英雄はクラスメイトと友達になる。②
「ん?」
誰かに見られている視線を感じるな。
俺は今、入学式と始業式後、最初のクラス会に出席している。いや、学園に在籍する以上、出席するのは当たり前か。
やはり、誰かに見られている感じだな。
いや、見られているなら最初からか。俺が教室に入ったときから――。
クラスの皆が俺をチラチラとだが、見ているのがわかる。
まあ、大半が俺に媚を売るのだろうな。
新入生総代になった俺だ。お近づきになれば、将来、役に立つと考えているんだろう。
特に貴族となれば、ファーレン公爵家と友好的な関係を築けると考えているんだろう。全く、見えすぎた欲望が見え隠れしていて鬱陶しい気分だ。
すると、教室の扉が開かれ、教師と思われる女性が入ってくる。
「皆さん、席についてください。この特進クラスの担任になりました、キンバリー・G・シルフです。最初は自己紹介をしましょう。まずは、総代を務めたズィルバーくんから」
キンバリー女史に言われて、俺は席を立ち、教壇の横に向かった。
「既に知っていると思いますが、初めまして、ズィルバー・R・ファーレンです。「ズィルバー」って呼んでください。これからよろしくお願いします」
俺は軽やかな笑みを浮かべつつ自己紹介する。
その際、ガタッと数人だが、椅子からずり落ちるのが目に入った。
俺は頭を下げて、自分の席に戻る。次はティア殿下だ。
「ティア・B・ライヒです。第三皇女ですが、ズィルバーと同じく気軽に声をかけてください。よろしくお願いします」
皇族らしく、華麗な礼をして席に戻った。ちなみに言うがティア殿下が次席。
学園の入学試験は俺がズィルバーという少年に転生する前に既に終わっており、その結果を俺が少年に転生したときに知ったのだ。
その後もクラスメイト順々に挨拶をしていった。
「これで挨拶が終わったな。今日はこれで終わりにする。明日からはオリエンテーションになる。学科紹介で知った学科を事前に決める必要がある。しっかりと見ておくんだぞ」
そうして今日は解散になった。
他の教室も終わったようで続々と生徒が教室から出てくる。
このフロア。今いる階は特進クラスなどの成績優秀者のクラスが並んでいる。
一般クラスは向こう側の校舎である。
俺はティア殿下と一緒に帰ろうとしたら廊下から怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前らのような平民風情が成績優秀クラスなんだ? 子爵家の僕の方が相応しいはずだ!」
「「そうだ! そうだ!」」
廊下を覗いてみると、絡まれているのは二人の少年少女。
その瞬間、俺は額に青筋を立てて絡んでいる貴族を睨みつけた。
絡んできた相手が子爵家と聞いて、どうして良いのか分からないようだな。だって、オドオドしている。
「お前たちがこの学園に入学しなければ、僕が成績優秀クラスだったはずなんだ。すぐに退学したまえ」
なるほど。子爵家の少年は一般クラスに在籍する貴族か。まさか、入学式前に言っていたことが目の前で見ることになるとは――。
なので、俺はすぐに止めに入る。
「入学して初日に何をしているのかな? この学園では貴族だろうと平民だろうと平等のはずだ」
俺が後ろから声をかける。
「そんなの関係ない。それは貴族であって、子爵家の僕には関係ない話だ!!」
俺はそのまま、少年少女と子爵家の少年の間に入る。
子爵家の少年と取り巻きは俺を見た途端、わなわなと震える。
「こ、これはファーレン公爵家の。あなたも貴族なのに貴族の味方をしないで平民に肩を持つつもりか」
取り巻きの一人が俺に突っかかってきた。
「貴族も平民も関係ない。俺が答辞で述べたはずだ。人は隠れた才能がある。その才能を発見し、伸ばすのがこの学園の在り方ではないのか」
俺は当たり前なことを口にする。
「フンッ。そんなのは貴方の理想だ。それにもし、公爵家の人間が平民に肩入れしたら、公爵家の品位が疑われるぞ!」
「貴族とか平民とか云々よりも俺としてはあなたの品位を疑います。自分が貴族だと誇示し、誰かを蔑むのは民からも信頼されますまい。国や皇族、貴族とは民があってこそのもの。貴方の発言は些か問題にあたりますが…」
俺は彼らに対して、殺気を出す。殺気は他の人に気づかれないように彼ら三人だけに向けた。
「う、五月蠅い! この事を父上に話して、ファーレン公爵家が地に堕ちたと言ってやる!」
彼らは俺いや俺の家に文句を言ってくる。
「誰が地に堕ちたって……」
俺は先ほどまでと違って、冷たい声で三人に視線を向ける。
殺気を受けて彼らはガクガクと震えている。そこに後ろから声がかかった。
「民あっての貴族。貴方たちの発言は些か問題です。このことを父上に報告してよろしいでしょうか?」
震えながら声の方を向いた三人は彼女を見て、さらに固まる。
立っていたのはティア殿下だからだ。
「て、て、ティア殿下! い、い、いえ……、先ほどの言葉は間違っておりました……申し訳ありません、ティア殿下」
正面からは俺の殺気を受け、後ろからはティア殿下からの口撃を受けて、子爵家の少年の顔はみるみる真っ青になっていく。
「謝る相手は違います。まず、あなたたちが絡んだ相手に謝るのが普通なのでは?」
ティア殿下から彼らに謝るように冷たく促す。彼らは平民に謝りたくなかったが、公爵家、皇家に伝わったら問題になるのはわかる。
「こ、こ、この度はすまなかった……」
子爵家の少年らは二人の少年少女に向かって謝罪した。
「キミたちもそれでいいかな?」
俺は二人に尋ねると少女は小さく頷いた。
「……あぁ……」
少年は声を漏らした。
「次、同じことをした場合、分かっているな」
「は、はい!? ズィルバー殿」
俺にその一言を言って彼らは逃げるように帰っていった。
俺は全くという心境で吐露した。
「キミたち、大丈夫か?」
俺は少年少女に手を差し伸べる。
「……あ、あぁ、大丈夫だ」
「……助けてくれてありがとうございます」
少年は無事を、少女は感謝の言葉を告げられる。
「礼には及ばない。優れた才能を持つ人をバカにする奴が許せないだけだ」
俺は自身の倫理観、価値観で動いただけに過ぎない。
「だが、いいのか? 貴族が平民に肩入れしても……」
「…………」
ここで俺は彼の無知さ加減に霹靂していた。
「肩入れするもなにも勝手にそう思えばいい」
「え?」
「貴族とは他者を貶め、優越感に浸りだけの人種」
俺は自分の観点で貴族というのがどのような人種なのかを告げる。
「だが、貴族の中にも平民を重んじる人だっている」
俺はかつてのリヒトとレイを脳裏に過ぎる。
「さらに言うなら、見返せればいい。成績優秀クラスに在籍しているということは才能に秀でている証拠。その才能を伸ばせばいい」
俺は少年少女に自分らをバカにする者たちを見返す方法を言う。
ここで俺はいいことを思いついた。
「そうだ。せっかく、知り合えた仲だし。一緒にお茶でもしないか?」
「「えっ?」」
いきなりのことで少年少女は呆けている。
「ティア殿下もそれで良いですか?」
「ええ、いいわ。私も貴方たちと友達になれそう」
ティア殿下も了承してくれた。
「あっ、でも、キミたちに用事があるのなら、諦めるしかないけど……」
俺は残念がるよう呟く。
「い、いえ、大丈夫です!?」
「僕たち、帰ってもやることがないので……」
「じゃあ、決まりだな」
少年少女は、このあとの用事がないと聞いて、俺は学園内にある食堂へ向かうことにした。
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