英雄は地下迷宮へ潜る。
始業時間を追え、クラス一同。地下迷宮へ通ずる入り口付近に集まる。
地下迷宮の実習。
簡単に言えば、『ティーターン学園』を含めた第二帝都の地下深くまで設けられた“迷宮”に実習することだ。
講師が前もって説明してくれた。地下迷宮の実習では班行動が大原則。“迷宮”に置かれた武器、防具などを集め、トラップないしは試練を突破し、最下層へ向かうという実習だ。
あと、講師が言うには地下迷宮を使った試験があるらしい。その試験は地下迷宮にある宝物を回収し帰還し得点を競う。
迷宮探索の技術向上するための実習。と、講釈を垂れていたが、早い話がただの宝探しでもある。
話を戻して、入り口付近には一組と二組の皆が集まっていた。全員が所定の位置につくと、授業開始の鐘が鳴る。すると、一組の担当講師、キンバリー先生が声をあげる。
「それでは、これから地下迷宮の実習を始めます。授業で既に教えたとおり、実習とは言え、死ぬ可能性があります。しかし、私たち講師もできる限りのことはします。もしもの時は覚悟してください。なお、実習には私たち講師が引率しますのでご安心ください。なお、“迷宮”内で手に入れたアイテムの所有権は各班のリーダーにあります。実習時間は今日一日。明日の朝まで“迷宮”から出てこなかった場合は捜索隊を出しますが、先ほど、申し上げたとおり、覚悟しておいといてください。実習時間内にギブアップする班は引率の講師に進言して脱出してください」
キンバリー先生は地下迷宮の扉を開く。
「貴方たちに[三神]の加護があらんことを」
合図と共に、生徒たちは即刻、班作りから始める。
生徒それぞれ、学園生活の間に友人関係を作り、班を作る。その中には公爵家や皇族を中心にした班形成をしているのもある。
俺も班を作らないといけないけど、何故か、皆、俺を避けている気がする。
まあ、避ける理由は想像がつく。先日の剣術基礎学科の実習だろうな。あれだけ、高次元の試合をすれば、意識的に避けてしまうのは必然か。
「ズィルバー」
と、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。振り向けば、ティア殿下たちが「こっちに来て」と手招きしつつ、呼んでいた。
呼ばれたとなれば、応じないとな。
「どうした、ティア?」
「ハブられたのでしょう? だったら、私たちと一緒に組まない?」
「まあ、それは構わないが……」
ん? でも、どうして、俺に声をかけたんだ? なにやらニナたちの顔が気まずい。まるで、ハブられたみたいな……まさかな……。
「聞きたくないんだが……もしかして、ニナたちも……」
「聞くんじゃねぇ」
シューテルの圧のある声で察してしまった。
「分かった。それじゃあ、一緒に組もうか。実習で知り合った剣の友として……」
俺がいい感じにまとめてみる。まとめてみるも彼らがジト眼で見つめてくる。
「なんか、ズィルバーにまとめられて、ムカつく」
「同じく」
「だな」
「酷くない!?」
ニナたちの嫌味というか陰口に恐れ戦いた。
「ほら、つまらないことしないで、行くわよ」
いつの間にやら、ティア殿下に陣頭指揮を執られてしまう始末。無念。
という束の間、多くの生徒は班を作り、引率の講師と共に地下迷宮へと入っていき、残っているのは俺たちだけとなった。
俺たちもキンバリー講師に出発することを告げる。だけど、俺たちに引率がいない気がするが……。
「先生。引率は?」
ティア殿下はキンバリー講師に自分たちの引率が誰なのか尋ねる。
「いません」
「え? それって、どういう……」
「いません」
「いや、どういうわけか説明してもらっても……」
ティア殿下は詳しい事情を聞こうとする。しかし、俺は講師陣の状況をある程度把握し、彼女の肩を掴む。
ティア殿下は折れに肩を掴まれ、払おうと振り向く。
「分かりました。引率の講師がいないのでしたら、代理を呼ばせてもらいます」
「代理ですか?」
俺は懐に勝手に忍んでいた小鳥を引きずり出す。
『ちょっ!? なにするのよ!?』
「勝手に忍び込んどいて、何を言っているんだか……すまないが、頼みがある」
『引率でしょう。それぐらいお安いご用よ』
「助かる」
これで引率者ができた。これなら、問題なく地下迷宮へ行けるな。
「キンバリー先生。これなら、問題ありませんよね」
フッと俺は澄まし顔で講師を見る。
キンバリー講師も俺が取った手にハアと息を吐いた。
「分かりました。今回は特例として許します」
許可を取ってくれた。
「それじゃあ……」
俺は小鳥のレインを放してやる。途端、小鳥は光りだし、人の姿へと変貌する。
「それじゃあ、行こうか」
俺は号令をあげるも――。
「「…………」」
ナルスリーとシューテルは呆けており、ニナとジノは彼らが呆けるのも分かるかの如く、頷き、ティア殿下に至っては――。
「急に人型にならないでください。心臓に悪いです」
文句を言う始末。
「仕方ないだろう。魔力の消耗を防ぐため、動物の姿になることが多いんだから」
まあ、俺も急に人型になれば、驚くけどな。
「それよりも時間が惜しいから。さっさと実習に行こう」
「それもそうね。ほら、ナルスリーに、シューテルくん。いつまでも呆けていないで行きましょう」
彼女は二人に出発しようと促した。
ナルスリーとシューテルもティア殿下に言われて、ハッとなる。
「そ、そうだな」
「急がないと……!?」
駆け足で先に歩いている俺たちを追いかけた。
そんなこんなで俺たちは地下迷宮へ入る。
地下迷宮とだけあって薄暗いも壁面の作りを見るだけで相当年期が立っているのがわかる。
分かるが壁面の作り。どこか見覚えがあるんだよな。千年も経てば、朽ちるのもわかる。だが、柱の造りに見覚えがある。
はて? 何処で見たんだ? と、俺は千年前の自分を振り返りつつ、ティア殿下たちと一緒に“迷宮”内を探索する。
探索するといっても、地下迷宮を含めた“迷宮”には魔物が出現する。もちろん、それは“迷宮”独自の魔物だ。だが、先陣を切った他の生徒たちが軒並み倒してくれたので、俺たちはのんびりと進むことができた。
「やっぱり、そうよ」
「レイン様? どうしたのですか?」
ティア殿下。俺とレインで態度が違いませんか? まあ、指摘しても無意味だろうし。
なお、ニナとジノはナルスリーとシューテルにレインが何者で誰の契約者なのか教えていた。
「この地下迷宮。“アステリオンの大迷宮”よ」
「アステリオン?」
レインが言ったことで俺もようやく、思いだした。
そうか。アステリオン。この精巧さ。芸術を思わせる造り。あの怪物じゃなきゃ、あり得ない。
だが、レインが口にした人物の名前に首を傾げるティア殿下。いや、首を傾げているのは彼女だけじゃない。ニナやジノ、ナルスリー、シューテルも同じであった。
「こんなに精巧な柱の造りは、かつての王宮クラディウスに似ている」
レインも柱の造りを見て、千年前のクラディウスを思い出す。
まあ、そうだな。っていうか、王宮の造りや構造を打診したのは俺たちだろうが……。
今更、思い出すなよ。もし、違う機会に言ったら、彼女は「それは、貴方も同じでしょう!!」と言い返されそうだけど……。
「レイン様。アステリオンってなんですか?」
ティア殿下は“アステリオン”なる人物を尋ねた。ニナたちも同じで知らないことに興味津々。
「アステリオンっていうのは千年前に生きていた怪物の名前よ」
「怪物?」
ティア殿下の聞き返しにレインは頷く。
アステリオンに関しては俺も覚えている。彼奴は世界中に点在する“迷宮”を生み出した怪物。そして、俺が倒した怪物の名でもある。
「そう。千年以上前から世界中に点在する“迷宮”を生み出した怪物なの」
ここで知られざる事実を知って、ティア殿下たちもビックリ仰天する。
「め、“迷宮”を生み出した怪物!?」
「そんなの歴史にも記されていねぇぞ!?」
「本にも記されていない!?」
「歴史学者からも聞いたことがない!?」
ニナ、シューテル、ジノ、ナルスリーの順番で言うも彼らは“迷宮”が怪物の手によって生み出されたとは知らなかった。
彼らの話を聞き、俺は少々、考えに耽る。
まあ、確かに歴史や本に記されていないのもわかる。何しろ、あの時代は“迷宮”死者が多発した。
“迷宮”を一言で表すなら――。
「“迷宮”は地獄よ」
そう。地獄だ。
ティア殿下たちも“迷宮”が地獄とは思いもよらないだろう。
「ティアちゃんの皆は“迷宮”のことをどう教えられたの?」
逆にレインはティア殿下たちに現代の“迷宮”の印象を聞く。
「“宝の巣窟”」
「危険な場所」
などを口にする。そういえば、講師たちも地下迷宮の実習には引率を付けるのもそうだが、協議をしている。
つまり、現代にも“迷宮”の危険性を示唆しているんじゃないかと思う。まあ、これは俺の推測だけどな。
俺の推測混じりに関係なくティア殿下は“迷宮”に対する現代認識を教える。
「“迷宮”は国からの指名依頼がないかぎり、基本、入ることを禁じられています。お父様が学生時代では“迷宮”へ挑戦ラッシュが盛んだったと聞きます。ですが、大半の挑戦者が帰ってこず、多くの冒険者や貴族が失う事態になり、犯罪が横行し、国家転覆の事態に陥ったと聞きます」
彼女の話を聞き、俺は内心、呆れかえっていた。
おいおい、“迷宮”は地上よりも危険な場所だぞ。人員を失い、国家転覆に陥るとは、ティア殿下の祖父はバカとしか言えないな。
「事態後、“迷宮”への挑戦者が減りました」
なるほど。そんなことがあったのか。これじゃあ、まるで……。
「千年前と同じね」
俺が思っていたことをレインも同じく口にした。
「千年前と…同じ…?」
「どういうこと、レイン様?」
ニナとジノが、ティア殿下の祖父が皇帝だった時代と千年前と同じ。って言うところが気になり、思わず聞き返す。
「千年前も“迷宮”への挑戦者が多かったの。大半の理由は「巨万の富が手に入る」という噂が世界中に駆け巡り、多くの戦士たちが“迷宮”に挑戦した」
そう。千年前は“迷宮”挑戦者が多く、戦乱時に人員を割くことができない国が多い中、自分勝手に挑戦する者たちが多かった。
「私も“迷宮”の実態を知ったのはリヒトやヘルト、“五大将軍”の彼らが口を酸っぱくして教えられた」
「“五大将軍”?」
聞き慣れない単語に首を傾げるニナたち。
「ヘルトを含めた大将軍のことよ。今の時代だとヘルトが有名すぎるけど、地方では統括していた大将軍を英雄視されてる人たち」
「西方ではアルブムっていう人を英雄視されていないか?」
俺が補足し、ニナとジノは「そういえば……」と思い出す。
「話を戻すけど、ヘルトたちから“迷宮”の実態は……」
レインは“迷宮”の実態を話す。
「「“迷宮”は地獄。自分たちの常識が壊れてしまう危険な場所」ってね」
そう。俺はレインに口を酸っぱく教え込んだ。
レインが口にした“迷宮”の実態を知るティア殿下たち。
「まさか、伝説の時代を生きる英雄様たちも危険だと言い切るんですか!?」
「事実よ」
ナルスリーが驚きの声をあげる。だが、レインは事実だと告げる。
まあ、それは間違っていない。“迷宮”が、この世の地獄に変わりない。
俺たちが地下迷宮に入って、幾ばくか時間が経過した。迷宮内を歩いているけども、未だに魔物に会っていない。
「先陣を切ったクラスメイトが倒したのかな?」
「おそらく、そうだろう。見ろ」
俺は通路の端っこに視線を向ける。俺につられて、ティア殿下たちも視線を通路の端っこに向く。
「血を拭った跡だ。薄暗いだろうが、血の跡がある。おそらく、ついさっきまで他の班が通ったのだろう」
俺が確証のある推測を告げる。そして、その推測は間違っていない。実際、誰かが通ったであろう足跡まであった。
道なりに進む中、俺とレインは昔、来たときの道順を思いだす。
「そこを右ね」
「どうしてですか? その道はなにもないと思いますけど?」
「いいから、いいから」
疑問符を浮かべつつ聞いてくるティア殿下にレインは、その道を行かせるよう急かす。
ティア殿下は疑問符を浮かべつつも渋々、レインの言うとおりに歩いていく。ニナたちも同じようについて行く。
レインに言われた道を歩いている俺たち。歩いている中、俺は壁面に目線を向け、訝しげる。
ふむ。まだ生きているのか? この“迷宮”は……。
目を細め、“迷宮”が生きているのでは推察する。
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