英雄は学園に入学する。
次の日。
今日は『ティーターン学園』の入学式。
俺は今、第二帝都の貴族区にある屋敷の一室で学園の制服を着ている。着てはいるんだが……。
「…………」
似合っている気がしなかった。なぜなら、地味すぎず、華美すぎずの服装だからだ。
そもそも、制服なんかにお金を掛ける必要がない気がする。
なんだか、身分の差がここで出ているな。
俺は呆れかえる。
俺が着替え終えたところで扉を叩く音が耳に入る。
「お坊ちゃま。お時間でございます」
ルキウスが俺を呼ぶ。
「分かった。すぐ行く」
俺は鑑の前に立って、軽く身だしなみを整えてから扉へと向かう。
扉を開ければ、ルキウスが既に待機していた。
「それでは行きましょうか」
「そうだな」
俺はルキウスと一緒に玄関へと向かう。
屋敷を出てみれば、門の前に馬車が待機していた。
中に入れば、エルダ姉さん、ヒルデ姉さん、レインが座っていた。
「姉さん。レイン。遅れてすみません」
「もう遅すぎよ」
「レイン。怒らなくてもいいだろう」
俺は十歳の子供らしく拗ねる。
「大丈夫よ、ズィルバー。私やエルダはそこまで怒っていないから」
「ヒルデ姉さん」
俺は昼で姉さんに感謝の言葉を送る。
なお、俺がヒルデ姉さんに感謝の言葉を送った際、レインは頬を膨らませ、拗ねだした。
拗ねたレインを宥めさせるのは後にするとして――。
俺はヒルデ姉さんとエルダ姉さんの服装を見る。
姉さんらも制服を着ているんだが……なんで、女の子の制服が真面なんだよ。
男性の制服にお金かけ過ぎだろう。俺は心の中で打ちひしがれている。
ちなみに言うが、姉さんの制服はブラザーという制服だ。
千年の間に文化が発展したことだ。
馬車が学園へと向かって進み始める。
進み始めている中、エルダ姉さんが今日の段取りを教えてくれた。
「今日は入学式と始業式を執り行う」
「最初が入学式で、そのまま始業式をする形ですか?」
「そうよ。ちなみに入学式は二時間後。今から学園についても後一時間はある」
「え?」
学園に到着しても、まだ一時間もある。どういうことだ?
俺はエルダ姉さんが言っている意味が分からない。
「ズィルバーは新入生総代に選ばれてね。お父様とお母様は嬉しがっていたよ」
俺が新入生総代? マジか!? これは予想外。
いや、待てよ。本屋敷の日記に書かれていたな。
この少年が入学試験で首席合格したって……マジかよ。俺が新入生答辞をするのかよ。
なんか、ショック。
「しかも、皇族のティア殿下たちよりも最優秀成績を収めるなんて、自慢の弟だよ」
エルダ姉さん。何やら、自信満々に胸を張っているけど、女性なんだから。もう少し淑女としての振る舞いを意識してよ。と、俺は心の中で嘆いた。
学園の敷地へと続く門へとやってくる。門を潜り、敷地を入る。
敷地内を馬車で進んでいく中、馬車の窓から外を眺める。
豪壮で煌びやかな建物が並んでいる。これが姉さんたちが言う校舎という建物か。
「あそこに見える大きな建物が見えるでしょう」
「うん。見えるけど……」
「彼処で入学式と始業式を執り行われるの」
エルダ姉さんが指を指して教えてくれる。
指を指された建物は屋根が丸い円形状の建物だ。
姉さんらが前に教えてもらった講堂という建物らしい。
講堂という建物も豪壮だな。お金をかけていることがわかる。
こんな所にお金をかけるより、庶民や貧民街にお金を回した方がいい気がする。
いかんな。発想や考え方が前世……千年前のものだ。今の時代の常識に馴染まないとティア殿下や姉さんたちに申し訳が立たない。
俺たちを乗せた馬車は講堂という建物に到着する。
馬車から降りて、姉さんらの手に連れてかれて、講堂に入る。
講堂内は広々としていたというのが第一の印象だな。所々にある柱が大理石なのもびっくりだ。
姉さんらに連れてかれた場所は控室だと思われる部屋だ。
扉を開けて中に入れば、既に学園側の人間であるのがわかる。なぜなら、学園の制服を着ているからだ。
見たところ、男が二人に女が三人だな。誰もが貴族出身だと思える。
まあ、こればっかりは直感だがな。
特にその中でエルダ姉さんが言うエリザベス殿下と思われる女性がいる。
長い金髪に金色の瞳。初代皇帝。リヒトの血縁だと思われる特徴を受け継がれていると思われる。
それにしても、まだ十三歳にしてはオーラ凄くないか。皇族です、というのが嫌でも分かるぞ。
「なあ、レイン」
「ええ、彼女がエルダさんが言っていたエリザベス殿下でしょうね」
俺とレインは小言で話し合う。
「エリザベス殿下」
エルダ姉さんがエリザベス殿下を呼ぶ。
姉さんに呼ばれたことでエリザベス殿下がこちらに気がつき、振り向いてくれた。
艶やかな金髪。強き意志を秘めている金色の瞳。薄いペールオレンジの色が金色を強調している。
俺や姉さんたちと同じ子供だからこその幼さはあるも少しだけ大人びている。
ヒルデ姉さんに似た頼りになるお姉さんって感じだ。
だけど、雰囲気的に誰かに似ている気がした。
「なあ、レイン…エリザベス殿下。誰かに似ていないか?」
「私も同じことを思った。う~ん…」
ここでレインは頭を捻らせる。昔の記憶から誰かを連想させているんだろう。
レインが誰かを思い出している中、エリザベス殿下が俺たちの方へ歩み寄ってくる。
「“ティーターン学園”生徒会長。エリザベス・B・ライヒよ」
「俺はズィルバー・R・ファーレンです」
俺は差し伸べてくるエリザベス殿下の手を掴み自己紹介する。
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