英雄。親衛隊と小競り合いする。
「それで、親衛隊が俺たちになんのようだ?」
俺がキミたちに迷惑を掛けることをしていないんだがな。
俺は一応、ニナたちにも目を向け、「何かしたか?」と尋ねる。
「別になにも…」
「僕はなにもしていない」
「問題を起こしていねぇ」
「そもそも、私たち委員会のことでまともに休んでいないから問題を起こせるわけないでしょう」
「それもそうだ」
確かに俺たちは昨日まで委員会の業務で手一杯だった。それは授業と並行してやっていたぐらいに――。
そんな俺たちが問題を起こしている暇はないか。と、俺はフッと微笑む。
すると、リーダーと思わしき紫色の髪にプラチナメッシュをした女の子がわけを説明する。
「じ、実はユウトさんが貴方に興味を持っていて、是非とも会いたいと言って、勝手に動いた次第でございます」
「ふ~ん」
と、すると、ユウトって奴が最初に出てきた少年だな。
見た目は俺たちと同い年の少年。黒髪に碧眼。
「ハァ~」
と、俺は思わず、ため息をついてしまう。
率直な感想としては――。
「興味がない。その少年が俺に興味があるだけで、俺個人。その少年にさほどの興味もない。だったら、さっさとそこの少年を連れて、消えろ。俺たちは学園に登校しないと先生に申し訳が立たん」
俺たちは学園に向かおうとする。
向かおうとするも、ユウトという少年が俺に話しかけてくる。
「なあなあ、俺と相手をしてくれよ」
目を輝かせて、勝負を吹っ掛けてくる。俺は足を止め、振り向き、答える。
「何故、俺がキミの相手をしないといけない?」
「どんだけ強いのか試してみたくて」
「断る。第一、俺にメリットがない」
むしろ、親衛隊から睨まれては元も子もない。
「なあなあ、頼むよ」
「話を聞いていないのか? “断る”と言っている」
「いいじゃんか。減るもんじゃないんだし」
「キミと相手をしても時間の無駄」
「一回だけでいいからさ」
駄々を捏ねてくるユウトに俺はビキッと額に青筋を浮かべる。
「“断る”って言ってるんだ! なにかってにキミの勘定で動いている! あと……相手を見てから喧嘩を売れ!!」
俺はわがままを貫く少年に苛立ち、夏期休暇前に発した冷徹なる殺気を久々に出した。
「ッ!?」
俺の殺気を浴びて、息を詰まらせる四人。ただし、ユウトだけは殺気に気づいているのか否か。ヘラヘラとしている。
その態度が神経を逆撫でされているとも知らずに――。
「なあ、頼むよ」
まだ、頼むか。俺の殺気に気圧されない。いや、気づいていないのか?
まあ、どちらでも構わない。分からせないといけない。こういった自己中心的な奴の心をへし折ってやるのも――。
「バカなの?」
「アホだな」
「その両方でしょうね。呆れるわ」
「ズィルバーの殺気を前にまだ、頼もうとする姿勢にいかれてるとしか思えない」
「いかれてるよ、ジノ。あの少年の知能指数は獣並。身体で理解するほかない」
俺は“天叢雲剣”を抜く。
「俺が、あの少年をやる。ジノたちはあの四人を頼む。ただし、殺すな。殺してはなにかと問題になる」
戦闘狂に近い俺が苦悩するとは笑止千万。それほどまでに目の前の少年がアホすぎて困りものだ。
これじゃあ、千年前の俺が可愛く思えてしまう。
「おい、少年。相手はしてやる。ただし、手足の二、三本は折れる覚悟はしておけ」
「ん? なんで?」
「…………」
俺の言葉の意味も理解できず、素で返されるとは思ってもいなかった。
少しの間だけ頭が真っ白になったぞ。
「キミが大バカだったのが分かった。やはり……」
スッと目を細め、はっきりと分からせるように言う。
「相手の力量をはっきり把握できるよう身体で分からせる必要があるな」
剣をユウトという少年に突きつける。
ニナやジノたちは「ハア~」ッと息を吐きつつ、剣を抜き、止めに来たのであろう彼らの相手をすることにした。
「ズィルバーも若干、アホだけど、あの少年の方がアホすぎる」
「でも、ズィルバーはリーダーシップがある分、マシだと思うけど……」
「単純に器の大きさだ。普段は若干、アホでも戦闘においては任せられる奴だ」
「知性がある分、マシ。向こうの彼は知性の欠片すらない」
キミたち、若干、俺を褒めつつ、貶しているよな。まあいい。
「さっさと終わらせるぞ」
俺たちは、同い年の親衛隊の少年少女共との小競り合いを始めた。
ズィルバーらが親衛隊の一隊と小競り合いが始まったとき。
ティア殿下はエルダとヒルデと一緒に学園に登校して、すぐに職員室へ足を向けた。
職員室に来て、すぐにキンバリー講師に事情を説明する。
「事情は分かりました。しかし、彼らを張り込むのはいったい誰でしょうか?」
「分かりません。ですが、今のズィルバーは学園内外でも有名です。学園外の人たちがズィルバーに会おうとしてもおかしくありません」
ティア殿下は現在の状況を鑑み、想定する内容を言う。
「確かに、貴方の言葉も正しいです。分かりました。選択学科の授業だけには出てください。共通授業に関しては後日、補習という形で受けてもらいます」
「ありがとうございます」
彼女はお礼を言って、風紀委員本部に向かおうとした。
「あと、貴方とズィルバーくんに入れておきたいことが一つだけあります」
「なんでしょうか?」
ここで、キンバリー講師はティア殿下にあることを告げた。
その内容に最初は彼女も「えっ」となるも――。
「そうですか」
あっけらかんとしていた。
「やけに落ち着いていますね」
キンバリー講師は悲しむと思っていた。
「悲しいですよ。でも、私は私の道、時間がある。彼らにも彼らの道と時間がある。私はとやかく言う気はありません。それにいつか、また出会えますから」
無論、ティア殿下も悲しい。だが、人生は人それぞれ。進むべき道もバラバラ。
だからこそ、思うがままに生きていいと思っている。それでもいつの日にか出会うと信じて――。
「話はそれだけですか?」
「ええ。それだけです」
「では、失礼します」
と、ティア殿下は職員室をあとにした。
彼女がいなくなった職員室でキンバリー講師はフゥ~ッと息を吐く。
「人の進む道はバラバラ、か」
机の上に置いてある書類を見て、少しだけ間を置いた。
「全くもって、そうだな。人生は人それぞれ。出会いもあれば、別れもある。それでも、また出会うことを信じているんだろう。全く、子供とは思えんな」
キンバリー講師は机に置いてある温まった紅茶をすする。
職員室を出たティア殿下はその足で風紀委員本部へと直行する。
バンッと扉を開け放たれれば、ノウェムたちが鍛錬部屋で鍛錬をしていた。
「どうした、副委員長?」
急に開け放たれて、ビックリする皆にティア殿下はそれを無視しつつ、号令をあげる。
「出動準備! すぐにズィルバーたちの増援に向かうわよ!」
緊急用件だと察知し、動きを止め、応じる。
「何があった?」
「敵?」
さすが、“問題児”だけあって、彼女の言葉で状況を理解した。
「昨日から張り込まれていた。数は五人。今、ズィルバーとニナたちが対応にあたっている」
「昨日から? どうして、対応しなかった?」
「昨日まで委員会の仕事で手一杯だったから。気づかなかったのよ」
情け情けにティア殿下は自分の不甲斐なさを呪う。
事情を知って、ノウェムたちも「うっ」となる。こればっかりは自分たちも不甲斐ないと思ってしまったのだろう。
「できる範囲でいいから。私たちにも書類を回して……」
「トップの貴方たちが、気が散っていたら、元も子もない」
ノウェムとカナメは自分たちもできるかぎりのことをしようと決意した。
「その気持ちは汲むけど、今は出動よ。ことがことだからね。急ぐよ!」
ティア殿下は腕章を付け、動きだした。
ノウェムたちも「言われなくても」って感じで彼女の後を追った。
「おい、本当か!? グレン!? あの少年の所に行ったって!?」
動揺の声をあげる支部長の少将にグレンという男性が言う。
「ああ、本当だ。ユウトの餓鬼が独断で例の餓鬼に会いに行きやがった」
「シノアは!?」
「あのアホを連れ戻しに向かった」
「とにかく、彼らと事を起こしては問題だ。すぐに増援を送れ」
「アホの処遇は?」
「追って沙汰を出す。とにかく、援軍に行くぞ。向こうがシノアたちをつぶすかもしれない」
「ああ、それだけは困るな」
親衛隊第二帝都支部も事態の大きさを知り、すぐさま、援軍を送ることにした。
第二帝都の貴族区にて、小規模だが小競り合いが起きていた。
もともと、貴族区にある屋敷のほとんどが無人だ。
屋敷の維持すらできない貴族の多くが取り壊さずに放置しているのが現状だ。
なので、小競り合いして崩壊してもお咎めがないというわけだ。
「あはははっ、参りますね。こちらの攻撃が全然効いていません」
「おまけに手加減までされている」
「本当に同い年だよね?」
「しかも、学園の一年だぞ。あそこまで強いとは思わねぇだろう」
劣勢に陥っている親衛隊の四人。
彼ら全員、ハアハアと肩から息を吐いているのに対し、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルの四人は息一つ乱さずに立っていた。
「なんか、僕たち……ここまで強くなっていたんだ……って、実感する」
今更感を述べるジノにニナが軽くどつく。
「何を言ってるのよ」
「ニナの言う通りよ」
「僕らは主君を守るために強くなったんだぞ」
至極当然、当たり前のことを言う二人にジノは「それもそうか」と納得する。
「それよりも、このまま続けていいのかな?」
ジノは対峙している相手を重んじる。
「これじゃあ、イジメだよ」
「確かにそうよね」
ニナも同じ気持ちを抱いていた。
「このままやっていても時間の無駄ですし」
「オメエら、さっさと降参してくれねぇか? さっさと、あそこのガキにも退くように言ってくれねぇか」
シューテルは今も俺と対峙しているユウトとかいう少年に撤退するよう告げる。
「あはははっ……私が言ってもユウトさん。全然言うことが聞かなくて……」
リーダーと思われる少女、シノアが苦笑交じりで返答する。
「首輪ぐらいしっかりしやがれ」
呆れかえる。
「ウォオオオオオオ――――!!」
勢い任せに俺に突っ込んでくるユウトとかいう少年。動きがぎこちない上に隙だらけな構えだ。
正直に言って――。
「ぬるい」
ガキンッと剣戟音が木霊するも、俺は“動の闘気”を流し込み、強引だが弾き飛ばした。
「ぐぅ!?」
十歳の子供から想像できない膂力にユウトは軽々と吹き飛ばされる。
ドゴンッと屋敷の外壁に直撃する。
「俺に挑もうとする。その意気は認める。だが、それに伴う実力がなっていない」
なにより、あいつは“闘気”いや魔力の扱い方すらなっていない。
だが、油断してはならない。傲りは敗因に繋がる。俺が負ければ、白銀の黄昏は瓦解する。
ガラガラと崩れ落ちる煉瓦。ゴトンと瓦礫をどかして立ち上がる。
俺は少々ボロボロながらも立ち上がるユウトを見る。
気を抜かない方がいいな。なにかある。
「ん?」
この時、俺は複数の気配を感じとり、“静の闘気”を使う。
「チッ……」
この気配は……
「ニナ! ジノ! ナルスリー! シューテル! 気合いを入れろ! 援軍が来やがった!!」
「「「なっ!?」」」
驚くニナたち。そんな中、ナルスリーは目を閉じ、“静の闘気”で気配感知する。
彼女も俺が言ったとおり、援軍が来ていることに舌打ちする。
「残念だけど、本当よ。しかも、手練が来ているわ!?」
援軍が来ていることを告げ、さらに手練がいることも告げる。
この状況下で援軍なんて来たら、不味い。
いくら、俺たちが強くても多勢に無勢。普通だったら、数の暴力に敵うはずがない。
普通だったら、な。
だが、今も俺でも大人数での戦いは無理だ。今の俺は子供。子供の体力にも限りがある。
こっちも増援が来ないと、ジリ貧だ。
状況が一変したところに――。
『ズィルバー!』
脳内にレインの声が木霊する。
どうした、レイン? 俺は脳内でレインと対話する。
『今――』
彼女から連絡を聞き、把握した。
「分かった。“すぐに来い”と言ってくれ。こっちもこっちで不味い状況だ」
俺はレインに今の状況を教え、急がせるよう言い放つ。
だが、ここでユウトも動きだし、こっちはこっちで対応しなければならない。
レイン。話はここまでだ。急いでくれ。
『わかったわ』
彼女も状況を理解し、応じてくれた。
レインとの対話を終えたところで、斬りかかってきた。
ガキンッと剣と剣がぶつかり合う。
ジリジリと拮抗しているよう見えるが、実際のところ、こっちが優勢だ。なにしろ、俺は“闘気”と“身体強化”で身体能力を強化している。
本当なら、楽しみたい……おっと、趣向が変わり始めていたな。
「今回ばかり、“敗北”を味わえ……」
雑念を捨て、集中力を高める。
「…ッ!?」
俺の雰囲気が…空気が変わったのを肌で感じとるユウト。
「我流――」
俺は突きの構えをする。
「――神剣流、初ノ型、“紫雷電”」
稲妻の如き、突き技。
対峙するユウトから見れば、光が通りすぎたと錯覚する。
俺がユウトを通り抜いたとき、変化が起きる。
ズシャァーッとユウトの右肩から胸にかけて血が飛び散る。それも夥しい量で――。
俺は剣に伝う血を払い落とし、倒れ行くユウトを見る。
「すまないが、俺たちには時間がない。これに扱いて、大人しく引き下がってくれ」
負けてくれるよう言い切る。
俺が負けるよう告げるも、彼は足に力を入れ、踏みとどまる。
踏みとどまる彼に俺は驚嘆するも、傷口から出る血で足元に血溜りができている。
「このままだと死ぬが、それでも戦いと言うのなら、相手になろう」
俺は“天叢雲剣”をユウトに突きつける。
ハアハアと肩から息を吐き、右手に握っている剣も上がっていない。それでも、彼の気迫は、心は折れていない。目も死んでいない。むしろ、俺を斬ろうと見つめてくる。
彼の心が折れていないことに俺は感心する。
「済まなかった」
と、俺は剣を払って謝罪する。
「最初は見くびっていたが、キミの強き心力に敬意を払おう」
“動の闘気”を剣に流し込み、切れ味をさっきよりも倍増させる。
「潔く散れ」
剣から立ち上る蒸気に思える“闘気”にニナたちと相手取る少年少女たちは見て、目を見開く。
「ユウト! 逃げろ!」
「バカユウト! 逃げやがれ!」
「ユウトさん! 逃げてください!」
「逃げて、ユウトくん!」
“逃げろ”と叫ぶ彼ら。だけど、ニナたちはというと、ユウトの目を見て、「へぇ~」ッと感心する。
「逃げるどころか、死を受け入れる」
「二ヶ月前の僕たちみたい……」
「もったいねぇな」
「敵として賞賛に値する」
彼らはユウトに対して、“見事”と言い放つ。
俺は剣を片手に上段構えをする。その構えだけでニナとジノは、どういう技か理解した。
「あの構え…」
「“初代剣蓮”が編み出した技…」
「“神大散斬”」
俺は剣をユウトの左肩から胸にかけて振り下ろした。
剣を振り下ろしたとき、彼の左肩から胸にかけて傷ができ、ズシャァーッと血が飛び散る。
飛び散った返り血が服に付くも俺は一切気にせず、剣に伝う血を払い落とす。
バシャッと血の海に倒れ伏すユウト。
俺は彼に敬意を払い、治癒魔法を施す。
「本来なら、敵に情けをかけたくないんだが、死には惜しい奴だ。聞こえているかどうかは知らないが、これだけは告げておく。今でも俺と戦いと思うならの強くなりな。世界を知り、自分を知り、仲間を知り、強くなれ! 俺と対等に渡り合いたいのならば――!」
彼に治療を終えた俺は服に魔力を流し、付着した血を浮かび上がらせ、霧散させる。
ユウトが俺に倒され、血の海に沈んだのを見たシノアたち四人。
「ユウト…さん…」
「う…うそだ、ろ…」
「ユウトくん……」
「ユウトーー!!」
彼らに動揺が走る。それと同時に戦意も失っている。
ニナたちも戦意のない相手を戦うほど、堕ちてはいない。心が折れた相手を斬っても自分の誇りを傷つけるだけだ。
それぐらいなら斬らない方がいい。
「潮時ね」
ニナは戦いが終わったと口にする。ジノは頷き、ナルスリーは倒れた彼を見る。シューテルはハアと嘆息を吐き、周囲に気配りする。
そして、ちょうど、そのタイミングに両者共に増援が到着した。
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