英雄はクラスメイトと友達になる。④
昼食を食べ終え、食後の紅茶いや水を手にブレイクタイムに入る。
水を口に含ませて喉を潤した。
「さて、お腹がいっぱいになったところで、そろそろ、自己紹介しようか」
俺が話を切りだした。
「まあ、自己紹介しようと言って、自分から話し出せるわけないよな。だから、まず、最初は俺から自己紹介しよう」
まず、俺から自己紹介する。
「知っていると思うが、俺はズィルバー・R・ファーレン。新入生総代を務めた同じ新入生だ。よろしく」
簡単だが、自分の名前を伝えることは最低限の礼儀だというのをリヒトから教えてもらったからな。
「私はティア・B・ライヒ。ライヒ皇家の第三皇女。だけど、学園内では皇女としてではなく、ティアとして振る舞ってほしいかな」
ティア殿下も自己紹介する。
俺とティア殿下が自己紹介してくれたからか。
少年少女も俺らにならって自己紹介してくれた。
「僕はジノ。ジノ・リッツ。よろしく」
「私はニナ。ニナ・ファル」
少年少女――いや、ジノとニナ。
彼らも自己紹介してくれたところで俺は
「ジノとニナだな。よろしく」
「よろしくね、ジノくん、ニナさん」
軽い返事をした。
お互いに自己紹介を終えたところでニナが俺に話しかけてきた。
「ファーレン様」
「ズィルバーでいいよ。家名で呼ばれるのを嫌なんだよ」
「なぜですか?」
「貴族と平民に違いはない。この学園では貴族と平民を平等に扱う。と言っているが、俺としては貴族だろうと平民だろうと対等だと思っている」
「どうして、対等とお考えですか? 貴族と平民。格差社会があると思いますが……」
「確かにそう思う人物もいる。だが、俺はなるべく、対等でありたいんだよ。皇族だろうと貴族だろうと平民だろうと対等であろうとした人たちを俺は知っているからな」
俺は目を細めつつ、昔のこと、前世のことを思い出す。
それはリヒトとレイが異種族のために尽力を尽くしていたことだ。
精霊だろうと獣族だろうと長命族だろうと異種族だろうと対等に扱おうとした。
俺は二人の志を貫きたいと思っただけだ。
だけども、ジノとニナからしたら、俺は変わり者かもしれないな。
現に二人は――。
「ファーレン…いえ、ズィルバー様は本当に変わっていますね」
「変わっている?」
「うん。だって、貴族が平民と対等として見るのは珍しい方よ。普通、貴族は村、人からお金を搾取する人たちが多い」
まあ、確かにそうだな。
だが、ニナが言っていることはおそらく――
「不当な搾取だな」
「どうして、わかったの?」
「貴族というのは選ばれた人種。他者を貶め、優越感に浸りだけの人種だと言ったな。生活が困窮した際、村や領民から重い税収をして、自分らだけ裕福に暮らそうと考えるのが普通だ。村や領民のことなどいざ知らずにな」
「ズィルバー様はまだ、私やジノと同じ新入生なのにどうしてそんなに詳しいの?」
「ただ、本を読んで詳しいだけだ」
欲を言えば、前世の経験から貴族というのは、そういう人種なのを知っているだけだ。
ティア殿下とジノ、そしてニナは俺が本を読んだだけの物知りだと認識してくれただろう。
「ふぅ~ん、そうなんだ。ズィルバー様って勤勉なんだ」
「無知なのは嫌なだけだ」
ニナはやけに俺を値踏みしている感じがするな。
ジノは俺のことを警戒しているのか、あるいはニナに付き従っているのか、だな。
俺としては後者の線が高い。
見たところ、ニナってガキ大将に思えてくる。まるで、カルニウスにそっくりだ。
おっと、これを彼奴に言ったら、俺が殺されそうだから言わねぇけど……。
言葉には気をつけようかな。
と、俺は心の中で気を改めることにした。
それにしても、ジノは本当に無口だな。誰かに付き従うだけの人形。そこには自分の意志がないようだ。
それは、まるで千年前の王族や貴族だ。
奴らも神に操られ、踊らされた憐れな人族だった。そのせいで異種族差別する主義者が蔓延した。
今のジノはニナの言いなり、ニナと一緒にいる腰巾着だな。
なぜ、そうなったのかは聞かない。いや、聞く気がない。
それは本人が決めることだと俺は思っている。
薄弱の意志だと誰かの意のままに動かされてしまう。強固な意志を持てば、何者も惑わされずに我が道を進むことができる。
俺は転生された時は今の時代の人たちは自分の意志で生きていると思ったが、ジノを見てしまうと千年前の人たちを思い出してしまう。ただ生きているだけの人形を――。
だが、これだけはジノ本人が気づかないといけない。
誰かに言われたのではなく、自分の意志で欲望を満たすことを――。
何物にも囚われない揺るぎない強固な意志を――。
俺は思う人とはそうでありたいと思っている。
だが、これは俺が言っても無意味。ジノ本人が気づかないといけない。あるいは気づかずに死にゆくかだ。
「ねぇ、聞きたいことがあったんだけど……」
と、ニナが俺に話しかけてくる。
「なにかな?」
「入学式で読んだ答辞……どういう意味?」
「意味とは?」
「人を蔑まない。皆、誰もが隠れた才能を持っているっだけ? どうして、そんなことが言えるの?」
そのことか。確かに疑問に思われても仕方ないな。
「単に俺が思ったことを口にしたまで才能は一概にも優劣がないと思う」
「才能に優劣はない?」
「ああ」
「ズィルバー。貴方はどうして、そう言えるの?」
今度はティア殿下が問いかけてきた。
「これはある奴の教えだが、人族いや、この世に生きる全ての種族には気づかない、隠れた才能を秘めている」
「隠れた才能?」
「そうだ。たとえば、武が不得手なものでも文才を持っているかもしれない。その逆だってあり得る。種族とは自分でも到底知り得ない才能を秘めているんだ」
俺はあえて、人ではなく人族。種族と捉えた。
「そして、人知れず、持たされてしまう異能……」
「異能?」
「才能と違い、生まれながらにして持たされてしまう能力……逃れられない宿命みたいなものだ」
「逃れられない宿命?」
「いや、この話は止めよう。異能ばかりは運命の悪戯。否、神のみぞ知るというものだ」
俺は異能を話すのを止めた。知ってしまうと虚しさが残るだけだからだ。
俺はそれを知っている。
何しろ、俺も――。
いや、語るまい。これは語られてはならない真実だからな。
俺が述べたことにティア殿下、ジノ、ニナは胸中に疑問を抱くも俺が話さないかぎり知ることはない。
と、俺は思っている。
もちろん、勝手だがな。
「さて、つまらない話をしたな」
「つまらない話って……勝手にズィルバー様が話しただけじゃないですか」
「これは痛い」
まあ、事実だけど――。俺は一度、咳払いし、気を取り直した。
「まあ、廊下でキミたちを助けてしまったご縁だ。せっかくだし、良き友人関係にならないか?」
俺はジノとニナに友人にならないかと話を持ちかける。ジノとニナは一度、顔を見合わせた。
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