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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
学園入学
58/302

英雄は模擬試合をする。

 講師に言われたことは模擬試合。

 しかも、相手はナルスリーとシューテル。二組の生徒との試合だ。

 俺は講師の目論見が分からない。

 そんなこんなで時間が経過し、休み時間に入った。

 おっと、言い忘れていたが、実習は二時間で一つと扱われる。と、オリエンテーションの時に担任の講師から教わった。

 休み時間の最中、俺はティア殿下のご機嫌取りにどう街へ繰り出そうかと考えてる中――、

「一組のズィルバー。少しいいか?」

 剣術基礎学科を担当している講師が俺に話しかけてきた。

「はい。大丈夫です」

「隣に座らせて貰うぞ」

 講師が俺の隣に座ってきた。

 ちなみにティア殿下は俺の反対側の隣に座っている。

「さて、なにを話そうか」

 講師は頭を掻きながら、なにを話そうか言葉を詰まる。

 なにを話す気だ? 俺は脳裏に疑問符を浮かべる。

「まず、謝罪だな」

「し、謝罪?」

 何故、俺やティア殿下に謝罪なんだ?

「先のあれはナルスリーとシューテル。そして、ニナの天狗の鼻をへし折ってほしいと思ってるんだ」

「天狗の鼻……ね」

 まあ、千年も経てば、天狗になってもおかしくない。

 大きな争いがなくなれば、誰もが戦うことを忘れていく。

「どうして、私に彼らの天狗の鼻をへし折らなければならないんですか?」

「おい、俺は含まれていないのか?」

「あんたは黙ってて」

「……はい」

 ティア殿下の強めな口調に俺は黙るしかなかった。

「簡単なことだ。慢心、傲りは命を失うきっかけになる」

「それって、実習の最初に先生が彼らに指名して言わせたことですよね?」

「そうだ。今の彼奴らは学園に入学したからか天狗になってる」

「先生はニナやジノとは知り合いなんですか?」

 ティア殿下はニナたちの関係を尋ねる。

「彼奴らの()()とはな」

 家族。つまり、冒険者時代の友人なんだろうな。と、俺は考える。

「彼奴らは『剣蓮』、『北蓮』、『水蓮』の子供あるいは孫なんだよ」

 講師は頭を掻きながら、ニナたちの家系を話す。

 講師の話を聞いて、俺は――、

(なるほど。家族からの教えを受けたことで負け知らず。だからこそ、知らないうちに天狗になってしまったんだな)

 考察する。

「彼奴らは天才な上に努力家だから。道場内では負けなし。このままでは不味いと思い、講師をしている俺に伝えてきたんだ。「一度でもいいから。子供(孫)に敗北の味を味わわせてほしい」ってな」

 うぅ~ん。それは案外、難しいだろう。

 まだ10歳半ばの少年少女が通う学園で敗北の味を味わわせるのは難しい。

 大人ならまだしも、同年代ともなれば、難易度は急激に上がる。

「俺も最初は頭を悩ませたよ。負け知らずの彼奴らにどうやって、敗北の味を味わわせるのかを・・・」

「ご自分が相手をしようとは思いませんでしたか?」

「それをやったって無理だ。大人と子供じゃあ経験も身体能力に差がある。だから、身体能力に差がない同年代の生徒しかできないことだ」

「それは難しいですね」

 ティア殿下も10歳ながらも頭を悩ませる。

 いや、俺からしたら、そんなに難しいものなのか。と、疑ってしまう。

 ただ、力でものを言わせるのは簡単だ。だけど、それは大人だからこそできること。同年代いや同世代だけとなれば、話は別だ。

 才能の優劣は出てしまうもの。しかも、道場で努力しているなら、武器の扱いが分からない素人となれば、勝てるのは不可能に近い。

 勝てるとしたら、上回る才能か。あるいは()()()()()()じゃなきゃ勝てないだろう。

 とにかく、俺が言いたいのは――、

「先生が言いたいことは分かりました。要は俺とティア殿下がニナたちを倒せばいいんだろう」

 俺が確認を取る。

「まあ、その通りだ。彼奴らにも分からせてほしいんだ。同年代にも上には上がいるとな」

 友人の子供、孫だからこそ、教え子だからこその義理人情ってわけか。

 講師の鑑だな。

「尊敬しますよ、先生」

「ズィルバー。どうしたの、急に?」

 俺が尊大な言葉を述べた。なのに、ティア殿下がなにか変なものでも食べたような顔をする。

「ティア。なにげに酷いことを言っているぞ」

「あんたの勝手な思い込みよ」

「そうか? いや、俺が先生に言いたいのは友人のためとはいえ、ニナたちを心身に考える人はそうはいない」

 少なくとも、そういった心を持った人はリヒトやレイぐらいしかいない。

「そうなのか?」

「そうですよ。俺にはそうそうできそうにない。できるのは力でねじ伏せるだけ。目的のために他者を斬り捨てる。そういった道しか進めなかったからな」

 脳裏に浮かんだのは戦場に暴れ回った千年前の俺(ヘルト)の姿。

 あの時代の俺はリヒトとレイが目指したかった世界に手助けをしたかっただけ。レイを守りたい。レイを救いたいという思いだけで戦場を駆け回った。

 その果てに栄光を手にした。だが、栄光、勝利は時として人々を熱狂し、英雄として崇められ、勝手に期待を寄せられてしまう。

 栄光と名声は時として強者を呼び寄せる。神々が裏で手を引いていたであろう好敵手を力でねじ伏せ、倒し続けた。畏怖や威光は更なる敵を呼び寄せる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 俺は多くの敵を薙ぎ倒し、多くの大事なものを失った。

 戦いによって生まれる怨念、悪意、殺意は時として周りの人間、大事な者たちを奪ってしまう。

 俺はそれが嫌で力でねじ伏せ続けた。

 俺にはそれしか出来なかったからでもある。


 おっと、また、話が俺の過去で途切れてしまったな。


 今は模擬試合のことだな。

 だが、講師は俺が言ったことに疑問符を浮かべるも首を横に振って蚊帳の外に出して、目の前のことに専念した。

「それでなんだが、本当にいいんだな。一組のズィルバー?」

「はい」

「本当に彼奴らを負かせるんだろうな?」

「俺は、嘘はつきません。いえ、俺は二度と約束を違えるつもりはありません」

 キッパリと言い切る俺に講師は「お、おぉっ!?」と響めく。

「そ、そうか。なら、任せられる。だが、ほどほどにしておいといてくれ」

「傷だらけになったら、講師としての品格が疑われるだろ?」

「そ、そうだ」

「それぐらいは分かっていますよ。分からせるだけです」

 井の中の吼えし蛙よ。世界の広さを知るがいい。

 あの言葉は昔、俺に剣を教えてくれた師匠(せんせい)に言われたことだったな。

 今に思えば、俺は師匠に恵まれ、友に恵まれ、精霊に恵まれていたな。

 ガキの頃は守れることもできなかった半端な者だったな。

「分からせるってなにをだ?」

「このような言葉をご存じですか? 『井の中の吼えし蛙よ。世界の広さを知るがいい』という言葉を?」

 俺はかつて、師匠(せんせい)から告げられた言葉を述べる。

「いや、知らねぇな」

 講師は知らないと言った。

「……そうか」

 師匠もかつて、戦場で名が通った戦士だったと聞く。

「なら、いいや」

「? そうか」

 講師は疑問符を浮かべていたが、すぐに払拭してこう告げる。

「では、次の時間。任せるぞ」

「お任せください」

「私に任せてください」

「おい、俺はまるで、信用されていないように聞こえるぞ!?」

「あら、そうだけど?」

(私の気持ちを全然分かってくれない大馬鹿だものも)

「酷いな」

「酷くないよ。だったら、もう一回、引っぱたかれたい?」

「いえ、結構です」

 俺がティア殿下に口で勝てなくなっている気がする。いや、勝てなくなっている。

 もしかしたら、俺……彼女に尻敷かれるのかな。将来……なんか、頭が痛くなってきた。

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