英雄は学園側の頼みごとを受けられる。
俺たちが“迷宮”を踏破したことは学園にいる全生徒に知れ渡った。
「ねえ、聞いた?」
「聞いた聞いた」
「一年一組のズィルバーくんのことだよね!」
「でも、“迷宮”を踏破したのはティア殿下やニナちゃん、ジノくん、二組のナルスリーさんとシューテルくんじゃないの?」
「彼らもすごいけど、一番はズィルバーくんよ」
「まだ一年なのにスゲぇよ」
「チッ! 次は俺が“迷宮”を踏破してやる!」
と、いろんな声が飛び交っている。
“ティーターン学園”、生徒会室にて。
生徒会のメンバーに加え、エルダとヒルデもいる。
彼らの話題は一つ。
俺のことである。
「とんでもないことをしたものね、今じゃあ、学園の有名人」
「私たちの自慢の弟だもん」
「でも、ここまで大きくなるとは思わなかったわ」
エリザベス殿下が口にし、エルダとヒルデも言葉を述べる。
「しかし、会長。これはこれで不味いのでは……」
「そうね。彼は入学式。人は優劣だけで判断できないと口にした。しかも、“迷宮”踏破で拍車がかかって、彼をよく思う人とよく思わない人ができる」
「由々しき事態だと思いますが、会長……」
「今更でしょう。私やエルダ、ヒルデは心配していた。生還して帰ってきただけでも快挙なのに“迷宮”踏破すれば、彼らに注目が集まるのは必然。しばらくは台風の目は彼ね」
と、エリザベス殿下は、これからしばらく、学園は荒れると分かりきっていた。分かりきっていた上でこのような言葉を述べる。
「学園側も考えたのでしょう。“問題児”っていう火中の栗を彼に拾わせる算段を……」
容易に想像できることだった。
エリザベス殿下は俺の写真を見つつ、
「さて、今度はどんな事件を引き起こすのかしら?」
楽しそうな顔を浮かべていた。
“ティーターン学園”、誰も手を付けない建物、“ゲフェーアリヒ”
そこは魑魅魍魎が跋扈し、学園でも手につけられない“問題児”がいる場所だ。
“ゲフェーアリヒ”は学園の癌。
学園の講師や職員でも手に負えない“問題児”が集まる場所。
何でもありであるため、なにもかも自由な無法地帯。
“ゲフェーアリヒ”に入れば、学園の誰もが手が届かない。そこは実力だけで成り立っている場所。
その場所にて。“迷宮”踏破の情報は入ってくる。
「こいつが学園の地下迷宮を踏破した奴か」
「まだ私たちと同い年じゃない」
「しかも、公爵家の跡取り」
「会ってみたいものだな」
「まあ、会ってもぶっ飛ばすけど……」
我先に倒したいという輩ばかり。血の気の多い生徒が集まっている。
故に学園も認知できない場所。
しかし、そこもいずれ、ある少年の手によって壊滅することとなる。
皇宮内裏、会議室にて。
皇帝からの褒賞を頂いた俺たち。
会議室を退出しようとするも、学園長がニコニコと微笑んでいた。
「ズィルバーくん。キミに頼みたいことがあるんだけど……」
「俺に火中の栗を拾わせようとか考えているなら断っておくぞ」
俺は学園長いや学園側の頼みを適確に断る。
「う、うっ、的確につかないでくれよ。これはキミじゃなきゃできないことだ」
「俺に頼むんじゃなくて生徒会に頼めよ。エリザベス殿下がいるんだぞ」
「それが出来たら、苦労しない」
俺は目を細め、学園側の真意を探る。
「話だけは聞きましょう」
「ありがとう」
と、学園長は後ろに控えていたキンバリー講師に話すよう促す。
「ズィルバーくんやティア殿下、一年生の大半は知らないでしょうが、“ティーターン学園”は歴史が深く、東西南北にも学園があります」
確かに知らないな。俺はティア殿下に、嘘か真か目で問う。
ティア殿下は「本当よ」と肯定するよう頷く。
「しかし、歴史ある学園にも“問題児”がいます。特に今年度だけでも、かなりの“問題児”を抱えているのが実情です」
「何故、それを俺たちに話す。そもそも、“問題児”なんかを入学させなければいいだろう」
俺の的確な返しに正鵠を射貫かれ、キンバリー講師は黙りになる。
「ズィルバーくん。“問題児”を集めているのはモンドス講師だ。剣術基礎学科を担当している講師。彼が“問題児”を集め、担当している」
学園長が詳細を話し始める。
「ならば、モンドス先生に任せればいいだろう。俺たちに白羽の矢を向ける」
「本当なら、そうさせたい。だが、近年の“問題児”はモンドス講師すらも困らせるほどに手をこまねいている」
学園の講師すらも手をこまねく。普通なら、学園の生徒として扱えばいい。それでも、学園側では手に負えない。これはもしかして……
と、俺は、ある可能性が脳裏に過ぎった。
「学園長。キミは先ほど、こう言いました。「モンドス講師すらも困らせるほど手をこまねいている」っと……」
「うむ。そう言った」
「確認のために言いますが、“問題児”っていうのは“曰く付き”ではありませんか?」
俺の核心を突く、いや、正鵠を射貫く聞き返しに言葉を詰まらせる学園長とキンバリー講師。
これだけで学園側の真意が分かった。だからこそ、問い質したい。
「なぜ、学園に曰く付きの“問題児”を集めたのですか? 手に負えない人ほど、組織には不要だと思います。学園の上層部は彼らを懐柔し、飼い殺すつもりですか?」
俺の問いただしに学園長は顔を俯かせる。
俯かせるだけでなにも言い返せなかった。沈黙は肯定とも取れる。
「なにも言い返さないというのなら、それが答えと言ってもいいでしょうね」
学園長、キンバリー講師はなにも言い返さなかった。
俺の問いただしに答えない。それだけで俺は憤りを感じ、ギリッと歯軋りする。
俺は怒りを抑えつつ、会議室にいる皇帝陛下とガイルズ宰相に話しかける。
「皇帝陛下…ガイルズ宰相…曰く付きの“問題児”の親はどんな奴なんですか?」
「ッ……!?」
息を詰まらせるガイルズ宰相。
どうやら、俺は知らず知らず、“闘気”いや殺気を発していたようだ。
「帝国指名手配犯。それが、“問題児”の親だ」
皇帝が嘘を隠さず、全てを話した。
「それは本当なんですね」
俺の聞き返しに皇帝は頷いた。
皇帝の頷きに俺の怒りは最高潮に達する。達するも、ここで発散しようとも思わない。
むしろ、最高潮に達したおかげで頭が一気に冷めた気がした。
「そんな曰く付きの生徒を集めるぐらいなら、親を監獄にでも叩き込めよ。なにも知らない彼らを大人のキミたちの勝手な思惑でつらい思いをするのは“問題児”の彼らなんだぞ! それが分かっているのか!」
荒々しい言い分に学園長とキンバリー講師はなにも言い返すじまい。皇帝とガイルズ宰相は気まずそうな顔をする。
「親が極悪人だからと言って、子供が極悪人になるとは限らない。大人たちの思い込みにすぎない。子供の俺たちにキミたち大人の都合を押しつけるな!」
俺の怒声に皇帝は――
「いや、貴殿の言うことは正しい。正しすぎて、なにも言い返せない」
なにも言い返すじまいとは……呆れるな。
「だが、言うだけ言って、頼みを断るわけにもいかないな」
ハアと息をつく。
傍観いや、なにも知らなかったニナたちは口を出せずにいたが、俺が述べた言葉に耳を傾ける。
「それで、どうするの、ズィルバー」
ナルスリーは俺にどうしようか、と問いかけてくる。
「どうするも何も、向こうからの頼みを受けるしかないだろう」
「僕としては、いやなんだけど……」
ジノは嫌だと口にする。
「そうは言っても、ジノ。俺たちが“迷宮”を踏破したことで学園じゃあ、今頃、有名人だ。ここで断っても向こうから喧嘩を売ってくるぞ」
「うぅ~……」
俺が言ったことを想像したのかジノは頭を痛める。同じようにニナ、ナルスリー、シューテルも頭を痛める。
ティア殿下は父である皇帝に尋ねる。
「お父様」
「なんだね、娘よ」
「曰く付きの“問題児”をリストにして、後日、渡してください」
「なぜだね、娘よ。彼はまだ、受けるとは言っていないが?」
「受けるに決まっているわよ。彼の考えなんて分かるわよ」
と、ティア殿下は俺の考えを見通すとは……。
ニナたちに視線を向ければ、こいつらも肩を落とす。
こいつらもこいつらで俺の考えをうすうす気づいているようだ。
「売られた喧嘩は買わねばな。学園長。業腹ではないが受けるとしよう」
俺は学園長の頼みを聞くことにした。
俺が頼みを受けると言った途端、学園長は憑きものがとれた顔をする。
「それは嬉しい」
「ただし、やり方は俺たちに任せてもらう」
「それは構わん」
「あと、今後の俺たちの行動に文句を受け付けん」
「構わん構わん。キミたちに“問題児”のことを任せる」
「なお、俺たちが組織を作っても文句は受けつけんからな」
「構わん構わん」
「よし。言質を取ったぞ」
俺は心の中でガッツポーズを取る。
俺が言質を取ったのにティア殿下たちはハアと息を吐いた。
なお、学園長は後に俺たちがしたことに頭を悩ませることになったと今のうちに記載しておこう。
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