英雄は授業を受ける。
ティーターン学園の入学式、オリエンテーションを終えて、ようやく、授業が始まる。
今日、最初の授業は基礎学科の一つ、精霊基礎学科。
精霊基礎学科。これは精霊学科を習う過程で予め、基礎を習う学科だ。
しかも、その学科が朝から二時間を使用しての授業となる。
一時間目は精霊との契約諸々踏まえた。精霊というのがどのような存在なのかを教えられる。
精霊。人族とは異なる形で進化を遂げた種族。
彼らは生まれながら、魔力を持ち、魔術いや魔法を行使する種族。
そのほとんどが動物型であり、人型をしているのは非常に少ない。
というのが千年前からの常識である。
現代ではというと――。
「精霊は我々、人間とは違い、高位な次元にあたります。人間と精霊は対等な存在であり、互いに協力し合うこと。これが精霊を扱う際の大前提でございます」
精霊学を教鞭する講師から教えられる前提条件。
俺は精霊基礎の教科書を読みながら、精霊への敬意を示す方法を考える。というよりも後ろからビンビンと視線を感じる。
振り返らなくてもわかる。ティア殿下が俺に疑る視線を向けているからだ。
視線を向ける理由は分かっている。俺が今、女だからだろう。
両性往来者の弊害だな。これは――。
後でわけをしっかりと話さないと変な関係になりそうだ。
俺は心の中でため息を吐きつつ、授業に集中する。
「精霊には階梯があります。階梯というのは人間社会における階級と思ってください。ただし、精霊の階梯は契約者との成長次第で階梯が上がることを覚えといてください」
精霊階梯を、人間社会に落とし込めるとは、この講師。中々の教え上手だな。
講師の教鞭を聞いていると授業終わりのチャイムが鳴った。
「では、次の時間。演習場にて。精霊との契約をします。開始時間までに演習場に集合しておいといてください」
講師に次の時間の要項を告げて、教室をあとにした。
次の時間までの休み時間。
俺は後ろの席に座っているティア殿下に話しかける。
「ティア殿下。どうしたんだ? そんな疑る視線を向けて・・・・・・」
「別に・・・・・・」
ティア殿下は俺に目線を合わせずにいる。
同じ女の子同士とは言えないよな。俺は男として資料を送られている。変な噂を流すのは俺にとって好ましくない。
「俺の異能・・・・・・体質が気になるのか?」
「・・・・・・ッ!?」
俺の異能、両性往来者のことだろうと思い尋ねる。
案の定、図星だったらしくティア殿下は言葉を詰まらせる。
「気になってしまうのはしょうがない。でも、異能というのは生まれ持ってしまった体質だ。殿下が気に病む必要はない」
「体質?」
「ああ、異能のほとんどは先天的なのが多く、身体に何らかの作用を引き起こしている、とされている」
「身体に何らかの作用?」
「そう」
ここで俺は壁の時計を見る。そろそろ、予鈴が鳴る時間前なのを確認した。
「殿下。そろそろ、予鈴が鳴りますので移動しましょう。話を授業の後でいいかな?」
注意喚起と話の続きをあとにする予定を話した。
「むぅ~。わかったわよ」
彼女はふて腐れる。
「後で話してよ」
「ええ、もちろん」
と、俺とティア殿下は次の授業の集合場所、演習場へと歩きだした。
演習場に来てみれば、クラスの皆が集まっていた。
言い忘れていたがニナとジノも俺とティア殿下と同じクラス。さらに言えば、カズ、ハルナ、ユージ、ユリス、ユン、シノ、ユーヤ、アヤも同じクラスである。
予鈴が鳴り、講師が来る。
講師は俺たち全員、集まったのを確認したところで声をあげる。
「それじゃあ、今から、精霊との契約をする」
講師の声上げに俺たちは少なからず背筋を伸ばす。
俺ですら、つい、背筋を伸ばしてしまう。
俺たちが背筋を伸ばしたのを見て、講師は気を和らげる言葉を飛ばす。
「そう、畏まらなくてもいい。今回、やるのは精霊との契約だけで対話することはない。お前たちが気に病む必要はない」
とか、言われてもそう易々と落ち着けるものではない。
今の時代、精霊は高位な存在。俺たちの態度一つで契約したくないという精霊だって出るからな。
まあ、俺の場合はレインがいるから問題ないけど――。
俺は勝手にクラスの皆とは別にティア殿下やニナ、ジノなどの友人を気にしていた。
講師は俺たちに陣を織り込んだ紙を渡してくる。
「今、お前たちに渡している紙は精霊を召喚するための魔法陣が組み込まれている」
精霊を召喚するための魔法陣?
今の時代はそこまで発展したのか。千年前とは大きく変わったな。
精霊は動物と魔物と区別がつかなかった。見分けがつきにくく、千年前の俺でも見つけられなかったからな。精霊には精霊を、という感じでレインと一緒に連れてったこともあったな。
そういや、レイは一目で精霊か動物かと見分け付けられたな。あれは不思議だった。
それじゃあ、今の時代は召喚魔法で呼び寄せることができるなんてな。
時が流れたのを実感するよ。
俺にはレインがいる。だが、肝心の彼女はどこにいるのやら。
俺は目線だけでレインを探す。
レインの性格上、精霊たちが住まう森に帰っているはずがない。
むしろ、外に出て遊び尽くすのが彼女だ。家の中でゴロゴロするような質じゃない。だとすれば、小鳥の姿になって、どこかから俺たちを見ているのだろうな。
俺はそう思っている中、授業はどんどん進んでいく。
「精霊を召喚する際、魔法陣に魔力を流すだけでいい。それだけで魔法陣が起動する」
講師の説明を聞いて、俺は納得する。
なるほどな。この紙は精霊たちが住まう森とパスを繋いでいるのだろう。
これはもしかしたら、レイのおかげかもしれないな。いや、知らないけど・・・・・・。
とりあえず、今を生きる俺たちからしたら、感謝かもしれないな。
講師の説明を聞き終えて、俺を含めた生徒たちは紙に魔力を込める。
込めたのと同時に召喚陣が起動し、精霊が呼ばれる。
呼び寄せられた精霊はまちまちだ。
火蜥蜴だったり、火鳥だったりと様々だ。
どうやら、呼び寄せる術者の内在魔力に応じて呼び寄せる精霊が違うというわけか。
これはいい勉強になったぞ。
呼び寄せた精霊と契約するのが、この授業の重要課題だ。
精霊と契約できた生徒もいれば、出来なかった生徒もいる。
精霊と契約できなかった生徒は、なんで? と、悲しげな表情を浮かべる。
講師が、その生徒に出来なかったわけを教える。
「火熊を呼び寄せたのは凄い。だけど、使役させるだけの魔力に達していない。これからは契約できるほどの魔力を持つよう訓練しよう」
「はいっ!」
出来なかったわけを教えつつ、フォローする。まさに教師の鑑だな。
クラスメイトが精霊を召喚して契約している中、ティア殿下らも紙に魔力を込め、魔法陣を展開する。
魔法陣から召喚された精霊に俺は驚きを隠せない。
何故なら、彼女が召喚した精霊は精霊階梯が最上位に位置する精霊。
虹色の翼を羽ばたかせる大鳥。聖属性に位置する大鳥。
その名は聖鳥。
レイが契約していたとされる伝説上の鳥だ。
これには俺もビックリだし。講師もビックリだ。
「流石、皇族。まさか、伝説上の鳥を呼び寄せるとは・・・・・・」
ティア殿下は聖鳥に近寄った。
「私と契約してくれない?」
手を差し伸べるも大鳥は彼女の意向を無視し、そっぽを向いて消えてしまう。
ティア殿下は契約できなかったことにションボリと悄げてしまう。
ここで俺はティア殿下の肩を触れ、
「契約できなかったのはしょうがない。先生の言うとおり、使役できるほどの魔力を持つまで特訓しよう」
励ます。
「う、うん。そうだね」
俺に励まされて、ティア殿下も元気が出て、表情が明るくなる。
その後、ハルナ殿下、ユリス殿下、シノ殿下、アヤ殿下も精霊を召喚した精霊に俺も講師もビックリした。
彼女たちもレイが使役していた精霊だからだ。
ハルナ殿下が氷鳥。ユリス殿下が風鳥。シノ殿下が雷鳥。アヤ殿下が炎鳥。
どれもレイが使役していた精霊だ。
ただし、殿下たちの魔力、力量が足りなかったのか。そっぽを向かれて退去してしまったがな。
一方、小鳥の姿になっているレインは俺たちの授業を覗き見している。
覗き見している中、彼女もズィルバーと同じようにティア殿下たちが召喚した精霊に驚きを隠せなかった。
(驚いたわね。彼女たちが召喚した精霊。あの大鳥らはレイが使役していた精霊。運命っていうのは粋なことをするのね)
ティア殿下たちの未来を案じていた。
精霊を召喚し、契約ができた者とできなかった者とまちまちだが、ほとんど、終えた。
残るは俺を含めた公爵家のご子息らだけだ。
俺は手にしている紙に魔力を込めようとした瞬間――。
「あっ?」
虹色の小鳥が紙を奪い取る。
講師らを含めた皆が何故、いきなりとなる中、俺は小鳥に文句を言う。
「なんだよ、レイン・・・・・・俺が精霊を召喚してはいけないのか?」
『当たり前でしょう!! 私以外の精霊と契約する主がどこにいるというのよ!! 浮気者にしかりつけるのは当然でしょう!!』
俺が文句を言うとレインが言い返してくる。
翼をはためかせたまま、俺に言い返してくるレイン。
講師を含めた皆は俺が小鳥に話しかけていることに驚いているのではなく、小鳥が喋っていることに驚いているのだろう。
俺は彼らのことを無視し、レインに指摘する。
「とりあえず、いい加減、人の姿に戻れ! 覗き見されていては気分が悪い!」
俺に指摘されて、小鳥は光りだし、彼女は人の姿へと変える。
「なにをこっちの姿でいると不審がられるから。小鳥の姿でいたって言うのに・・・・・・」
俺の指摘に対して、文句を言ってくる。
「小鳥の姿で俺を見ていると気が散るんだよ」
「なんですって!?」
俺はレインに喧嘩腰で言い争う。
千年前と同じだ。
俺がしたことにレインが指摘して言い争う。逆も然りだ。
レインがしたことに俺が注意、指摘すれば、喧嘩腰になって言い返し、そのまま言い争いになる。
俺とレインの口喧嘩をただただ見ているティア殿下たち。
だけども――、
「あの、お嬢さん。この学園にどのような御用で?」
講師が口喧嘩に割り込む。
講師の問いかけにレインは少々怒り気味で言い返す。
「私はズィルバーの契約精霊よ!! なんか文句でもある!?」
「いえ、何でもございません!!」
彼女の言い返しに講師は引き気味になる。
俺は一回、息を吐いた。
「口喧嘩している場合じゃない。話はあとにするとして、先生。実は・・・・・・」
俺は講師にレインが契約精霊であることを明かした。
精霊階梯や属性を教えた。
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