英雄と皇女殿下の別次元の試合を別視点から見る+蠢き出す陰謀。
俺とティア殿下の試合を木の茂みから見ていたレイン。
彼女は剣圧による衝撃波で木が揺れる中、姿勢を崩さず観戦している。
(全く、なんて試合をしているのよ!? あの二人!? 衝撃波だけで木が揺れ、壁に亀裂が入った!? これじゃあ、まるで、ヘルトとリヒトが剣を交えたときと同じじゃない!?)
「力加減を考えなさいよ。このままじゃあ、演習場が使えなくなるよ!!」
小声ながらも怒鳴るレイン。
さらに別の木の茂みから観戦している小鳥を介して見ているエメラルドグリーンの女性。
(ふむ。彼が少し本気になっているのも凄いけど、あのティアって娘。天才といっても過言じゃないわね。まるで、レイにそっくり。容姿は幼少の頃のレイにそっくり。このままだと将来、傾国の美女と言われてもおかしくない美貌を持つわね。レイも異種族いえ耳長族との混血。精霊の加護を抜きでも護身にしては強かった。模擬試合でもリヒトもそうだけど、ヘルトと渡り合えた。おそらく、ティアもレイと同じタイプね。あと、魔力の運用も良すぎる。使い方はヘルトと違う。似ているとしたら、レイね)
彼女の脳裏に過ぎったのは防衛戦において、戦い抜いたレイ。彼女の魔力運用は千年前では随一を誇る。
(今はまだ、原石だけど、いずれはレイに近づき、彼女を超えるでしょうね)
エメラルドグリーンの女性は近い将来に思いを馳せる。
(いずれにしても、これで彼らが動きだす。使い魔を使って調査ね)
彼女はこれから起こりうる未来を推察し、使い魔に動きだすよう指示を出した。
場面を変えて、篝火が灯る漆黒の空間。
篝火に集う六人。彼らは篝火を前に話を集う。
「彼がティアって娘と模擬試合をしたそうよ」
「知っておる。この私にはこの世界の全てが見通せる」
「ならば、不味いと思わないか。彼女は彼女の真なる加護を持ってる。早いうちに回収した方がいい」
「だが、加護は死ぬまで回収できんぞ!」
「だから、殺せばいいと言っているのだ」
男が口にする。その意見に賛同しかねる女がいた。
「それは難しいでしょう。彼女にはヘルトがいます。彼をどうにかしないと回収するのもできない」
「ふん。今のヘルトは転生されてガキだ。ガキだったら、分相応の力しか発揮できん!」
「全く、貴方は脳筋ね」
侮蔑する違う女。男はその女に睨み出す。
「ヘルトは戦場において無敵の力を誇る。特に女時の硬さは神代随一。現代の技術では到底不可能」
「その女にさせる異能体質。“両性往来者”を生み出したのは貴様だろう? 今更、何を言っている!」
「口を慎みなさい。次、同じことを言ったら、その口、二度と開けなくさせる」
「ふん。やってみろ」
一触即発の雰囲気か。リーダーと思われる男。
「静まれ!」
圧のある言葉で黙らせる。
圧のある言葉に皆、口を閉ざして黙りになった。
「女神。使いを出せ」
「はい」
「今、奴は第二帝都の学園。あの地下には迷宮がある」
「確か、その最奥には彼が眠っているわね」
「いや、彼奴はヘルトの戦いで瀕死の重傷を負ったままじゃないか?」
「何を言っていますの? 彼には私の加護が働いているのですよ。あの程度の傷なら造作もありません」
「バカだな」
「なにがです?」
「ヘルトは共存派の奴らの加護を持っている。貴様の加護からでも平気で斬り殺せるんだぞ。一度、それに失敗して動揺していたのはどこの何奴だ?」
「なんですって!?」
「なんだよ!!」
バチバチと火花を散らすかと思いきや、今にでも殺し合おうとする殺気を放つ。
「静まれ! と言っている!」
再び、リーダーと思われる男が圧のある言葉を飛ばす。
「使いを出し、彼を解放させよ。ヘルト及び、今世に生きる真なる加護の持ち主を探し出し、殺せ」
「はい。分かりました。すぐに使いを送らせます」
女神と思わしき女が、すぐさま、行動に移る。
「他の奴らも共存派の奴らとの戦いに備えろ。我らの長年の計画も天寿を全うする」
「そうなれば、再び、この世界を――」
「我らの手中に収められる」
「忌々しい、リヒトとレイ、ヘルトの血族を途絶えさせ――」
「再び、我ら神々の時代にさせるのだ」
さらに場面を変えて、秘密の花園。
花園にはエメラルドグリーンの女性を中心に六人の男女が円卓を取り囲んで座っていた。
「大神は彼を復活させる気のようね」
「不味いな。いくら、ヘルトとて。彼とは相性が悪い」
「千年前、ヘルトは彼との戦いで深手を負い、過労死に追い込ませた」
「彼は神代きっての化物。あの硬さはヘルトにも匹敵する」
「軍神よ。貴殿は如何おつもりで?」
ここで女が軍神という男に尋ねる。
「俺には問題ないと思われる」
「それは何故?」
「何故もなにもヘルトいや人とはなにかを守りたいと強く思うからこそ、強くなれる。俺はそういう人間が好きだ。少なくとも、ヘルトは俺が知る中で一番だと思い、彼に俺の真なる加護を与えたまでだ。守護神もそうだろう?」
「ええ、私も彼のそういう一面が好きで真なる加護を与えました。例え、大神が何をしようとも彼は屈しません。彼は知らず知らず、仲間を、友をできます。それに――」
「それに?」
「今の時代を築けるのは今を生きる人間だけ。もはや、私たちが介入するのが烏滸がましいのかもしれません」
「守護神はそうであっても、統治派の考えはそうではない」
「少なくとも、奴らを妨害する手立てを考えておかなければ――」
四人は敵の思惑に対抗する案を出しあう。
しかし、守護神は
「如何なることがあろうと彼は私が認めた最強の男。私たちや奴らの思惑を容易く乗り越えることでしょう。私はそう信じています」
ヘルトを、ズィルバーを信じる言葉を口にした。
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