英雄。新メンバーと親睦会を行う。
レインから資料を渡されて、数日の時が過ぎ去った。
俺、いや、俺たちは学園の食堂で新メンバーの親睦会を執り行うことにした。
「あぁ~。今日は予定していたとおり、新メンバーの親睦会を行うんだけど……にしても……追加したメンバーが多くないか!?」
新メンバーの多さに声を大にして荒げてしまう。
今、俺たちは学園の食堂にいるんだが、新メンバーの多さに度肝を抜く。
ティア殿下が保留した生徒は二十九人だった。応募で最大人数は五十人。
半分しか採用していないのに、食堂にはそれを超える人数が席に座っていた。
これには、採用させたティア殿下も驚いている。
だけど、過ぎてしまったことを蒸し返すのも腹立たしいし。早速、自己紹介に入るか。
「それじゃあ、親睦会を行う。乾杯の号令を上げたいが、時間が時間だし。早速、自己紹介に入る」
俺は席を立ち、全員が見渡せるように自己紹介する。
「俺はズィルバー・R・ファーレン。既に知っているだろうが、風紀委員長を務めている。改めて、よろしく頼む」
と、お辞儀した。
その後、一斉に拍手された。
それに続く形でティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルの順に自己紹介していく。
ティア殿下たち、ノウェムたちの自己紹介を終え、次は新メンバーの自己紹介に入る。
「じゃあ、次は新メンバーの紹介に入る」
俺が陣頭を取って、司会を進める。
新メンバーが自己紹介されていく。
銀髪にアイビー色の後ろ髪を束ね、赤い瞳をする少年、ハクリュウ・ドラルゴ。
褐色肌に薄い黒髪のボブカット。前髪の一部が触覚かのごとく玉飾りで留め、先端を赤と白に染める少年、シュウ・レオルス。
ラベンダー色の長い髪。エメラルドの瞳をした少女、メイア・デュアノス。
黄緑色の髪に眼鏡という道具をかけた少年、ギリス・アルン。
逆立った白髪に特殊眼鏡をかけた少年、サカキ・エヴァン。
薄い赤髪をはね、もみあげが黒メッシュする少年、ガル・シャアール。
ホワイトグリーンのセミロングの少年、ヴァンプ・ファーニル。
と、個性豊かな名前と風貌を持つメンバーが入ったものだ。
特に気になったのが――。
「自分はビャク・D・クロス。こっちが妹のルア・D・クロスと言います。メンバーとして尽力します」
お辞儀して自己紹介した双子の姉妹。
二人とも顔写真で見たとおり、金髪に碧眼。ご丁寧にカチューシャまでしているとは、全く、先祖に似ていることだ。
全員、自己紹介を終えたところで俺は席を立ち、改めて、風紀委員の方針を告げる。
「俺たち、風紀委員すべきことは学園の治安維持だ。それ以上でも、それ以下のことはしない。度々、学園並びに生徒会の頼みがあった場合のみ、動くこととする」
風紀委員として当然すべきことを話す。
「ただし、委員会に入ったからには俺が定めた掟に従ってもらう。従わない場合は、それ相応の仕打ちをするから覚悟しておけ」
と、組織内での掟を話す。俺が定めた掟を皆が真摯に聞く。
「先んじて、言っておく。今後、俺たちに敵対してくる奴らが来るだろうが、それでも臆さず、挑めるものだけは俺についてこい。できない者は今すぐにでも、出て行ってほしい」
これから、俺たちに様々な厄災が襲いかかるだろう。それでも臆さず、挑み、付いてくる者だけを俺は集めたい。覚悟のない者はいらん。
そこだけは取り決めたい。だけど、新メンバーのほとんどは覚悟ありという面構えをしていた。
「皆の覚悟は理解した。後で抜けようとしたら、俺の拳骨が飛ぶから覚悟しておけ」
ニコッと微笑むと、一同全員、背筋を伸ばした。
あれ? どうして、皆、急に背筋を伸ばすんだ? 俺の笑顔って、そんなに怖いのか?
この時、俺自身が圧のある笑みを浮かべていたのを気づいていなかった。
ひとまず、一通りのことを話した。あとは――
「じゃあ、親睦会を始めようか」
俺は音頭をとって、全員、テーブルの上に置かれた料理にありつけた。
皆が皆。料理にありつけている中、俺は水の入ったワイングラスを片手に食堂の縁に寄り、夜空に浮かぶ月を見る。
「しかし、個性豊かなメンバーが集まったものだ」
「そうね」
ティア殿下もグラスを手に隣に寄り添ってきた。
「普通だったら、リーダーになり得る資質を持つ者ばかり。そんな彼らがこぞって、あんたのもとに集うなんて……」
「変人は変人を引き寄せるように、化物には化物を引き寄せるかもな」
「自分を変人というのはあんたぐらいよ」
「いや、俺って、かなりの変人だろ。体質のせいで化物じみてるからな」
言い忘れているけど、俺は両性往来者っていう特異体質をもっているぞ。
「そういえば、そうだったわね」
ティア殿下。今になって思い出すような言い方をするな。余計に心が抉れる。
コホン。俺と一度咳払いしてから急ピッチで用意してくれたルキウスから渡された資料を見る。
水を含ませながら、資料を目に通す。
「それにしても……」
「ん?」
「何奴も此奴も第二帝都で悪さをしている生徒だとは思いもよらなかったな」
「親衛隊は出なくても、衛兵から逃げおおせる。それだけでも相当なものよ。残りは武門家、商家ね」
「ほとんどが武門家。全く、実力のある者たちだけ集まったな」
俺は資料を見て、新メンバーのほとんどが力のあるメンバーばかり。
「保留した生徒以外にいる彼らに関しては今、エルダ姉さんやヒルデ姉さんに言っておいた。どういう奴らか。調べておきたいからな」
「それでいいと思う。それにしても、委員会も大きくなったわね」
「ああ、急激にデカくなった。掟を定めても破る者が出てくる。内部で工作する輩も出る」
「そのためにも一本化ね」
「そうだな。そのためにも……ハァ~。業腹じゃないが、階級を明確にした方がいいな」
俺とティア殿下は水を飲みつつ、資料を見て、今後の展望を一緒に話し合った。
第二帝都、親衛隊支部。
夜の時間帯なのに、執務室では公務に明け暮れているシンがいた。
「はぁ~」
と、溜息を吐くと一緒にいるクレトが声をかける。
「いや~、部下の報告で風紀委員に新たなメンバーが入ったんだって……」
「ほぅ~。そんな報告があったのか」
「それを聞いたときは驚いたけど、とにかく、メンバーがヤバくてね」
「どういった奴らだ」
新規に入ったメンバーの詳細をクレトはシンに尋ねる。シンも部下からの報告書を貰って見たときはゲンナリした。そのため、シンは彼に報告書を渡した。
クレトも報告書を目に通して、少しばかしゲンナリする。
「こいつは……」
「うん。第二帝都で悪さをしている子供たちだ。親衛隊が出るレベルでの事件を起こしていないけど、第二帝都の衛兵が手をこまねくほどの悪さをしている。とにかく、第二帝都の裏で生きている子供たち。極悪人の血筋の子供、“問題児”とは違った意味で危険だ。そんな奴らが風紀委員に入ったってことは……」
「雲隠れ。あるいはバックを持ち、別のことで悪さをする、だな」
「うん。それしかないと思う」
ここでシンは何やら、思い詰める顔をする。
「どうした、シン?」
「いや、なに……どうも、僕には不吉なことが起きてたまらないんだ。本部の指示で非常厳戒態勢を敷いているけど、風紀委員いや白銀の黄昏内で身内争いとかしている場合かなって思えるんだ」
「悪さをしている子供たちのことか?」
「うん。前に僕とグレンで話し合って、白銀の黄昏が“台風の目”になるのは分かっていた。それが今になって、獅子と魔王、女王が狙ってくる」
「悪さをしている暇なんてない。相手は俺たちでも相手にできるか分からない怪物。そんな奴らが子供の彼らを狙うとなると大人げない」
「だが、ここで彼らが返り討ちにしたら、組織内で絆が生まれ、より強固な組織へと生まれ変わる。それはそれで厄介だ。下手したら、今の極悪人共よりも厄介な敵になるかもしれん」
「情報を流してみよう。“帝国指名手配の彼らがキミたちを狙っている”って伝えたら、彼らがどう出るのか。見るのもいいかもしれない」
シンは情報を流してみると持ちかける。
「うむ」
ここでクレトは持ちかけた内容に考え始める。
考え始めて、数分。結論が出る。
「いいが、俺たちが情報を流したというのは明かさない方がいいな。あのズィルバーという子供は意外と頭が切れるかもしれん」
「分かってる。情報は匿名で皇族を通して伝えるよ」
シンは情報を流す伝を明確化し、白銀の黄昏の出方を見ることにした。
親睦会を終えて、食器を返却口に返したところで俺たちは風紀委員本部に帰ることにした。
ルキウスやエルダ姉さん、ヒルデ姉さんには風紀委員本部で寝泊まりするのを言っておいたから問題ない。
各自、入浴を済ませて、眠りに入ったのを確認したところで俺は執務室に戻る。
執務室に入るけど、先客がいたことに思わず、「チッ」と舌打ちをしてしまう。
「なんのようだ? キミたち?」
俺は一応、先客で来ている彼ら――、ハクリュウたちに声をかける。
彼らは壁や本棚に寄りかかり、俺に問い投げる。
「いや、僕たちはただ、キミにあるお願いをしたくてね」
「お願い?」
いや、お願いというより――
「僕たちを幹部にしてくれないかな?」
「もしくはキミが私たちの下についてよ」
――脅し、だな。
予想していたとおりだな。
「まさか、今になって、下克上か?」
「ふふっ」
「まさか……」
「乗っ取るつもりだよ」
「お前らをぶっ潰せば」
「学園を支配できると思ってね」
「なるほど」
彼らの目的を知り、心の中で溜息を吐く。
支配欲。強欲など欲望に塗れているな。全く、とんでもない悪ガキを迎え入れたものだ。
全く、悪は悪を引き寄せるとはこういうことだな。
まあいい。
「とりあえず、キミたちとやり合うのも親睦会のついでとするか」
やれやれ。といった感じで俺は壁に立てかけてある魔剣を回収する。
しかし、彼らは俺が言ったことが不服なのか。舐められているのか、顔を顰める。
「なに、言ってるんだ」
「これは親睦会じゃねぇ」
「見せしめだよ」
挑発してくる。俺は彼らの言動を聞き、目論見を知り、思わず、そして、わかりやすく溜息を吐く。
「全く……先日に続いて、身の程知らずがこうも来ると…………流石に俺でも……怒るぞ」
冷徹なる殺気を放つ。
「ッ!?」
流石の彼らも今までに感じたことのない殺気を受けて竦んでしまっている。
「つ、強がるな!」
「部下たちが既に……」
「お前の部下を襲撃する手筈」
「キミにはもう味方は――」
ヴァンプが「味方はいない」と言おうとしたが、ドコンと部屋の外から壊す音がした。
“静の闘気”を使わずともわかる。襲撃しようとした彼らの仲間がティア殿下たちに返り討ちに遭ったのが目に見えて分かっている。
「一つだけ、忠告しておくけど……俺の仲間はキミたちにやられるほど柔じゃない」
目を細め、彼らを睨む。
その瞳には優しさなどない。あるのは冷徹。全てを徹底的に叩き潰す。
舐められてはこっちが困る。
「あんまり、俺たちを舐めないでくれないか」
冷徹なる殺気の籠もった目でハクリュウたちを睨む。
「“虎の尾を踏む”って言葉、知っているか?」
ゴクッと息を呑む彼らに言葉を投げる。しかし、彼らは誰一人答えない。いや、答えられない。俺の殺気の前に意識を保つのが精一杯だった。
俺は魔剣に手を掛けつつ、言葉を投げる。
「キミたちに二択の質問を言う。俺にやられるか、俺の下に就くか。どっちかを選べ」
俺が言ったことはお願いじゃない。脅し。ここまでコケにされたら、流石の俺も怒る。だからこそ、選択肢を与えた。まあ、どっちを選んでも進む先は死だがな。
冷徹なる殺気がたち篭もる執務室の中での脅し。普通だったら、失神してもおかしくない。本来なら、わけを聞いてから仲間に迎え入れたいが、コケにされたら、脅すほかない。
「キミたちが今までしたことは既に調べがついている。これを学園に提示すれば、キミたちに未来がない。どうする?」
ここまで脅されれば、流石の彼らも神経逆撫でされるだろうな。
「だからこそ、先に聞きたいんだが、キミたちはどうして、風紀委員に入ろうと思った。せめて、話だけは聞いてやる」
俺は少々殺気を和らげ、彼らが話せるようにする。
でも、俺が脅していることには変わらない。
和らぐ殺気の中、彼らは俺に教えてくれた。
今の状況では下手な嘘は逆効果のを彼らは本能的に理解したからだ。
「“ある教団”の残党をぶっ飛ばしたいことだ」
「教団?」
教団。聞いたことがないな。少なくとも、肉体となっている、この少年の記憶にはなかったな。
「知らなくて当然よ。その教団は帝国が揉み消されたから」
「揉み消された!?」
穏やかじゃないな。どういう理由か知らないが、存在そのものを揉み消す。それは“ライヒ大帝国”並びに皇族にとって、由々しき事態だったから。と、推察できるが詳しいことは父様かルキウスに聞いてみるか。
「話を続けてくれ」
「僕らの家族は教団に手によって殺された」
「殺された、か。理由なく殺された。と考えていいか?」
「それでいいよ。私たちは物心がついた時、家族を教団に殺された」
「幼い僕たちは国が緊急で用意した孤児院に預けられることになった」
孤児院、か。だが、孤児院でも抱えられる孤児にも限界がある。おそらく、彼らは――。俺の脳裏に過ぎったのは千年前の幼少期の自分。
「裏路地で暮らし、残飯や盗みを働いて、生き延びたというわけか」
まるで、千年前の俺じゃないか。俺は顔を俯かせ、手を強く握る。この時代の理不尽さを呪った。
同情するべきだが、俺が言っても無意味。やるとしたら、こいつらに生きる道を与えてやることだ。
「つまり、キミたちは“教団”の残党をぶっ飛ばしたいと? 復讐心はないのか?」
家族を殺されたら、復讐したいと思うはずだ。人間。いや、生き物である以上、あって当然だと俺は思う。
「当然。復讐したいよ」
「ああ、ぶっ飛ばしたい!」
「自分たちがしたことで亡くなった人たちに償いをしてほしい」
“闘気”を使わなくても分かった。此奴らが“教団”に対する怒りが凄まじいことが。
「そうか」
ハクリュウたちの目的と想いが聞けて良かった。だったら、尚更
「尚更、キミたちを入れれないな」
「なに?」
「復讐をしたいのなら、自分たちの手でやれ。風紀委員に入ってまですることじゃない」
「だけど……!?」
「言いたいことは分かるよ。だが、復讐したとして、キミたちが報われるのか? キミたちだけじゃない。キミたちの仲間が失うことになる。キミたちが住まいにしている故郷も学園も“教団”の残党によって潰されるかもしれない。それでも復讐したいのなら、勝手にどうぞ。だが、俺たちを巻き込むって言うなら……性根をへし折ってやるぞ!!」
俺は和らがせていた冷徹なる殺気を再び、キツくさせる。
再び、殺気を強めたことで彼らは背筋を凍らせる。
「それに言っておくけど、今のキミたちでは、残党を相手にしても門前払いを喰らうだけだ」
「何故、そう言える?」
「だって、キミたち腰が引けてるじゃん」
俺は問答無用に指摘する。
「残党共の実力は知らん。だが、俺の殺気を前に及び腰じゃあ……話にならない。せめて、ノウェムたちの殺気に耐えきれるぐらいには強くならないと生き残れないぞ」
俺はハクリュウたちに現実を突きつける。口で言っても彼らは納得するはずがない。だから、俺の殺気を浴びせた。まあ、学園の講師陣が気絶するぐらいだから。腰が引けるだけで済んだだけ御の字だな。
ギュッと拳を強く握るハクリュウたちに俺は最初に問いかけた二択を再度聞く。
「もう一度、聞く。俺にぶっ飛ばされたいか。俺の下に就くか。どっちかを選べ」
現実を突きつけた上で脅しをかける。もう答えは出たようなものだが、念のために確認だ。
「お前の下に就く」
膝を突き、享受する。拳から浸り落ちる血。血が滲むほどに悔しいってことか。
内心、息をついたのであった。
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