英雄は剣の実習を行う。②
感想と評価も少しずつだが、増えています。
小さなきっかけでもいいので、読んでみてください。
講師の問いかけを終え、俺たちは講師に言われて順番に作業員から武器を受け取る。
俺は最初から剣を使いたいので剣を受け取り、ティア殿下も俺と同じように剣。ニナとジノも同じように剣だ。
俺たちを含めた生徒全員が自分に合いそうな武器を受け取ったところで、講師は声をあげる。
「よぉーし!! 全員、武器が渡ったな。これより、武器を使った実習を行う。武器を扱う際の知識は授業を聞いておろう。だが、そんなのを抜きにしても武器を使う際の怖さをお前たちに先に叩き込ませる!!」
講師はいきなり、武器を使う際の怖さを教え込みに来た。
この講師。熱血なのかは知らないが、軍人だったというのは確かだな。
あの講師から発せられる闘気ないし殺気。分かる者にしか感じられない。分からない者には背筋を凍らせる寒気を感じるだろうな。
俺は講師の殺気ぐらいで臆したりしないが、ティア殿下やニナとジノらにはキツいだろうな。
ティア殿下たちに目線を向ければ、身体が震え、身震いしている。道場で剣を習っているニナやジノですら、身震いしているということは、それなりのものだと言うことだな。
さらにカズたちにも目を向ければ、寒気を感じているようだ。
殿下である彼女たちや公爵家のご子息の彼らも恐怖しているというところを見ると、この講師はそれなりの修羅場を潜っているのがわかる。
そういや、前の授業で講師は昔、軍人にして冒険者家業をしていたと言っていたな。あれほどの殺気は修羅場を潜らないと得られない。
俺としては嬉しいかぎりだな。
千年経った今でも、それなりの実力者がいるってことに感謝する。
屋敷の本を読んで勉強したときはガッカリした。
千年の時が経ったことで、この国は長らく平和を甘んじている。貴族の領地での紛争ならまだしも国内での内乱がなかった。争いがなかった上に国全体で平和に浸りきっている。
いざ、戦争となれば、国は徴兵する気概があるかって感じだな。
おっと余談だったな。なんか最近、余談が多い気がする。
話を戻して、俺はティア殿下たちの前に移動して、講師が発せられる殺気を受け止める。
講師から発せられる殺気。俺からしたら、そよ風に等しい。
これぐらいの殺気は戦場を経験している俺からしたら、日常茶飯事だ。
俺がティア殿下たちの前に移動して、講師の殺気を受けきっているのを見て、講師は、
「ほぅ~。俺の殺気を前にしても動じないとは、流石、総代を務める生徒だ」
俺のことを褒め称えた。
「いや、それほどでもない」
この程度、さほど、問題ではないからな。
俺は過大評価していない。むしろ、過小評価している方だ。
講師は俺の過小評価に――、
「それほど過小評価しなくていい。俺の殺気に顔色一つ変えないとはたいした生徒だ」
ますます、俺のことを褒め称えてきた。
と、ここで講師は殺気を納め、声をあげる。
「急に殺気を出して済まなかったな。でも、分かったはずだ。武器を持つことで己の身に降りかかるものを――」
と、講師は何かを言おうとした。だが、彼はそれを言わなかった。理由は分かる。今の俺たち生徒にはまだ早いものだ。
俺たち生徒に降りかかるものは覚悟や心などもある。だが、実はそれだけじゃない。
数多くの武勇。武勲を立て続ければ、栄光の証を得られるだろう。
しかし、栄光には――。いや、俺が語ることじゃないな。いずれ、講師の口から明かされることだろう。
今、若い俺たち生徒の芽を摘むのはよろしくないからな。
講師もそれが分かってるのか。自分でいずれ、気づけるように促すだけだった。
彼は壁の取り付けられた時計を見た後、声をあげる。
「時間は有限だ。今から武器の扱い方を教える」
俺たちに剣や槍、弓、爪などの武器の使い方を教えてもらう。
「指導には俺と作業員がする。作業員も、その昔は冒険者として名を馳せた者たちだ。扱い方に関して、分からないことがあったら、彼らにも聞け」
「…「…「…「…「はい!!」…」…」…」…」
講師からの指示に俺たちは返事をするのだった。
残りの時間。俺たちは武器の扱い方を講師や作業員から教えてもらいつつ、剣の素振りをし始めようとしたが、ニナとジノのもとに別のクラスの生徒が歩み寄ってきた。
「ニナ!」
「ジノ!」
そのクラスの生徒には俺も覚えがある。
つい先ほど、講師に指名されていたナルスリーという少女とシューテルという少年の二人だ。
彼らの手には剣を握っていた。
ニナとジノは声に反応し振り返って――、
「ナルスリー」
「……シューテル」
ニナは若干、嬉しそうで。ジノは若干、苦々しい。特にジノはニナの後ろに隠れてしまう。
やっぱり、今のジノはニナの腰巾着だな。これは言わないでおくけど……いつかは自分の意志を持ってほしいものだよ。欲を言えば、欲望が出てほしいけどな。まあ、それは神のみぞ知ることだ。
なお、ニナとジノの反応に彼らも曖昧な反応をしてしまう。
「なによ、私に会いたくなかったわけ?」
「相変わらず、ニナの後ろに隠れるよな」
などと口にしている。
知り合いか友人か。今の反応からそうとしか思えないな。
「別に……会いたくなかったわけじゃ……ないわよ」
「……悪いのか?」
ナルスリーとシューテルの言い返しにニナは目線を逸らし、ジノはニナの後ろに隠れながら述べる。
「なら、どうして、目を合わせてくれないのかな?」
「悪いわけじゃねぇけど……男が女の後ろに隠れるの……かっこわるくねぇか?」
ナルスリーはニナが目線を合わせてくれないのか尋ね、シューテルはジノに男としてかっこわるくないかと指摘する。
第三者の俺は同じく第三者のティア殿下に話しかけようとするも、彼女はフンと鼻を鳴らして俺に目線を合わせてくれない。
俺はハアと息を吐いた後、シューテルという少年が言ったことには賛同する。
ジノの意志のなさには俺も少々、気にしている。だけど、こればっかりは俺は関与しないでおこう。これはジノの問題だ。ジノ自身で気づかなければ意味がないからな。
なので――、
「あぁ~、割り込む形で悪いけど、ちょっといいかな?」
俺が割り込む形で話しかける。
俺の声に気づいたのか少女と少年が目線を俺の方に向いた。
二人とも訝しげな視線を俺に向ける。いや、正確に言うなら、「割り込むな」の視線を向けられる。
俺は、その視線を受けつつも話しかける。
「さっきも言ったと思うけど、割り込ませてもらうよ」
「勝手に割り込むな」
シューテルという少年が俺にがん飛ばしてくる。
おぉ~。喧嘩を売ってくるとは思わなかった。これは新鮮な感じだな。
つい、目が輝いてしまう。
「な、なんだ……此奴……」
「目を輝いている……気味が悪い」
なんか酷いことを言われているが無視しよう。今は喧嘩売られていることに期待で胸を弾ませる。
俺の異様さにティア殿下は話に参戦せず、傍観する。ニナとジノはどうすればいいのかわからずてんやわんやになる。
ナルスリーとシューテルは俺を気味悪がられている。
見ている外野からしたら、カオスな光景に思えるだろう。いや、そうとしか思えないのが正解だ。
カオスな状況に剣術基礎学科を担当している講師が――、
「オラ、そこ!! なに、くっちゃべってんだ?」
ん? 講師が怒っている? なんでだ?
俺が首を傾げている中、講師は「うぅ~ん」と頭を捻る。数刻後、面白いこと言いやがった。
「よし。このまま、武器の扱い方を教えて終わりじゃあ面白くもねぇ。せっかくだ。そこにいる総代と一緒にいるお前ら」
講師は俺を含めたティア殿下、ニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルの六人に指さす。
指を指された俺たちは疑問符を浮かべる。
「次の時間。クラス対抗で模擬試合をする予定だったが、それじゃあ、面白みもねぇ。だから、一学年主席、ズィルバーと次席、ティア。両者をニナ、ジノ、ナルスリー、シューテル。お前たちが相手をしろ」
というおっかない、いや、面白いこと言いやがった。
講師が言ったことに生徒の誰もが動揺を走る。
ズィルバーとティアを相手にニナ、ジノ、ナルスリー、シューテルが相手をする。
これには作業員らも驚きを露わにしている。
「先生。どうして、私たちが主席と次席の彼らと相手にしないといけないんですか!?」
ナルスリーは声を荒げ、講師に言い返す。
「ナルスリーの言うとおりだ。なんで、僕たちがあの二人の相手をしないといけないんですか?」
シューテルも声を荒げ、講師に突っかかる。
突っかかる二人に講師はこう指摘する。
「うだうだ言ってるんじゃねぇ!! これは俺が決めたことだ。分かったら、「はい!!」と返事していればいいんだ!!」
指摘するも声を荒げている。
講師の剣幕に気圧されて
「「……はい」」
ナルスリーとシューテルは縮こまって返事をする。
ニナとジノはと言うと、
「ようやく、貴方と剣を交じり合えるのね」
「……よろしく」
俄然燃え上がっていた。なお、燃え上がっていたのはニナだけで、ジノは「ほどほどにお願いします」と感じで請け負ったようだ。
漆黒の空間。
暗闇に灯る微かな明かり。
微かな明かりに集う六人の人影。
スレンダー系の女性。筋骨隆々の大男などの様々な体型をしていた。
彼らは暗闇に溶け込むかのように言葉を発する。
「既に気づいておるだろう」
「ええ、彼がこの時代に転生しましたね」
「おそらく、あの女が手を引いているはず」
彼らが言う彼とはいったい誰なのか?
そして、あの女とはいったい誰なのか?
「彼が転生したとなれば、此方としても厄介で他ならない」
「確かに……我々の計画に彼は一番の脅威。彼奴は未だに我らオリュンポスの加護が働いている」
彼らが口にしたオリュンポスの加護とはいったい何なのか?
今の時代の人らは知らない。
「加護と言えば、思い出しますね。忌々しいあの男のことを……」
彼らの脳裏に浮かんだのは金髪金眼の好青年。
「忌々しいあの女も……」
次に浮かんだのは虹色の髪に、白金の瞳を持つ女性。
「そして、彼……」
最後に浮かんだのは黒髪黒眼と碧眼のオッドアイの好青年。
「忌々しいことに、あの男は我らの加護を後世に残す。血脈継承にさせた」
「間違えなく、共存派の神共が協力している。特にレイン、フラン、ヴァン、ネル、レンらの精霊階梯を神位にさせたのは共存派の奴らに違いない」
「しかも、彼に与えられた真なる加護を残したまま、転生させたのも奴らの仕業だ」
彼らの微かな明かりと暗闇の中で話し合っている。
「静まれ」
そこに筋骨隆々の大男が話を黙らせるよう圧のある言葉を発する。
その声に他の者たちも黙ってしまう。
「今、我らがすべきことは再び、この世界を支配する。そのために何百年かけて計画してきた」
「仰るとおりです。大神殿」
「我らは使い魔。使者を利用して、今生きる者たちに接触し、力を与えている」
「そうだ。時はいずれ、近い」
「いつの日にか。この大地と空、海を支配し、全種族すらも支配し統治されるのはあの男の血族ではない。我らが大神なのだ!!」
彼らは暗闇の中。おぞましい計画を着々と進ませていた。
そこは楽園。
色とりどりの花々が咲き誇る、なだらかな平原にして花園。
その平原に居座り、永劫ともいえる時を過ごしている一人の女性がいる。
兜を被ったエメラルドグリーンの長髪の美女。
彼女を中心に五人が、この楽園にいる。
誰も彼も彼女も皆、兜を被る青年と女性。
彼らは花園にて。あることを話し合っていた。
「ようやく、彼が転生してくれました」
「レインも目覚めてくれた」
「これで彼らとの約定を果たせる」
彼らもなにかしらの計画を立て動いていた。
「問題はヴァン、レン、フラン、ネルを目覚めないことには話が進まない」
「しかし、レインがいれば、事を進めるでしょう」
「いや、彼女だけが目覚めても災厄に対応ができない」
「ふむ。問題は彼が我らのことをどう思っているかだ。彼は我らのことを酷く妬んでいる」
「如何致します……___」
一人がエメラルドグリーンの美女に問いかける。しかし、彼女は目を閉じた供述する。
「しばらく、彼を見ておきたいと思います。いずれ、統治派が動くはず。彼だったら、降りかかる火の粉を払ってくれると信じています」
と、女性は彼に対する信頼が高かった。
「ふっ、確かにな」
甲冑姿をした青年も同じ供述をする。
「今は座して時を待ちましょう。いつの日にか。使い魔を通じて、彼とコンタクトを取ります。彼は話に応じたくないでしょうけど、彼らの約定だと言えば、いやいやでも応じます」
「それは自分の加護を与えたからこそ、分かることですか?」
「正解でもあり不正解でもあります。彼の生まれついての特異体質。異能……あの体質は呪いそのもの。ですが、呪いが彼を生かしている事実。なので――」
「座して待つ、というわけですか」
彼女の供述に彼らも納得した。
しかし、彼女は微かに口角を上げた。
(それでも、私は彼の生き様が興味を抱いた。好意を抱いた。我らが人を愛する心を持たなければ、罪の意識が薄れない。特に彼に対する贖罪をしなければ、彼は平気で私たちを斬り捨ててくる。それを忘れてはならない)
「見させてもらいますよ。この時代における貴方の生き様を……ヘルト……」
彼女は目を閉じて、現世。世界を見通す。
見通す世界で彼女が見るのは模擬試合をするズィルバーの姿であった。
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