表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
学園入学
63/302

英雄は地下迷宮の実習を知らされる。②

 翌日。

 俺はティア殿下たち、姉さんたちと一緒に朝食を食べ、学園に登校する。

 登校時間は昨日より早めに登校する。ニナたちの準備がある。学園に着き次第、俺はティア殿下と一緒に教室へ向かい、ニナたちは一度、寮に帰って授業の用意を取りに向かう。


 教室へ向かう際、いつもだったら、そこにいない顔があった。

「おや、ズィルバーくん。ティアさん。おはよう」

 当たり前かの如く、表情を浮かべ、剣術基礎学科の担当講師が挨拶する。

「おはようございます、先生」

「おはようございます」

「どうして、此方に?」

 講師に用件を聞く。

「ああ、ズィルバーくんに用があってな」

「俺にですか?」

「ああ、お前さんに用がある」

「分かりました」

 俺はティア殿下に目配せすると彼女の意図が分かったのか。

「分かったわ。私は先に教室に向かってるわ」

「そうしてくれると助かる」

 ティア殿下は講師に軽く会釈しつつ、先に教室へ向かう。


 ティア殿下が行ったところで講師は俺に目を向く。

「それで俺に聞きたいことは?」

「ああ、昨日の模擬試合のことだ」

「模擬試合」

 やはり、気になるか。

「模擬試合の際、何を使用した。刃のない剣同士が交わって剣が折れるなんざ聞いたことがねぇ」

 当然だよな。昨日の模擬試合は誰もが気にする。作業員が用意してくれた刃のない剣同士が交わって、剣が折れるのはまずない。

 何かしたのか考えに至るのが必然。

 ここで嘘をついてもいいが、あの講師。昔は超一流の冒険者。俺の嘘を見抜けるはず。ここは嘘をつかないのが得策だな。

「実は――」

「いや、無粋だったな」

「え?」

 事情を話そうとしたところ、講師は問い詰めなかった。

「フッ、まだ一年生を問い詰めるなんざ烏滸がましい。まあ、ニナたち(彼奴ら)が油断して負けたとしておこう」

「いや……せ、先生……」

「一つだけ言っておく」

 と、ここで講師が俺になにか言う。

「彼奴らは世話をかくと思うが、共に切磋琢磨してくれ。元冒険者からのお願ぇだ」

「分かりました」

 微笑しつつ、俺は講師が述べたことを真摯に受け止めた。

 俺は講師に軽く会釈した後、教室へ向かう。


 俺が教室に入ったのを見届けた講師は職員室へ足を向ける。

 職員室へ向かう際、彼は独り言をぼやいた。

「まさか、あの歳で闘気を扱いこなせるか。いや、彼が異常なだけか」

 彼自身もズィルバー()が闘気なる技術を会得しているのは気づいていた。問い質す際、誰に教わったのか聞くべきだったと後悔する。

「まあ、彼奴らも彼と関わることで大きく成長するだろう」

(道場に篭もって腐らず、広く世界を見て回ってほしいものだ)

 親みたいな感情でニナたちの将来を案じた。

(ズィルバーは生粋のトラブルを引き寄せる男だ。それはそれで波瀾万丈の人生だな。いやはや、講師というのも大変なものだ)

 講師は如何様なことを胸中に抱きつつ、職員室へ向かう。


 俺が教室に入れば、いつもと違った光景があった。

「おはよう」

「おっす」

 当たり前かの如く表情を浮かべ、ナルスリーとシューテルが挨拶する。

「おはよう。ナルスリー…シューテル…キミたちはどうしてここに?」

「話したいことがあったからよ」

「同じく」

「なるほど」

 確かに話をするための移動は手間がかかるのは仕方ない。

 俺は席に座り、後ろの席に座るティア殿下に声をかけた。

「おはよう」

「おはよう。って、一緒に来たのに挨拶する意味があるの?」

「形としてな」

「そう。それでさっき、先生とはなにを話していたの?」

「あぁ~…実は――」

 俺は講師と話し合ったことを話した。


 講師と話していたことを話し終えるとティア殿下が――。

「それで昨日、剣になにを纏わせたの? 私は見様見真似でやってみたけど、貴方のように出来なくてね」

「いや、見様見真似でできる代物じゃないけどな」

 俺は改めて、ティア殿下の才能を思い知る。

「あっ、私も気になる」

「僕も…」

 と、いつの間にかニナとジノも席について話に割り込んできた。

「私も…」

「僕もな」

 ナルスリーとシューテルも彼らと同じことを尋ねる。

 俺はう~んと一度、話すべきかと悩むも、話していいかと思いいたる。

 話さなくてもいずれ、技術を体得するからな。

「昨日、模擬試合で使用したのは“魔力操作”っていう技術」

「“魔力操作”?」

「聞いたことがねぇな」

 と、聞いたことがない技術に首を傾げるニナたち。ティア殿下だけは――、

「あれって“魔力操作”って言うんだ」

 呟く。

 ふむ。もしかしたら、衛士たちから近しい技術を教えられたのか?

「まあ、その名は地域によってバラバラだからな」

「え? そうなの?」

 ニナは意外そうに呟く。

「剣士だったら、“闘気”とか言われていないか?」

 俺の聞き返しにニナたちは「あっ」と思い出す。

「そう。“魔力操作”とは言うなれば、内在魔力(オド)いや魔力を自在に扱いこなす技術」

「魔力を……」

「……自在に扱いこなす技術」

 初歩的なことは知れたようだな。じゃあ、次だ。

「剣士の間で知れ渡っている“闘気”も魔力の別称っていうのは知っていると思う」

 ニナたちは“闘気”というのがなにか知っている。

 “闘気”は魔力の別称だと言ったな。体内の魔力。つまり、内在魔力(オド)を使い、自身の身体能力を向上させる。刀身に纏わせて、鉄以上の硬さを持つ鎧を斬ることができる。

 “魔力”“闘気”は人間の身体に流動しているのも特徴。

「昨日、俺がしたのは魔力を刀身に纏わせて、鉄以上の硬度にさせていたんだ」

「なるほど」

 ふむ。少しずつだが、理解しているようだな。感心感心。

「魔力というのは人間の身体を血流と同じように流れてる。この技術は使用者の鍛錬度合いで決まるから。鍛錬をすればするほど、魔力を扱う技術が向上する」

「要するに人は鍛え続けなければいけねぇってわけか」

「平たく言えば、そうだ。そして、“闘気”には二種類に分けられる。それは知っているな?」

「当然よ」

「…剣を学ぶ際…父さんから教えてもらった」

 しっかりと学ばれているな。

「身体能力を向上させ、剣の硬度を強化させる“動の闘気”。相手の気配いや殺気を感じとり、いなす“静の闘気”の二種類があるのを知っているな」

「あぁ~、知っているぜ」

「…で、“闘気”もそうだが、魔力も使い方次第で大きく変わると話したな」

 俺はニナたちに聞いたことを確認する。彼らも聞いたと頷く。

「“闘気”は極めれば極めるほど、戦闘のバリエーションが増える」

「極めれば、戦闘のバリエーションが増える?」

「ああ、あと、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ここで俺は“闘気”の重要なポイントを教える。

「極限状態? 強敵と戦う?」

 ティア殿下は俺が言った重要ポイントの意味が理解できず、首を傾げる。

「ふむ。“口で言うがやすし”とも言うが……難しいな」

 これは俺も頭を悩ませる。

 う~ん。これはどう説明させればいいんだ。

 うむ。と、頭を悩ませる。そうだ。ここで俺は千年前の自分の武勇伝を交え、話す。

「キミたちが知る[戦神ヘルト]。彼は幾多の戦場を経て、誰もが認める英雄となったとされている。彼も“闘気”を扱いこなせた。そして、戦場を戦い抜き、無敗伝説を後世に残した。それは知っているな?」

「もちろんよ」

「[戦神]様の伝説は剣を扱う者にとって知っていて当然よ」

 ティア殿下とニナが危機迫る形で詰め寄り言ってくる。

 思わず腰が引けるな。一度、咳払いをし、話を再開する。

「戦場には弱者もいれば、強敵もいる。彼は強敵と戦う度に驚異的な進化を遂げた」

 俺は昔の自分。千年前の自分を思い出しつつ、語るように教える。

 今までの教えを聞き、ティア殿下は自分なりに解釈し頷く。

「つまり、“闘気”は鍛錬と実戦で極めるしかないということ?」

「その解釈にいい」

 もっと、わかりやすく言えば、自分より格上の敵でしか強くなれない。

「なるほど」

 とティア殿下たちは納得した。


 すると、続々と教室にクラスメイトが入ってくる。

「そろそろ、始業時間だ。二人は自分の教室に戻った方がいい」

「あっ、本当」

「じゃあ、しゃあねぇか。それじゃあ、話の続きは昼にでも聞かせてくれ」

「おう」

 と、ナルスリーとシューテルの二人は自分の教室へと戻っていく。


 ちょうど、そのタイミングで担任講師が入ってきて、始業開始の鐘が鳴る。

 講師が教卓まで来て、声を発する。

「皆さん、おはようございます。今日は授業にある実習ですが、職員と協議した結果。学園の地下迷宮における実習を行います。急なことではありますが、心して取り組んでください」

 ん? 学園に地下迷宮? 聞いたことがないな。

 もしかして、千年の間にできた迷宮なのか? それにしてはニナやジノ、クラスの皆。動揺が激しくないか。“そんなに驚くことなのか?”と俺は胸中で疑問符を浮かべる。

「皆さんも知っているかと思いますが、“迷宮”は危険極まりない場所だと言われています。かの[建国神リヒト]様の時代から存在し、数多の人命を犠牲に攻略されたと言われています」

 と、講師は“迷宮”の説明をしているが、少し違うな。千年前から存在していたんじゃない。()()()()()から存在している、だ。


 そもそも、“迷宮”とは神々が生み出したとされる場所だ。もちろん、トラップ()も魔獣が地上とは打って変わっていた。

 ある人は、彼処は“天国”であり、また、ある人は、彼処は“地獄”と口にする。

 その所以は、かつて、多くの国が“迷宮”に挑戦し、無残に人命を失った。

 ある人は言った「迷宮には膨大な財宝がある」と――。

 その噂が世界中に知れ渡り、多くの人間が挑みに挑んだが、誰も帰ってこなかった。かろうじて、生き残った者が恐怖に震えつつも証言した。

『彼処は……“迷宮”は……()()……俺たちの常識なんて通用しねぇ……もう、あんな所行きたくもねぇ……』

 その者が証言の後、国中の国王たちは“迷宮”へ挑戦することが少なくなった。でも、逆に“迷宮”は裏の世界の者たちにとって格好の隠れ家と様変わりし、悪党共は国の目から逃れ、暗躍を続けた。


 何故、こんなに詳しいか、だな。それはその昔、俺も“迷宮”に挑戦し、トラップ()いや試練を乗り越え、莫大な宝を手に入れた。

 確かに“迷宮”には莫大な財宝がある。でも、“迷宮”の試練は常識が違う。千年前の常識でも通用しなかったのだから。今の常識でも通用しない。俺はそう考えている。


 昔を振り返っている最中、講師は重要なことを言った。

「協議した末、地下迷宮の実習は一日かけて行います。始業後、各自、準備をした後、地下迷宮の入り口に集合してください」

 と、担任講師は言って、教室を出た。


 講師が出てすぐ、クラスの皆がざわめきだした。俺は聞き耳立てる。

「どうしよう、迷宮の実習だなんて……」

「僕……怖くなってきた」

 恐怖に怯える人もいれば――。

「ようやく、“迷宮”の実習。いつか、“迷宮”を踏破してみたい!!」

「僕も!」「私も!」

 “迷宮”踏破への好奇心に溢れる人もいる。

 人それぞれ意識が違うな。

 後ろの席に座るティア殿下に目線を向ければ――、

「いよいよ、“迷宮”の実習。怖いけど頑張らないと……」

 意欲十分って感じだ。

「気合いが入っているな、ティア」

「当然と言いたいけど、本当は怖いよ」

「キミのことだから。“迷宮”なんかも果敢に挑戦すると思ったけど?」

「そんな無謀なことはしないわ。本で読んだもの。初代皇帝も挑戦を禁ずるほどお布施をしったって言うし」

 ふむ。しっかりと学の研鑽をしているな。感心感心。

「そうだな。「勇気と無謀ははき違えるな」って親から口を酸っぱく言われているからな」

 仕方ないと言えば仕方ない。

「まあ、幸い、今日の実習が一日で助かったと言っておこう。“迷宮”で囚われ、帰ってこなくなるってのはザラにある」

 俺としては学園側の意図が分からない。講師陣も協議に協議を重ね、決定したことだろう。学園長の一声でできることじゃない。

 何かしらの陰謀があってもおかしくない。

「俺としてはなにごともなく、平穏に実習が終わってほしいものだ」

「それしか言えないわ」

 ティア殿下も俺と同じ気持ちであった。

感想と評価のほどをお願いします。

ブックマークもお願いします。

ユーザー登録もお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ