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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
問題児騒乱
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英雄は途轍もなく長い修行を終える。

 (夏期休暇の間の修行内容をダイジェストで述べよう。)←前半まで。


 修行開始日から、俺はずっと、身体を鍛えることにした。

 両性往来者(トラフィックダイト)による性転換による副作用を身体に馴染ませる必要があるからだ。

 体力作り。剣を扱うだけの必要な筋力。なにごとも動じることのない精神力を鍛えることにした。

 千年前は自分の体質に慣れるのに時間がかかった。だからこそ、この空間を使って自分の体質の特徴を再確認する。

 全ては仲間を、ティアたちを守る。それだけのためにひたすら修行に打ち込む。

 今頃、彼奴らはそれぞれの方法で修行しているだろう。山籠もりとか強者を相手に模擬試合をしているかもしれない。

 それはそれで良い。心身ともに鍛え、強敵と死合う。

 それが強くなる一番の近道。なにより、実戦経験を積ませる必要がある。

 俺は千年前で培った経験がある。これからも強敵と戦い、経験を積む。それだけのことだ。

 なにより、俺に必要なのは我流を扱いこなせるだけの身体を作らないといけない。

 “アステリオン”の戦いで痛感した。

 身体が出来ていない状態で“神剣流”を使った代償が非常に重い。一週間以上、全身筋肉痛で寝込む羽目になった。

 それだけは絶対に避けないといけない。

 “アステリオン”を見て思ったのは、俺の敵が仮に奴らなら、かつての仇敵を眠らせている違いない。

 仇敵から皆を守るためにも俺が強くならなければいけない。

 俺は逃げないし負けてはならないのだ。皆を守るために――。

 という思いで俺は死ぬ気で身体を鍛える日々を送った。


 外では十数日が経過した辺りの頃、俺たちがいる空間は十数年いや百年以上の時が経過していた。

 時間の感覚がおかしくなり、気が狂いそうだ。

 無限の時間に等しい場所でただ身体を鍛えるのは地獄に等しい。こんなのはちっぽけなものだ。

 千年前に味わった地獄に比べれば、まだマシだ。


 身体作りで出来上がった身体を解す必要がある。

 その相手にレインがいるんだが、彼女ばっかりだと味けがない。だからこそ、神獣と星獣がいる。

 粋な計らいでもするつもりなのか? リヒトは……。

 まあ、これはこれで感謝するとしよう。だが、神獣と星獣は“アステリオン”と同じように神代の遺物。本来、今の時代に合ってはいけない奴だ。ここで始末しておかないといけない奴だ。

 だけど、相手は神獣と星獣だ。どいつもこいつも“アステリオン”と同じように一筋縄ではいけない怪物だ。心してかからないとな。


 修行を始めて、一ヶ月が経過した。

 広大な草原にいる空間では時間が数百年の時が経過したと思われる。

 これほどの時を経過していたら、凡人や常人だったら、弱音を吐くことだろう。

 人間とは同じことを続ける事に耐えきることはできない。必ず、どこかで心が壊れる。

 常人だったら、だ。

 一部の超人いや体質持ちは自分の体質を理解するまで一生を費やし解明しようとするも解明できずに一生を終えることがある。

 いや、そんなことを語っても意味がないな。

 同じ場所に一人でいるのは孤独でしょうがない。

 千年前、幼少期。俺は孤児としてスラム街にいて、特異体質のせいで化物扱いされ、交流もできず、一人でいることが多かった。

 孤独とは人の心を壊れやすくする。

 あの時、俺は壊れかけた心を救ってくれたのがリヒトとレイの二人。そして、レインだ。今も俺の傍にはレインがいる。いや、今の時代だったら、ティア殿下や皆がいる。

 皆を信じることが俺にとって重要かもしれないと思い至る。

 俺はもう一人じゃないんだな、と改めて痛感した。


 そして、ちょうど、一ヶ月過ぎたところで俺はレインに話しかける。

「それじゃあ、そろそろ出るか」

「そうね。ここにずっといると気が狂いそうだし」

「そうだな」

 と、俺たちは、この広大な草原とはおさらばすることにした。

 理由? 理由は簡単だ。()()()から。

 だって、強い者がいないところで身体を鍛えても面白くもない。まあ、確かに強くなるために黙々と修行できるならうってつけだろうが、ここで戦えとなれば、不向きだ。

 やはり、ここは修行する場としていい場所だといえることだな。

「ふぅ~。ここで修行したことで自分自身の体質を見つめ直せた。月齢期が来ても、身体に不調は起きないだろう」

「それはそれで悲しいわね。“ヒーリング”が出来なくなるから」

「そうか。案外、そうとも言えないぞ」

「どうしてよ」

「いいか? “ヒーリング”ってのは他者の内在魔力(オド)を調節する魔術だ。普段は俺の身体の不調に使われていたが、本来の用途は妊婦さんや病人のために使うことが多い」

「つまり、今後は病気で患った場合や妊婦さんに使えばいいってこと?」

「ああ。でも、エルダ姉さんのような“魔力過多体質”がいないとも限らないからな。使えるだけ損はしない」

「ふぅ~ん」

 と、レインは“ヒーリング”というのをまた、改めて知れた。

「っていうか、レイから聞いていないのか。“ヒーリング”に関してはレイから聞いたんだろ?」

 俺に自己魔力調整(セルフシャフト)を教えてくれたのはレイだ。彼女から“ヒーリング”のことを聞かれておかしくない。

「やり方だけ教えてもらって、用途とか聞いていなかった」

「全く……」

 こういうところは俺に似ているな。

 と、俺たちは草原の端のところまで来た。ちょうど、ヴェールがあった部分だ。俺が「姿を見せよ」と声を発すると、ヴェールが消え、祭壇にある台座が目に入る。

「ようやく、外に出られるな」

「そうね。ここだと時間の感覚が狂いそう」

「二度と来たくないな」

「そうね」

 と、俺とレインは会話しつつ、草原を出て、祭壇にある台座に来た。俺たちが出たところでヴェールが再び、起動し部屋の出入口を覆い隠された。

 久々に感じるな。まあ、それでも宝物庫の中だけど――。

「さてと、外に出ますか」

 屋敷に帰ったら、ルキウスあたりから説教を受けそうだけど……。俺は内心、ため息を吐きつつ、レインと一緒に外へ出る。


 宝物庫の外に出れば、最初に差し込むのは太陽の陽射し。

 さすがに夏というだけあって、外は暑苦しいが、久々に生の日の光を浴びた気がする。

「久々に外の空気を吸った気がする」

「ほんとうね。今まで、地獄とも呼べる草原にいたら、外が懐かしく思える」

「それじゃあ、屋敷に帰るか」

「そうね」

 と、俺たちは宝物庫の扉を閉め、屋敷へと帰路した。


 なお、屋敷に帰ってきたら、案の定、ルキウスからこっぴどく説教されたと記載しておこう。

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