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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
問題児騒乱
74/302

英雄らは魔剣を選別する。

 皇宮内裏をあとにした俺たち。

 馬車の中で依頼の再確認をする。

 なお、俺が学園からの頼みごとを受けたことにティア殿下はというと。

「あんたのことだから。今更、文句は言う気はないけど、この依頼を受けてよかったの?」

「言いたいことは分かる。“問題児”のこともそうだが、奴らを束ねさせるには、それだけの力が必要不可欠」

「力…ね」

「まあ、それは言えてるな。“問題児”といえど、帝国指名手配にもされるほどの血を受け継いでいるとなれば、それだけで実力も折り紙付き」

「厄介な依頼を受けたわね」

「ねえ、ズィルバー。僕は時間がほしいんだけど……」

 ジノは己を鍛えるために時間がほしいと進言する。

「もちろん、ジノの言うとおり、時間がほしい。やり方は俺たちに一任させた。つまり、時間はある。ひとまず、俺たちは“迷宮”の実習で見つけた課題の克服に専念してほしい」

「“問題児”と相手取るために?」

「ああ、必要なのは時間、力、情報だ。情報に関しては後日、学園あるいは国から渡してくれるとして、今、俺たちに必要なのは分かっているな」

 俺は確認を取るよう、ティア殿下たちに促す。

 ティア殿下たちも分かっているので、コクッと頷いた。


「明日、宝物庫に行こう。宝物庫にある聖剣と魔剣を選別しないとな」

「選別?」

「それって、まさか……」

 俺の言葉にニナは首をかしげ、ナルスリーは言葉の真意を汲み取る。

「そうだ。これから使っていく得物を選別する。いつまでも学園が支給する剣じゃあ、心持たないだろう。これからに備えて、自分に合う聖剣と魔剣を選別する」

 異論はないか? と、俺は皆に問いかける。

「異論はないけど、どう選別するの?」

 ティア殿下は選別方法が気になるようだ。

「理想なのは魔剣を掴んで、自分に合うのを選別するのがいいんだけど、魔剣は物によっては平気で人格を歪ませるのもある。おいそれと、一本一本、選別はできない」

「じゃあ、どうするの?」

 うぅ~んと頭を悩ませる俺。

 俺は前に魔剣を暴れ馬と例えた。馬は性格がある。いや、正確に言うなら、馬は人の感情を読み取るのに長けている

 気に入らない人物は平気でバカにするし。相手が恐れを抱けば、落馬させようとする。

 だが、相手との相性が良ければ、思った通りに動いてくれる相棒だ。

 例え、技術が良くても相性が悪ければ意味がない。


 魔剣を暴れ馬に例えたのは使い手の相性もそうだが、魔剣は弱い奴には従わん。

 弱い奴とは心の弱さのことを指す。

 心が弱ければ、魔剣はそこをつけ込み、使い手を死なせようとする。逆に心が強ければ、魔剣は言うことを聞き、時を経て、階梯と呼び名が変わる。

 まあ、魔剣の選別は俺たちだけでやるのは危険だな。

 と、なれば――。

 俺は悩ませた結果、こうすることにした

「俺たち一人一人で見極めるしかない」

「それって、つまり……」

「ああ、自分の感覚で合うか合わないかを決めるしかない」

 無謀に近しい。それは違いない。

 だが、そうでないと、この先、困難に立ち向かえない気がするからな。

 俺の無謀に近しい言葉にナルスリーが俺に言い返す。

「それしかないのは分かるけど、私たちだけでやるの?」

「もしものことがあった場合、どうするの?」

 ニナも便乗して問いかける。

「もちろん、それにはレインだけじゃなく、第三者を交えるつもりだ」

 そうじゃなきゃ、俺でも抑える自信がない。

「まあ、ひとまず、明日、宝物庫に行ってからだ」

 ここで俺が話を区切った。




 皇宮内裏。

 帝の間という場所がある。

 内装は豪華絢爛。権力の象徴ともとれる部屋だ。

 そこにガイルズ宰相がいた。彼の目の前に座るは、第四十九代目皇帝ウィッカー。

「ガイルズ。貴殿はズィルバーをどう見える?」

 皇帝はワインを片手に、会議室での謁見とは違った目をガイルズ宰相に向けた。

「どうと言いましても、あの少年は今の時代を変えうる力を持っている気がします」

「そうか。余も同じだ。だが、かの小僧は余すらも斬り伏せるだけの力を持っている。時としては国に楯突く可能性も秘めている」

「その時は皇族親衛隊を差し向けましょう。若い芽は早めに摘むに越したことがありません」

「まあ、その時があればの話だ。かの小僧には、十数年前の不祥事の後始末をしてもらうとしよう」

「かの少年の処遇は分かりましたが、他の貴族はいかがなさいます。特にエドモンド殿下を支持する貴族はかの少年にとって邪魔なはず……」

「ふん。古貴族は己の保身しか考えん。腐敗した貴族共が、その典型だ。そういう意味では五大公爵家の方がかわいく見える」

「五大公爵家ですか」

「なんだ? 今更、公爵家に不服なのか?」

「いえ、そうではありません。自分は五大公爵家が特別、地位が優れているのか気になっている所存」

 ガイルズ宰相は五大公爵家の存在に疑問視している。

「ふむ。余もそれほど知らないが、五大公爵家は初代皇帝に仕えた初代五大将軍の子孫の家系だ」

「初代皇帝に仕えた“初代”五大将軍」

「我らが信仰せし[戦神ヘルト]もその地位に就いていたという話。初代皇帝はいずれ、来る大きな戦争に備えて、五大公爵家を存続せよと継承され続けている」

「いずれ、来る大きな戦争……それはいったい……」

「分からぬ。だが、いつ、戦争が来ようとも、余は迎え撃つつもり。そのためにも古くさい貴族は没落させなければならん」

「檻に入れて、ゆっくりと死の淵まで追い込ませましょう。擦れば、新たな貴族が頭角を現し、この国はさらに豊かになることでしょう」

 ガイルズ宰相の言葉を聞き、皇帝はワインの香りを嗅いだ。嗅いだ後、グラスを床に落とした。派手に砕け散ったグラス、赤い液体が高価な絨毯にシミを作っていく。

 その様を眺めながら、皇帝は笑みを浮かべた。

「余は衰退も、停滞も、嫌いだ」

 皇帝は砕け散った破片を片付けようとするガイルズ宰相を手で制する。

「捨て置け。それよりも、かの小僧が一躍有名になったことで他の公爵家の跡取りも負け時と動くことだろう」

「そうなれば、地方の学園の問題も解決できますね」

「ところで、かの小僧の実力はどれほどのものだ」

「それでしたら……この者たちに任せましょう」

 ガイルズ宰相が手を叩くと、背後からスッと漆黒の服を着た男が現れた。

 片膝を突き、男が言葉を紡ぐ。

「……正直に申しますと、かの少年は我々では推し量れることはできません」

 皇帝とガイルズ宰相の眉がピクリと動く。

 漆黒の服を着た男は、皇族に仕える諜報機関“聖霊機関(デ・セカンム)”の中でもそこそこの実力者。

 その彼が推し量れないとなるとは、ガイルズ宰相は落胆とともに言葉を吐き出した。

「それほどのものか」

「申し訳ありません」

 悔しそうに男の頭が項垂れる。

 皇帝は、かの機関がどのようなものなのかを知っている。知っているからこそ、(ズィルバー)の脅威を改めて認識した。

「処分は追って沙汰する。今は休め」

「ハッ……」

 影と同化するよう男は消えた。

 ガイルズ宰相は嘆息すると校庭に向かって、頭を下げた。

「陛下。人選が甘かったようです。申し訳ありません」

「構わん。“聖霊機関(デ・セカンム)”の実力は余も知っている。かの小僧は余たちの想像を超えているということだ」

「そうとも取れます。後日、謁見に参加した親衛隊からも意見を聞いておきます」

「うむ。そうしてくれ」

 皇帝はまぶたを閉じ、小さく息を吐いた。

「学園に“聖霊機関(デ・セカンム)”を忍び込ませよ。かの小僧の動向を調べるだけでいい。余計なことをするな、も言っておけ」

「かしこまりました」

 その言葉を最後にガイルズ宰相は帝の間を退出した。




 次の日。

 俺、ティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルそしてレインは宝物庫にいる。

「これが宝物庫の財宝ね」

「うわぁ~。本当に金銀財宝ばっかり……」

「この宝石の冠なんてすごくない!?」

 と、引率に来ているエルダ姉さん、ヒルデ姉さんそしてエリザベス殿下。

 彼女たちは生徒会代表として査察に来てもらっている。

 まあ、もしもの時の保険だ。

 魔剣で暴走した際、生徒会の権限で封鎖してほしい。そういう願いで来てもらっている。

 今は宝物庫の財宝を見て回っている。

 その間に俺は財宝の詳細リストに書かれていた()()()を回収する。

 キョロキョロと探していると、祭壇と思われる台座を見つける。

 台座には牛革でできたポーチとベルトが置かれていた。

 そのポーチとベルトに俺は懐かしさが込み上げる。

 俺はすかさず、ポーチの中身を見る。中には二つの香水瓶。液体そのものに風化した痕跡はなし。

 今でも現役として使える。

 俺にしか扱えない神代きって道具。まさか、こんなところで見つかるとはな。

 こいつは宝物庫を見つけた俺が扱うとしよう。ガキみたいな屁理屈だが、致し方なしだ。

 俺は台座のポーチとベルトを取って、ベルトを腰にはめる。

 うん。似合うな。ポーチの位置も左脇腹でいいだろう。この方が取りやすい。と思い、俺は祭壇から離れようとする。離れようとした際、祭壇の向こう側のカーテンヴェールを見る。それもジッと目を凝らす形で……。

「まあ、いいか」

 なにもないだろうと思い、無視することにした。


 俺が宝物庫にある一角。聖剣と魔剣がある一角に来たら、既に全員が集まっていた。

「もう集まっていたのか?」

「あんたが遅いのよ。どこでなにをしていたのよ?」

「ちょっと、気になったことがあってな」

 ティア殿下のキツイ追い詰めに俺はやんわりと受け流しつつ答える。

 俺の答えに「ふぅ~ん」と見てくる。だけど、ティア殿下は興味なしげに納得した。

「それじゃあ、聖剣と魔剣を選別しましょうか」

「そうだな」

 俺たちは陳列されている聖剣と魔剣を見る。

 ふむ。改めて見ると壮観する。これほどの聖剣、魔剣を目にするとは――。

「ひとまず――」

 俺は陳列されている剣を掴み、鞘から抜き、刃を見てみる。

「ちょ、ちょっと!?」

 いきなり、俺が取った行動に動じてしまうティア殿下たち。だが、俺は彼らを無視して、剣の刃を見る。

「なるほど。こいつは聖剣だな。大人しい奴だ」

 呟きつつ、剣を鞘に納め、陳列棚に戻す。

 陳列棚に戻したところで皆が押し寄せてくる。

「ど、どうした?」

 押し寄せてくる彼らに俺は戸惑いつつ聞く。

「どうした、じゃないよ!?」

「なに、急に剣を触ろうとするのよ!?」

「もし、魔剣だったら、どうする気!?」

 エリザベス殿下、ヒルデ姉さん、エルダ姉さんの順に言い切ってくる。

「いや、聖剣か魔剣かのどっちかはわかるよ」

「「「どうやって!?」」」

「えっ? 感覚……」

 俺は至極当然。当たり前の言葉を口にする。

 でも、俺が言った言葉にティア殿下たちは固まってしまう。レインまでも固まってしまう始末。

 なお、固まりから解かれても俺を変人まがいな目を向けられてしまう。

「あれ? 俺……変なこと言った?」

 俺の問いに皆、頷いた。

 なんか、ショックだな。まあ、いいや。俺は陳列棚から剣を取っては感覚で聖剣か魔剣かを見極める。

「この剣は…聖剣。この剣は…魔剣。この剣は――」

 俺が全部、見極めてしまい、聖剣と魔剣に仕分けする。


「ふぅ~ん……随分と魔剣が多いな」

 俺が仕分けしたことで聖剣と魔剣の本数が分かった。

 陳列されている剣の本数は百二十五本。そのうち、聖剣が五十三本。残りが魔剣。

 あと、俺の仕分けを、ご丁寧にメモを取ってリスト化しているティア殿下とエリザベス殿下。

 俺は聖剣と魔剣を並び替えた。並び替える際、感覚を通して強烈な力を感じる剣もあった。

 ひとまず、それは見ておいといた方がいいな。

 俺は強烈な力を放つ魔剣を手に取り、抜いては刃を見る。刃の波紋は禍々しさが物語っている。まるで、炎のようなものだ。

 見るだけでわかる。こいつは俺の魔力を根こそぎ奪い尽くそうとしている。いや、今にでも奪おうとしている。

 それが肌を伝って感じる。俺の本能が言っている。“こいつは危険だ”と――。

 俺は思わず、フッと笑みを零す。だからこそ、手懐けてみたい。扱いこなしてみたいという欲求が出てしまう。

「それにしても、こんな奴まであるとは……流石、“迷宮”の宝物庫…恐れ入る…」

「ズィルバー。その魔剣を知っているの?」

 ヒルデ姉さんが今、持っている魔剣のことを聞いてくる。

「噂の産物としか聞いたことがない。この波紋を見れば、信じたくなるものだ」

 だが、これで確証した。この聖剣、魔剣を鋳造したのは間違えなく……()()だ。

 俺は今、手にしている魔剣の銘を明かす。

「神獣、星獣すらも斬り捨てる魔剣――“天叢雲剣”」

「神獣、星獣すらも…斬り捨てる…」

「魔剣の階梯も平気で最上位に位置する魔剣だ。よくこんなものを陳列していたな。俺は不思議でしょうがない」

「そんなもの。早く戻しなさいよ!!」

 ヒルデ姉さんは俺の身を案じて、早く戻すように言い放つ。だが、俺としては口角を上げる。

「むしろ、俺はこいつが気に入った。こいつは俺の物にする」

 俺の物にする宣言にヒルデ姉さんだけじゃない。ここにいる全員が「えっ?」と目を見開く。

 いや、動揺しているな。

「ズィルバー!! そんな、おっかないもの。自分の物にしないでよ!?」

 ヒルデ姉さんは俺に怒鳴ってくる。

「いや、ヒルデ姉さん。こいつは一際、恐ろしい魔剣だ。おいそれと使う気がない」

「だったら――」

「むしろ、こいつを使いこなせたら、俺はますます強くなると思っている」

 俺は目をキラキラと輝かせる。

(うわぁ~。持つ気満々じゃない)

 と、ヒルデ姉さんは俺を見て、引き気味になる。

「それよりももう一、二本はほしいな」

 と、俺は次なる魔剣を物色する。

 俺の感覚でひときわ、強く感じたのはこいつとこいつだ。

 ヒルデ姉さんは引き気味になりつつも俺が持つ剣を見る。

「そ、それは……」

「姉さん。顔、真っ青だよ」

 指摘するもヒルデ姉さんは無視し、俺が持つ剣を注視する。

 まあ、ひとまず、剣の銘を明かした方がいいな。

「こいつらも噂でしか聞いたことがない。蒼銀の方は理を斬り伏せる魔剣――“虹竜”」

「…“虹竜”」

「こっちは地の底まで斬り伏せる――“閻魔”」

「…“閻魔”」

「両方とも“天叢雲剣”よりも階梯は一つ落ちるが魔剣としては最高ともいえる……って、ヒルデ姉さん?」

 俺はヒルデ姉さんを見る。姉さんは“天叢雲剣”とは打って変わって、うっとりと魔剣に見入っている。

 不味いな。ヒルデ姉さん。魔剣に魅入られている。

 俺はすかさず、鞘で姉さんの頭をどつく。

「いったい…なにするの、ズィルバー!?」

「ヒルデ姉さんが()()()()()()()()()()から。引き戻したんだよ」

「魔剣に魅入られた?」

 おいおい、それを知らずに引率に来ていたのか。全く、世話のかかる姉だぜ。思わず溜息をついてしまう。

「いいですか。ヒルデ姉さん。魔剣ってのは見る者を魅了する魔性の剣。弱い奴には従わない」

「弱い奴には従わない?」

「弱さとは心の弱さ。意志の弱さ。魔剣に魅入られてしまっては心が弱いという証拠。ヒルデ姉さん。魔剣を持つと人斬りの道に進んじゃうよ」

 俺はヒルデ姉さんの将来の身の危険を案じた。

 俺が口にした魔剣の恐ろしさを聞いて、ヒルデ姉さんだけじゃなく、エルダ姉さん。いや、ここにいる全員が驚きを露わにする。

 俺は自分が選出した魔剣を腰に納める。

「魔剣を扱うのもそうだが、力にはそれ相応の覚悟がいる。特に俺たちは問題児と対峙することになる。おそらく、生死を分ける戦いになるのは間違えない。時としては仲間のため、生きるために敵を斬らないといけない。それだけの覚悟がないなら。魔剣を持つな。さすがの俺も人斬りに堕ちた奴まで擁護はしない」

 キッパリとした物言いをする。

 俺の物言いにティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルの五人はハアとため息を吐つく。

「なにを今更……」

「どうせ、オメエについて行くと決めたときからこうなるのは分かっていたよ」

「人斬りに堕ちるぐらいなら、とっくの昔に自分の命は自分で絶つ」

「死ぬなら剣士として死ぬ」

「驚いたのは魔剣のすごさに驚いただけで臆したわけじゃない」

 彼らは感覚的に手頃な魔剣を選出する。

 しかも、ご丁寧に二本も選出しやがった。

「おいおい、いいのか? 魔剣を二本選出して……」

 一応、心配の声をするも彼らははっきり言い返してくる。

「ハッ、オメエが三本も魔剣を選出してなに言ってるんだか」

「ぐう…」

「ぐうの音は出るのね」

 ハアと呆れ返られるティア殿下たち。

 彼らの行動にアワアワと慌てふためくエリザベス殿下たち。

 だけど、彼女たちにレインがフォローする。

「諦めなさい。こうなった彼らは梃子でも動かないから」

「レイン様」

「それに――」

「それに?」

 レインが言葉を途中で止めたことに首をかしげ聞き返すエルダ姉さん。

「ズィルバーはこう見えても仲間思いの男だから。そうそう見捨てたりしないよ」

「おい、レイン!?」

 レインめ、余計なこと言いやがって!!

 俺が仲間思いだと知られて、皆から笑われてしまった。


 なお、この時、ティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルの五人が選んだ魔剣はというと――。


 ティア殿下が選んだ魔剣は――。

 世を斬り捨てる魔剣――“蛮竜”。と、天をも斬り裂く“天羽々斬”。の二本。


 ニナが選んだ魔剣は――。

 鬼をも斬り殺す魔剣――“童子切”。と、魔を斬り裂く魔剣――“黒漆剣”。の二本。


 ジノが選んだ魔剣は――。

 妖を斬り裂く魔剣――“鳴狐”。と、怪異を斬り裂く魔剣――“小烏丸”。の二本。


 ナルスリーが選んだ魔剣は――。

 鵺を斬り捨てたとされる魔剣――“祢々切丸”。と、生き血に塗れた魔剣――“村雨”。の二本。


 シューテルが選んだ魔剣は――。

 神を滅ぼそうとする魔剣――“村正”。と、星獣を斬り捨てる魔剣――“天之尾羽張”。の二本。


 俺は彼奴らが選んだ魔剣を見て思い呟いた言葉は――。

 彼奴らも俺に負けず劣らずの魔剣を選んでいやがる。負けず嫌いなことだ。

 まあ、それはそれで嬉しいがな。


「エリザベス殿下」

「何かしら?」

 俺はエリザベス殿下に確認を取るために尋ねる。

「そろそろ、夏休みに入るんですよね?」

 いろいろとあって、時間は分からないだろうが、今は夏間近。

 いや、もう、夏に入っている。なので、学園では既に夏期休暇に入ろうとしている。

 だが、一年一組と二組は“迷宮”での実習で心身ともに傷ついた者がいると聞く。

 なので、今は休講措置を執られているが、いつ、再開するのかすら分からないのが現状だ。

 再開する見込みをあるのかを尋ねる。

「残念だけど、学園も今、てんやわんや状態で授業が再開する目処が立っていないのよ。生徒会の方でも具体的な案がないか打診されているけど……」

「生徒会でも別件が入っていて、手を出せない状況、と言うわけですか」

「その通り」

 ふむ。生徒会でも手を出せない状況、案件……。推測の域だが、“問題児”の線が濃厚だな。学園側としてもすぐにでも、再開したいのだろう。それができないというのは――。

「もしかして、ですけど……()()()のことですか?」

 恐る恐るだが聞いてみる。

「それもあるわ。ここは生徒会会長の私とエルダとヒルデの間でしか話し合っていないけど、ズィルバーくんたちが一躍有名になったことで一年生の間では貴方を支持する者が出始めているのよ。もちろん、反対する者もいる。その中で一際ざわついているのが“問題児”」

「やはり、そうか」

 俺は座れそうな場所に腰を下ろし、話の続きを聞く。

「“問題児”が貴方に興味を持ち、近頃、動きだそうとしている。もちろん、今すぐにじゃないわよ。良くて夏期明け。それまでは彼らも動かないと思う」

「なぜ、そう言えるんですか?」

 そこまでの情報なら、学園の講師や職員、生徒会の人たちでも対処できるはず……。

「“問題児”の巣窟“ゲフェーアリヒ”。彼処は完全なる実力主義。不可侵領域。無法地帯と化している」

「そこまでの情報を仕入れられるということは内通者。いや、モンドス講師からの情報って訳ですか」

 俺は、その情報の発信源を見抜く。

「その通り。モンドス講師からの情報よ。だから、しばらくは“問題児”は動かないはずよ」

 エリザベス殿下から有力な情報を聞き、俺は単純だが、案を出す。

「じゃあ、俺たちは夏期休暇を使って、実習を見つけた課題を克服する時間にあてる。各々で足りないところで創意工夫して実力を付けろ。“問題児”と一戦交える前まで穏便に事を進めよう」

 と、俺は案を出す。

 俺の案にティア殿下たちは、異議無し、と頷いた。

「じゃあ、夏期休暇を使った修行期間だ。“迷宮”の踏破するまで死にかけたことを忘れるな。次は死にかけることがないように強くなること。俺が言うことはそれだけだ、いいな?」

「「「「「もちろん!」」」」」

 と、この日より、修行期間に入ることにした。




 そして、数日後、学園が休講措置を執っていたクラスは夏期休暇明けに授業数が増える形となり、夏期休暇を迎えることになった。

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