英雄はこの世界を知る。
朝食をペロリと平らげた俺は早々に食堂をあとにした。
とりあえず、情報が欲しい。この少年が誰で。この世界はなんなのか。ここは何処なのか。知らないことが多すぎて、頭が追いつかない。だから、一度、情報をまとめた方がいい気がした。
幸い、俺が出て行くのを誰も気に止めなかった。いや、隣に座っていた彼女だけは気にしていたけど…ひとまず、無視しよう。
来た道を辿って、自分の部屋に戻ってくる。
とりあえず、俺の素性だ。俺はヘルト。次なる戦場を求めて、旅をしている途中で息を引き取った。あと、俺はどっかの国の姫様と政略に近い形での婚約をした。家族もいない。家族も人間も俺の悪しき体質で距離を取られた。この異能力体質…『性転換』のせいで…。
おっと、今はこの状況の整理だな。体質に関しては後で考えればいいことだな。
それよりも、今の俺の状況だ。驚くべきことにこの少年、ズィルバーに生を与えられた。見たところ、かなり裕福な家なのは確かだ。
ファーレンというのが、この家の名前だと思う。
結論から言えば、別の人間に乗り移ったということになるな。そうじゃないと説明がつかないからだ。
ふぅ~。息を吐いて、ベッドに倒れ込む。この際、信じるとか信じないとかはどうでもいい。なんせ、ヘルトはズィルバー・R・ファーレンという少年として生きているんだからな。
それと家族構成だ。この家は五人家族なんだろう。食堂にあった椅子の数からして、そうだと思う。名前に関しても知っているのは、父親と思われるアーヴリルとルキウスだけだ。いや、あの時、ルキウスは食堂で
『グレイ奥様に、ヒルデお嬢様。おはようございます』
と、挨拶していたな。となると、母親がグレイで、ヒルデというのが、この少年の姉という存在なんだろう。あと、他にも言っていたな。確か…
『エルダお嬢様は今日もお身体が…』
『うむ。エルダは体調が優れていない』
といった会話を聞いたから。おそらく、エルダというのもこの少年の姉なんだろうなと考えつく。
後は、この少年の専属の執事がルキウスだったな。
それと、この世界は平和だとおもわれる。なんとなくだけど、朝食の時、安心しきって食べていたところからそう思えた。
乱世。戦場を生きていた俺からしたら、目を見張るものだった。俺の常識だと、食事の最中も敵国のこととか、戦争のこととかを耳にすることが多かった。
なので、ここまで贅沢をしていることが驚きだった。言うなれば、この世界いやこの時代は戦時下ではないということだ。
いったい――
「どれほどの時が経ったんだ」
こうなれば、俺はズィルバーとして、この時代を生きないといけなくなる。
ひとまず、俺に必要なのは、知識だ。戦乱の時代がいつ終わったのか。この国がなんなのか。どれほどの年月が経ったのか。そして、気になったことは外在魔力がどうして減っているのかだ。
なので、どこか知識を知ることができる方法を聞かないとな。
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