じゃあ、俺を殺せないと判断したのか、カイはリンネンに二人同時技を繰り出そうとしていた。
リンネンと金棒。二人が衝撃波を飛ばす気満々の構えをする。あの構えには覚えがある。あれは“古王”いや“破局”だな。
「させないよ」
そんな技。咆吼で吹っ飛ばしてやる。
俺は息を腹一杯まで吸い込む。
「「“破きょ……”」」
「“我流”――“帝剣流”、“竜の咆吼”!!」
吸い込んだ息に魔力を乗せ、咆吼を上げる。
「アァァアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!!!!」
キーンと甲高い雄叫びが第二帝都の一部を巻き込み、大気を震動させ轟かせる。
魔力を乗せた咆吼で戦場にいる誰もが耳を塞ぐ。でも、ティア殿下たち皆は事前に耳を塞ぎ、ことを忍んでいた。
これはレインのおかげである。
彼女は俺が息を吸い込むのを見て、使う技を見抜き、ティア殿下たちに声を飛ばす。
「皆、今すぐ、耳を塞いで! 早く!」
危機迫る彼女にティア殿下たちは渋々、耳を塞ぐ。でも、耳を塞ぐということは敵に隙を見せるということだ。
スキありと見た連合の幹部勢は一気に仕留めようと動きだす。そのタイミングで俺が咆吼を上げる。
甲高い雄叫びに敵はもろに喰らって、意識が朦朧と仕掛ける。
雄叫びの最初はもろに受けたがティア殿下たちに遅ればせながら、彼らも耳を塞ぐ。
リンネンとカイもいきなりのことで意識が飛びかけ、武器を手放し、耳を塞いで甲高い雄叫びが収まるまで待つことしかできなかった。
咆吼を終わらせ、リンネンとカイを見ると二人とも意識が飛びかけたのか体勢を崩しかけている。
チャンスだな。
「“剣舞”!」
二本の魔剣を振るい、無数の斬撃がリンネンとカイへ襲いかかり、叩き込まれる。
渾身の一撃とまではいかなくとも相当“闘気”をこめた。こめたのに斬り刻まれるどころかひっかき傷程度しかできなかった。
「チッ」
これには俺も思わず、舌打ちする。
相当“闘気”をこめてひっかき傷程度か。硬いな。無意識に“動の闘気”を身に纏わせているからか。鋼鉄並に硬い。
二人を見た印象は、まるで“鋼鉄”だ。
相当“闘気”をこめた剣舞がひっかき傷程度。本来なら、並大抵の相手は致命傷を与える威力を秘めてるんだかな。奴らの身体は俺の想像以上に硬いようだ。
まあ、でも、アキレスより幾分か劣るがな。
一つだけ言えるのは効くといえば、効いてるな。持久戦にはなるが、時間をかければなんとか倒せる――と考えたところでリンネンは剣に火の玉を纏わせた。
「炎の一撃――“聖火なる鉄槌”!!」
燃え盛る剣を振り回し、俺の首を落とそうとするリンネン。俺は魔剣で受け止めようと考えたが、炎を纏った刃を受け止めきれるとは到底思えないため、自分から身体を浮かせて吹き飛ばされる。
そのまま距離を置いて俺は斬撃を飛ばそうとしたとき、突然、暗くなり、上を見上げるとカイが宙に飛んでおり、ブンブンと金棒を回していた。
「打ち砕き、崩せ――“破壊の鉄槌”!!」
俺を潰す気満々で雷を纏った金棒で叩きつけてくる。俺は足に力を入れ、後ろへ退避するも叩きつけたときの衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
「くっ!?」
なんて破壊力だ。地形が一気に変わったぞ!? 鬼族由来の馬鹿力め!!
俺は体勢を崩すも足で踏ん張る。踏ん張ってすぐさま、斬撃を飛ばし、斬り裂こうとする。
――だが。
「こんなんじゃあ効かないか」
分かりきったことだが、リンネンとカイは防御態勢すら取ることなく斬撃に突っ込み、ひっかき傷程度でしか作りつつ、俺へ一直線に向かってきた。
普通の斬撃じゃあ、ほぼ効果なし。“闘気”すら込めていない一撃では傷なんて傷つかないか。
なにより、即興とはいえ、“教団”にいた恩恵か。互いに連携がいい。これを突き崩すにも骨なのに。リンネンの傍にいる火の玉と雲がサポートしてくるから隙すら与えてくれない。
でも、ヴァシキに比べれたら、だいぶマシだな。奴は三次元的な動きをする分、余計に魔力を消耗する。でも、この二人はそれがないから、まだ動きに余裕がある。
「その首を寄越しやがれ!! クソガキィィ!!」
「ヤダね! あまり鬱陶しいと――ぶっ殺すぞ、“カイ”と“リンネン”!」
あまりの鬱陶しさに俺は冷徹なる殺気を出して睨みつける。
冷徹なる殺気を浴びてゾクッと背筋を凍らせるリンネンとカイ。今までに、これほどの殺気を受けたことがなく、まずいと判断してリンネンは雲に乗って体勢を立て直す。
カイも殺気を受けて煮えたぎってた怒気を少しだけ静める。
「ガキにしちゃあ、凄まじい殺気だな。睨まれただけで悪寒が走ったぜ」
「そうか。この程度の殺気で萎縮するようじゃあキミらの強さなんてたかが知れてるよ」
すると、殺気で少しだけ静まった怒気が俺の言葉で再び、煮えたぎった。
「口の減らねぇガキだな。二度とその口を吐けねぇようにしてやる!!」
と、カイは地を蹴って金棒を掲げ、駆けだす。
「来な。その口を吐けないようにするのはキミだってことを教えてやる」
俺も地を蹴って駆けだす。
俺とカイが駆けだすと、二つの一条の閃光が空から落ちる。
「「――!?」」
「なんだ!?」
俺とカイの中間地点に落ちた二つの落雷は放射状に大地を砕き、そこから二人の人物が現れる。
黒髪に金仮面。腰には安物のサーベルが一本差してある。もう一人はライトグリーンの髪で銀の軽鎧を着込んだ美丈夫。手には槍が握られていた。
一人は知らないが、もう一人は忘れもしない敵だった。今でも忘れない。あの髪。あの軽鎧。あの槍。そして――。
「ハハハハ! 素晴らしい戦場じゃないか! この俺を沸き立たせるには相応しい舞台じゃないか!」
あの笑い声に喋り方。忘れもしない。俺が両手で数える強者と認めた敵。
俺は一瞬だけ、冷静さを忘れて、その名を呼んだ。
「アキレスゥゥ――!!」
対して、女の方はリンネンとカイにとっては誰よりも殺したい相手だった。
「――生きていやがったか」
「“オクタヴィア”ァァ!!」
「うるさいぞ、リンネンに、カイ。そういうところは相変わらず、変わらんな」
オクタヴィアは燃え盛る剣に触れることすらなく受け止め、彼女は視線だけリンネンとカイに向けてる。これだけでも俺は彼女がかなりの使い手なのがはっきり分かった。
「……昔と同じだ。お前たちの戦い方は相変わらず獣のままだな」
溜息をつき、燃え盛る剣を弾いて腰に差した安物のサーベルを右手に持つ。
来る途中いや、第二帝都に隠れ潜んでいる間に武器屋から奪ってきただけの安物。知り合いの伝手で左腕はまだ完全に至っていないため、片手で扱えるサーベルを選んだにすぎない。
「そら、構えろ―― “神太刀流”、“二連・神剃刀”」
無造作に振るった斬撃は容易くリンネンを吹き飛ばし、オクタヴィアと距離を大きく空ける。
なんとか防いだリンネンは体勢を崩しながらも持ちこたえ、ギロリとオクタヴィアを睨みつけた。
俺とアキレスはオクタヴィアが使用した“二連・神剃刀”を見て、修練しているのが見てわかる。
「随分、粗いが中々の威力だな」
「まだまだ改良の余地ありだな」
耳長族で剣を扱うか。時が流れたものだ。
「余所見とは随分と舐められたもんだぜ!!」
カイは金棒を振り上げて、アキレスを叩き潰そうとする。
――でも。
「遅ぇよ」
コンッと槍の柄を地面に叩いたとき。
ブシャアァァッ!!?
カイの身体の至るところに傷ができ、深かったのか血が勢いよく飛び散った。
「ゲホッ、ガフッ!?」
ズシンとカイは膝を突いて、体勢を大きく崩す。
一瞬だけ冷静さを失ってたが、アキレスの疾さを見て、血が冷えて冷静さを取り戻した。
「相変わらず、神速だな」
しかも、精霊の加護なしで、これだ。やれやれ、これだから、神に愛された者は嫌いだ。
「そういうオメエも俺の動きが見えてるじゃないか」
アキレスは俺を見ずに嫌みを言ってくる。
オクタヴィアもアキレスの疾さには目を見張った。戦場へ行こうとしたとき、利害目的で協力したけど、正直に言って、実力なんてたいしたことがないと思っていた。だが、実際、見てみれば、カイを一瞬で深手を負わせた実力に疾さ。
しかも、疾さに至っては目で捉えれなかった。
そして、その疾さを捉えてたズィルバーのレベルの高さを思い知ったオクタヴィア。
「テメェ、その技……ロジャーと“剣蓮”の……!」
「この程度の技なら見れば模倣できる。そう難しいものではなかろう」
リンネンは先の技をかつて、受けた技だと思いだし、オクタヴィアは真似るのは簡単だと言い切る。
戦いから外された俺は、彼女の話を聞き、うんうんと頷く。
確かに“三蓮流”は俺が編み出した技。原理が分からなくても真似ることは可能だ。最初は真似るのが技の習得の基本だ。
真似て、原理を知って、自分なりの形にする。それが剣術だ。
にしても、オクタヴィアの“闘気”いや魔力も技術も一級品だ。ノウェムの母親だけはある。
「やはり、一度、手合わせしたいものだ」
ぼそりと本音を漏らした。
だけど、格上の実力者を前にリンネンは一切怯むことはなかった。
「わざわざ殺されにきやがったのかァ!?」
「……いいや、違う」
オクタヴィアは一度だけ、連合軍の幹部勢と戦っているノウェムと上に立つリーダーの俺に視線を見やり、すぐに戻す。
「娘の顔を見に来たのと、娘を従わせる男の顔を見に来たことと……お前らへの教育が足りなかったようなのでな。ついでに叩きのめしてやろうと思ったまでだ」
そう言うなら、最初から娘の面倒を最初から見ろよ。親がしっかりしていないから。自分にうそをつく娘できるじゃないか。
「教育だァ!? お前に教わったことなんざ一つもねぇぞ!!」
「いや、お前たちに教えたはずだ――私に逆らうな、と」
肌がひりつかせるような“闘気”を受け、俺はほんの少しだけ鳥肌が立つ。
「おぉ~」
感心する。これほどの“闘気”を扱える奴はそうそういないぞ。かなり鍛えられてるな。そして、場数をこなしてる。
「私を殺す? “教団”にいた頃、私に手も足も出なかったお前らが、私に勝てると思っているのか――舐められたものだ」
確かにオクタヴィアっていう女の実力はリンネンやカイよりも上だ。でも、アキレスと比較すると天と地ほどの差がある。
なにしろ、アキレスはヘルトとためを張れるほどの強者だ。生きた時代が違う。
すると、オクタヴィアから漏れ出るバチバチと音を立ててる。あれは雷。
クレトが言っていたことは本当のようだな。
「それよりも」
俺はアキレスとカイの戦いを見ようとしたとき、カイは既に白目を剝いて仰向けに倒れ込んでいた。
もう虫の息だな。“静の闘気”を使うまでもない。アキレスに手も足も出ずに倒された。血もけっこう流れてる。しかも、止めどなく、生々しいものだ。
さすがに可哀想なので、俺は倒れ伏したカイへと歩きだす。その途中、アキレスの横を通るが、微かに香る臭いで俺は理解した。
“そうか。キミは何者かに復活されたんだな”、と。
俺はそれが分かった途端、胸の内に虚しさが生まれる。でも、生まれるだけで同情する気はなかった。せめて、今、生きてる人間として“キミをこの手で殺してやる”と誓った。
とりあえず、カイに軽く治癒を施す。死なれては元も子もない。
「キミとは一対一で戦いたいからな」
呟いて、俺は聖属性の治癒魔術をかけた。治癒をかけて生々しい傷口を塞ぎ、カイ自身の呼吸を少しだけ安定させる。
「これでいいだろう」
屈辱かどうかは知らないが、生きてるだけマシだと思えば、御の字だ。
「さて」
俺は“虹竜”と“閻魔”を鞘に納め、代わりに“天叢雲剣”を抜き、アキレスに視線を向ける。
アキレスもようやく、俺と戦えるのかやけに好戦的な笑みを浮かべている。
戦場で笑うのは敵への侮蔑に繋がるものだが、アキレスの場合は違う。
「昔、キミ言ったよな。“戦場で笑えないもの楽園でも笑えない。死に際ぐらい陽気に行こう”って……」
「ああ、言ったな。っつうか、俺の言葉を知ってるなれば、オメエがヘルトってことでいいよな?」
「どうぞ。ご自由に」
俺は魔剣を構え、アキレスは槍を構える。
「あの時を思いだすよ。国家同士の戦争で両雄相まみえたときのことを」
「ああ、お互い。一軍の将軍として戦場に赴き殺し合った」
「キミとの殺し合いは楽しめた。まだ、世界にこんな強者がいると不思議な感覚に陥ったものだ」
「今じゃあ、伝説の語り草、か」
「さて、お喋りはここまでにして」
「ああ、今ここに伝説の戦いを再現しよう。おぉ~! オリュンポスの神々よ、この戦いに栄光と名誉を与えたまえ!」
「栄光や名誉などいらん。俺は仲間に危害を加える奴を叩き潰すのみ!!」
俺とアキレス。
両者ともに“闘気”を得物に纏わせ、地を蹴って激突する。
ヘルトとアキレスが死闘を始めたのと同時期。
オクタヴィアとリンネンも僅かな睨み合い後、互いの影が交差した。
「ぐっ――!」
「威勢がいいのは口だけか?」
剣と剣が直接ぶつかっていない。オクタヴィアの剣に“闘気”を纏わせて受け止めている。
火の玉の炎も少なからず、影響があるのにオクタヴィアの“闘気”はそれすらも跳ね返してしまう。
「“雷霆”!!」
「――“改・神戮”」
バリバリと空気を引き裂く雲を叩きつけるリンネンに対し、オクタヴィアは剣に雷を纏わせ、“闘気”とともに雲へと叩きつける。
雷に力負けした雲ごとリンネンの腕を焼き、彼女を守ろうとした火の玉とぶつかってようやく相殺された。
「ぐああァァァァッ!!」
「構えろ、リンネン――加減はせん」
剣を捨て、オクタヴィアは少しだけ動けるようになった左腕を後ろ手に構える。
リンネンは痛みに顔を歪めながらも、剣を持ち、左手に火の玉を控えていた。
「刺し穿て、雷よ」
リンネンの手にある剣目掛けて雷が走り、弾き飛ばす。
「突き穿て、雷よ」
再び、雷がリンネンへ襲いかかり、僅かな間だけ痺れて、動きを封じ――極大かつ現代における史上最高の一撃を放つ。
「――“神をも穿つ雷の槍”」
その一撃は神代を生きた者たちからしたら、神獣すら容易く屠れる雷の槍が、リンネンに突き刺さった。
感想と評価のほどをお願いします。
ブックマークもお願いします。
ユーザー登録もお願いします。




