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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
学園入学
65/302

英雄は最深部へと向かう。

 レインに言われた道を歩いて数分か十数分経過した。

 歩いたところで鬼門に到着する。

「レイン様ッ!? 行き止まりですけど!?」

 驚くのも無理もない。今、俺たちは突き当たりにいるからだ。今から引き返そうにも時間がかかる。

 実際、ティア殿下は振り返って、レインに問い詰める。

「ええ、隠し通路よ」

「そんなわけありません。地図にも書かれていません」

 そういや、実習に先んじて、地下迷宮の全体図を渡されたな。

 だが、知らされていない。“迷宮”は頭の中の“常識”は通用しない。“常識”に当てはめた奴が先に死ぬ。それが“迷宮”における大原則。

「“迷宮”っていうのは頭の中の“常識”を捨てなければならない」

「頭の中の…」

「“常識”…」

「その常識を捨てないかぎり、最深部へ行けないわ」

 と、言ってる合間に俺は行き止まりの壁面に触れ、叩いている。

 確か、この辺りだったと思うけど……。と、俺は壁面を壊せる部分があったはずだ。

 俺が壁面を調べ始めたのを見て、レインも壁面を触り始める。

「何をしているの?」

「見てれば分かるよ」

 俺とレインは壁面を叩いていると、ある部分だけ音が違った。その音に気づいた俺だけじゃない。ティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルそしてレインも気づいた。

「見つけた。レイン。ここを壊してくれ」

 指さすポイントを壊してほしいと頼む。

「了解」

 レインも了承し、俺が指さすポイントに拳をあて、ドカンッと壁に当たり、壁が破壊される。彼女が破壊された壁の向こうに空洞があり、道があった。

 ティア殿下たちも壁の向こうに道があるのを見ると唖然とした表情を浮かべ、立ち尽くしてしまう。

 立ち尽くす彼らに俺は言った。

「それじゃあ、行こうか」

 俺とレインは壁の向こうを歩き出す。

 狐につまされた顔をしつつ、ティア殿下たちも歩き出した。

「なんだか、私たちの“常識”が壊れそう」

「「「「……同感……」」」」

 この時だけ、彼らの本音が一致した。




 (ズィルバー)たちが壁を破壊し、空洞の道を歩き出したとき、地下迷宮の最深部にて。

謎の人物が最深部にある宝物庫へ通ずる扉の前にいる。

扉の前には巨大な結晶があり、結晶の中には牛の角を生やした怪物が眠っていた。

謎の人物は結晶に触れ、中にいる怪物を見る。

「これが、[戦神ヘルト]が倒したとされる怪物……“アステリオン”」

 結晶の中に死んだように眠っている怪物、“アステリオン”。だが、怪物は生きたまま、眠っている。

「我が主の命により、貴殿を解放させよう」

 その者は命じられた者からの指示に従い、結晶に触れた。

「――――――――」

 聞き慣れない言葉、呪文を発した。

 すると、呪文に呼応して、結晶が光りだし、ビキビキと罅が入っていく。

「――――――――」

 詠唱を終えると、バキャァンッと結晶が崩れた。

 ガラガラと崩れ落ちる結晶の欠片。

 結晶から解放された怪物、“アステリオン”。

「…………」

 だが、怪物は未だに眠りについている。かと思いきや、ゆっくりと目を見開く。

 目を開いた怪物はギョロッと動かす。彷徨う視野が次第に、謎の人物へと収まる。

「目を覚ましたところで悪いが……貴殿には、ある男を殺してほしい」

 その者は怪物に命じる。しかし、怪物は声が届いておらず、静止したまま――。

「殺してほしい人物はズィルバーという少年に転生した()()()だ」

「へ……ルト」

「そうだ。貴殿は我が主に選ばれた! 貴殿はヘルトを殺すのだ!」

それが、その者の最後の言葉になった。

「ヘル……ト……」

 怪物は徐々に[戦神ヘルト]を理解していく。

「ヘルト……ヘルトっぉおおおおおおおおお――――!!」

 叫ぶかの如く、けたたましい雄叫びを上げる。猛る雄叫びに最深部の壁が軋み、罅が入っていく。

 謎の人物は雄叫びを受け、腰が引く。

「そ、そうだ……さ、さあ、我が主の主命に従い……今、す、ぐ……グアッ!?……」

 命令を出そうした瞬間、怪物は謎の人物の胴を引き裂いた。

 引き裂かれた傷口から夥しい血と臓物が吐き出され、口からも血と吐瀉物が吐き出された。

 ゴホゴホと咳き込む、その者。だけど、怪物の目には……

「ヘルト……ヘルト……ヘルト……」

 ヘルトのことしか頭にない。

「ヘルトっぉおおおおおおおおお――――!!」

 猛りながら、謎の人物の乱暴に扱った。ドコッ、バキッ、グシャッと肉を引き裂き、骨を砕く音が最深部に木霊する。


 怪物は肉塊となった謎の人物に目もくれなく、言葉すら発しているのか分からないほど、狂気に堕ちていた。

 ズシン、ズシンとした重い足取りで宝物庫の前に行き、扉を背に向く。

 続けざまに、又もや、咆吼を上げる。

 怪物が咆吼を上げた途端、ドクンと何かが脈動し始める。怪物の咆吼は地下迷宮に轟き、脈動する。

 まるで、主の復活と同時に“迷宮”が息を吹き返したように――。




 壁を突破し、出てきた道を進み続ける時――。

俺たちの耳に甲高い雄叫びが轟いた。

「な、なに!?」

「これ……雄叫び?」

「なんでだ!?」

「知らないよ」

 突然のことに言い争うティア殿下たち。もちろん、ちゃんと、耳を塞いでいる。

 雄叫び後、ドクンと何かが脈動する音が耳に入ってくる。この音に俺はしゅういをみわたす。

 ま、まさか……。

「これって……もしかして……」

 レインも俺と同じ考えに至ったのか互いに顔を見合わせた。

「レイン」

「ええ、間違いない」

「レイン様。なにか知っているのですか!?」

 と、ティア殿下は動揺を隠せず、切羽詰まるかの如く、尋ねる。

「これは、“迷宮(・・)()()()()()()()()!?」

 彼女はティア殿下の尋ねに答えず、別の意味で動揺を隠せず、言葉を漏らす。

「“迷宮”が……」

「……息を吹き返した?」

 レインが言った意味が分からず、疑問符を浮かべ、首を傾げてしまう。

 首を傾げている彼らを無視しつつ、俺は今も脈動している“迷宮”を見る。

 間違えない。“迷宮”が息を吹き返している。と、なれば、既に俺は“静の闘気”を使い、『気配感知』の如く、俺たちが通った道を探る。案の定、既に壁が元に戻っており、引き返すことができない。

「不味いな」

「ええ、不味いわね」

 俺たちは今、危機的状況に陥っている。ティア殿下たちは、なにが不味いのか分からず、立ち往生する。

「な、なにが、不味いのですか?」

 思わず、聞き返してくる始末。

「さっき、言ったよね。「“迷宮”が息を吹き返した」って」

「え、えぇ~」

 思い出す彼ら。

「それがどうしたのですか?」

 ジノは意味が分からず、聞き返してしまう。

「わかりやすく言うなら、私たちは()()()()()()()()()()()()と考えていいわ」

 レインは先に現実を突きつける。

 いきなり、現実を突きつけられて放心するティア殿下たち。まあ、分からなくもない。実習が、いきなり、命を賭した死の監獄(デスゲーム)になったようなものだ。

「とりあえず、先を進みましょう」

 レインは最深部へ続く道を進むよう促す。

「緊急事態よ!? 戻って、講師に報告した方が……」

「後ろを見ろ。俺たちは既に戻れないところまで来ている」

 ティア殿下たちは俺に言われ、振り返って見る。振り返って分かったこと、それは――。

「道が二つに分かれてる」

 そう。二叉路になっている。

「“迷宮”っていうのは入るのは拒まず、出るのを拒む作りになっている」

「でも、先生からは、いつも出られるって……」

「先生方も“迷宮”の最深部に行けたことがないのだろう。だったら、“迷宮”の作りが知らないと思うぞ」

「どういうこと?」

「俺たちが通った隠し通路。地図にも記されていない。隠し通路を通る際、レインが言っていただろう。“迷宮”では“常識”が通用しない。地図というのもあっていないものだ」

「じゃあ、私たちが手にしている地図って……」

「“迷宮”の()()の地図だろう」

「「「「表層?」」」」

 ニナたち四人は俺が口にした“表層”。その言葉の意味が分からず、疑問符を浮かべる。

「“迷宮”っていうのは二つの捉え方ができる。学園で習った内容は表層。誰でも挑戦できる。だが、表層でも地獄だがな。そして、今、俺たちがいるのは真なる“迷宮”。地獄を体現した場所。二度と出ることすらできない構造に加え、数多くの試練を突破しないといけない」

「試練?」

「試練とは“迷宮”へ挑戦する者たちに用意されたとされる。試練を突破しなければ、最深部にも行けず、地上に出ることもできない」

 俺が告げられる“迷宮”の新事実。学園の授業でも教えられていない内容にティア殿下だけではなく、ニナたちもブルブルと震えだす。

「そ、そんな……」

「じゃ、じゃあ…僕たち…」

「二度と外に出られないの……」

「そんなの…嫌だぞ…」

 ニナたちは慌てふためく。ティア殿下もニナたちのように慌てふためかないが、喪失感に陥っている。

 まあ、気持ちはわかる。奮い立たせるのが無理なのが当然だ。

 千年前の俺も同じだったからな。あの時の俺も心が折れそうだった。でも、折れかけた心を奮い立たせたのはリヒトとレイの苦しむ顔だった。二人を悲しませないため、苦しませないため、千年前の俺は己を奮い立たせ、最深部へ向かった。


 今に思えば、あの時の俺も大概だな。自分に無理を言っていたものだ。それに今は千年前の考え方じゃない。今の考え方がある。

 その考え方を尊重したいが今は――。

「放心や傷心しているところ悪いが今は俺に全て託してくれないか?」

「は?」

 “何を言っているんだ、此奴”って感じの表情を浮かべ、俺を見るティア殿下たち。

「もちろん、全てを託すつもりじゃない。キミたちの命を俺に託してくれないかって意味だ」

 本心かつ正直に話す。

 いや、だから……キミたち、“何を言っている”って表情を浮かべるな。

「なんだ? 俺に命を託すのは不服か?」

「いや、なんで、あんたに命を託さないといけないのよ」

「意味が分からねぇな」

「僕も…」

「私もよ…」

 うぐっ!? 地味だが心にくるな。とりあえず、気を取り直してーー。

「今、俺たちはお互いに剣を教え合う形で友達になった。この際だ、一蓮托生しないか?」

「つまり、私たちお互いに手を取り合って、良くも悪くも一緒に行動するって意味?」

「そう。どうせ、ここにいても救助なんて来なさそうだし。結果がどうであれ。この実習…できるかぎりやってみないか?」

 俺は彼らに話を持ちかける。

 俺の話を聞き、ニナたち四人は一度、顔を見合わせる。どうしようかと悩んでいるのだろう。「う~ん」と考える。

 一人一人考えた後、ニナたちは答えてくれた。

「ハア…実習で死ぬなんてごめんだし。しょうがない。ここはズィルバーに託してみますか」

「僕も死にたくない。だから、僕の全てをズィルバーに託す」

「うじうじしていても助けなんて来なさそうだし。この際、あなたに託すのも一興ね」

「僕が言うことは一つ。僕たちの命を託すんだ。つまらねぇ死に方したら許さねぇからな」

「当然だ。俺もこんな所で死にたくないからな」

 フッと少しだけ口角を上げる。

「さて、それじゃあ、行きましょうか」

「あれ? ティア。キミはどうするんだ?」

 俺はティア殿下の答えが聞いていない。

「どうするも何も、あんたに託さないかぎり、生きて帰れなさそうだし。それにバカなあんたのせいで死なせるのはニナたちに忍びないじゃない」

「おい、俺はバカ扱いか!」

「バカはバカでしょう!」

 ぐぬぬッと唸らせる。バチバチと睨み合う俺とティア殿下。


 遠巻きで見ていたレインはクスッと微笑を零す。

(いいわよ。若さってのは……そういえば、ヘルトってバカっぽいのよね。女の気持ちに疎いし。でも、そんな彼だからこそ、人が集まる。もしかしたら、彼は、こういう星の下に生まれたかもしれない)

 主の人間性を改めて、再認識した。


「さて、俺たちは“迷宮”を脱出する運命共同体となったわけだが……まず、大前提としてお互い、背中合わせで行こう」

「背中合わせ?」

「“迷宮”には試練がある、と言ったな。試練は授業で習った“常識”が通用しない。全ては己の直感と運が必要不可欠」

「直感と…運…」

「さらに言うなら、“迷宮”の魔物は“表層”と“真なる”とでレベルが違う。気を抜いたら、命取りだと思え」

「分かった」

「最後に言うことは一つ。俺たちは生きて、地上に帰るぞ!!」

 俺の願いにティア殿下たちは頷き、掛け声をあげる。

「じゃあ、行くぞ」

 俺たちは地下迷宮の最深部へと歩き出した。

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