第三者から見る英雄らの凄さ。
第二帝都の貴族区での激戦から数日後、俺たちは学園に始末書を提出し、ことの詳細を洗いざらい話した。
親衛隊との激戦は学園中に一気に知れ渡った。
情報というより、噂の広がりは早いものだな、と俺は思わず、溜息をついてしまった。
このことがあって、風紀委員への志願者が減った。まあ、既に不採用者は掲示板に掲載されたようだ。
ティア殿下の采配がここで来るとはな。
あと、今回の戦いで人数の足りなさを痛感する。そのため、風紀委員の全メンバーで意見交換したあと、満場一致し、保留していた生徒を全員採用した次第だ。
まあ、メンバーの親睦会はまたの機会にしよう。今は戦力の補充と強化だ。
数日前で俺たちも多少なりとも疲弊していた。しばらく、屋敷に帰れないな。
本部で寝泊まりだな。幸い、寝泊まりできるだけの設備は整えている。
詰まるところ、学寮設備がある。そこで寝泊まりした方が身の安全になる。全員が一年生というだけあって、お互いに分からないところを教え合える環境もあるし。食堂の利用もできる。
だが、これ以上、権力を保持し、暴走するかもしれないから。学園と生徒会とは不干渉を取ろう。
下手をしたら、俺が次期生徒会長として指名されるかもしれないからな。
さてと、激戦から数日が経ち、俺は学寮の自室で軽いストレッチをしながら、身体の調子を確かめていた。
確かめている最中、扉をノックした後、レインが入ってきた。
「気分はどう? ズィルバー?」
「まあ、ボチボチだ」
「そう。それは良かったわ。それとようやくだけど、情報が入った。学外の情報よ」
「話してくれ」
あれだけ派手に戦えば、情報が飛び交うのは分かっていた。ここ数日、まとまった情報が拾っていない。
今になって拾ったとなれば、相当なものだったのだろうな。
「要約すれば、私たち風紀委員いえ白銀の黄昏の脅威が知られた、ね」
「やはりな。そうなると思っていたよ」
「あれだけ、激戦になれば、いやでも噂が立つわ。それと、白銀の黄昏の構成情報がこと細かく記載された資料が届いたわ」
レインから資料を受け取り、俺は得られた情報を確認する。
資料に書かれているのはズィルバーを筆頭にティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルや“問題児”など少年少女が集まった集団。
その実力は親衛隊の一人、グレン中佐を軽々と倒してしまう実力。なお、底は未知数。
潜在能力の高さが未知数で、これからのメンバー増員を考慮して、いずれ、脅威となる集団。
と、書かれている。
資料を読んだが、不可解なのは一つだけある。
「俺が相手にした、あのグレンっていう中佐。彼……階級に見合った強さか?」
「どういうこと?」
「実力的にみても佐官じゃなく将官ぐらいの実力。俺の目測でも准将ぐらいの実力があるのに中佐なのはおかしいと思える」
直感的な憶測にレインも「う~ん」と頭を捻る。
「そういえば、そうね。剣となって交えたけど、かなりの実力者だった。その彼が中佐っていう階級には不似合いよね」
違和感を覚える。
「なにか、親衛隊上層部と揉めてるのかもな」
ざっくばらんとだが、俺は推測を口にする。
他の資料には俺たちの話以外にも“獅子盗賊団”や“魔王傭兵団”のことばかり。いつの時代になっても悪は栄えるものだな。
俺は思いつつ、しばらく、静観することにした。
この際だし。親睦会でもするかな。と、このあとのことを考え始めた。
第二帝都、親衛隊支部。
支部に併設されている病棟の一室にて、グレンは資料を読みながら紅茶を啜っていた。
そこへ、支部では珍しい人物が現れる。
「グレン中佐。本部のクレト中将とマヒロ准将並びにシン少々が来ています」
部下からの連絡に彼は「構わない」と返事をする。
部下がドアを開けて、入ってくるのは三人。
どちらも親衛隊では選りすぐりの精鋭だ。
「よぅ、グレン。派手にやられたな」
「グレン! 大丈夫!?」
「グレン。お見舞いに来たよ」
「なんだ、クレトか。お前が来るなんて珍しいな。あと、マヒロ。俺は無事だ。シン。公務はどうした?」
グレンの個室だが、入ってくる彼らを椅子に座らせた。
「資料を見たが、子供にしては強すぎないか?」
「しかも、皇族のティア殿下もいるなんて驚き」
「資料だけでは実際のところ分からん。現場にいたお前たち二人の意見を聞きたい」
クレトは現場いや戦場ともいえる場所にいたグレンとシンから見た印象を聞く。
見たところ、グレンとシンは所々に包帯が巻かれていた。
「そうだね……」
「そうだな……」
二人して、その時を振り返る。
振り返った際、印象としては十歳の子供にしては年齢に似合わない強さのことや、一癖や二癖もあるような部下たちをまとめ上げる手腕などをグレンとシン。二人の印象を踏まえて話す。
クレトとマヒロは真摯に聞き、考え込む。
「とんでもない子供たちが現れたものだ。今、センガイ元帥は頭を抱え込んでいる状況だ」
「十歳の子供を犯罪者として扱うのはどうかって議論しているの」
「一対一では勝てなかったのか?」
「ああ、向こうはこっちよりも人数が少なかったのに俺たちを圧倒した」
「身体能力、戦闘経験に関してはこちらが上。潜在能力の高さ、種族的能力では向こうが上だった」
「それでも負けて撤退しちまったのは身体能力との差を他の部分で補っていた」
グレンとシンは部下を連れて、善戦する。そこには油断と慢心もなく、普通だったら、圧倒できるだけの戦力はあった。
だが、現実は違う。
リーダーであるズィルバーだけじゃなく、彼を支える部下のほとんどが強者といっても過言じゃない実力を有していたのが敗因だろう。
「正味の話。クレトやマヒロがいても戦況は変わらなかったと思えるぜ。あのガキ共はクレトを前にしても臆さずに挑んでいただろう」
「同じかな。少なくとも、共通することと言えば、彼らは未だに力の底を見せていない、かな」
グレンとシンは本部の援軍が来ても返り討ちにするだけの実力があると話す。
「メンバーもメンバーだ。“問題児”のほとんどが極悪人の血筋。子供にしては実力がそれとなくあり、学園で隔離する形で入学させていた」
「そのほとんどが今。ズィルバーっていう少年に従っている」
「しかも、協力し合っているのが特徴だ。まるで、どこかの教団とは大違い」
シンはこの時、言ってはいけない禁句を口にした。それにはクレトが注意し、黙らせる。
グレンは今もズィルバーが持っていた剣を思い出す。思い出しつつ、悪態を吐く。
「ったく、あのズィルバーってガキを見ると、ある男を連想する」
「ある男?」
「ヘルト――[戦神]だ」
何故、ここで伝説の英雄の名前が出るのか。クレトとマヒロは首を傾げる。
「グレンくん。どうして、その名前が出るの?」
「ああ、あのガキが使っていた剣が神話に出る伝説の聖剣だったからだ」
「え?」
「なに?」
クレトとマヒロはグレンが言った意味が理解できず、呆けてしまう。
「やはり、あの剣は“伝説の聖剣”か……」
「お前は気づいていたか、シン」
「もちろん。あれだけ力の奔流……いやでも気づけるよ」
「ああ、実際、あの餓鬼から聞いたから間違ぇねぇ。名前までは聞かなくても“五大精霊剣”で白銀の剣ってなれば……嫌でも分かる。この国においての伝説。全ての武を連ねる者だったら憧れの存在、[戦神ヘルト]が持っていたとされる名剣、“聖剣”」
「それを十歳の子供が持っていることに驚いた。彼はかの剣を十全に扱いこなしている。次、相手をしたとき、勝てるかどうかも分からない」
シンは再戦を考慮すると勝てるか分からないと口にする。
「強敵ここに現る、か」
クレトは未知なる強敵の力の前に腕を組んで、頭を悩ませる。
「そういえば、“問題児”のことでちょっとした報告だけど、教団の残党たちが動いたって報告が入った」
「なに?」
「その話は聞いた。“獅子盗賊団”、“魔王傭兵団”がトップ単独で動いた報告が入った。今、本部では非常厳戒態勢に入って、対応に追われている状況だ」
「おいおい……」
「ただでさえ、こっちに戦力が足りないっていうのに、ここでの行動。明らかに――」
「うん。ズィルバーたちでしょうね」
「あと、上層部や皇宮では残党の一人、オクタヴィアの動向を探っているそうだ」
「嫌な女を出すなよ、って言いたいけど……」
「彼女の娘が学園にいるからな。学園に来るのは間違ぇねぇだろう」
かの教団の残党の狙いが風紀委員にいる“問題児”なら、第二帝都は又もや、戦場と化すだろう。
「グレン、シン。貴様らは回復に努めろ。復帰次第、第二帝都にも非常厳戒態勢を敷け。国民の避難勧告もある」
「本部でも援軍を要請するつもりだし。私とクレトもこっちに応援という形で――」
マヒロが話している途中で、病室のドアがノックされた。
グレンが返事をしてドアが開けられると、軍服を着た男は焦ったように矢継ぎ早に話し始めた。
「失礼します。グレン中佐。クレト中将とマヒロ准将がいるが此方にいると伺いました……よかった。いらっしゃるようですね」
「何があった?」
「将校各位に緊急通達です」
緊急通達とは穏やかものではない。厄介なことが起きる予兆でもあった。
シンは額に手を当てて、続きを促す。男は手元の紙を確認しつつ、重い口を開いた。
「重要事項が二点。一点は“女王”リンネン率いる“大食らい悪魔団”が動いたとのこと。もう一点は耳長族からでして、オクタヴィアが来たという報告が上がりました」
通達を聞き、一同、一斉に溜息を吐いた。
「ここに来て、残党が動くか」
「連絡ありがとう。大至急、第二帝都に非常厳戒態勢を敷いてちょうだい」
「ハッ!」
伝令の男はマヒロの指示を聞き、病室を出て行った。
通達を聞き、グレンたちは一斉に溜息を吐いた。
グレンは資料を片手に呟く。
「この先、国は荒れる。元教団の残党共が軒並み動いたと考えると、おそらく、台風の目は、“あのガキども”だな」
良くも悪くも事態は大きく動こうとする。
様々な思惑を胸にライヒ大帝国は未曾有の大事件に呑み込まれていくのだった。
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