英雄は地下迷宮の実習を知らされる。
授業終了の鐘が鳴り、俺はほっと息を吐いた。
「それでは、今日の授業はこれで終わりにします。また、明日、サボらずに登校してきてください」
クラス担任が教室を出ていき、生徒一同。一斉に帰り支度を始める。
後ろの席に座っているティア殿下がツンツンと俺の背中を突っつきつつ、話しかけてきた。
「ねぇ、この後、なにか食べない?」
「もちろん、それは構わない。だが、どうして、食べる気になった?」
「初めて、試みたせいか。お腹が結構空いてるのよ」
「ああ、なるほど」
と、俺は呟きつつ、椅子を引き、立ち上がる。
「時間的にも食堂は開いていないし。俺の屋敷で食べるのはどうだ?」
「ファーレン家の。いいわね。じゃあ、行きましょうか」
ティア殿下が椅子を引き、立ち上がる。
なお、隣に座っているニナとジノが訝しげな表情を浮かべた。
「ねえ、ジノ。午前中に私たちやナルスリー、シューテルをコテンパンして、演習場の壁に亀裂をレルほどの激戦をしておいて、なんで和気藹々と話しているの?」
「僕にも分からない」
「大体、負けた相手の屋敷に招くものなの?」
言葉を漏らすも、俺とティア殿下は顔を見合わせる。
「だ、そうだ」
「あれだけ力の差を見せつけられ、完敗されたら、悔しさなんて感じないわよ」
「よくそんなことが言えるな。その口は、“次は私が勝つ”と言っているようなものだぞ」
ティア殿下は笑みを浮かべ、それを否定する気もなく肯定する。全く、皇族というのは変わっているのか? と思わず、疑ってしまう。
「まさかとは思うが、俺の力を見極めたつもりか?」
「私って負けず嫌いなのよね。次は勝たせてもらうわ」
俺が少々高いところから見下すような視線をやれば、ティア殿下はそれに応じるかの如くにこやかに微笑む。
「だから、どうして、張り合えるのに屋敷に誘えるのよ」
ニナが心底不思議そうに呟く。
「さあ、分からん」
「私もなのよね」
「もしかしたら、少し変わっているのかもな」
「あっ、そうかも」
納得したかのように俺たちは頷き合う。
無意識下に互いの思考や感覚がわかり合ってるかもしれない。
俺とティア殿下は対等な関係だと思う。だが、皇族と貴族の間では俺とティア殿下は婚約者同士。思考や感覚が似通っててもおかしくない。
おっと、これは勝手な推測だが、こういった友情も悪くないな。
と、そこにガラガラと扉を開け、二人の少年少女が入ってくる。
「ニナ、ジノ。一緒に帰ろう」
「おい、ナルスリー。少々、人が変わっていねぇか?」
おや、誰かと思えば、ナルスリーとシューテルじゃないか。
「ニナとジノを呼びに来たのか?」
俺が二人に声をかけると、シューテルが俺たちに視線をやる。
「あ、ああ、そうだ」
「どうした? 声がテンパるなんて――」
「い、いや、何でもない」
何でもないはないと思うぞ。声が裏返っている。
ナルスリーもシューテルに遅れて、俺たちに視線をやる。
「あっ、ズィルバー」
「いきなり、呼び捨てか」
「もしかして、不味かった!?」
呼び捨てしたのが悪かったのかナルスリーは慌て出す。
「いや、問題ない。それよりもこの後、ファーレン家でご飯にしようと思うんだが、一緒に来るか?」
誘いをかける。
「「「「え?」」」」
これにはナルスリーとシューテルだけではなく、ニナとジノも呆ける。
「なんだ? 俺は変なことを言ったか?」
ティア殿下に話を振る。
「普通。貴族が庶民を屋敷に招くのはおかしい」
「子供の俺たちがそんなのを気にしたら、将来、怯える一生だぞ。招いて悪いことはないだろう。余所がどう言おうが、責任ぐらいは俺が取るさ」
俺はなんてことのない気構えを見せる。いや、言い方を変えれば、懐が広いと言ったほうが正しいかもしれん。
俺の懐の広さに感服したのか知らないが、ニナたち一同、顔を見合わせる。
「じゃあ、お言葉に招いていいかな」
「しょうがねぇ。子供の僕たちが考えても意味がねぇ」
開き直って、俺の誘いに応じる。
「決まりだな。それじゃあ、行こうか」
「ええ」
と、俺たちは帰り支度を終え、そのまま、教室をあとにした。
教室を出て、敷地を歩き、校門へさしかかったところで俺の迎えの馬車がちょうどやってくる。そのタイミングに小鳥のレインも俺の肩に止まる。
「お坊ちゃま。お迎えに参りました」
「ちょうどいいタイミングだ。ルキウス。彼らを屋敷に招きたい。全員入れるか?」
「少々、窮屈になりますが入れることはできます」
「そうか。じゃあ、入れ」
俺はティア殿下たちに馬車に乗り込めと言う。
ティア殿下はなにごともないかの如く、馬車に乗り込む。ニナたちは顔を見合わせる。
「どうした?」
「いや~」
「こんな豪華な馬車に乗ってもいいかなって思って……」
ナルスリーが馬車に乗っていいのか疑る言葉を述べる。
「何を言っているんだ。俺がいいって言ってるんだ。乗っていいよ」
俺が決めたことにニナたちは再び、顔を見合わせる。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」
「乗らせてもらうね」
彼らは迷いに迷って馬車に乗り込む。四人が乗ったところで俺も馬車に乗り込む。
「じゃあ、送ってくれ」
「かしこまりました」
ルキウスは綱をはたいて馬車を動かせる。
ファーレン家の屋敷に向かっている中、馬車内部の座り心地を堪能してるニナたち。
「柔らかい」
「ふかふか」
「こんなふかふかなソファー初めて」
「流石、貴族様だ」
生まれて初めて…か。まあ、分からなくもないか。人生。なにが起きるか分からない。質素な暮らしをしていたのが、たった一つのきっかけで人生が大きく変わるのはザラだ。俺だって同じだ。
千年前の俺は質素とは程遠い暮らしていた。リヒトとレイに拾われ、武芸を極め、大将軍となって国の剣となり、国の盾となる道を進み、武功を重ねて、裕福な暮らしができた。
今は公爵家の子供に転生し、優雅な暮らしをしている。下手をしたら、質素とは程遠い暮らしに逆戻りするかもしれないな。
たった一つのきっかけで人は大きく変わる。
「シューテル。人間とは、たった一つのきっかけで人生が大きく変わる」
「たった一つのきっかけで?」
「ああ、たとえば、冒険者がとんでもない功績を立て、国から報奨金をもらう。それは、とても名誉なことだ。今まで質素な暮らしが一気に豪華な暮らしになる。逆に豪華な暮らしをしている貴族がとんでもない大失態をして、国から金も地位も没収されて没落し、質素とは程遠い暮らしをするなんてことはザラだよ」
「なんか現実味のある話だね」
「レインから聞いた話だが、実際、千年前はたった一つのきっかけで人生が大きく変わったのはザラにあった」
「レイン?」
と、ここでナルスリーが“レイン”という人物に疑問符を浮かべる。シューテルも同じ。
「レインとは俺が契約している精霊だ」
肩に乗っている小鳥を指す。小鳥のレインは顔を動かす。
『よろしくね』
言葉を発する。
「今は小鳥だが、普段は人の姿で過ごしている」
俺は二人に説明する。だが、ナルスリーとシューテルはレインが、いや、小鳥が言葉を発したことに驚いている。
「それで話を戻す。知っていると思うけど、千年前は戦乱の時代。国同士で争いあう時代。その時代で武功を立て続けたのは軍人だ。キミたちも知っている[戦神ヘルト]もその一人。彼だって、武功を重ねて英雄となった。だが、それでも、彼を妬む者もいる。それは私腹を肥やす貴族だ。そんな彼らを没落させ、彼らに優秀な武官、文官を貴族にさせたのが初代皇帝リヒト。彼の政策で私腹を肥やす貴族から金を奪うだけ奪って没落。代わりに戦場で戦い抜いた兵士たちに労った。そうなれば、民衆はどうなる?」
「初代皇帝を崇拝する」
「そう。民衆にとって、一番の楽しみは戦争による凱旋と王の政策だ。勝利の凱旋と聞けば、[戦神ヘルト]を含む“五大将軍”。政策と聞けば、初代皇帝。彼は優秀な者たちを自分の手中に収める手腕と懐の広さを持っていた」
千年前、リヒトは私腹を肥やす貴族共に言い放った言葉があった。
『余は結果を……武勲を示した者たちに相応の報酬を与える。結果を示さず、ただ私腹を肥やす者は不要!』
彼は“傲岸不遜”“天上天下唯我独尊”“泰然自若”の三拍子が揃った男だった。
「初代皇帝は傲慢だった。だが、傲慢だからこそ、民や友のために思い切った行動をした」
俺は少々、昔を思い出しながら、人生というのを話す。
「だからさ。なんかのきっかけで人生なんて変わるものさ。思い切った行動をしないと人生面白くもないだろう」
「確かに」
「思い切った…行動…か」
「そうだね」
「伝説の偉人たちを超えるような思い切った行動しないと人生つまらない」
ニナたちも俺の話を聞き、“その通りだ”と言い切った。
「私にとって、人生って出会いだと思う。こうして、ニナやジノくんに会えたこともそうだし。ナルスリーやシューテルくんにも会えた。これからもいろんな人と出会っていくと思う。そうでもしないと運命なんて切り開けない」
「その考えも面白いな。出会いか」
俺もリヒトやレイと出会ったことで人生が大きく変わったかもしれない。二人のために武芸を極め、戦場で戦い抜き渡り歩いた。
その果てに神の名を与えた英雄となった。
俺は、その運命に悔いはない。やりきったと自負している。でも、思い残すことがあったとしたら、レイの言うことをしっかり聞いておけばと後悔していることぐらいかな。
馬車は表街道から貴族区へ入った。
貴族区にある空屋敷を見るティア殿下。
「お父さんに言っておこうかな。第二帝都の空屋敷の取り壊しを」
「やはり、皇族の方でも第二帝都の貴族区が気になるのか?」
「私は少し気になるけど、リズ姉様が気にしていたから」
「だろうな」
俺もティア殿下やエリザベス殿下と同じで気にしていた。
これだけ空屋敷があると闇取引が多くなりそうだからな。
しかし、ニナたち四人は俺とティア殿下の話に首を傾げる。
馬車がファーレン家の屋敷に到着したところでルキウスが扉を開けてもらい、俺たちは馬車から降りる。
降りた後、屋敷の扉を開けて、俺たちは中へ入った。
ギィギィと扉が開き、既に手配されていた給仕がこちらを向く。
「ズィルバー様。お帰りなさいませ」
給仕が定例の挨拶をしてくる。
「既に夕食の準備は出来ています」
「そうか。すまないが、ティアたちの分も用意してくれるか?」
俺は連れてきたティア殿下たちに夕食を用意してもらうよう口にすると、給仕はティア殿下がいたことに驚くも気を取り直した。
「かしこまりました。五人分の夕食の追加ですね」
しっかりとティア殿下だけじゃなく、ニナたちを入れたんだな。
「頼むぞ」
俺は給仕に指示を出した後、客人であるティア殿下たちの方に向く。
「じゃあ、部屋に案内するよ。荷物を置いて、制服も脱ぎたいだろうしな」
「そうね。お言葉に甘えて、部屋に行きましょう」
ティア殿下は賛同してくれた。彼女の言葉にニナたちも応じる。
「じゃあ、お願いします」
ナルスリーが礼儀正しく頭を下げる。
礼儀正しい。うむ。しっかりと教育されている証拠だな。まあ、今はそれを無視し、俺の案内で部屋へ連れて行き、荷物や制服の上着を脱ぎ、食堂へと向かう。
食堂へ来れば、既にエルダ姉さんやヒルデ姉さんが帰ってきて夕食を食べていた。
っていうか、なんで、エリザベス殿下もいるんだ?
「あっ、リズ姉様」
「えっ、ティア」
神妙な顔つきをするエリザベス殿下。エルダ姉さんやヒルデ姉さんも同じように神妙な顔つきになる。
「あら、ズィルバー。今、帰ってきたの?」
「しかも、お友達を連れてきて」
エルダ姉さんは俺が帰ってきたのを知り、ヒルデ姉さんはニナたちの顔を見て、驚いたような声をあげる。
ヒルデ姉さん。驚いたようには見えない。
「今、帰ってきたよ。エルダ姉さん。それと今日はティアたちを招いたんだけどいいか?」
「もちろん」
「むしろ、弟の友達がどんな子か知りたい」
姉さんたちは大いに喜んでくれた。
ヒルデ姉さんはニナたちを見る。
「見たところ、男二人。女二人ね」
「はい、私はナルスリーといいます。今日の模擬試合で仲良くなりました」
「僕は…ジノ…です。よろしくお願いします」
「僕はシューテル。ナルスリーと同じで今日の模擬試合で仲良くなった」
「私はニナです。私とジノは入学式の日に仲良くなりました」
すると、エルダ姉さんはパアッと表情が輝いた。
「そうなの。ズィルバー。なによ、入学式の時に仲良くなったのなら、教えなさいよ」
「いや、教えて、なにになるんだ?」
「もう、分かっていないね。こういうきっかけで交友関係を増やすのよ」
「そういうものか」
いやはや、千年前とは全然違うな。いや、千年前からずっと続いていて、俺が異常だったかもしれないな。
「そういうもんだな」
と、俺は受け入れることにした。
俺たちは席に着き、給仕に運ばれた夕食をありつけた。
夕食を口にしつつ、エリザベス殿下はティア殿下に今日の授業内容を聞いていた。
「今日は剣術基礎学科の実習だったと思うけど」
「はい、実習初日に模擬試合をしました」
「そ、そうなの」
と、これにはエリザベス殿下も顔を引き攣る。
「それで担当は誰かしら?」
「__という先生です」
「ああ、彼ね」
エリザベス殿下は剣術基礎学科の担当講師の名前を聞き、思い至ったそうだ。
「姉様、知っているの?」
「ええ、あの講師の模擬試合は有名で“何事に於いても実戦あるのみ”って方針だから」
「私たちの頃も、あの先生に模擬試合を組まされたものね」
「むしろ、毎年恒例よ」
エルダ姉さんもヒルデ姉さんも同じこと言っている。それなりに名の通った先生なのか?
「彼はその昔、超一流の冒険者だったけど、犯罪者討伐の際、手酷い傷を受け、冒険者を引退したそうなの。今は学園講師として第二の人生を満喫しているらしいわ」
ふむ。超一流ともなれば、学園としても優秀な人材だ。講師として招き入れるのも納得する。
「私も冒険者になりたいけど、公務とかあるしね」
皇族だから仕方がない。
「最近、犯罪者が増えているから冒険者にも討伐依頼を出したいぐらい。特に第二帝都の治安改善しないとね」
「やはり、貴族区にある空屋敷ですか?」
「そう。この区画の空屋敷が増加傾向をいいことに犯罪者が密談することが多いのよ。警邏隊から度々報告がくるのよ」
犯罪者の密談。まあ、考えることだよな。ここまで人気が少なければ、誰だって密談するに決まっている。
「では、空屋敷を取り壊すとかしないのですか?」
「それをすれば、貴族が体裁を取ってくるのよ。全く、屋敷の維持費なんて相当なものよ。見栄を張る貴族が多くて甚だしいったらありゃしない」
エリザベス殿下が愚痴を漏らしたくなる気持ちも分からなくもない。千年も経てば、無能な貴族は出てくる。このままではいつか、国内で内乱が起きそうだな。と、俺はその考えに至る。
「エリザベス殿下。皇帝陛下に進言してどうですか?」
「なにを?」
「不当に搾取するだけの貴族を間引くというのは」
俺は千年前、リヒトがやった方法を進言する。
「間引く? どういうこと?」
ふむ。どうやら、質問の意味が分からないか。姉さんたちやティア殿下たちも首を傾げている。
「初代皇帝がとった政策の一つ。不必要な貴族から財産と領地を没収。爵位すらも没収し、優秀な人材に貴族にさせるという政策です」
俺の説明はリヒトがとった政策。その政策に食堂にいる全員。目を見開かせる。
「だけど、それって……」
「もちろん。その政策は国を衰退させるかもしれない。だが、時には思いきったことをしなければ、治安の改善にもなりません」
俺はエリザベス殿下に一つの考えを打診する。これには彼女も頭を悩ませる。
残酷だが、時には、間引かないと国は衰退するだろう。平和を願い戦い続けた俺としては国の存続のために心を鬼にして残酷なことをしなければならない。
仮にも、俺は人々の信仰のもと神として昇華された存在。親友の国を滅ぼさせたくないという思いがある。
これは千年前の方針だ。今の時代は昔とは違った方針ができるかもしれない。リヒトがとった政策で廃嫡された貴族から妬まれ、暗殺する事態にもなった。彼奴がとった政策は良い意味でも悪い意味でも国を変えたともいえる。
もしかしたら、リヒトがとった政策で今に続く国の闇を生み出したかもしれない。やはり、国の存続には闇がつきまとう。
今でも千年前から続いている闇が残っているかもしれない。俺が、この時代に転生されたのは、それかもしれない。
だが、今は時の流れに身を任せよう。そうすれば、敵も自ずと見えてくる。
と、俺は昔のことを振り返りつつ、今の生活を満喫する方針にした。
「う~ん。初代皇帝がとった政策か。それもいいけど、なにか別の方法で国をよりよくする方法はないかな」
と、エリザベス殿下は俺が進言した政策以外の法案を考える。
微かだが、笑みを零してしまう。
やはり、エリザベス殿下は皇帝としての器を持っている。国のため、民のため、自分を犠牲にしての方法を考える。
まさに、王道とも言えよう。
ふむ。俺から見ても、彼女はリヒトとは違った皇帝になれるかもしれない。まあ、それを支える臣下たちもしっかりしないと成り立たない話だが――。
そこは俺たちが頑張れば、なんとかなる話だ。
俺たちは夕食を食べ終え、お湯で身体を清めた後、それぞれの部屋へ戻る。
部屋に戻り、俺はベッドに腰を下ろし、窓から眺める景色を見る。
宵闇に浮かぶ月。月を眺め、感傷に浸る俺に、人の姿になったレイン。彼女が俺に隣に座る。
「どうした、レイン。浮かない顔をして」
「ねぇ、ズィルバー。本当なの。リヒトが貴族を間引いたって話」
レインは、とても信じられない表情を浮かべ、俺に真実を聞いてくる。ここで嘘をついたら、俺の身が危ない気がする。だから、正直に話した方がいいな。
「レインが知らないのも仕方ない。ちょうど、レインたちが王宮に連れてきた前だからな」
「じゃあ、本当にリヒトは貴族を間引いたっていうの?」
「ああ、本当だ。あの時は逼迫していた状況だ。彼奴も苦渋の決断で貴族を間引いた」
俺は当時のことを踏まえつつ、真実を話す。レインは真実を聞きつつ、リヒトとレイへの想いが揺らぎそうになる。
「レインにとって信じられないのは分かっている。だが、キミも知っているだろう。戦乱の時代。戦争続きだった頃、糧食、武器を掻き集めに資金を多く使用し、財政が逼迫。国は勝利を重ねても国内が荒れていたのは知っていただろう」
「う…うん」
「そんな財政下で貴族は私腹を肥やしていた。自分たちが参加しなくても国は勝利し続けている。自分たちはなにもしなくても国は存続し続けると……」
俺は当時のことを振り返りつつ、話し続ける。
「当然、兵士や文官の間で貴族への陰口が絶えなかった。俺も無駄に私服に肥やされて嫌気を刺していた。他の五大将軍も同じだった。このままでは財政難で民だけではなく、兵士からも不満が飛び交う。いや、既に飛び交っていた。飛び交う不満に貴族はなんのそのという感じで私腹を肥やし続ける」
当時のことは今でも鮮明に覚えている。俺も民たちの暴動を抑えに向かったことがある。「このままでは、内乱が起き、他国に侵攻され、滅ぼされそうになった」
「そこでリヒトは苦肉の策として貴族を間引いたの?」
「ああ。もちろん、リヒトもレイもそのようなことをしたくなかった。俺とて国内で血を流したくなかった。戦場で血を流す分にはさほど、問題ない。だが、内部で血を流すのは嫌だった。そして、リヒトは強攻策として不当な貴族を間引いた。財産と領地を没収。爵位すらも没収した」
俺の脳裏に過ぎるのは貴族共から反感の嵐。リヒトへの暴言を吐きまくった。
「リヒトは、自分がした過ちを呑み込み、不当な貴族らを処断した」
今、思いだしてもいい気分にはなれなかった。リヒトとレイ、俺たちが目指す世界。道順において、これほど辛いことはなかった。
「不当な貴族らを処断したことで空いた席に戦場に出た貴族や俺たちにあてられた。要は優秀な者たちにそれ相応の地位を与えていった」
「ズィルバー。貴方が爵位を与えられていたの」
レインは千年前から俺が貴族の爵位を与えられたことに驚いてるようだ。
「まあ、リヒトから与えられたが、俺はそんなのいらなかった。貴族っていうのはとても性に合わなかったからな」
「でも、ファーレン公爵家は貴方の子孫じゃない」
「そこはリヒトの手を加えたんだろう。彼奴は心配性なところがあるからな」
大方、神々の対策だろう。もし、神々が今も裏で画策しているなら、それは俺が止めないといけない。
今の時代の人間じゃあ神の相手はできない。彼奴らは常識の埒外にいる。今の時代の人間から想像もつかないだろう。
それが神というものだ。
この時、俺はこの時代における自分の役目をなんとなく気づいていたのだった。
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