英雄たち、白銀の黄昏を世間、周りからの反応。
白銀の黄昏。
“ティーターン学園”により誕生した生徒たちの組織。表向きには風紀委員として活動するも、裏では第二帝都の治安維持に努める。
そのほかには近い将来、裏世界の住人との交易を考え、資金調達をするなども噂されている。
白銀の黄昏の誕生に、大帝都、皇宮ではというと――。
「ふむ。謁見の時、許可したけど、ここまでとはな……」
「私も同じ気持ちでございます。陛下」
ガイルズ宰相も皇帝陛下と同じ気持ちを抱き、白銀の黄昏に多少なりとも興味を抱いている。
「風紀委員という定でやっているが、真なる名前は白銀の黄昏。裏でもなにかやっていきますってのが嫌でも分かる」
「自分としましては彼らの目的さえ、分かれば対応ができると思います」
「余もそうなのだが、現実はそうとは言いきれん。現に今も裏世界の怪物共は帝国各地で暴れているという報告を受けている。理想としてはズィルバーくんに彼らをぶつけさせたいが……」
「それは強突くかと思われます」
「やはり、そうか。だが、彼の部下には今や伝説と称される悪人、冒険者の子供がいる。これを機に世界中に知れ渡れば、彼らとて学園に手を出してくるのは間違えない。親衛隊、聖霊機関を動かせるよう言伝しておいといてくれ」
「御意」
皇帝陛下は自分の娘も気がかりだが、俺の身の安全を考慮していた。
場所を変えて、第二帝都にある親衛隊支部。
支部にも選りすぐりの親衛隊が配備されている。
支部の訓練場にて。
訓練場には“ティーターン学園”とは違った養成所がある。
その養成所には帝国各地から集められた子供たちが入隊し、日々、訓練に明けくれている。
その訓練の時間帯なのに、一人の少年が“ティーターン学園”にて誕生した風紀委員の詳細を書かれた書類を目にとおしている。
「スゲぇ~! 俺たちと変わらないのに、こんな組織を作っちまってる」
声を大にして目を輝かせる少年。
見た目は黒髪に碧眼の少年。周りからは子供じみているとかアホとか言われている親衛隊きってのアホだ。
「ユウトさん。いつまでも紙を見ていないで訓練に入ってください」
紫色の髪にプラチナメッシュをした女の子がユウトかいう少年に注意する。
「でもよ。シノア。これが本当なら、一回でもいいから会ってみたいと思わないか?」
「ここでは、シノア准尉です。貴方は曹長なんですから階級をいい加減、覚えてください」
「良いじゃないか。ちっちゃいことだし」
「ちっちゃいことではありません! 本部に知られたら、どうするんですか!」
厳しめに注意する、シノアという女の子准尉。
「だが、この書類に書いてあることが本当なら、すごいことだ」
金髪に眼鏡をかけた少年がユウトから書類を取り、口にする。
「なんだよ、シーホ。お前も気になるのか?」
「気になると言えば、気になるな。学園の“問題児”は皇族の方でも動かしにくい案件だ。それを俺たちと同じくらいの生徒がやるにしては規模が違う」
彼は、この一件のデカさを気にしていた。
「確かに、今回の一件は国が黙認しているのが気になります。なにより、依頼した生徒がまだ一年生。力の使い方をなっていない生徒がやるにしては規模が大きすぎます」
シノアも風紀委員の存在よりも“問題児”をまとめ上げたズィルバーという少年に違和感を覚える。
「それよりも、一回、会ってみたいぜ。グレンに頼んでみるか」
「おい、バカユウト…お前の勝手な都合で上を動かすんじゃない」
シーホはドスの利いた声色でユウトを黙らせる。
「なんだと!」
「やるのか!」
バチバチと火花を散らしだす二人に、シノアはハァ~ッと溜息をついた。
支部の一室ではというと――。
「う~ん。この書類の内容が本当なら、しばらくは国中が荒れるな」
「白銀の黄昏の餓鬼共がか」
「ああ、彼らはしばらく、台風の目になる」
「台風の目、か」
書類を手に、眉をひそめる黒髪の男性。彼は今後、ズィルバーたちが起こす行動に着手べきだと考える。
それは暗い銀髪の男性も同じ考えだった。
「しばらくとは言わねぇが、ユウトのガキが、ズィルバーのガキどもに接触しようとするはずだ。その際、力を見ておけばいいだろう」
「それが一番かな。一応、本部の見解を聞くべきかな」
銀髪の男はそう口にした。
そして、ライヒ大帝国中でも“ティーターン学園”にて誕生した風紀委員の存在が知れ渡った。
だが、それは表立った情報で、裏の情報は冒険者ギルド、裏世界の間にも広く知れ渡った。
獅子と思わせる男は部下から渡された書類を見る。
「あのクソガキ。何処へ行ったかと思いきや、こんな所にいやがって……」
書類に書かれていた名簿にヒロの名前を見て、憎らしげに見る。
「親分。どうする気で?」
「どうもこうもねぇ。すぐに盗賊団を動かせ! クソ餓鬼の回収に向かうぞ」
「ハッ!」
と男は部下に盗賊団を動かすよう進言する。
鬼、魔王と思わせる二メートルを超える巨漢にして鬼族の男は書類を見る。
「グォロロロロロ――――モンドスの奴! ガキ共を連れて行きやがって……今度、会ったら、ぶち殺してやる!!」
バキャァンッと酒瓶を地面に叩きつける。
裏世界を女王として君臨せし女。
世界中の種族から恐れられ、怖がられる女。
彼女が部下から書類をもらい、風紀委員改め、白銀の黄昏の存在に目を細める。
「俺たちの了見に手を出そうってなら叩き潰すが、この女だけは許せねぇ! もし、奴の子供なら殺してやる!」
殺意丸出しで名簿に載っているノウェムを睨み殺していた。
建物が密集する街。
密集する街の暗黒街では、白い髭を蓄えた男が書類を見て、高笑いしていた。
「ガララララララ――――。ガキ風情が“問題児”をまとめ上げるだけでもたいしたもんだ。青二才が……」
男は高笑いしつつ、ズィルバーを軽い評価をしていた。
深き森にて。
その森は東方を管轄しているパーフィス公爵家。いや、代々、ライヒ皇族と友好関係を築いている一族、耳長族が住まう森。
その森の奥深くにて。
一つの影が森の中へ入っていき、まっすぐに奥地へと歩いていく。
耳長族が住まう森は神代の名残を残し続けており、魔力濃度が高い。
高い魔力濃度は人体に影響を及ぼし、魔力酔いを起こしてしまう。さらに言えば、森自体が人を迷わせる性質を持っているため、耳長族以外では奥へ進むことができない。
森の奥地へと歩いていく彼女も耳長族だが、普通の耳長族とは違う。髪の色が黒く、翡翠眼をした女性。
しかも、金色の仮面で顔を隠す。彼女は迷うことなく、森の奥地へと目指す。
奥地へと来たら、門番が道を塞ぐ。
「止まれ。なにしに来た」
警戒心が高い。むしろ、敵意を彼女に向けている。
ボロボロのマントに節々にほつれた安物のドレス。さらには金色の仮面をした女性。
門番の耳長族は彼女の髪の色からとっくに察していた。
「長老に用がある。呼べ」
「……長老に用がある、だと?」
敵意を見せつつ、挑発する門番。
女はそれを気にすることなく、押し通ろうとしたが、門番は通そうとしないと門の前に出る。
「門の向こうで既に長老が待機している。門近くの小屋で話してくれるなら、我々はなにもしない」
「分かった」
女は門番の言うことを聞き、了承する。
「それにしても、随分と変わったな」
「ふん。貴様が悪に堕ち、烙印を押され、追放されたことが耳長族の恥だ。それを知って、ここに舞い戻ってきた貴様にとやかく言う筋合いがない」
「なにが恥だ。なにが烙印だ。世界の真実を知ろうと躍起になることのなにが悪い」
「これ以上は聞かん。後は長老と話せ」
門番は女を中へ通した。
中へ入れば、歓迎された。酷い意味で――。
「おや? 随分と手厚い歓迎だこと」
「ふん、ぬけぬけと帰ってきよって、この恥さらしが」
女に向けて、槍を向けるは耳長族の兵士。しかも、門番と同じように敵意丸出しで穂先を彼女に向ける。
「鬱陶しい」
面倒くさそうに、煩わしそうに一瞥し、威圧する。
その威圧は魔力を、殺気を乗せた威圧のため、兵士たちがバタバタと気絶していく。
威圧で建物が軋み、増援に来たであろう兵士たちもバタリと倒れ伏していく。
そんな中、彼女の威圧に臆することなく、彼女に目を向ける。
「魔力を収めよ。最長老様が目を覚ます」
「年を食っただけの爺共になにができる?」
「それでもだ。今の矛を収めよ。用件は薄々、分かっておる」
長老は女の用件を分かっている呈で話す。
「ひとまず、こっちへ来い」
女は長老に連れられ、小屋へと入っていく。
小屋へ入ったところで女は仮面を外し、素顔を露わにする。
艶のある黒髪を流し、翡翠の瞳をした絶世の美女がいた。
長老は、久々に素顔を見るも、目の色を一つも変えずに椅子に腰を下ろす。
「……久しいな、オクタヴィア」
「ノウェムがなぜ、学園にいる。人間どもがいる学園に――。お前たちに預けたはずだが、何故、ここにいない?」
「モンドス。知っておろう」
「私が倒した手練の冒険者だ。彼がどうした?」
「かの者が彼女を連れてった。それだけの話だ」
ピクリ、と女――オクタヴィアの眉が動いた瞬間、一条の閃光が迸った。迸っただけで何を起きなかった。
「変わらん。あの時からなにも変わっとらん」
「つまらない冗談を聞くためにここに来たわけじゃない」
「とは言っても、事実は事実だ。彼女はモンドスが連れて行った。
それ以外の事実はないよ」
オクタヴィアは無言になる。
「理由は気になるって顔だな。実のところ、これは皇族からの指示だ」
長老は強くなる彼女の殺気に臆することなく、笑みを浮かべて話し続けた。
「ノウェムを連れ去ったときは心を痛めた。だが、皇族からの命令なら致し方あるまい。耳長族としても追放者の子供となれば、同類からもなにかと嫌われよう。ならば、誰も侮蔑されない場所へ連れて行ったまでのことだ」
優しそうな笑顔を浮かべる長老の瞳は慈愛が篭もっていた。
彼は自分の行動が正しいと皇族から送られた書類を見て、安堵している。
「……言いたいことはそれだけか?」
「ああ、これだけだ。キミが私を殺しても無意味だ。彼女は戻ってこない。それに今のキミは本気を出せまい」
「そう言いきれるのか?」
「あの事件は世界中に知れ渡った。キミもあの戦いに参戦したんなら、相当な深手を負ってもおかしくない。その傷は未だに癒えてないのだろう?」
長老はオクタヴィアの左腕を見る。
「その傷が癒えてない状況で戦うのはキミとて不味い。だからこそ、私が来た。居場所だけは告げる。それからはキミが決めろ」
オクタヴィアは又もや、無言になる。
「“ティーターン学園”……あの娘はそこにいる。だが、キミも知っているとおり、彼女は既にズィルバーという少年の下についている。今まで捨てていたキミがあの娘の道を決めるのはどうかと思うがね」
長老は「今更、親面するな!」と言い切る。
だが、オクタヴィアは情報を聞けたのか。席を立ち、小屋を出ていく。
「世話になった。もう帰ってくる気はない」
「そうしてもらえると助かる。この恥さらしが!!」
「世界の真実を知ろうとすることの何が悪い」
「知ってはならぬこと。かの伝説、初代皇帝リヒト様が明かしてはならぬ、と、最長老様と取り決めた話。それを破ってはならぬのが我らが耳長族の宿命」
「その宿命を絶つために私はここを出ていった。爺どもが決めたことを何故、従わないといけない」
「キミでは勝てぬ、と仰せられた。この世界はキミたちが思っているよりも残酷なのだ。人間を恨むのはキミのお門違いだ」
「くだらぬ」
オクタヴィアは最後にそれを吐いて、小屋を出て、耳長族の里から出て行った。
小屋に取り残された長老は最後にこう漏らした。
「来たるべき日が来るまで待つのだ。転生されたとされるヘルト様が来るまで――」
漆黒の暗闇の中に灯る篝火。
篝火に集結するは六つの人影。
彼らこそ、怪物、“アステリオン”を復活させた張本人。
「“アステリオン”がやられた」
「仕方ないことよ。奴は復活してまもなく、あの小僧に殺された。少し時間があれば、小僧なんて一捻りよ」
「まあ、貴方って人はどうして、そう短絡的ですの?」
「あ゛?」
ギロッと睨みつける。
「だって、人間というのは死の淵に立たされると急速に成長するものよ。おかげで彼が全盛期に戻り始めてるし」
「私の計算が甘いっての!?」
「甘過ぎですわ」
両者ともに殺気を出し、空気が冷たくなる。冷たくなる空気の中、リーダーと思わしき男が――
「静まれ!」
圧のある言葉で黙らせる。
黙りとなる空間で、男は女神に話しかける。
「女神よ。今度は“あの男”を復活させよ」
「あの男?」
ここで女神は男の真意を知るため、少し考える。考えた後、真意を悟った。
「ああ、かの男ですね。千年前、ヘルトと互角に渡り合った男ですね」
「ああ。奴を復活させ。ヘルトの出鼻を挫く。ヘルトは組織を創り上げたと聞く。ならば、その組織を瓦解させ、奴に絶望を教え込ませるに限る」
男は愉悦な笑みを浮かべ、ヘルトが絶望する様を想像する。
「御下劣だこと」
女は含み笑いをする。
「だが、大神よ。数年前に発生した極悪人共はどうする。かの者たちを唆して、国家転覆を狙ったが失敗に終わった。このままでは我らにとって支障を来すのではなかろうか?」
別の男が大神と名乗る男に不始末の後処理はどうするかを尋ねる。
「安心せよ。奴を復活させた暁に戦わせよ。彼らはもう用済みだ」
「ハッ!」
男は一歩退く。
「不始末か。所詮、今の時代の者たちは我々の支配下に置かれるだけの獣同然。千年前と同じように迫害させましょう。もう用済みですから」
「一理ある」
女たちは数年前に発生した事件の残党の後始末の余興に異種族の撲滅を目論んでいた。
「では、使いも送りましょう。かの男を復活させれば、世界の掃除が楽になるもの」
女神は前回と同様にすぐさま、行動に移す。
彼らが復活させようとするのは、千年前、[戦神ヘルト]と互角に渡り合った伝説の大英雄――アキレス・J・オデュッセイアの復活であった。
秘密の花園にて。
花園にはエメラルドグリーンの女性を中心に六人の男女が前回と同様に円卓を取り囲んで座っていた。
「大神。今度はアキレスを復活させる気だな」
「厄介な男ね」
軍神と守護神は次に復活させる人物、アキレス・J・オデュッセイアのことを言及する。
「“アステリオン”の次はアキレスか。どいつもこいつもただでは済まんぞ」
「守護神。貴方の話ではヘルトはリヒトが残した遺産を使用して、全盛期に戻りつつあるのだろう? 今の彼だったら、勝てるのでは?」
女が守護神に今のズィルバーなら勝てると言及する。
「今のままだったら、無理ね」
「何故かな?」
「今の彼だったら、技術的なレベルでは互角。むしろ、アキレスとの戦った経験で五分五分にもっていけるってぐらいよ。つまり――」
「貴方たちの力を発揮せねば、勝てないというわけか」
「そう。あと、レインの力があっても、アキレスの肌に、鎧に傷つくのかすら分からない」
守護神は言及する。
「なるほど」
他の者たちが納得する。
「なればこそ、彼奴に伝えておいた方がいいのではないか?」
男が進言する。
「いや、いい」
軍神が突っぱねる。
「ヘルトはこと戦いにおいては頭が切れる。平時では輝けない男が、戦場で輝く男だ。アキレスが復活することを知ったとて。あの男は「今度こそ、倒す」と言うだけだ。伝えるだけ無駄だ」
軍神はズィルバーの性格を考慮して聞く気がないだろうと述べる。
「しかし、アキレスとの一戦は今や、歴史の語り草。今でも[戦神ヘルト]の話になれば、語られるほどだ」
男は軍神に反問する。
「そうだな。ただ、奴らは今になって、アキレスを復活させる気になったのかが些か、疑問だ」
「世界において、不要なものを排除するためとか?」
「ならば、誰を排除する?」
「ヘルトは確定でしょうけど、他に誰を……」
と、彼らは敵側の思惑を考える。しかし、守護神は口にする。
一か八かの内容を――。
「“カルニウス”を彼のもとへ行かせましょう」
彼女が言ったことに軍神を含めた全員が驚愕する。
「正気ですか!?」
「今の彼女では、アキレスの相手は無理だ!?」
「それに貴方は言ったでしょう。“今の時代を築けるのは今を生きる人間だ”って……今の発言はそれを撤回するものよ!!?」
「分かっています。なので、一か八かの賭けです。千年前に活躍させた者たちの子孫が次々とヘルトのもとに集まってきます。ならば、そこに彼女の魂を転生させたものを行かせても問題ないと思いましてね」
「問題ありよ!!?」
「ええ。彼女はあくまで、レイの懐刀。今は彼女の魂が宿っているあの娘に……」
一人の女が口にした内容に「そうか」と軍神が納得する。
「あの娘を守護する懐刀にするってわけだな」
「ええ。その通りよ」
守護神は席を立ち、水晶体がある台座に近づく。
水晶体の中には異種族との混血、半血族の女性が眠っていた。
彼女は仮死状態で今も眠り続けている。
守護神は水晶に触れ、力を流す。力を流した途端、音もなく砕け散り、彼女の身体が外気に触れる。
外気に触れても、彼女は未だに目を覚まさない。
それもそのはず、条件が整うことで魂が覚醒させる仕組みにしている。
その条件は守護神も知っている。だけど、彼女は条件が満たされるまで覚醒しない意識を、魂を眠らせたまま、女性の肉体を転生させる。
前世と同じ異種族の混血として、現代へ送らせた。
「さあ、援軍を送らせたわ。貴方はどう乗り越えるのかしら?」
守護神は彼を信じるのと同時に興味を抱いていた。
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