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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
問題児騒乱
83/302

英雄。かつての友の子孫を知る。

 新人勧誘から数日が過ぎ去った。

 俺は採用に動いたティア殿下から渡された名簿を見ている。しかも、ご丁寧に“不採用”の捺印されている。

「ハァ~」

 俺はため息をつきつつ、名簿を目に通す。

「どいつもこいつも興味本位で来られては困る。俺たちは表向きで風紀委員だが、裏でもそれなりに活動する予定だ。中途半端が困る」

 “不採用”の奴らを見る。

 いくつかページをめくっていく中、“保留”の文字が捺印された名簿がちらほらある。

 ふむ。この二人は双子(・・)か。名前――。

 俺は“保留”の名前を見る。

「姉がビャクで、妹がルアか。それで姓が……ん? “D・クロス”?」

 どっかで聞いたことがあるな。

 俺は「う~ん」と首をかしげる。この姓名……どっかで見たことがある気がする。

 頭を悩ませる俺だった。ここでティア殿下が持ってきてくれた顔写真名簿を見る。

 双子の顔を見る。プラチナブロンドに紅眼。う~ん。瞳の色は違うけど、髪の色から彼奴らに似ている気がする。千年前、俺を支えてくれた双子に……まさかな。

 俺は一部の可能性を考慮して、双子は保留することにした。


 ページを捲れば、捲れば、“不採用”の捺印が押されている。顔写真でもそうだが、単純な理由で受けてほしくないな。

 ペラペラと捲り続ければ、少しだが、“保留”の捺印が多くなってきたな。

 一応、顔写真名簿と照らし合わせる。

 ふむ。この保留組はいわく付きかもしれんな。ティア殿下がどういった経緯で“保留”にしたのかは知らないが、一度、会ってみるのもいいな。


 とりあえず、この保留組に関しては後日、会うこととして……ニナやジノ、ノウェムたちにも話しておこう。


 俺は保留組の名前だけを見る。比較的、一年生が多い。一気に名を上げようって考えているのが目に見えている。俺の組織を隠れ蓑にするかもしれん。そういう身辺を調べた方がいいな。クラスは三組から十組までバラバラだが、我の強いのが特徴だな。まあ、顔写真から見た感じだがな。

 いや、ニナやナルスリー、シューテルも意外と我の強いな。今のジノは少々臆病だが、あいつも隠れ我の強い奴だ。

 そう思えば、俺のとこは我の強い奴らが集まったな。そんな奴らを束ねる俺も相当我の強いかもな。

 いや、我の強いのは当然か。

 我先に戦場へ飛び出す大バカ者だからな。あの頃は楽しかった。一兵卒の如く、暴れ回り、敵国に俺の存在を知らしめた。まあ、それでレイを悲しませたのは数多かったけど、今になっても教訓になったが変わらずだな。


 そこに、コンコンと扉をノック音が聞こえる。俺は返事をして、迎え入れる。入ってくるのはエルダ姉さんとヒルデ姉さんだった。

「どうした、姉さん?」

「どうしたじゃないよ。ズィルバー。ここ最近、屋敷に帰っていないじゃない!」

「ルキウスがカンカンに怒ってた」

「マジ?」

 俺の脳裏に今にでも、説教しそうなルキウスの姿が過ぎる。

「ティア殿下や皆も最近、帰っていないみたいだし。一度、屋敷に帰ってきなさい!」

 エルダ姉さんに叱られる。

 ふむ。最近、本部の外を出ていないし。帰宅も兼ねて、外に出るのも一興かもな。

「そうだな。レインは先に帰っているだろうし。俺も帰るとしますか」

「うん。それでいいんだよ」

 なぜか、ヒルデ姉さんに頭を撫で回される。

 理由が分からん。だけど、解せぬ。

 という形で俺は姉さんたちと一緒に屋敷に帰ることにした。




 学園からファーレン家の屋敷に馬車で帰ってる間。

 俺は馬車の中でもティア殿下が渡してくれた名簿を見ている。

 名簿を見ていると、余計に頭が痛くなるな。

「あぁ~。だるい」

「それって、風紀委員志望者リスト?」

「そう。ティアが俺に渡してくれたんだが、はっきり言って、“不採用”が多すぎる。頭数だけで加入するならいいが、これからの(・・・・・)ことを考える(・・・・・・)と邪魔になるんだよ」

「じゃあ、どうして、そこまで手を回したの?」

 エルダ姉さんが聞いてくる。今更だが、エルダ姉さんは智謀のほうに秀でている。だからこそ、ティア殿下の真意を知ろうとしているんだろう。ちなみにヒルデ姉さんは武芸のほうに秀でている。

「今後、学園で問題を起こした際、チェックできるだろう。前科があれば、監視の目も厳しくなる。そうなれば、問題も少なくなるというわけだ」

「な、なるほど」

 子供の俺が、大人じみたことを言って、エルダ姉さんは若干、引き気味になる。

「その中でも、“保留”されている生徒もいる」

「全員、“不採用”じゃないの?」

「ティアのお眼鏡にかなう生徒だったのかもな」

 俺は“保留”にされた生徒名簿を見る。

 う~んと頭を捻らせるも、行き着く答えが出てこない。

「仕方ない。ルキウスに調べてもらおう」

 息をついて、家に調べてもらうことにしよう。

 とりあえず、切り替えて、ルキウスに怒られよう。


 と、束の間に馬車は第二帝都の貴族区、ファーレン家の屋敷に到着した。

 馬車を降りた際、屋敷が密集している方に目を向ける。

 “静の闘気”を使用していないので、誰がいたのか分からないが、誰かが俺を見ていたのは間違えなかった。

 だが、いったい誰だったのか。俺は見当がつかなかった。

「どうした、ズィルバー?」

 ヒルデ姉さんが尋ねるも

「何でもない」

 俺は答え、屋敷の中へと入っていく。


 なお、屋敷に帰って早々、ルキウスにこっぴどくお叱りを受けた。


 説教後、俺はようやく、食事にありつける。

 屋敷に帰れなかったのは認めるが、彼処まで怒らなくてもいいだろう。と、俺は愚痴りたいが我慢し、数日ぶりの貴族の食事を食べる。

 他の席に目を向ければ、ティア殿下やレイン、ニナたちも席について、食事を取っている。

 目の下に隈ができているが……。

 俺を含めて、全員子供だから。ペース配分がなっていないな。巡回に関しては交代勤務にして正解だったな。

 まあ、上の俺たちが疲れ切っているのはどうかと思うけど……。

 俺は一度、息をついてからティア殿下たちに言った。

「明日は強制的だが、休みを取ろう」

 俺が告げた言葉に五人は「異議無し」と言い返し、頷いた。

「これで学んだ。根を詰めすぎるのは良くないってことが……」

「「「うん」」」

「……だな。僕らは委員会の中で位が高い分。手が回る仕事が多い」

「その分、自分の時間が足りない。これは私たちの実力不足。私たちは子供だし。少しはお姉様を頼りましょうか」

「……だな。ルキウス。頼みがある」

 早速、俺はルキウスを頼ることにした。

「なんでしょうか、お坊ちゃま?」

「この名簿に“保留”と捺印されている生徒の身辺を調べてほしい。キミはこの手のことは得意のはずだ。調べる範囲だけでいい。調べてくれ」

 ルキウスに名簿を渡す。彼は名簿を見て、“保留”となっている生徒の名前を見る。

「これは……」

「なんか、気になったのか?」

「はい。大半は分かりませんが、一部は分かります。貴族(・・)だと思います」

 ルキウスの言葉を聞き、俺はフッと笑みを零す。

「なるほど。コネか」

「おそらく、その可能性が高いかと思われます」

「面白いじゃないか」

 これには笑いがこみ上がる。

「面白いことなの?」

 ニナが率直な疑問を言う。

「可能性の範囲だが、向こうが俺を利用し、コネを得ようとするなら、その逆もしかり。俺が向こうを利用すればいいだけの話だ」

 含み笑いを浮かべ、あり得る可能性を述べる。ティア殿下は皇族だからか。俺の言葉の真意を理解し、溜息をつく。

「いつの時代。どこにでも発生する権力闘争ね」

「ティアはズィルバーの言葉の意味が分かったの。うすうすね。貴族の子供が志望する理由の大半は親の命令に他ならない。貴族はコネが重要。ファーレン公爵家とのコネができれば、後々、役に立つかもしれないから」

「な、なるほど……」

 俺とティア殿下は十歳の子供にしてはやけに博識な気がして思えない。

 俺は千年前の記憶と知識があるからわかるのだが、ティア殿下は皇族だから。そこら辺、教育されているかもしれんな。

「早急だが、調べる範囲で調べてくれ」

「かしこまりました」

 と、ルキウスは名簿を手に食堂をあとにする。

「まあ、俺個人としては双子の姉妹かな。興味があるのは……」

「双子の姉妹?」

 首をかしげるナルスリーにティア殿下が教える。

「風紀委員を志望した生徒よ。双子同時に志望してきたから覚えているわ。顔や瞳がほぼ似ているから見分けがつかなくて苦労したのを覚えている」

「それがどうかしたの?」

「いや、彼女たちの姓名にどこか聞き覚えがあってな」

 う~んと頭を捻らせ、記憶を整理する。

 整理していると、食事を終えたレインが、どんな姓名か尋ねる。

「“D・クロス”だ。どっかで聞いたことがある」

 俺が姓名を言った途端、レインは知っているかのごとく、口にする。

「あら、カストルとポルックスの姓名じゃない」

 彼女が口にした名前を聞いて、俺はあぁ~ッと今になって思い出す。

 そうか、あの重すぎる兄妹だ。俺の無茶ぶりに平気でついてきたあいつらだ。


 レインが言った名前にティア殿下が「あっ」と思い出す。

 そういや、彼女は[戦神ヘルト()]の深い信奉者だったな。

「その名前、知っている。[戦神ヘルト]の伝説で埋もれたけど、歴史に名を残した双子(・・)の大英雄」

「双子?」

「うん。その二人は[戦神ヘルト]とは違った伝説を残した」

「伝説…」

「いったい、どういった伝説を残したの?」

 ナルスリーとシューテルが詳しいことを聞こうとする。

「一説によると、双子の連携は絶大で、敵国からも警戒するほどのものだったらしいのよ」

 ティア殿下はカストルとポルックスのことを話してくれるが、それは正解であって、正解ではない。

 あの二人は二人で一人だ。戦場で言うなら、二人で将軍なのだ。

 互いに意思を尊重する、あの二人に興味を抱き、俺は彼らを仲間に迎え入れた。

 あの二人は最期まで俺に忠誠を尽くして死んだ。

 あの二人の最期は今でも、覚えている。忘れもしない。あの二人に親族はいたけれど、形見だけは俺の手元に置いておきたかった。

 あいつらの思いは俺に宿らせるために――。


 俺はカストルとポルックスを誇りに思っている中、ティア殿下は今も二人のことを話す。

「[戦神ヘルト]の伝説が多くて、埋もれてしまうけど、今でも語り継がれる大英雄。本を読んでれば、いやでも知れる」

 と、彼女は豪語する。

 伊達に、俺を信奉していることだけはある。

 見ろよ。ニナたちも座ったまま引き気味になっている。

「さすが、ヘルトを信奉しているだけのことはあるね」

「当然でしょ! [戦神ヘルト]の伝説は一言一句覚えているから」

「それはそれで怖いわ」

 同感だ。

 ティア殿下が、別の意味で怖いと思ってしまう。

「とりあえず、俺は“保留”されている双子に会ってみようと思う。まあ、それも明後日以降だけどな。とりあえず、明日は非番だ。各自、英気を養ってくれ」

 俺は締めにそう言って、食事を食べ終え、食堂を出て行った。




 時間が次の朝。

 今日も授業があるので学園へ行くのだが。

「ん?」

 と、俺は玄関を出てすぐ屋敷の周りを見渡す。

 見られているな。

 昨日からそうだったが、誰かが俺あるいは俺たちを見ている。あの時は数まで分からなかったが、今は“静の闘気”で正確に把握できる。

 数は五人。

 いずれも武器を持っている。敵なのかは定かではないが、俺あるいは俺たちを見ているのは確かだ。

 俺が馬車に乗らないのを見て、エルダ姉さんが話しかけてくる。

「どうしたの?」

「ちょっと……な」

 俺は周囲に視線を回す。

「ズィルバー」

「ああ」

 どうやら、シューテルやティア殿下たちも気づいている。

「ティア」

「分かったわ」

 ティア殿下は俺の意図を汲み取り、ハアと溜息をついてから、エルダ姉さんたちに言葉を言う。

「私たちだけ、先に行きましょう」

「でも、ズィルバーが……」

「事情はあとで話しますから。ひとまず、行きましょう」

 と、彼女は言い含め、馬車を発進させる。


 馬車が行ったところで俺は周囲に声を飛ばす。

「誰だ! 昨日からコソコソと俺たちを見ていた不届き者は出てこい!」

 声を荒げ、殺気を飛ばす。

 俺の声に応じず、殺気にも反応しないが、隠れているのは分かる。

「どう見る」

「僕らの出方を見ているか」

「怖くなって、出るに出られなくなっているか、ね」

 ニナやジノらも周囲を警戒する。

 このまま、警戒し続けても出てくるに出てこないだろう。埒が明かない。

「キンバリー先生に申し訳が立たないし。学園に行くか」

「そうね。無理に警戒していても時間の無駄」

「ああ、コソコソと僕たちを見ている奴らは、とんだ腰抜け(・・・)ってわけだ」

 シューテルが誘いと同時にとどめを刺す言葉を吐く。

 吐いた言葉が耳に入ったのか知らないが、ガタッと音を立て、一人の少年が物陰から出てくる。

「俺は腰抜けじゃねぇ!!」

 声を荒げて出てくる。ご丁寧に剣まで抜いて――。

 あいつの着ている軍服、確か……。

「あいつは親衛隊か?」

「着ている服が軍服だから。そうなのでしょう」

「人数は一人?」

「なに、疑問系なのよ」

「だって、気配が……」

 ジノが言いたいことは分かる。物陰に隠れている輩を気にしている。

「ジノ。大丈夫だ。僕らもとっくの昔に気づいてるぜ。出てきなよ。隠れても無駄だ。僕らは気配を掴める」

「出てこないなら、こっちから行く」

 と、ニナは剣を抜く。

「待て、ニナ」

 俺は制止の手を出す。ニナは“どうして、止める”と目で訴える。

「落ち着け。今は手を出すな」

 俺の言葉の真意を理解し、ニナは剣を納めた。

「さっさと出てこい。こっちは学園に行かないといけないんだ。キミたちのせいで遅れたら、親衛隊に請求するぞ」

 脅し文句をかける。

 それでも、出てこない。

「ハァ~、嫌になる」

 俺は肩に乗っている小鳥のレインに目線を送る。彼女は“しょうがないわね”と承諾して飛び立った。

 レインが飛び立って一、二分後――。

「うひゃぁ~」

「なんだ、こいつ!? いきなり、出てきやがった!?」

「おい、ユウトを追いかけて、なんでこうなる!?」

「ぼ、僕に聞かないでよ」

 俺たちと同い年の子供が物陰から出てきた。そして、最後に人の姿をしたレインが出てくる。

「全く、コソコソ、つけ回すなら。最初からこんなことしないでよ」

「おかげで俺たちがありがた迷惑だ」

 嫌みたらしく物陰から出てきた親衛隊に文句を言う。

「いや~。最初はユウトさんを止めようとしたんですけど、安い挑発に乗ってしまって出るに出られなくなって……」

「それで、親衛隊が俺たちになんのようだ?」

 俺は物陰から出てきた親衛隊に早々、問いを投げかけた。

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