英雄は異種族と出会う。
ルキウスからこっぴどく説教を受けられて、次の日のことだ。
学園から渡される夏期休暇の宿題とかない。夏期休暇を利用して、実家に帰省する生徒が多いからだ。
改めて、夏期休暇のことを振り返る。
夏期休暇は八月頭から九月中頃までの長期的な休みだ。
なぜ、長期的かというと、地方から来る生徒の帰省を考慮したうえで期間を設けている。
そのため、学園からは宿題を設けていない。むしろ、設けたら、規制という考えに至らないからだ。
夏期休暇を利用して、休みを満喫する者。鍛錬にあてる者もいる。
ティア殿下やニナたちは後者。俺も後者だが、半分は前者である。
広大な草原で無限にも等しい時間を鍛錬に費やせば、心身ともに疲れてくる。そのため、今日から休暇を満喫することにした。
もちろん、鍛錬に関しては惜しまないけどな。
と、俺は今、第二帝都の表通りを散策している。
レインはというと、久々のふかふかのベッドなのかぐっすりと眠っている。
で、俺だけ第二帝都の表通りにいるというわけだ。いや、これで理由になるか!? って? うるさい。俺だって、この時代の街中を歩きたかったんだ。
お金に関しては問題ない。宝物庫の宝石を少しだけくすねて、お金に換金したから。
と、表通りを散策しているが、さすがは第二帝都。
“ティーターン学園”が傍にあるからか生徒向けの店が多い。
値段が安い店やレストランが多い。
しかも、手軽に食べ歩きもできる品まであるとは……。
うん。千年も経てば、文化や風習が変わるな、と時代の変化を実感する。
「もぐもぐ」
俺は表通りの露店で買った串焼きを食べつつ、露店に売られている商品を見ていく。
千年の時が経つといろんな商品が売られている。本だったり、武具だったり、食べ物だったりと、この千年で大きく変わっている。
転生して数ヶ月。ずっと、屋敷や馬車、学園での生活だったから。こういった街中を見て回ることがなかった。
貴族の領主になれば、領民の声を聞かないといけない。そういう意味では庶民に化けて、街中を見て回るのも必須条件だな。
まあ、俺だったら、監視網を抜け出して、勝手に街へ繰り出しそうだけど――。
と、俺は自分がしそうなことを普通に考えつく。
俺って、意外と同じ場所に居続けにくい体質かもな。と、思い込んでしまう。
食べ歩きに買った串焼きも食べ尽くして、ゴミをゴミ置き場に捨ててから、街道を散策しようとしたとき――、
「オメエみたいな奴に買わせるものなんてねぇ!!」
急に怒鳴り声が聞こえてきた。
「ん? なんだ?」
と、思いつつ、俺は怒鳴り声をした方向に目を向け、ついでに“静の闘気”を使用する。
“静の闘気”を使用して声を聞き取る。
「お願いです。私に……食べ物を……」
「オメエみたいな化けもんにやる食べもんじゃねぇんだよ! とっとと消えやがれ!」
ふむ。フードを被った誰かが露店の商品を買おうとしているな。
それを店主が怒鳴っているって感じだな。にしても、フードの奴。声からして女か?
フードから少しだけ出ている髪の艶から女の子は分かるけど……“静の闘気”から感じられる拍動。俺の目から見ても強者なのはわかる。
なのに、ああも憚れるのにはなにか理由があるのか? と、俺の中で疑問符を浮かべる。
「お願いします。食べ物を恵んでください」
「うるせぇ、つってんだよ!」
店主はフードを被った者を押し返す。
「キャァッ!?」
フードを被った者は押し返された勢いで尻餅をつく。尻餅についたのと同時にパサリとフードが取れた。
「ッ!?」
フードが取れた途端、俺は言葉を詰まらせる。
あの耳……もしかして……
フードが取れたことで彼女の顔立ちがわかる。
肩まで伸びる長い黒髪。横からだが、透き通る紅い目。浅黒い肌の色。なにより、驚くべきなのは、長い耳。
あの耳を特徴する種族は一つしかない。
耳長族。
精霊から愛されている長命な一族。
レイは半血族だったが、耳長族の血を引いていた。だけど、耳長族は黒髪じゃなく金髪か銀髪が多いし。目の色も透き通った碧眼か翡翠の目が多い。彼女は目の色にはならない。
それに肌の色も色白のはず……もしかして……
ここで俺は、ある一つの可能性に至る。
「まあ、とりあえず、助けてやるか」
ハアと軽く息をついて尻餅をつく彼女のもとへ歩き出した。
「この悪魔!」
「さっさと消えろ!」
「なんで、こんな奴がこの街にいるんだよ!」
街の人たちが足元に落ちていた石を手にとって、尻餅をつく彼女に投げつける。
彼女は石を当てられ、顔を俯かせる。
ポロポロとだが、水滴が零れ落ちる。
(どうして…どうして、私ばかり、こんな目に遭うのよ)
彼女の心はひどく荒んでいた。彼女は親の顔を知らない。生まれ持っていた力だけで生きていた。
残飯を食べ、泥水を啜る人生。母を知らず、父を知らない。だけど、半血族という理由だけで人々から石を投げられる日々。
モンドス講師に声をかけられ、“ティーターン学園”に強制入学される形で隔離された。
“ゲフェーアリヒ”という場所にいるけど、毎日、いつも、戦いあう日々。
彼女は実力があるせいか、いつも、喧嘩を売られ、返り討ちにしている。
街に出ても、石を投げられ、食べ物を盗む始末。
それでも、彼女の心はもう限界だった。
(誰か…助けて…)
というのが彼女の本心だった。
露店の店主が彼女を殴ろうとしたとき、その腕を掴み、間に割って入った白銀の少年。
店の店主が彼女の殴ろうとしたので俺がその腕を掴む。
「ああっ!!」
急に俺が割って入ったことで店主が俺を睨んでくる。さらに、群衆の人たちも俺を睨んでくる。
視線が集中されている中、俺は店主に言葉を発する。
「おい、店主。ここにある商品。俺が全部買う。だから、彼女に暴力を振るうのは止めろ」
「ああっ!!」
店主は俺にがん飛ばしてくる。
「聞こえないのか? ここにある商品、全部買うっつってんだよ!」
俺は殺気を乗せつつ睨み返す。
「ッ!?」
俺の睨み返しに言葉を詰まらせる店主。
涙を流している彼女は状況が全く理解できていなかった。
俺は殺気を出しながらも麻袋からお金を出す。
「これだけあれば、買えるだろう」
お金を差し出せば、店主は
「あ…ああ、もちろんだ」
お金を受け取って、露店の食べ物を全部、買い取った。
俺は買い取った品をもらい、涙を流している彼女の手を掴み、連れて行こうとする。
だけど、街の人たちは彼女を連れて行こうとするのを許さないのか。
「おい! その悪魔だけは置いていけ!」
「その悪魔だけは殺さねぇと俺の腹の虫が治まらねぇ!」
「そのクソガキを置いていけ!」
罵詈雑言が飛び交う。
これには俺も我慢の限界だ。今の彼女を見ていると、千年前の俺にそっくりじゃないか。自分は人間じゃない。一種の化物として不当な差別を受ける。
彼女の場合はさらにひどい。自身は全く関係ないのに親のせいで悪魔呼ばわり。しかも、耳長族との混血による半血族が余計に拍車をかけている。
しかも、国の上層部はこれを仕方なく、黙認している。
そんなの俺は許せない。千年前、俺やリヒト、レイが望んだ不当な差別がない世界を真っ向から否定しているものじゃないか。
これには俺も我慢の限界。いや、堪忍袋の緒が切れた。
「おい、人を化物扱いに考えている奴。前に出てこい! 女だろうと化物だと考えている奴。前に出てこい!」
声を荒げ、初めて皇帝陛下に会ったときと同じように冷徹なる殺気を放つ。
今、俺の背後にはなにもかも飲み込めるほどの超大蛇が見えることだろう。
実際、涙を流している彼女に寄ってたかっていた群衆も俺の殺気に当てられて顔を真っ青にしたり、腰を抜かしたりしていた。
腰抜け共が。
いや、俺が殺気を出しすぎたからか。まあいい。
「おい、大丈夫か?」
俺は涙を流している彼女に声をかける。
彼女は涙を流してるが、頷いてくれた。
「立てるか?」
と、聞いても頷くだけ。どうやら、相当不信感を抱いているな。
まあ、それでも良い。
「とりあえず、ついて来い」
ひとまず、彼女を連れて、裏路地辺りへ連れて行くことにした。
裏路地を歩き、裏通りへ出たら、ちょうど、座れる場所があったので、そこに座ることにした。
彼女も涙を拭い、フードを被り直した。
どうやら、自分の正体を明かしたくないらしい。まあ、当然だろうな。
彼女も座れる場所に座ったところで俺は露店で買った食べ物を一つ渡す。
「食べろ」
「え?」
彼女は俺が言ったことが理解できず、キョトンとしている。
「だから、食べろ。腹が減っているんだろう」
俺は食べ物を差し出す。
彼女は恐る恐るとだが、食べ物を手に取る。
「いいの、もらって……」
「いいよ。さっさと食べろ」
俺は彼女に施そうとする。
「どうせ、俺が買わなくても、キミたち平気で店主を襲って、店の品を盗もうとしていたんだろう」
「ッ!?」
俺に、あの後のことを見抜かれて、彼女は言葉を詰まらせる。
「なんで、分かった」
「愚問だな。キミが強いのは最初から分かっていた」
そう。俺は最初から彼女が強いのは“静の闘気”を使用して分かっていた。
そして、今は俺を狙おうとしているのも、な。
「ひとまず、ご飯を食べろ。腹が減った奴を俺は相手にしない」
「むぅ~…わかった」
と、彼女は俺が渡した食べ物を食いつく。
彼女が食べ物を食べては新しいものを手にとってかぶりつく。
彼女が美味しそうにかぶりつく様を見て、他人に施すのも久しぶりだな、と思い至る。
人に施しをするのは幼少期のレイン以来か。懐かしいものだな。
俺は千年前のことを思い出す。
さて、コソコソと俺を見ている彼女たちにも施すか。
「そこにいるキミたち。こそこそ隠れていないで出てきたらどうだ?」
と、俺は物陰に隠れている彼女たちに声をかける。
俺に声をかけられ、気づかれたのかとビクッと背筋を伸ばす。伸ばした際、ゴトッと物音を立ててしまったことで隠れているのがバレてしまう。
「襲ったりしないから。出てきていいよ」
俺は優しげな声をかける。
俺の声かけにヒョコッと物陰から出てきたのはフードを被った者たち。
“静の闘気”で身体の輪郭から女の子なのは分かっている。しかも、マントで隠れているが、わずかに出ているふさふさの尻尾から見て分かった。
出てきたのは三人の女の子なんだけど。一人だけ背丈が低い。十歳にしては身長が九十ぐらい。女の子にしては低いな。この特徴は確か……。
「まさか、獣族と小人族に会えるとは……」
俺に種族を見破られ、ビクッと背筋を伸ばす。
俺は紙袋から三つ食べ物を出し、彼女たちに差し出す。
「食べろ。盗んだものを食べるより、人から食べるものは美味しいぞ」
俺が差し出す食べ物を見て、ゴクリと生唾を呑む彼女たち。
そして、奪い取る形で食べ物を取り、食べ始める。
う~ん。彼女たち……随分と食い意地があるな。
髪を見る感じで艶はあるもボサボサだ。
ふむ。お風呂にも入っていないのか? まあいいや。下手に同情したら、関係が悪化しそう。
っていうか……
「俺が買った食べ物…全部食べやがった!? そんなに美味しかったのか?」
驚き、呆れつつ話しかける。
「うん。美味しかった」
小人族だと思われる彼女が美味しいと答えてくれた。
「そうか…良かった」
と、俺は心から笑みを浮かべる。
「「「「ッ!?」」」」
と、彼女たちが俺の笑みに言葉を詰まらせる。しかも、妙に顔が赤かった。
それにしても、随分、満足そうに食べたものだ。
「久しぶりだったのか? 人からもらったものは?」
「ううん。初めてだった。人からもらったのを食べたの」
と、小人族と思われる彼女が俺の質問に答えてくれた。
ふむ。生まれて初めて、施しを受けたのか。モンドス講師は学園に連れてきただけで食べ物とか与えなかったというわけか。
う~ん。これはかなり一大事だな。
“問題児”を倒すだけじゃあ、なにも解決できない。もし、彼らが俺に負けたとすれば、学園から追放され、行き場所がなくなるかもしれないな。
こうなったら、彼らを安心して暮らしていける環境を作らないといけない。だったら、俺が彼らに居場所を与えた方がいいかもな。
全く、学園はとんでもないものを俺に押しつけてきたものだ。
俺は改めて、“問題児”に関する事件の規模の大きさを認識する。
せっかくだし。彼女たちに聞いてみるか。
「なぁ…」
俺はフードを被る彼女たちに話しかける。
「なに?」
と、半血族の彼女が俺を少々睨みつつ聞き返す。
「もし、キミたちが安心して生活していける居場所があったら、どんな感じがいい?」
「ん?」
彼女たちは俺が言っている意味が分からず、疑問符を浮かべる。
「ありゃ、分かりづらかった。要するにキミたちにとっての居場所はなにって感じだ」
もう少しわかりやすく問いかける。
俺の問いに対する意味が分かった彼女たちはう~んと、頭を悩ませる。
「私は皆と一緒に学園で勉強が出来る生活がしたい」
と、獣族と思われる彼女が答えてくれた。
「私と同じかな。でも、喧嘩し合わない生活を送りたい」
もう一人の獣族と思われる彼女が答えた。
「私は美味しいものをたくさん食べられる生活がしたい」
小人族と思われる彼女も答えた。
そして、最後は半血族の彼女の答えを聞こうと目を向ける。
すると、彼女はとんでもないことを口にする。
「私は…強い者と戦える生活をしたい」
「強い者と? なぜ、戦いたいと思う?」
彼女がなぜ、戦いのかを尋ねる。
「簡単よ。私をこんな風にした親をぶっ飛ばしたいから」
決意のこもった目を俺に向けるフード越しでも感情のこもった声質に俺は「そうか」と答える。だけど――。
「それはキミの願望であって、本心じゃない」
「なに!?」
「声や目で誤魔化しているようだけど、キミは自分の本心を隠している。だから、改めて、もう一度聞く。キミにとっての居場所はなんだい?」
俺の心を見透かす目を見て、半血族の彼女はギリッと歯軋りした後、立ち上がって俺に指さす。
「貴方になにがわかるっていうのよ! 泥水を啜り、残飯ばかり食べていた私の気持ちを、貴方のような貴族になにがわかるっていうの! ズィルバー・R・ファーレン!!」
彼女が俺の名前を明かした。
俺の名前を明かされ、フードを被る彼女たちも俺に警戒の目を向ける。
彼女たちに警戒の目を向けられ、俺は内心、嫌気をさす。
「俺のことを知っていて当然か」
なんせ、“迷宮”踏破は学園中に広がった。俺の顔を見ようと生徒たちがざわめいたのも夏期休暇前から気づいていた。
「当たり前でしょう。貴方のことは夏期休暇前から知っている。そして、貴方を倒したいと心から願っていた」
半血族の彼女が俺の戦えるのは願っている言い方。
俺は彼女の瞳を見る。嘘をついているようではないけど、本心のようには見えなかった。
なぜ、俺を倒そうと思ったのか些か疑問である。
「なぜ、俺を倒したい?」
「私が目指す道は覇道。最強の道しかない」
「覇道…か」
久しぶりに聞いたな。その話。
それはかつて、俺が目指した道。だけど、その道の果てにはなにもない。それが答えだ。
一人で生きていけるほど、この世界は甘くないのを俺は知った。知ったからこそ、俺はリヒトとレイの夢を叶えさせる手伝いをすることにした。
人とは守る人があれば強くなれる。俺は果てを見たからこそ分かった。
守る者がなければ、そいつの言っていることは虚勢だと思い知らされる。
「いくつか聞く。なぜ、俺を狙う」
「貴方は“迷宮”を踏破した男。学園最強とも呼び声が高い。その貴方を倒して、私は最強になる。既に“ゲフェーアリヒ”内では貴方の首を捕ろうと躍起になってる!」
「そうか。次、キミを含め、“ゲフェーアリヒ”という場所にはどれほどの強者がいる?」
「聞いてどうする?」
「別に…ただの興味だ」
正確に言うなら、キミたちを倒すための戦力調査だ。
「私を含めた九人ばかりいる」
「つまり、キミは彼らを出し抜いて、俺を倒したいというわけか」
「そうよ。だから…」
半血族の彼女はマントの中に隠していた槍を取り出し、穂先を俺に向け、叫んだ。
「だから、ここで死んでもらう!」
彼女の叫びを聞きつつ、俺は“天叢雲剣”をいつでも抜けるように所作する。
「最後だ。キミに守るべき者はあるのか?」
「守るべき者…?」
彼女は俺の最後の問いに眉を顰める。
俺が問うた内容は理解できよう。ならば、答えてほしいものだ。
そして、彼女は槍を強く握り、答えてくれた。
「そのような者。このノウェム。ノウェム・Y・アルアに必要ない!」
力強く――。
彼女の答えを聞き、俺は鼻で笑う。
「そうか。残念だ」
俺は左手で“天叢雲剣”を抜く。抜いた魔剣を右手に持ち替えて彼女に目線を向ける。
「そこまで、俺を倒したいなら相手になってやる」
フッと俺は軽く微笑する。
「気に入らない」
彼女、ノウェムは俺が笑っているのが気に入らず、敵意を見せる。
「気に入らないなら、倒してみろ」
俺は挑発する。
「言われずとも!」
ノウェムは地を蹴って槍で刺突してくる。
俺とノウェム。
両者の戦いは彼女たちが食べていた広間で繰り広げるも、俺と彼女では力の差があったのか。すぐに勝負がついてしまった。
ハアハアと肩から息を吐き、膝を突いているノウェム。
彼女が手にした槍も今、俺が持っている。
俺は“天叢雲剣”を肩に乗せたまま話しかける。
「覇道を突き進むために俺を倒そうと躍起になっているようだが、そんなのただの足がかりなんだろう。本当の狙いはなんだ?」
俺は殺気を放ちつつ、ノウェムに問いかける。
彼女は俺の殺気を受けても、臆さず睨んでくる。
「なに、この殺気は……」
「こいつは幾星霜の戦いを経て、鍛練を重ねに重ねたことで至った極致。今のキミじゃあ、俺に勝てないよ」
「さすが、“迷宮”を踏破しただけはある……それだけ強いなら、“迷宮”踏破は当然ね」
「いや、俺は“迷宮”を踏破してもキミたちと戦うと考えて、毎日、修行している」
「は?」
ノウェムは俺が修行している意味が分からず、呆けた声を出す。
「それだけ強いのに、強くなる必要があるの!?」
「仲間を、大切な友を守るために強くなる。それだけだ」
俺が強くなろうとしている理由を聞き、ノウェムは怒りを募らせる。
「ふざけないで!! 貴方のような強者に守る者なんていらないはずよ!! 守られる奴なんて所詮、弱者!! そんな弱者。斬り捨てるべきよ!! だったら、私が貴方の大切な友を殺してやる!!」
ハアハアと、声を荒げ、怒鳴るノウェム。
俺は彼女の言い分を聞き、ハアと嘆息をつく。
「そうか」
だったら、始末するか。
惜しい奴なんだがな。残念だ。
俺は肩に乗せていた“天叢雲剣”をノウェムの喉元に突きつけようとしたとき――。
「待って!!」
と、フードを被る彼女たちがノウェムを守るように割って入る。
彼女たち三人がとった行動に俺は少々、目を見開く。
「お願い。ノウェムちゃんだけは殺さないで!」
「ノウェムがいないと私たち落ち着いて眠れないの」
「ノウェム。私たちのために、いつも、食べ物を取ってきてくれる」
「だから、お願いします。彼女だけは殺さないで。代わりに私たちの命を差し上げます」
身体を張って、ノウェムを生かそうとしている。
彼女たちが取った行動にノウェムは叱咤を飛ばす。
「リィエル、ルアール、ティナ。出しゃばるんじゃない。下がっていなさい!!」
俺はフードを被る彼女たちの行動に呆気を取られる。
「……おいおい。なんだよ……ノウェムも守られているじゃないか」
俺に指摘され、ノウェムは言葉を出せなくなる。
「いいか、ノウェム。大切な友のために命を張れる…彼女たちが見せたのが本当の強さってものだぜ。キミの強さはただの強がりだ」
俺の言葉を聞き、ノウェムはその場に座り込む。
「なにも背負わないで一人で戦うのは誰だってできる。俺は大切な友を守るために強くなり、戦うんだ。その方が粋だと思わないか?」
と、俺は言い切る。
俺の言い切りを聞き、
「私が…強がりだって…?」
とぼやく。
「キミの強さはそんなものだったのか? キミの本心は彼女たちと一緒にいられる場所がほしかっただけじゃないのか?」
「ッ!?」
俺に心を見透かされ、言葉を詰まらせるノウェム。
見透かされた後、顔を俯かせる。
すると、俯かせた顔から滴り落ちる滴が見える。
「私だって…私だって…ティナたちと一緒に…いられる場所が…ほしいよ……でも、周りの人たちが私たちの居場所を邪魔する! “ゲフェーアリヒ”で戦い続けるばかりで、安心して眠れない! 私たちにとって、学園やこの国じゃあ“自由”になれない!!」
泣きじゃくりながらも本心を露わにしたノウェム。
泣きじゃくる彼女に駆け寄り、もらい泣きするフードを被る彼女たち。
その際、パサリとフードが取れ、露わになる獣耳。しかも、狐の耳と猫の耳。
これには俺も呆気をとられるもノウェムの気持ちを、本心を聞き、俺は彼女に槍を返す。
「ここまで追い込まれているとはな……」
これは早急に解決しないといけないな。
“天叢雲剣”を鞘に納め、近場の堀に腰を下ろす。
「キミたちの本心も聞けた。そして、これからどうする? 俺に負けたとなれば、学園側とて、放置するはずがない。おそらく、追い出される。そのことは考えているのか?」
「でも、学園は私たちを守るために入学させたんじゃあ……」
「そんなの容認されるか。向こうにとって、キミたちは隔離対象。逃げられないように“ゲフェーアリヒ”という場所に閉じ込めさせているに過ぎない。外に出て、食べ物を盗むのを今まで無視していたのはいつでも、追い出せる算段を作らせるため……連中にとって、学園の体裁を守りたいんだよ」
「そんな…」
「私たちにこれからどうすればいいの…」
意気消沈するノウェムたち。
そんな彼女たちのために一つだけ救いがある。
俺は夏期休暇前からそれを考え続けていた。
「一つだけある」
「え?」
「学園から追放されず、安心して暮らせる方法をな」
俺はここで彼女たちを救える方法を提示する。
「そのためには時間がかかる。俺の考えている計画に必要な時間がな」
俺はフッと不敵な笑みを浮かべる。
「私たちを救う?」
「それって、本当?」
「でも、どうやって……」
疑問符を浮かべるノウェムを守ろうとする彼女たち。
だが、ノウェムは俺の言葉を推測混じりだが、答える。
「私たちの力を生かせる環境を作る、だな」
おっ、意外とノウェムは頭がいいようだな。
「その通り。キミたちは人族と違い、特筆的に秀でている部分がある。それに個々の実力も高い。それを生かせる環境さえ作れば、学園や国からも手を出せなくなる」
「だが、それを国が容認するとは思えん」
「皇帝陛下に俺がすることに手を出さないよう言い含めているし。学園長にも言質を取っている。文句を言われる筋合いはない。むしろ、今まで関与しなかった学園に手を出したくないのが本心だ」
「だけど、“ゲフェーアリヒ”にいる彼奴らはどうする? 彼奴らはそうそう言うことを聞かないぞ」
まあ、そうだろうな。口先だけなら掃いて捨てるほどいるし。
「それも承知だ。口先だけじゃなく、実力を俺についてくるほどの実力を、な」
俺はニコッと微笑む。
「ッ!?」
途端、ノウェムは顔を赤くし、そっぽを向く。
彼女はそっぽを向きながら、俺に暴言を吐く。
「バカみたい」
「バカで結構。世の中、天才とバカは紙一重とも言う。バカなことをしないと誰もついてこないだろう」
「そう…かもね…」
ノウェムは俺に目を合わせずに言い返す。
ん? どうしたんだ?
俺は疑問符を浮かべる。
だけど、ノウェムについてくる彼女たちだけは察したのかクスクスと笑っていた。
俺は彼女たちに学園へ帰るよう告げる。
「今日はもう、“ゲフェーアリヒ”に帰りな。今は学園にいた方が比較的安全だ。あと、今日のことは内緒しておいといてくれ。近いうちにかちこみに行くからよ」
と、俺は彼女たちに告げる。
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