英雄はクラスメイトと友達になる。⑥
レインが昔のことを振り返っている中、俺はティア殿下たちに謝罪していた。
なお、その際に――。
「謝罪という詫びになにかデザートでも奢ろうか?」
気分を悪くして責任として甘い物を提供することにした。
ティア殿下とニナは喜んだ。
「いいの!?」
「もちろん、キミたちの機嫌を損ねたんだ。それぐらいの手打ちはするよ」
と、ニナが俺に詰め寄ってきたので、俺はしょうがなく答えた。
俺はしっかりと澄まし顔で答えてあげた。
だが、俺の目の端で捉えたジノはなにも答えず、反応すらもしなかった。
やはり、俺の予測通りだ。ジノはニナについて行く人形だ。
おそらく、ニナが「行くよ」と告げるとついて行くような男だ。
俺からしたら、男とか人族とかではない。ただただの人形だな。
おっと、話を逸らしてしまったな。
「それじゃあ、厨房へデザートを頼みに行きな」
俺はティア殿下とニナに厨房へ向かうように告げる。
「ええ!」
「うん!」
と、彼女たちは席を立ち、厨房へ足を進める。
俺は彼女たちを見届けた後、ジノに話しかける。
「ジノ、だったな。キミはどうする?」
「別に僕はなにも…」
「なにも?」
「僕はニナの言うことが全てだと思っているから」
俺はジノが言ったことを聞き、半分半分だが、納得する。
「なるほど。キミは自分の意志で生きたことがない、か」
「うん。この学園に入学することにしたのも父さんに言われたから」
「父さんに言われたか。キミ自身は学園に通いたいという意志があったのか?」
「分からない。僕はニナの傍にいれば、それで良いと思っている」
「なるほど」
と、俺はジノの話を聞く。
これは、筋金入りのアホだな。しかも、自分で気づかないと一生、誰かの言いなりだろうな。
だが、逆に言えば、きっかけを与えるだけで人が変わることだってある。彼はそんなタイプに思えた。
まあ、これは前世の知識における人生経験からだがな。
ジノを含めた人間は些細なきっかけで人が変わるからな。何気ない言葉が人生の転換点って事もあるから、おっかないんだよな・・・・・・うん。
「ジノって、学園に入学するまで、何をしていたんだ?」
「剣を…習っている…」
「剣…か。俺と同じだな」
俺が言ったことにジノは疑問符を浮かべる。
「実は俺も剣を習っているんだ」
「そうか…」
ジノは意外そうな表情を浮かべる。
それもそうだな。俺は貴族。しかも、公爵家のご子息だ。剣とか拳とか戦う術を学ぶより、貴族としての領地運営の知識を学ぶのが常識。
だが、俺としては貴族としての領地運営はルキウスから教えてもらえばいいし、問題ない。それだったら、父さんの真似をしたり、父さんから聞けばいいからな。
とにかく、ファーレン公爵家にはファーレン公爵家のやり方がある。他の貴族からとやかく言われる筋合いがないと思う。
だからこそ――。
「俺は有事の際いや普段から自分の身を守れるぐらいには剣を極めようと思う。そういう意味ではジノといいライバルになれると思うよ」
「…ライバル」
ジノは俺の言葉を遅れて理解している。俺はジノを観察して、彼は理解するのに時間が掛かると認識した。
もしかしたら、向き不向きで理解の度合いが違うかもしれないな。
後で、ジノに聞いてみるか。いや、しばらくはジノを観察してみよう。
観察していることでいろいろと個性なんかが分かるはずだからな。
俺は今後の身の振り方を考えていると、ちょうど、そのタイミングでティア殿下とニナがデザートを手に戻ってきた。
「ありがとう。ズィルバー様」
「私たちに甘い物を提供してくれるなんて……」
やけに嬉しそうに二人が俺に感謝する。
まあ、予想が付いていた。彼女たちが注文するであろうデザートの値段の高さを――。
やはり、女の子には甘い物を釣らせるのはいつの時代も同じなのだな。
「どう致しまして、女の子の機嫌を損ねたのは俺だ。それぐらいの責任は取るさ」
「男らしくていいね」
「当然よ。ズィルバーは私の婚約者だから」
ティア殿下。胸を張ることでもないはずだが……。まあいい。言ったら、ビンタを食らいそうだし。
「それよりも、ジノとなにを話していたの?」
ニナが俺にジノと話し合っていたことが気になり、尋ねてきた。
「なに、学園に入学するまで何をしていたのか聞いていただけだよ」
俺は話し合っていた内容を正直に話した。嘘をいう必要がないからな。
「なるほどね。それでズィルバー様とティア殿下は入学するまで何をしていたの?」
今度はニナが俺とティア殿下に問い返してきた。
「俺はつい最近まで剣の鍛錬をしていた。あと、ついでに魔法もな」
俺は本屋敷で今までしたことを話す。
「私も皇宮で女官や衛士たちと混じって剣を習っているわ」
ティア殿下も皇宮でいつもしていることを話す。
だが、俺とティア殿下が剣を習っていることが意外なのかは知らないが、ニナはジノと同じ反応する。
「意外ね。皇族や貴族も剣を習っているの」
「ニナ。それは偏見だよ」
「それは言えてる」
俺とティア殿下は同時にニナを偏見扱いした。
「そもそも、皇族や貴族は上に立つもの以外はやることがない。次期当主などは当主としての勉強をされるが、有事の際、役に立つのかと言われたら、分からないだろう。自分の身は自分で守る。それぐらいの気構えで剣を習わないと剣を指導する人たちに失礼に当たるだろう」
俺は少々理論的だが、当たり前なことを述べる。
「ごめん。私も勝手な思い込みをしていた」
ニナは謝罪する。
「それにしても、ここにいる私たちって全員、剣を習っているんだね」
ニナは話題を変えつつ、俺たちに共通なところを呟く。
「そう言われるとそうだな」
俺は同意する。
「それでさ。これからの学園生活はどうするつもり?」
「私とジノは学生寮で暮らしつつ、剣の修行に励むつもりよ」
ティア殿下が入学後の方針を尋ね、ニナとジノは寮暮らしで剣の修練に励むつもりのようだな。
「俺は剣と魔法の修練に、貴族としての領地運営などの基礎を学ぶつもりだ」
俺も今後の方針を告げておく。
ティア殿下はこれからの俺の方針を聞き、何やら考え始めた。
なにを考えているのやら……。
「それにしても、昼前のは酷かった」
ニナは愚痴を漏らす。愚痴の内容は昼前のイジメのことだろう。
まあ、愚痴りたいのは分かるけどな。
「まあ、分からんでもない。昼のは俺も少々ビックリした」
「私のお父さんは剣の流派の道場を運営しているの」
「へぇ~、流派か。なんという流派なんだ?」
俺はニナに流派なのかを聞く。
「『剣蓮流』よ」
ニナは自分が習っている流派を明かしてくれた。
『剣蓮流』か……いたことがないな。
すると、ティア殿下が『剣蓮流』という単語を聞き、何やら、驚いた顔を浮かべている。
「『剣蓮流』ですって!?」
「あら、皇族でも知っているの?」
「知っているよ。千年前、[戦神ヘルト]が使用したとされる剣術を継承している門派だよね」
「そう。私は剣蓮の一人娘。[戦神]を初代剣蓮として崇めている。私にとって、ヘルト様は憧れの人」
俺は思わず、呆けてしまう。
俺が初代剣蓮? どういうことだ。
俺って『剣蓮流』とか言う流派を作るよう命じたっけ?
俺は前世の自分の過去を振り返る。
「『剣蓮流』の総本山といえば、西方にある『剣峰山』。[戦神ヘルト]が世界一硬い岩を斬り裂いたとされる大岩があるとされる山脈」
「そう。『剣蓮流』総本山は『剣峰山』。初代様が斬り裂いたとされる大岩を道場にしたの」
ティア殿下とニナがデザートを食べながら、前世の自分のことを話し合っている。
それにしても、西方の『剣峰山』。
はて、どこかで聞いたことがあるような・・・・・・。
う~んと俺は頭を捻らせる。
前世の記憶を振り返っている。ふと、ここで俺はあることを思い出す。
そうか、思いだした。
確か、千年前、当時、俺は剣とあの力を使いこなし、極める目的で西方にある『剣峰山』で山籠もりしたんだ。
まあ、山籠もりに一ヶ月はいたな。
俺が斬り裂いた大岩――『蓮峰石』。あれを斬り裂くのに一ヶ月かかったな。
一日に一回は『蓮峰石』に斬りかかっては失敗しては己を鍛えるために無心で剣を振っていたな。
最終的には、あの力を十全に使いこなした。最後に『蓮峰石』に挑戦した。
いや、あの時の渾身の一撃は俺も呆気をとられたな。剣速なんて神速の域に入っていたな。
それをリヒトに話したときは彼からこっぴどく怒られて、レイも心配されたな。
と、俺は昔の記憶を思い出す。
「それでね。私には剣仲間がいるの」
「剣仲間? どんな人がいるの?」
「北方と東方にいるの。『水蓮流』と『北蓮流』の友人がね」
「じゃあ、ニナは他の流派は使えるの?」
「使えるには使えるけど、良くて下位ね。『剣蓮流』だけは中位で学園入学前には上位を目指していたけどね」
「上位か。私も流派を習ってみようかな」
ティア殿下は自分も流派を習おうかと考え始める。
「でも、ティア殿下って皇族でしょう。皇族には皇族専用の剣術とかないの?」
「私に教えてもらっているのは女官や衛士たち。彼らもニナが言っていた流派に近しいものよ」
「ふ~ん」
と、ニナは流す形で納得する。
その表情……少々、憎らしげ、羨ましげなどの様々な感情が顔に見え隠れしているのがわかる。
俺たちは今、子供だ。
感情を隠すのは難しいな。
「それでズィルバー様の流派は?」
今度は俺に話を吹っ掛けてきた。俺は流派を習っていないからな。だから――。
「俺は我流だ」
「我流?」
「ああ、俺は入学前までは剣を振っていたからな」
何しろ、前世で培った経験があるんだ。その経験からかな。
俺の剣技は我流といっても過言じゃない。
だけど、俺が我流と答えたことでニナが
「我流!? 信じられない。ヘルト様のことを、そこまで言うんだから。なにか流派を習っているのかと思ったのに我流なんて……」
声を張る。
信じられないもなにも、前世、千年前は流派というのは存在しなかった。戦場において、剣とは人を斬るため、殺すためにあった。
体術、槍術、弓術を含める武術は人を殺めるためにあったと言っても過言じゃない。
しかも、使用者のほとんどが我流に近しいものだった。
いや、我流ばかりだった。千年前は道場すらも創設できなかった。
王族、貴族が道場の創設を禁じた。そのため、武術とは戦場にて洗練されることが多かった。
俺も初めて、剣を握ったのは戦場いやスラムにいた頃だ。初めて、肉を切ったときは吐いたものだ。
レイからも心配されたな。
でも、千年も経てば、流派というのができてもおかしくないな。
だけど、俺が我流を知ったとき、ティア殿下は嘘という表情を浮かべる。
まあ、信じられないだろう。俺はいつも、レインと一緒に特訓していることを話しているからな。
だけど、俺の魂は[戦神ヘルト]だからな。剣だけなら世界最強だろう。
まあ、それでも・・・・・・。
「独学で頑張れるにも限界があるし。せっかくだから、どこかの門派の剣を習おうかな?」
俺は己の身を守る術として、剣を磨きたいために流派を習うことを決意する。
「ズィルバーも? 私も流派の剣を習ってみたいと思っていたの」
おや? ティア殿下も同じことを考えていたのか。
「だったら、ニナとジノから教えてもらうこともいいな」
俺は誰かに教えてもらうのもいいと考えた。
「何しろ、剣に己の心血を注ぐ人から剣を学ぶのが一番の近道さ」
前世の経験上。心血を注いだ剣士から剣を学ぶのが一番の近道なのを俺は知っている。
俺が言ったことにニナはムッと頬を膨らませる。
ついでにイライラも満載だ。
「分かった。せっかくの機会だ。お互いに剣を教え合うことにしよう」
俺は剣を習う仕方を考え直して口にする。
「俺たちは新入生。誰かから剣を学ぶのはおかしい。だから、お互いに剣を教え合う。それで良いだろう。俺とティア殿下は『剣蓮流』の剣を学べる。逆にニナとジノは『剣蓮流』以外の剣を学べる。お互いにいい話だと思うけどね」
と、俺はニナとジノ…いや、ニナに話の種をまく。
この種にニナが食いつくかは分からないけど、彼女たちにとって、悪い話ではないと俺は考えている。
俺の話を聞いて、ニナは子供ながらに頭を悩ませる。
ニナとジノにとって悪くない話だ。
いずれは限界が来る。つまり、『剣蓮流』という一つの流派だけ極めても他で対応できないというのがよくある話だ。
だからこそ、『剣蓮流』だけではなく、皇宮剣術や我流などの技術を取り入れて、自分だけの剣を極めることができるという利点がある。
「まあ、そういう意味を抜いても俺たちの友達にならないか?」
と、俺はニナに手を差し伸べる。
ニナは少し一計を講じた後、俺の手を掴んだ。
「そうだね。ズィルバー様だったら、これから先、面白いことしてくれそう」
と、口にして――。
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