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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
学園入学
60/302

英雄は模擬試合で力の差を見せる。②

 俺の言葉に剣を構える三人。ティア殿下は剣を構えることなく、一歩下がっている。

「ティア。キミは参戦しないのか?」

 問いを飛ばす。

「今じゃないわ。もう少し待ってからにする。貴方との打ち合いわね」

「そうか。ならば、傍観しているがいい。俺は腰抜け共の相手をしてやろう」

 俺は腰抜けになっている三人に視線を向ける。


 視線を向けられ、ニナ、ナルスリー()、シューテル()はゾクッと背筋を伸ばす。

 剣を構えるもガタガタと震えている。

 まあ、無理もないだろう。今まで築きあげたであろう自信が俺の所為でこっぴどく崩れ去ったのだからな。

「これ以上、打ち合いたくなければ降参しろ。俺は()()()()()()()()

 明確かつ残酷な言葉を告げる。

 ここぞとばかり、俺は相手の心をへし折る。

 ここで敗北を認め、引き下がるなら臆病者として恥じることだろう。だが、敗北より死をとり、勝負に来るなら相手をする。

 普通、それは蛮勇と捉えるが、時にはそれも必要なときが来る。生きれば英雄。死ねば蛮勇として語りつがれるというだけの話だ。

「さあ、俺の剣を恐れないというならかかってこい」

 泰然自若とも取れる態度。構えもしておらず、隙だらけの俺に斬りかかってくる度胸があるか否か見せてもらおう。


 (ズィルバー)と退治するかのように剣を構える|ニナ、ナルスリー、シューテル《三人》。

 観戦している生徒たちから見れば、隙だらけかつ“攻撃してこい”と言わんばかりの構えをしていない。

 だが、武芸を志す者たちにしか分からない。

 “下手に突っ込めば返り討ちに遭う”と――。それだけの気構えと力を兼ね備えてるのが肌に感じとれる。

 三人が今、胸中に抱いているのは恐怖。

 その恐怖はおそらく、実の父、母、祖父、祖母と対峙したときと同じ気迫を感じとれたからだ。

 両者ともに動かない緊迫した状況。

「来ないのか?」

 俺はただ、言葉を発した。だが、発した言葉にはそれ相応の重みが乗っていた。

 言葉の重みに三人は気を振り絞る。

 気を振り絞ったところで前へ進む度胸があるか否か。今、彼ら三人は、ある一定の線の前に立っている。その線に超えられるか否か。俺は今、彼らの度胸を試している。最初は彼らを打ちのめすだけだった。だが、ジノと打ち合っているうちに趣向が変わってしまった。

 このまま、均衡状態が続けば、無為に時が流れ、授業が終わってしまう。

 それが分かってるのか知らないが、シューテルとナルスリーの二人は一行に動く気配がない。逆にニナはゆっくりとだが、横へ動き、俺の隙を窺っている。

 だが、一行に俺が隙を見せる気配がないと観念したのか。一回、息を吐いて余分な雑念を取り払った。

(私は“剣蓮”の娘。ここで無為に時を待つぐらいなら挑むわ。本道場の皆からなんと言われようと構わない。私は今できる全てを出してズィルバー(彼奴)を倒す!!)


 ここでニナは柄を握る手を強くする。強く握るのを見た俺は、ようやく、覚悟が定まったか、と――。

「かかってきな」

「望むところ、よ!!」

 グッと足に力が入り、地を蹴って、俺へと駆けだすニナ。

 地を駆け抜けるのと同時に技の構えをする。

 あの構え。剣を上段に構える所作。

 なるほど。確かに俺を“()()()()”と称するのもわかる。あの構えは()()()()()()()()()だからだ。

「剣蓮流奥義――“神大太刀(かみのおおたち)”!!」

 ニナが振るう剣閃。それはまさに彼女の全てが篭もった一撃。剣の速度も刃の速度も一兵卒では相手にならない。

「ほぅ。見事な速さだ。だが、その技の致命的な弱点を教えてやろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

「致命的な……弱点……?」

「ああ、見せてやろう」

 俺はニナに“神大太刀(かみのおおたち)”の弱点を教えることにした。

 悠然とした構えから右足を一歩引く。

「弱点、その一。神大太刀(かみのおおたち)は使い手の剣速と重さに比例して強くなる。つまり、同じ流派の剣士同士の打ち合いでは強い方に分がある――“神太刀流(かみのたちながし)”!!」

 切り上げる剣と振り下ろす剣が衝突する。ガキンッと剣戟音が演習場内に木霊する。

 ニナの一撃が剣を通してはっきりと伝わってくる。

「ふむ、俺と同じ十歳とは思えぬ剣速だな」

 だが、ジノの両腕の骨に罅を入れた力で力任せに剣を切り上げる。

 剣ごと切り上げられたニナ。

「弱点、その二。追撃への対応がおそろかになる――“神太刀流(かみのたちながし)”“二蓮(にれん)神剃刀(かみそり)”」

 ニナを切り上げた俺は剣を、まるで手足を扱うのかの如く、ごく自然の所作で追撃の態勢を取る。

 一連の動作による速さは講師すらも目を見開くもの。

 そして、追撃の態勢からの薙ぎ払い。

 ニナも宙に弾き飛ばされ、身動き、体勢が取れない。辛うじて、剣で迎え撃とうとする。

 両者の剣が衝突し、俺の追撃の剣が一方的に薙ぎ払った。

 バキャァンッと破壊される音が響き、吹き飛んだニナはゴロゴロと勢いよく地面を転がる。

 俺は構えを解き、悠然となる。

「これが神大太刀(かみのおおたち)の致命的な弱点。その意味を身体で覚えたかな?」

 倒れたニナに声をかける。

「……よく…分かった…」

 呟き、咳き込みながらもニナが立ち上がる。そして、折れた剣を手に構える。

 ハアハアと肩から息を吐いているニナ。俺の一撃を受けてボロボロになる。

「まだ、やれるのか?」

 戦う意志があるのか否か問う。

「あ…あるに…決まっているでしょう」

 激しく息を吐きながらも彼女は“負けるわけない”と強い意志が篭もる目を俺に向けてくる。

 一度は折れかけた心も傲りと誇りを殴り捨てて立て直し、挑んだ。

「そうか」

 突きの構えをする。

「ならば、今は甘んじて敗北を知れ」

 俺は彼女の間合いに踏み込んだ。

 極限まで無駄を削ぎ落とした歩法は、速度もさることながら、予備動作がまるでない。

 観戦している生徒たちの目から見れば、あたかも魔法を使ったのか如く、俺はニナの前に突如となく現れた。

「ハッ!!」

 一閃、音を置き去りにした突き。音越えの突きがニナへ押し寄せる。それでも、ニナは“屈したりしない”と覚悟で俺に睨んでくる。

 しかし――。

 ガキンッと剣戟音が木霊する。俺の突きが横から割り込んできた剣で軌道が逸れた。俺は軌道を逸らした主に目を向ける。

 水色の髪をした少女――ナルスリー。

 彼女が俺の突きを剣で逸らした。

「次はキミが俺の相手をしてくれるのか?」

 殺気いや敵意を放ちつつ問いかける。

「これ以上、貴方の好きにはさせない」

「やってみな」

 軽く挑発する。ナルスリーは挑発に乗り、自分の剣を滑らせて、薙ぎ払う。

 このまま、受けるのもいいが、それでは味気がない。地を蹴って彼女の剣を最小限のダメージを受けつつ後ろに退く。


 後ろへ退いた(ズィルバー)に講師は本日、何度目かの驚愕が走る。

(ニナの奥義もそうだが、ナルスリーのカウンターを後ろに退いて、ダメージを最小限に抑えるとは……ズィルバー・R・ファーレン。彼は既に剣術を含めた実戦経験においては一年生いや学園随一と言っても過言じゃない。まさに、[戦神ヘルト]再来だな)

 驚きもあるが、感心する講師。

「おっと、そうだった」

 講師は作業員に指示を出し、ニナを医務室に連れて行かせる。

 ニナは作業員に医務室へ連れて行かれる時、拳を作っては地面に叩きつけた。

 その際、顔を俯かせていたが、水滴が零れているところを見ると、力の差をを見せつけられ、傲りや誇りを殴り捨てて挑みかかったのに全く、相手にならずに敗北した自分に悔いている。


 ニナが涙を流しながら、作業員に連れてかれるのを見た俺やナルスリー、シューテルそしてティア殿下。

 特にナルスリーはギリッと歯軋りし、俺を睨んでくる。

「そう睨むな。と言っても無駄だな。俺が許せないか?」

「ええ。ニナは“初代剣蓮”を超えると口にした。だから、彼女を倒した貴方を許せない」

「ふ~ん。大層な夢だが、笑い話でもない。誰もが[戦神ヘルト]を超えようと挑み散らしていくからな。俺もその一人だ。彼女を馬鹿にするわけではないが、今回ばかりはキミたちの鼻っ柱をへし折ってやる」

「もうとっくにへし折れたよ。だから、貴方を倒してニナの無念を晴らす」

 剣を強く握るナルスリー。

「素晴らしい友情だな」

 いい友を保っているじゃないか、ニナ。

「さて、お喋りもここまで。こっちから行かせてもらおう」

 彼女はおそらく、典型的なカウンター型(後の先)。俺の剣をいなして仕留めに来るはず。まず、その力量を試すか。

 地を蹴って、俺はナルスリーに突貫する。

 ガキンッと剣戟音が木霊する。袈裟懸け、薙ぎ払い、切り上げ。俺の怒濤の応酬にナルスリーは軌道を逸らし、いなし、あるいは反撃して対抗する。

「ふむ。俺の剣の応酬を全て、逸らし、いなすとは見事なものだ。それに反撃までするとは恐れ入ったよ」

「それはどうも」

(それはこっちの台詞よ。剣速、重さ。剣の全ての要素において、完全に私より上。それに私の剣を躱してくる。しかも、致命傷は避けている)


 一見、互角のように見えるであろう。だが、実際は精神的にナルスリーが圧倒的に不利。

 彼女の反撃を俺が躱してしまえば、自分に圧倒的に不利なのが否応なく分かってしまう。

 彼女は顔色一つ変えないが、自分に圧倒的に不利なのは変わらない。


「さて、キミの剣は大体、理解できた。弱点も見つけた」

「弱点?」

「今から教えてやろう。キミの剣の扱い方を、な」

 再び、俺が踏み込んでくる。ジノがした同じことをした。速さがなく、彼女の目でもはっきり見えるだろう。しかし、明確な殺気を感じられるのは確かだ。

「フッ……!」

「ハッ!?」

(薙ぎ払いに近い切り上げ!?)

「させない!!」

 緩やかな俺の剣を迎え撃つナルスリー。

 剣と剣がぶつかる。かと思いきや、俺の剣が彼女の剣に当たらず、()()()()()()()()

 ここで彼女も今のがなにか理解できた。

「虚撃・・・・・・ッ!?」

「その通り。キミの型の弱点は虚実を織り交ぜたら、対応ができない。“流水(りゅうすい)”・“五月雨(さみだれ)”」

 右手に持っていた剣を切り上げる際に左手に持ち替える。

 殺気によって作られた虚の剣にナルスリーは反応し、実の剣に対応できなくする。

 これが“流水(りゅうすい)”・“五月雨(さみだれ)”。


 この技は戦場にて編み出した技。かつて、戦場にて俺以上にカウンター(後の先)を極めた敵がいた。敵に殺すために俺は試行錯誤して編み出したのが、この技だ。

 まさか、千年経った時代で披露する羽目になるとは思わなかったがな。


 呼吸を乱された彼女は俺の実の剣に対応できず、バキャァンッと破壊される音が鳴り、ナルスリーは衝撃を受け止めきれず、ゴロゴロと勢いよく地面を転がっていく。

「ゲホゲホ……」

 と、咳き込むナルスリー。

 ハアハアと肩から息を吐いている彼女は折れた剣を杖にして立ち上がる。

 僅かにだが、口から血が垂れている。おそらく、転がった際、唇を切ったのだろう。


 だが、彼女は折れた自分の剣を見て、判断したのか知らないが、突如、歩き出す。

 向かう先は作業員がいる武器入れ。

 どうやら、目的は新しい武器のようだ。彼女はなんの未練もなく、折れた剣を捨て、新しい剣を手に取り、先の位置に戻った。

「待たせたわね」

「まだ続ける気か?」

「もちろんよ。傲りは捨てた。だけど、騎士いえ剣士の誇りにかけて、貴方を倒す」

「そうか」

 全く、俺と戦う相手はどうして、強くなっていくんだろうね。

 まあ、人いや人族は未知数の可能性を秘めた種族。戦う度に強くなっていく。

「さて、キミはこの試合でどこまで成長するのかな?」

「貴方を倒すまで成長する!!」

 そこまで言うか。面白いな。

 俺を乗り越えていく彼女に俺は高揚感に浸る。


 ナルスリーは俺を倒すと言い返した。だが、心のうちでは――、

(とは言っても、考えなしに挑めば、また返り討ちに遭うだけ…考えなきゃ…彼を倒す方法を……)

 彼女は俺を倒す手段を考えている。だが、悠長に考えるのは敵に隙を与えていると同じ。

「よそ見していていいのか?」

「――ッ!?」

「フッ!!」

 俺は彼女に突きを放つ。彼女は俺の突きの軌道を逸らそうとするも、剣が接触した途端、剣が消え、虚実だと知る。

「目で捉えているようでは俺には勝てないぞ」

 虚の突きに翻弄され、実の振り下ろしに気づかないナルスリー。

 しかし、辛うじて、殺気で気づいたのか。剣で受け止めようとする。

 バチィィィッとけたたましい音が鳴り響き、彼女の剣は俺の剣を受け止め、身体を利用して下へ受け流した。

 剣だけで受け流せないと直感したのか身体ごと受け流すとは驚いたな。

「直感もあるようだな」

 だが、衝撃だけは受け止めきれず、バランスを崩した彼女に俺は追撃を叩き込む。

「気を抜くなよ。本気で躱さなければ、全身打撲を味わう羽目になるぞ」

「……クッ!?」

 ドゴオォォッと地面に叩きつける音を立てる。ナルスリーは地面に転がる形で回避する。

 すぐさま、立ち上がるもハアハアと息を吐く。

 ここまで俺の剣の応酬を受け流し続け、衝撃を受け止めきれず、弾き飛ばされれば体力も底をつく。

 だが、ナルスリーは負けたくないのか身体に鞭を打って立ち上がる。


 一度、折れた精神を立て直して、戦うなんざ一兵卒の兵士でもできないことだ。そういう意味では大した物だ。

 平和になった今の時代でナルスリーやニナ、ジノのような奴はいない。

「ここまで俺の剣筋を捌いただけでも中々の才能(センス)だ。だが、ここまでだな」

「まだ…終わって…いない」

「その心意気は買う。だが、今回は敗北を知れ」

 とどめを刺すかの如く、剣を掲げる。掲げた剣を振り下ろ――……そうとした。

 又もや邪魔が入り込み、俺は後ろに退く形で跳躍した。

 ちょうど、俺がいた位置に大剣が通り過ぎた。

 ブォォンッと凄まじい音がしたな。

 大剣を振るった人物に目を向ける。案の定、ナルスリーの近くに橙色の髪をし、少々色黒の少年がいる。

「へぇ~」

 と、俺は彼――シューテル。彼が持つ大剣を見る。身の丈よりも大きな剣。見たところ、1メルか2メルぐらいの大きさだな。

「驚いたな。自分より大きい剣を振るうとは……」

「いけねぇのか?」

「いや、どんな得物を使おうが関係ない。問題は見た面にそぐわない大剣を扱えるかに問題があるかだ」

 俺はシューテルに“大剣を扱いにこなせるか”と挑発する。

「人を外見だけで判断するのはよくねぇと思うぜ。総代さん、よ」

 ドゴオォォォォッとおよそ、剣戟に似つかわしくない音が立つ。俺は再び、後ろに退く形で跳躍し回避する。

 パラパラと土煙が舞っている。

 見た目に反して、速い上に力と重さもある。おそらく、数多くの剣を扱った中で自分に合いそうなのが大剣という結果に至ったからこそのことだろう。

 土煙を飛び出し、吼えながら突貫してくるシューテル。俺は迎え撃つも剣じゃあ大剣に相手にもならないだろう。何しろ、身の丈が違うし。幅も違う。使い手の力と遠心力が合わされば、重さと威力は絶大だ。並の剣だったら、一撃で叩き折られるだろう。

 そう()()()だったら――。

 ガキンッと剣同士が衝突する剣戟音が木霊する。

「な……っ!?」

 目を大きく開かせるシューテル。いや、彼だけじゃないナルスリー、治療を終え戻ってきたジノ、ニナ。そして、講師や観戦している生徒たちも目を見開く。

 シューテルが振り下ろされた大剣を俺は剣で受け止めたからだ。

「ふむ、力に重さそして速さに申し分ない。だが、オールラウンダー(万能型)に近いのが残念だ」

「万能のなにが悪い」

「いや、悪くないさ。だが、万能型にも決定的な弱点が存在する」

「弱点? 僕に弱点はない!!」

「いや、ある。それを今、教えてやろう」

 俺は力を込め、シューテルごと大剣を弾き飛ばす。弾き飛ばされたシューテルは体勢を崩しかけたが、足踏みをしつつ体勢を整える。


 彼ら四人と相手にしたが、彼らの特徴を見出した。

「ふむ、キミたち四人の基本能力が大体、把握できた」

「は? 把握できただと?」

「そうだ」

 俺が彼らの基本能力を把握できたことにシューテルは荒く言い返す。

 さらに言うなら、講師すらも驚く。

(ば、バカな。たった数回の打ち合っただけで|ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテル《彼ら》の基本能力を把握できただと!? あり得ねぇ。通常、長い時間をかけて気づく。だが、たった数回打ち合った程度で能力を把握するのはできねぇ。そんなの、相当な経験を積まねぇといけねぇ……一年生総代、ズィルバー…お前はいったい何者なんだ…)

 驚くも最中、講師は俺が何者なのか疑ってしまう。


 一方、俺が彼らの基本能力を把握したのを木の茂みから覗き見する小鳥レイン。彼女も俺と同じように大体、把握できていた。驚くというより今までの試合を観戦しつつ、観察していた。

(ズィルバーいえヘルトは生涯、死ぬまで戦場を渡り歩いたのよ。敵の基本能力を見抜くのは造作もない。とは言え、ティアちゃん。未だに動かずか。ズィルバーの身体を温めさせるのが目的か手の内を先に知っておきたいのが目的か。随分と冷静かつ強かな女の子ね。まあ、本人は気づいていないでしょうけど……とにかく、面白くなりそう……最後はズィルバーとティアちゃんの試合かしら。でも、それはそれで面白そうね。はてさて、どっちが強いのかしら?)

 と、レインは今、目の前で起きている試合よりも、このあとの試合に興味津々。


 別の木の茂みから覗き見しているエメラルドグリーンの小鳥。小鳥の意識を介して、花園から見ているエメラルドグリーンの女性。

 彼女もズィルバー(ヘルト)の試合を見ている。見ていて、思わず、クスッと微笑を漏らす。感想としては

「随分と教鞭するのね」

(彼にしては珍しい。戦場でしか花を……いえ、宝石を輝かせるしかできない彼が指導し、精神を立て直して相手にするなんて……)

 彼女は彼の知らない一面に驚いているのと同時に興味が湧いた。

「時代が変わったのも頷けるわ」

 フフッと微笑する彼女。周りに誰もいないからこそ、言葉と笑みを漏らす。

「だけど――」

 彼女は傍観しているティア殿下を見る。

(彼女に得られた加護は__の真なる加護。まだ目覚めていない。でも、あの年齢から加護が発揮し始める。片鱗が出てもおかしくない。彼だったら、なんとかしてくれるかもしれないけど、頼りにしているよ、()()()

 彼女はヘルト()に思いを込め、小鳥を介して、試合を見届けることにした。


 俺がニナたちの基本能力が分かった。しかも、俺が把握できたことに講師も信じられないと驚く。

「ジノは力に一番高く、ニナは速さに一番高く、ナルスリーは技術に一番高い。そして、シューテルは力も速さも技術も能力は同じ」

 と、俺は彼らの一番高いのを言い当てる。

 俺が言い当てた能力の高さに彼らは、

((((当たってる))))

 見事に当たっていた。

「まあ、そんなことはさておき、シューテル。キミの型の弱点を教えてやる。決定的な弱点を、な」

 地を蹴って、シューテルに近づいた俺。俺は剣を加速させる。

「なっ!?」

 目に捉えない速さで接近され、言葉を詰まらせ動じる。大剣を掲げようとしたが

「遅い!」

 と、彼の首筋に剣を添えられる。首筋に剣を添えられたシューテル。彼の額から冷や汗がタラリと流れ落ちる。

「速さ」

「この!」

 シューテルは力尽くで大剣を掲げ、仕留めようと振り下ろすも、俺は剣を引いて大剣を受ける。剣に接触し刀身を滑らせ大剣の軌道を逸らす。

「技術」

「舐めるな!」

 軌道を逸らされ、姿勢を崩れる。しかし、彼は足で踏ん張りを利かせ、薙ぎ払う。

 俺は剣を掲げ、力一杯振り下ろした。バキャァンッと破壊する音が木霊する。

 シューテルが薙ぎ払った大剣を俺が剣で叩き折った。

「力」

「そ、そんな……」

 折られた大剣を見て震えるシューテル。しかも、断面を見る限り、綺麗に叩き折られている。

「万能型の決定的な弱点は基本能力の全ての要素が、相手が自分より上回っていた場合、対応できない。それが弱点だ」

 俺が弱点講座をするもシューテルは動揺を隠せず、意気消沈する。ドサッと膝を突く。

 俺はシューテルに剣を突き立てつつ、

「まだやるか?」

 と、問う。彼はギリッと歯軋りし、地面に拳を叩きつける。

 おや、これはもしかして、「僕は負けを認めん」とでも言うのか? と、俺は脳裏に過ぎる。

 しかし、彼は感情に支配されることなく、息を吐いて冷静になる。

「正直に言って、今の僕じゃあ、お前に勝てねぇ」

「そうだな」

「どうすれば強くなれる」

「聞いてどうする?」

「お前を勝つため。僕は強くなりたい」

 これには俺も目を僅かに見開く。俺に勝つために強くなる方法を俺に聞くか。

「度胸のあることを言うじゃないか」

 思わず、笑いそうになるも堪えつつ

「いいだろう。俺が直々に教えてやる」

 と言いきった。


 俺の言い切りに講師や作業員は目を見開き、驚愕する。

(なんだと!? 一年のズィルバーが同じ一年生に教えるだと!? あり得ない!?)

 と、講師は胸中で吐く。

 講師と同じようにティア殿下も驚く。

(ニナもそうだけど、ナルスリーやシューテルも見たところ、我の強い印象がある。そんな彼が誇りを捨て、恥を忍んでズィルバーに教えを請うなんて……)

 と、予想外。。


 俺はシューテルに教え込むと言い切ったところでニナやジノ、ナルスリーにも目を向け、

「キミたちはどうする?」

 “俺に教えを請うか”と問う。三人は顔を見合わせることもなく、既に決めていたのか意を決し叫んだ。

「僕も教えてくれないかな」

「私もシューテルと同じよ」

「貴方に勝つために貴方からありとあらゆるのをぶんどるまで」

「……そうか」

 少しの間を置いて、俺は納得の言葉を吐いた。

だが、滑稽だな。負けた奴に教えを請うのは――。いや、俺も同じか。俺もその昔、師匠(せんせい)に負けて教えを請うたからな。

「教えるのは構わない。だが、今は怪我を治すことだな。鍛えるにもまず、身体が治ってからだ」

 俺はそう言い、ニナたちから視線を外し、ティア殿下に向ける。

「待ったかな?」

「全然。むしろ、()()()()()()()()()()()し」

「面白い物?」

 はて? 俺は彼女に面白い物を見せたっけな。

「いいのよ。それより、身体は温まった?」

「やはり、俺の身体を温まさせるために傍観していたんだな。俺の手の内を知るために」

「まあね」

 ティア殿下は随分と殊勝な言葉を口にする。勝つ気満々だな。彼女は俺に視線を向けつつ――

「……貴方の剣を叩き斬れるかな?」

 ――そんなのを呟く。

「できるといいな」

 挑発するように言ってやると、ティア殿下は涼しげな笑みを返してきた。

「ところで、ティア。キミは衛士の皆と一緒に武芸に励んでいたな?」

「ええ、そうだけど。ズィルバーは私よりも強いと言いたいの?」

「当然だ」

 当たり前の如く、俺は言い切る。

「残念だけど、私も同年代じゃあ、それなりに強いと思うわ。衛士の皆さんから褒められたから」

 と、ティア殿下は壁に立てかけていた剣を掴み、俺と対峙する位置まで歩き出す。

「ジノくん。ニナの試合を見ていて分かったけど、ズィルバー。貴方――」

 彼女は俺が剣を強化しているの意図を言ってきた。

()()()()()()()()()()()?」

 彼女が吐いた言葉。“なにかを剣に纏わせた”と口にする。

「ほぅ。見えたのか?」

「薄らと、だけど……」

「見えただけマシだ」

「教えてくれないの? それじゃあ、不公平でしょう」

「そうは言っているが、それで良いのか?」

「なにか?」

 俺は構える。

「早くやりたいと言っているが?」

 的を射貫く言葉を吐く。

「バレていたんだ。それじゃあ、仕方ないね」

 ティア殿下は俺と同じように構える。

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