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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
問題児騒乱
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英雄。情報を得る。

 深夜の一件から一夜明け。

 俺は風紀委員いや白銀の黄昏シルバリック・リコフォスのメンバーを本部の大広間に集結させる。

 全員が集結したところで俺は声をあげる。

「諸君たちを集めたのに訳がある。昨日いや深夜に新メンバーからの襲撃があったと思うが、処遇に関しては俺が無理に近いが下に就く形で納得させた。皆の中には何かしら、不安はあるだろうが、この際、我慢しろとは言わん。意見がある者は挙手しろ」

 挙手制にした途端、カナメが手を挙げた。

「“下に就かせた”と言ったが、具体的には?」

「下っ端に近い形で動かせようと思う。新メンバーの大半は第二帝都の裏路地を知るものが多い。そこの治安改善に努めてほしい」

「それって学園の枠を超えていない?」

「表では風紀委員。裏では白銀の黄昏シルバリック・リコフォスとして動く。ハクリュウたちには裏での仕事をメインに動かせる所存だ。第二帝都の裏路地でも闇取引が多いと仮定した場合。彼らがそいつらを取り締まってもらう」

 俺は組織としての明確な動きを提示する。

「なるほど。学園を含む第二帝都の治安を自分たちで守るって訳ね」

「もちろん。それには力や金、労力が必要だ。土地勘もいる。メイア」

 ここで俺はメイアを指名する。

「キミたちは第二帝都以外にも手を出しているか?」

「出していない。基本、第二帝都を中心に活動している。なにより、大帝都ヴィネザリアには親衛隊本部があるから。手を出せないのよ」

「なるほど」

 メイアの話を聞き、土地勘、地上通の彼らの情報を聞きつつ、俺は可能な限り、頭を働かせる。

「じゃあ、兼任するのはどう?」

 ティア殿下が代案を出す。

「兼任?」

「ええ、リーダーはズィルバーで、サブリーダーは私に変わりないけど、この際、風紀委員。白銀の黄昏シルバリック・リコフォスにも階級に応じて一本化した方がいいと思う」

 昨夜、話し合っていたことか。

「そうだな。子供の俺たちが組織を大きくするにあたって統率のある組織にした方がいいな。この意見になにか反論はないか?」

 俺は皆に統率した組織化に問題あるか尋ねる。

 皆、“異議無し”と沈黙を示す。

「じゃあ、大至急。今の案は取りかかる。次に当面、動きだが、準備期間とする。地盤を固め。各々の実力を上げる。資金を集め。貴族との手引きだ。幸い、俺はファーレン公爵家の跡取り。将来、公爵家領内に組織を移転する。ひとまず、ここを拠点に力を蓄えるとしよう。表では風紀委員の仕事をしつつ、裏では第二帝都の治安改善。ただし、親衛隊とは敵対するな。今、彼らと事を起こしてはこちらとしては厄介だからな」

 注意事項を言って、皆、コクッと頷いた。

「掟と秩序だけは守れ。国民には手を出すな。孤児にはできるだけ支援してやれ」

「了解!」

「よし。行くぞ、皆!」

「おう!」

 俺が号令をあげた途端、皆が掛け声をあげた。




 風紀委員いや白銀の黄昏シルバリック・リコフォスが本格的に始動してから数日の時が過ぎ去った。

 新メンバーに入った中で貴族組には主に風紀委員の仕事を優先し、ハクリュウたち悪童組は第二帝都の治安維持を優先させた。

 もちろん、それは地盤を固める。これから委員会(組織)として運営していくための準備期間。

 本格的に動きだすのは今じゃない。

 だからこそ、準備が必要だ。


 なお、風紀委員として動きつつ、白銀の黄昏シルバリック・リコフォスの組織化に――シャオ・L・フーリン、ユキ・H・スターリン、リュビ・E・テイン、サリア・F・ヴァーリン、ラゴン・O・エクス、モルファ・M・レッド、アリシア・S・イヴァ、ツグミ・K・クロノス、オボロ・D・ココガラシ、アリア・S・ホームズ、ノーラ・D・カスター、ルミ・N・レイシェード、ルア・D・クロス、ビャク・D・クロスの彼女たちに一任。

 第二帝都の治安維持にハクリュウらが一任。

 これで俺やティア殿下の負担が減るってものだ。

 フゥ~ッと息を吐く中、執務室にいるティア殿下が「あっ」となにかを思いだしたかのように声を出す。

「そういえば、言い忘れたけど」

「どうした?」

 ティア殿下は前にキンバリー講師から教えてくれたことを告げた。

「ふぅ~ん。そうか」

「気にならない?」

「いや、全然」

 ティア殿下の聞き返しに俺はさほど問題ない。むしろ、どうでもよかった。と言うのが本音だ。

「俺とあいつらとでは考え方は違う。進む道も違えば、行き着く答えも違うんだ。なるようになるしかない」

「そう」

 ティア殿下は俺の考えを聞いて、さほど心配していなかった。俺は知らなかっただけで彼女もさほど気にしていなかった。

「それにさ」

「なに?」

「俺と見比べて、卑屈になって、せっかくの才能を閉じ込めさせるのがリスキー」

「そうね。ここは意外と閉鎖的だから。鬱憤を晴らす術がない」

 意外と大人な考えをしているな。

「まあ、大半は俺の所為だろう。後は肌に合わなかったか、だな」

「肌に合わなかった? ……あぁ~、そういうことね」

「そうだ。ここはある意味、大帝都に近い。つまり、中央に住む貴族がこの学園に集まっている。確かに“ティーターン学園”は国中の子供が集まる。だが、全員が卒業するかと言えば、そうじゃない。なにかと、学園の空気に会わない奴らが出てくる」

 ハクリュウたちもその例外じゃない。

「そういう奴らはたいがい、学園を出て行き、いろいろと悪さをした目立ってしまう。学園を出ているから学園側も干渉できない」

「その意味では私たちが作った風紀委員は彼らの特性を生かせる環境になったわけね」

「まあ、表に向いているメンバーと裏に向いているメンバーもいる。今回は裏に通ずるメンバーが多かっただけのことだ」

 おっと、話がずれたな。

カズたち(あいつら)が学園を出て、地方へ帰ったのは親の命令かもしれないな。中央により、地方にいれば、なにかと親の指示が聞ける。まあ、学園にいれば、治外法権が働くかもしれないが……」

「あるかどうかはその場によると考えましょう」

「そうだな」

 と、俺とティア殿下はありきたりな雑談をしつつ、表の仕事をするのだった。




 第二帝都の裏路地にて。

 ハクリュウたちはそれぞれ、自分たちの縄張り(しま)を持ち、各々の裁量で情報収集していた。

 だが、情報収集しているとき、彼らはとんでもないことを耳にする。

「おい、聞いたか?」

「なにをだ?」

「“獅子盗賊団”、“魔王傭兵団”、“大食らいの悪魔団”が動いてるって情報だ」

「マジか!? それ!?」

「マジで! 今さっき、親衛隊から避難勧告があった!」

「おいおい、うそだろう」

 耳にして、近くで聞いていたシュウのチーム。シュウに部下たちが尋ねる。

「シュウ様。今の話って……」

「分からない。デマって可能性もある」

 シュウは慎重に物事をまとめる。顎に手を添え、う~んと唸らせる。

 唸らせる彼に別の地区で情報収集していた部下から報告が入った。

「シュウ様。親衛隊支部の隊員が武装して街を巡回しています」

 シュウは部下からの報告を聞き、考えを巡らせる。

(ここに来て、親衛隊が避難勧告?)

「おかしいな」

「シュウ様?」

「おかしいとは?」

 どうやら、部下はこの状況のおかしさに気づいていない。

「本来なら、衛兵が街の巡回をしている。それなのに親衛隊が巡回するのはおかしい。非常事態だ。先の裏路地で聞いた話が本当だと仮定した場合。何かしらの行動がでてもおかしくない」

 “裏がある”とシュウは推測する。

 だが、部下たちは思い過ごしなのでは楽観的であった。


 第二帝都の外周部。そこで情報収集しているメイアのチームとギリスのチーム。

 彼らは中心部とは違い、外周部付近でたむろっている謎の集団を発見する。

「彼らは何者?」

「彼らが着ている服の一部についているマーク」

 建物に隠れたり、物陰に隠れ見たり、小声で話し合う部下たち。リーダーであるメイアとギリスは物陰越しから覗き込み、マークを確認する。

「あのマークは――」

「間違えない。“獅子盗賊団”のマーク」

「見たところ、下っ端ね」

「ああ。でも、油断するな」

「分かってるわよ」

 小声で会話するメイアとギリス。二人は細心の注意を払って、下っ端たちの会話を聞く。

「それにしてもよ。なんで、俺たちがガキ共のなれ合い組織を潰さねぇといけねぇんだ」

「文句を言うな。親分の命令じゃあ、従うしかねぇだろう」

「だけどよ。俺たちの第一目的はズィルバー(・・・・・)ってガキの始末とヒロ(・・)様を連れ戻すことだろう。しかも、“魔王傭兵団”も来てるようだし」

「穏便に済ませるしかねぇだろう。親分も傭兵団との抗争も視野に入れてるようだし」

「ったくよ」

 下っ端共の会話を聞いて、メイアとギリスは自分たちにとって危険だと判断して部下たちに小声で「地下水路を通って、学園へ戻るわよ」と告げる。

 部下たちも頷いて、隠れている建物の床下から地下へと入り、学園へ向かった。


 そのほかのチームでも、親衛隊の避難勧告や裏組織が動いている情報が耳にし、事態が急変しているのを感じとり、地下を通って学園へと向かった。




 ハクリュウたち(部下)が第二帝都の治安維持に向かっている中、俺はティア殿下との雑談と仕事を終え、一年の成績優秀者の校舎にいた。

 時間から見て、お昼だ。本来なら、生徒として授業に参加しないといけないんだけど、親衛隊との小競り合いで授業に参加しづらい。それにエリザベス殿下が俺たちに言われたからな。

『基礎学科なんて受けても意味がないでしょう。貴方たちは選択科目だけ受けなさい! 学園長や講師陣には私が言い含めておくから』

 改めて、皇族特権。恐ろしいって思った。


 廊下を歩いていると、モンドス講師がこちらに向かって歩いてきた。

 モンドス講師は向こうから俺が歩いてくるのを気づき、俺に視線を向ける。

 当然、俺もその視線には気づいている。だが、それをひとまず、無視する。

「おや、ズィルバーくんじゃねぇか。授業はどうした?」

 彼に声をかけられて、俺は会釈してから話に応じ始める。

「今日は基礎学科の授業だったのか。実は……」

「まあ、オメエらだったら、基礎を受ける意味なんてねぇな」

「…………」

 だったら、なんで聞くんだよ。

 胡乱な視線を向ける俺にモンドス講師は「悪ぃ悪ぃ」と謝罪する。

「疑わせて悪ぃな」

「だったら、ふざけんな」

「ああ。それよりもまた面倒なことをしたな」

「はい?」

 モンドス講師の言っている意味が分からない。俺は首をかしげ、続きを促す。

「親衛隊が第二帝都を巡回してやがる。オメエらが関係しているんだろう?」

「ハァ? するわけないよ。先日、俺たちが暴れたのはしょうがないけど、それで巡回するだけの人員あるのか?」

「あるぜ。今回は本部の隊員が来てる。冒険者ギルドで、その情報は流れてるぜ」

「どんな情報かは部下たちから聞くとして……モンドス先生。聞きたいことがあります」

「なんだ?」

 俺は目線で周囲を警戒した後、モンドス講師に小声で話す。

揉み消した(・・・・・・)教団(・・)”について教えてくれない」

「――ッ!?」

 モンドス講師は俺が聞きたいことの内容を聞き、息を詰まらせる。

「ど、どこで、それを……!?」

 言葉を詰まらせながらも小声で詰め寄ってくる。その顔は慌てまくっていた。

 俺は彼の慌てっぷりだけでなにかを知っているのは分かった。

「場所を変えましょう」

 と、俺はそう言って、モンドス講師と一緒に人気の付かないところへ向かうことにした。


 俺とモンドス講師が向かった場所は生徒や講師でも来ることがない空き教室。

 お互いに中へ入ったところで俺はモンドス講師に向き、廊下で尋ねたわけを話す。

「実は始業式で行った人員追加の募集で保留になった生徒を一気に率いれました。半分は貴族で、もう半分が第二帝都で悪さをしている生徒。後者の彼らの特徴は全員。“教団”によって家族を失った者たちです」

「あぁ~。そういうことか」

 モンドス講師もようやく、俺が聞きたいわけを知り、額を手で押さえる。

「オメエみてぇな子供が“教団”を尋ねるなんざおかしいと思ったが、そういう訳か……」

「ああ。俺は風紀委員長だが、学園には白銀の黄昏シルバリック・リコフォス総帥(トップ)に立っている。知っておかないとなにかと困る」

 仲間を、部下を、皆を守るために必要最低限の情報を持っておかないと対策を立てようがない。それにせめて、ハクリュウたち(彼奴ら)の怒りを俺が晴らしてあげたい。まあ、聞かれたら、「烏滸がましい」って言われるだろうけど――。

「なので、はっきりと答えてください。“教団”とはなんなのか。なぜ、揉み消したのかを」

 “うそを言ったら、ぶっ飛ばす”が宿った目つきでモンドス講師を睨む。

 モンドス講師も俺の睨みにハアと溜息を吐いた。

「分かった。分かった。そう睨むな。知っていることは全部話す」

 “うそついたら、殺されるな”と胸中にぼやきつつ、彼は近くの椅子に腰を下ろす。

 俺も彼につられて、椅子に座った。


 ハアと息を吐いた後、モンドス講師は話を切りだした。

 あの溜息から“話したくない内容なんだ”と俺は本能的に理解する。

「“教団”ってのは八年ほど前、“ライヒ大帝国”に楯突いた組織のことだ」

「この国に楯突いた!?」

 おいおい、なんて“教団”だ。この国に楯突くなんざ正気とは思えん。“ライヒ大帝国”は千年前、俺、リヒト、レイらの手によって、覇を唱えた人族(ヒューマン)最強国家として震撼させた国だぞ。その国に楯突くなんざ正気の沙汰じゃない。いかれてるとしか言えない。

「バカなのか。そいつら?」

「確かにバカみてぇだが、実在し、国民に多大な恐怖を与えた。“教団”のほとんどは異種族が入り混じってた」

「思想がバラバラだ」

「あ?」

「異種族にはそれぞれ、違った思想をしている」

「違った思想?」

耳長族(エルフィム)は“自然との調和”と“精霊との共存”。獣族(アンスロ)は“圧倒的な力強さ”。そして、魔族(ゾロスタ)は……“力による圧政”」

「“力による圧政”? 知らねぇな。魔族(ゾロスタ)っていうのも知らねぇな」

「当然だろ。異種族というのは迫害されている。数も激減している。半血族(ハーフ)とて例外じゃない。世界によって、俺たち人族(ヒューマン)の手によって迫害された彼らが牙を剝くのは自然の摂理かもしれん」

 俺は哀れみの表情を浮かべる。なんせ、千年前、実際に彼らが迫害されるのを見たことがあるからだ。あれは心にくるものだ。

 おっと、今はそんなことを気にしているところではない。“教団”がどういった存在だったのかをさらに聞くべきだ。

「“教団”による被害はどれほどのものだったのですか?」

「村や街が壊滅。三分の一ほどの貴族が消された。幸い、五大公爵家は潰されずに済んだ。あの五家は精霊の加護が働いていて、つぶそうにもつぶせなかった。だが、あの時期は皇家に対する求心力が落ちる事態に陥った」

「“教団”もそれが狙いだった」

「ああ、実際のところ、略奪された家族は強姦されたり、奴隷として扱われたりされたって噂が帝国中に広がった。オメエのところに入った新入りたちもその生き残りだろう」

「はい。実際、ハクリュウたち(彼ら)は“教団”に対して、深い恨みを持っています」

 俺はモンドス講師の問い返しに間違えないと答える。

「やはりな。“教団”の残党共を恨まれてもおかしくねぇ。俺は冒険者だったから恨み嫉みはねぇが、子供の彼奴らには酷な話だな」

「そうですね」

 ハクリュウたち(彼奴ら)の言い分も分からなくもない。だけど、復讐に身を堕とすのはよろしくない。たいがい、復讐に堕ちた奴の最後は惨いものだ。

「残党も残党で怪物ばかりだ。奴らを倒そうとする冒険者や親衛隊(奴ら)がいるが、返り討ちに遭わされているようだ」

「バカな奴だ。異種族は人族(ヒューマン)と違い、身体能力が高いんだ。それを知らずに挑むのはバカだけで十分だ」

 戦いは情報を可能なかぎり集め、不測の事態にも対応できるだけの力と判断力がいる。

 あと、指揮官(リーダー)の度量だな。

「……で、“教団”の残党の中で最も危険な人物は誰なんですか?」

 いや、この際だから

「帝国が最も危険視している人たち全員、教えてください」

 知っている、知っていないで対策ができるというもの。

「だから、教えてください。うそついたら、どうなるか……分かってますよね?」

 ニコッと微笑む俺に「分かってる」と頬を引きつらせ、モンドス講師は頷く。

「俺が知ってる範囲だが、いいか?」

「構いません」

「じゃあ、言うぜ」

 モンドス講師は国で最も危険な人たちを話しはじめた。

「俺が知ってる範囲だと、“オクタヴィア”、“魔王”、“獅子”、“女王”、“皇帝”だな」

「異名で言うなよ」

「悪ぃ、悪ぃ。名前は“オクタヴィア”、“カイ”、“ヴァシキ”、“リンネン”、“エドワード”って奴らだ」

「そいつらがこの国で一番危険なんですか?」

「ああ。そうだ。あと、一人だけ危険な奴がいる」

「一人?」

「あぁ~。話したくねぇな」

 ん? やけに話したくなさそうな顔をしているな。そこまで話したくないのか。

「最後の一人は冒険者なんだが、冒険者ギルドや親衛隊から人一倍危なっかしいバカなんだ」

 意味が分からん。なんで、冒険者なのに“ギルドや親衛隊から危なっかしい”って言われるんだ?

「“ロジャー”つって、カナメの父親なんだよ」

「は?」

 この時、俺の頭の中は真っ白になった。

 カナメの父親が冒険者? しかも、ギルドや親衛隊から危なっかしいって言われるほどの……

「意味が分からん」

「そりゃ、言えてる。あいつはバカでね。冒険者のくせに人様に迷惑をかけっから。ブラックリスト入りされてんの。だから、カナメは人族でありながら、“問題児”扱いされちまったんだ」

 俺は言葉が出ずに口を閉ざす。

 なんだか、カナメの気持ち。少しだけ理解できる。

 ダメな父親がいれば……そりゃ、捻くれるわな。

 ハァ~ッと俺は息をつく。

「なんか、無性に、そいつらをぶっ飛ばしたくなった」

 本音を漏らす。俺の本音にモンドス講師は驚愕したのか目を見開いている。が、それを無視しても無性に苛立つのは事実だ。

 “教団”が国にもたらした災厄は重い。家族を失った者たちの怒りは果てしない。人とは恨みを晴らすためなら、家族にも手をだす輩がいる。子供にまで手をだすのはお門違いなのは俺でも分かっている。だけど、憎しみというのは我を失うからな。

 復讐目的で俺たちを利用されたら、たまったものじゃない。本当なら、即刻、切り落とすのだが……今回ばかりは許してやろう。

 なにより、“教団”は俺たちが築いた覚悟(想い)を踏みにじった。

 その罪は万死に値する。地獄で後悔させてやる。

 内心、俺は煮えくりかえっていた。

 “種族間の共存”を願い、俺たちは戦った。“教団”のやり方はそれを無碍にする行為。“教団”の在り方は神々(・・)と同じ……

「あれ?」

 ここに来て、俺は一つの可能性に思い至る。

 “教団”の在り方は“統治派の神々”と同じ。じゃあ、“教団”って、もしかして――。

 俺は奴ら(・・)の目論見に気づき、可能性が少しだけ確証へ至った。


 もし、これが本当だとしたら、“アステリオン”の復活も奴らが一枚噛んでる。

 ヤバいな。奴らがとんでもないことをしでかすなら。

 顎に手を当て、考え始めようとしたところで。

 コンコン。と、ドアを叩く音がした。

 水を差しやがって! 内心、舌打ちしつつ、俺は席を立って、鍵を解いてドアを開ければ、息を切らした部下たちがそこにいた。

「どうした?」

 俺は部下たちの息遣いから緊急状況だと判断し、顔を顰める。

「報告します。現在、第二帝都の外周部にて。“獅子盗賊団(・・・・・)”の下っ端を発見」

「なに?」

「さらに第二帝都内に避難勧告が発令。どうやら、親衛隊が情報を流したそうです」

「……」

 俺は又もや、顎に手を当てて考え始める。

 ここに来て、親衛隊が避難勧告を発令。明らかに厳戒態勢を敷いていると考えていい。となれば

「既に第二帝都内に親衛隊が配備されているのか?」

「はい。情報を集めていた際、目撃したので間違えないかと」

「さらに下っ端と街の人たちの話だと、“魔王傭兵団(・・・・・)”、“大食らいの悪魔団(・・・・・・・・)”がこちらに向かってきている。とのことです」

「いかがなさいますか」

 いつの間にか臣下の礼をし、俺に指示を仰ぐ。俺は部下たちを無視しつつ、顎に手を当て、思考を巡らせる。

 急だな。奇襲といってもいい状況下。しかも、親衛隊も動いている。となれば、狙いは俺たちか? だとしたら、なんで

 俺は思考の渦にのめり込む。

 と、モンドス講師が部下からの報告を聞いて、ガタガタと震えだした。

「“ヴァシキ”に、“カイ”、“リンネン”だと!?」

 声も震え、怯えているのも見てとれた。

「知ってるのですか?」

「ああ、あいつらの目的は子供の奪還あるいは殺害だな」

「は?」

 なんで、目的が子供の奪還か殺害なんだ? 意味が分からない。

「だとしたら、あいつらはズィルバー。オメエらを狙ってる」

「俺たちを狙ってる? どういうことですか、詳しく教えてください」

「ノウェムたちだ」

「はい?」

「あいつらはノウェムたちを殺そうと動いているはずだ。ズィルバー。よく聞け。あの怪物どもと相手にする必要はねぇ。ノウェムたちを返せば、被害を被ることはねぇ」

「あ゛っ?」

 それって、つまり、“ノウェムたちを見捨てろ”ってか。

「ふざけんな」

「ッ……!?」

「なに、勝手にキミの裁量で決めるんだ。ノウェムたちは俺の部下で仲間だ。あいつらを見捨てようって考えなんざ。端っからない。邪魔する奴は叩き潰す。誰がなんと言おうとな」

 俺は知らず知らずのうちに殺気を漏らし、モンドス講師を竦ませた。

 冷たい目をしつつ、俺は部下たちに指示を出す。

「全員に伝えろ。いつでも戦闘ができるように準備をしておけ」

「ハッ!」

「それと、ハクリュウたちに“宝物庫前に集合しろ”、と言っておけ」

「分かりました」

「なら、行け」

 号令とともに部下たちは一斉に走り出し、風紀委員本部へと向かう。


 俺は腰を抜かすモンドス講師にこれだけは言った。

「言っておくが、俺は仲間を売るなんざしない。大事なものを守り通すだけの覚悟はできてる。もし、仲間たちを侮辱するなら、俺は誰だろうと殺す。肝に銘じておけ」

 冷たき目による睨み。たった、それだけ。睨みだけで人を殺せそうな凄みがあった。

 さしものモンドス講師のゴクッと生唾を呑み

「わ、わかった」

 力なく言った。

「では、失礼します」

 俺はモンドス講師を残し、空き教室を出た。


 残されたモンドス講師は乾いた笑いを零し

「いや……とんでもねぇ怪物を呼び起こしたかもしれねぇな」

 血の気のない真っ青な顔をしていた。

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