英雄。白銀の黄昏を知らしめる。
白銀の黄昏を学園から風紀委員として正式任命された日から三日が経過した。
今日から夏期休暇が終わり、授業再開する。
だが、再開する中、休暇から帰ってきた生徒たちの間では一つの噂いや話題が飛び交っていた。
「ねぇ、聞いた?」
「聞いた聞いた」
「地下迷宮の出入口がある校舎のこと?」
「そうそう。何でも、学園長が学園の風紀を守るために風紀委員を組織したんだって」
「しかも、そのリーダーがズィルバーくんらしいよ」
「あの一年坊主がな」
「学園掲示板にも、学園長が任命した承認書が貼られてるよ」
「えっ? ほんと!?」
さまざまな声が飛び交うも、彼らの談笑する話題は白銀の黄昏と、それを立ち上げたズィルバーのことで引っ張りだこだ。
しかも、掲示板にはこんなものまで張り出されていた。
「ねぇ、風紀委員の人員追加の募集が貼られてる」
「え? ほんと?」
「本当だ。でも、選出方法が厳しくない?」
「できてまもないのに、ここまでするのかな?」
一部では人選基準に不満を覚える。
「ふむ。この人選……」
「身分関係なく、受け入れるってことだよね」
「しかも、威張り散らす貴族は受け入れない。なるほど。これは優れた人を率いれる考えだ」
一部は人選基準の本質を理解した。
そして、大半が人選基準の本質を知らずに受けてみようかなと声が飛び交う。
風紀委員本部ではというと――。
学園の生徒たちが自分たちのことに興味津々なのを承知の上でティア殿下は校舎の窓から外を眺める。
「それにしても、見事に学園中が私たちのことで広まっているわね」
「当然だ。学園長が承認し、任命された組織だ。話の信憑性を知ろうとするのは世の常だ」
俺は今日までに提出する書類を全て書き終えて、ティア殿下が用意してくれた紅茶を手に取る。
「それよりも、人選基準はしっかりしたんだろうな」
「もちろんよ。そんな甘いことはしない。抜かりなく、今の私たちにできる限りのことはしたわ」
「あの人選基準にいったい、何人が本質に気づくのか」
俺は紅茶を口に含ませながら、ティア殿下が考えた人選基準の本質を理解している者がいるか。些か、疑問符を浮かべる。
書類を書き進めている最中、彼女が俺に見せた人選基準。
これには、さすがの俺もビックリ仰天。
鬼畜にも程がある。
仮に大多数の志願者が出ても、そのほとんどを落とす寸法だ。
これには、レインも顔を引き攣らせる。
なお、この人選基準にはエリザベス殿下とエルダ姉さん、ヒルデ姉さんも関与していたと言うらしい。生徒会としてもいかがわしい人物を受け入れたくないのだろう。
そういう意味ではティア殿下は人を見抜く目があるかもしれない。
「人選に関してはティア。キミに一任する」
「それは良いけど、それよりも私が副委員長でいいの?」
彼女は自分が俺の副官でいいのか聞いてくる。
「最初にも言ったが、風紀委員は基本。実力がないと話にならない。今、俺たちの中で俺の次に強いのはティア、キミだ。組織が崩壊しないために実力がなければ、話にならない」
「それはそうだけど……」
ふむ。ティア殿下は自分に自信がないようだ。
「急に自信を持てとは言わんが、このままだとニナやナルスリーに笑われるぞ」
彼女の肩に手を置き、鼓舞する。
いや、鼓舞じゃなく嫌気か? いや、嫌気でもないな。
じゃあ、なんだ? うん? 俺は自分が言ったことに疑問符を浮かべる。
俺の首をかしげにティア殿下はクスッと微笑を漏らす。
「そうね。自信を持たなきゃ、二人に笑われるわね」
「そういうことだ。とりあえず、式典もそうだが、授業には出席しないとな」
「ええ。そうね」
と、俺とティア殿下は魔剣を腰に携え、委員長室を出た。
俺とティア殿下は風紀委員本部を出たところでメンバー全員がお出迎えに待ってくれていた。
「遅くない?」
ノウェムが俺たちに対して、文句を言う。
「そう言うなよ」
俺は言いつつ、左腕に腕章を付ける。しかも、腕章には“風紀”の文字が刺繍されていた。
今、俺たちが着ている服装も学園の制服じゃない。
風紀委員に所属している証明。学園の生徒たちにも風紀委員であることをわかりやすくした。
なお、服の素材に奮発した。服の糸に星獣“白鴎デネブ”の糸を用いた。もちろん、レインに頼んでもらった。
宝物庫の最奥にある隠し倉庫に置かれた物のほとんどが神獣と星獣の素材から作られたものばかり。あのまま、あそこに置いてあるだけよりマシだろうと思い、服の素材に使った。
デネブの糸は耐熱性に優れていて、保温性、魔剣でもそうそう斬れない防刃性を有している。しかも、魔力循環系にも優れている。服に魔力を通せば、鎧と同等の硬さを誇る。
今風に言うなら、伝説級アイテムだ。
なお、見た目は学園の制服に似ているが、色合いが多少違う。腕章を付けることもそうだが、風紀委員である証明のためにティア殿下に用意するよう頼み、素材はレインに頼み込んだ。
しかも、学園からの認可をもらえば、誰も文句は言うまい。
「さて、そろそろ、講堂へ行こうか。今日は始業式。初の仕事。学園に不届きが入られないよう。俺たちが風紀を守っていくぞ!」
俺は声を荒げ、皆に喝を入れる。
「オォオオオオ――――」
と、皆も元気よく号令を上げてくれた。
「それじゃあ、巡回開始!」
と、俺が開始の号令をあげた途端、全員、各々で学園巡回に入った。
風紀委員初仕事は始業式が執り行われる間。
学園を巡回する。式に遅れた者を誘導。“問題児”ほどではないが、学園の隅でたむろっている不良の生徒を補導。
各種様々な仕事をしないといけない。
俺たち風紀委員のほとんどが一年生だ。
だが、それでも、実力だけは学園屈指の実力者とも言ってもいい。
持ち場は自由だが、しっかりと巡回することが大原則。いや、掟として定めた。
俺が白銀の黄昏を設立するに辺り、皆に掟を定めた。
一つ。仲間同士の喧嘩はいいが、殺し合うのは禁止。
一つ。無関係な人たちカタギの衆に手を出さない。
一つ。なにごとも楽しく。
一つ。精霊、異種族を差別しない。
一つ。常に己を鍛えよ。
以上の掟を俺は定めた。
この掟を破った者にはそれ相応の仕打ちをすると言い放つ。具体的には俺の拳骨が飛ぶ、と言い含めた。しかも、“動の闘気”込みでの拳骨だ、と。
それには皆、顔を真っ青にし、首が取れるほど頷いた。
俺は今、ティア殿下と一緒に学園の講堂に来ている。
今日から風紀委員が始動するにあたって挨拶をしないといけない。
委員長として、俺がしっかりしないとニナたちやノウェムたちに示しが付かないからな。
学園長の挨拶。生徒会長、エリザベス殿下の挨拶を終えたところで学園の生徒たちも長ったらしい話がようやく、終わったと内心、安堵する。
安堵する中、司会を行う講師が、ある言葉を告げる。
「続いては、風紀委員長挨拶」
そう。風紀委員長、俺の挨拶。
例年にはない挨拶。
そもそも、風紀委員というのが今までにない組織。否、学園の歴史上、類を見ない組織。
生徒たちが事前に知っている情報としては学園長が承認し、校舎まである。学園の風紀を守るための組織。しかも、生徒会長、エリザベス殿下すらも認めた組織だ。
さらに言えば、風紀委員長が今、生徒たちの間で話題になっている少年だからだ。
司会をしている講師の指事で俺は壇上へ上がる。
真ん中辺りまで来て、下を向けば、生徒一同、見渡される。
この立ち位置、千年前、勝利の凱旋を受けたとき以来だな。
おっと、今は委員長挨拶だな。
俺は一度、咳払いをした後、挨拶に入る。
「おはよう、諸君。朝から長ったらしい話があって、眠くなっているだろうけど、すまないと思っている」
まず、序盤に長ったらしい話というだけでグサッと言葉の刃が刺さり、倒れる音がしたがこの際、無視しよう。
「まあ、できるだけ、簡潔で話してあげるから許してくれ」
最初に謝罪を述べておく。
「既にキミたちも知っていると思われるが、俺が風紀委員長のズィルバー・R・ファーレンだ。一つ先んじて言っておくが、今の風紀委員は名ばかりの委員会だ」
事実無根。本心を語る。
「俺たち風紀委員のほとんどのメンバーが実力のある者たちで集まっている。まるで、力だけで屈服させるだけの集団に等しい。しかし、それだけではダメだと俺は思っている」
力でものを言わせるなら、誰だってできる。だが、俺たちは――。
「俺たちは大切な者のために風紀を、秩序を乱す者どもを叩き潰す。俺たち風紀委員は学園の生徒の身の安全を守るために力を振るう。それが俺たち風紀委員の在り方だ」
風紀委員の存在意義を提唱する。
自信がなかった。俺の言葉がここにいる全員の心に響かせるのか。
だが、現実、彼らの目を見る。全員、俺に意識が向いている。
「今の風紀委員には弱き者の声を聞くだけの人がいない。委員会を運営していくだけの人員もいない。なにもかも足りないのだ。だからこそ、今回、メンバーの募集をかける。人選基準は学園掲示板に貼られている内容通り。名前だけじゃなく、その人に特筆する才能を見せないといけない。だが、先んじて、言っておく。俺は風紀委員としての伯がほしいなら迎え入れないことだけは覚悟しておいといてくれ」
と、俺は言い切り、挨拶を終える。
俺の挨拶を終えても、生徒の皆、固まっていた。
ここでティア殿下が司会をしている講師から発声器を奪い取り、改めて、人選基準を話す。
だが、まず――。
「喝!!」
大声を発し、俺の挨拶を聞き、呆けていた生徒一同の意識を取り戻した。
しかも、発声器越しに大声をするから耳がキーンってする。
おかげで俺も耳をふさぐ始末。
あぁ~、耳が痛い。
一喝した後、ティア殿下は人選基準を告げる。
「ズィルバーの話に感銘しているのか放心しているのか知らないけど、一応、風紀委員の人選基準を言うわね」
ここでティア殿下が俺たち白銀の黄昏の人選基準を告げる。
一つ。試験において、必要最低限の実力を示すこと。
一つ。面談で自分の得意分野を話すこと。
一つ。身分問わず、人選を行うため、不採用になっても文句は言いつけん。
と、彼女は人選基準を告げる。
「最後に言っておくけど、私たち風紀委員には鉄の掟を敷いています。もし、その掟を破った者には相応の仕打ち、厳罰を与えることにします。風紀委員を入ろうとする際はそれなりの考えでお願いします」
ティア殿下は最後に注意事項を告げて、発声器を講師に返す。
返した後、俺とティア殿下は講堂を出た。
ズィルバーとティア殿下が講堂を出た後、生徒たちの間でヒソヒソと小声で話し合った。
「鉄の掟って……」
「もしかして、相当、規律を重んじているの?」
「嘘だろう。せっかく、風紀委員に受けてみようと思っていたのに……」
「ど、ど、どうしよう……」
困惑する声が飛び交う講堂内で生徒会長、エリザベス殿下は講師から発声器を奪い取り、声を出す。
「いきなり、困惑するところで悪いけど、風紀委員は秩序ある組織。そこに入ろうとしているなら、よく考えて行動しなさい。我々、生徒会、学園は風紀委員と干渉しないのが大原則。なので、講師や、職員、生徒会から情報を聞こうにも話すことができないと思いなさい」
彼女はそれだけを告げて、席に着いた。
だけど、ズィルバー、ティア殿下、エリザベス殿下の話を聞いても、フッと口角を上げる生徒がいたことを――。
始業式を終えて、時間が過ぎて、午後の時間帯になった。
ノウェムたちは今日の巡回業務を終えて、鍛錬部屋の窓から風紀委員本部へ来る生徒たちを見る。
「それにしても、よくもまあ、風紀委員に、白銀の黄昏に志願する生徒がいるね」
「話によれば、ズィルバーとティアが人選基準と鉄の掟を話したらしい」
ノウェムは窓から、本部に来る生徒たちを見て、口を漏らす。
カナメも少々、呆れつつ、トップの二人が話すべきことを話したそうだ。
カナメが言ったことを聞き、ヤマトはハアと息を吐く。
「僕としては厳しすぎるのもいいけど、それはそれで風紀委員が大きくなるのか?」
彼女はこれからの組織強化に些かの疑問を述べた。
「でも、私としては急激にデカくなるより、徐々にデカくした方がいいと思う」
ヒロは組織の規模を大きくさせるのを少しずつでいいと口にする。
「急にデカくすると、規律が乱れ、組織が崩壊するってのはザラな話。ズィルバーとティアがキツく言ったってことは、それなりに人選は厳しくやっているんでしょう」
ヒロはそう言う。
ヒロの話はもっともだ、と、ノウェムたちは分かっている。
「見て。まだ来るよ」
風紀委員本部へやって来る生徒がどんどんやってくる。
その中でノウェムは近くの木に腰を下ろし、集まってくる生徒たちを見ている。
いや、観察している。
彼らの行動にノウェムはへぇ~ッと感心する。
彼女の目から見て、同じ一年だと思われる。制服の色が一年であることを示しているからだ。
「ふぅ~ん。一年の中にもそれなりに粒がいるんじゃない」
「どういうこと?」
「木陰に腰を下ろしている生徒だけを見て」
ノウェムに言われて、カナメたちは木陰に腰を下ろしている生徒を見る。
「彼ら、同じように来ている生徒だけを見ている」
「むしろ、観察してる」
「品定め? ノウェムちゃん?」
精神年齢が低いのかキャッキャッとするコロネにノウェムは頭を撫でつつ頷く。
「見たところ、複数に分かれて、座っている所を見ると……」
「一年でも、それなりに優秀か」
「もしくは近寄りたくないか、だな」
ムサシとコジロウは二つの可能性を口にする。
「優秀な方じゃない」
ヤマトは前者を口にする。彼女は一つの木陰に腰を下ろしている女の子を指さす。
「彼女。生徒を観察しつつ、メモを取っている。おそらく、品定めをしていると思う」
前者の考えを述べる。
カナメは生徒たちの動きを見て、言葉を漏らす。
「それにしても、生徒の動きが三つに分かれているね」
「うん。確かに…」
「本当だなぁ~」
と、ノウェムとコロネも同意する。だが、コロネは本当に分かっているのか些か、疑問であるが――。
「列に並んでいる生徒。出てくるであろう生徒から内容を聞こうとする生徒。そして、観察している生徒。私的には観察している生徒が受かりそう」
「僕も同感だ」
ノウェムの言葉にリエムも同意する。
「妾からしたら、右往左往する輩共を追い出して、観察している者たちを見た方がいい気がするのじゃが」
リリーは無駄に時間を食うより、遠くで観察している生徒だけを見るべきだと告げる。
「それも良いけど、あえて、そうさせているのにもなにか訳があると思う」
カナメはあえて、そうさせているトップ二人がなにか考えがあると口にする。
リリーは「なにか、とはなんじゃ?」と聞き返す。
「おそらく、問題を起こした際、起こした生徒を記録させる」
カナメは推測を交えて言及する。
「前科があれば、それだけ重い刑罰になる。そうなれば、秘密裏に監視もできるというわけ」
「なるほど」
と、リリーが納得する。
「まあ、しばらくはこの状況だから。私たちは鍛錬ついでに巡回しましょう」
「そうね。今も上の四人は自己鍛錬中だし」
カナメとノウェムは自己鍛錬をしようと告げる。今もニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルの四人は修練に明け暮れているからだ。
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