英雄は学園に入学する準備をする。②
ルキウスらが学園での入学、生活への準備から一週間の時間が経過した。
一週間後、俺はレインと姉さんたちと一緒に『ティーターン学園』がある第二帝都へ向かっている。
『ティーターン学園』。
五百年前のライヒ大帝国の皇帝が設立した学園。
その時代。魔法を衰退させないために育成機関を創設することを決めた。
文献によれば、最初は魔法と知識を育成させる目的だったが、時代を追うごとに剣、槍、弓を扱う技量が衰え、精霊への配慮が亡くなりつつあることから学科を増やし続けたというらしい。
あと、エルダ姉さんの話によると、学園の生徒の大半が女性。
つまり、学園は女性にとって、第二人生を選ぶ場でもあるらしい。それを先に聞いていれば、俺は学園の入学を断っただろう。
でも、もし、断れば、ファーレン公爵家の風聞に悪くなる。となれば、断るに断れないのが実情だ。
まあ、でも、俺としては学園での生活が楽しみだから。
複雑な事情があろうとも問題ない。
自分に降りかかる火の粉は払うまで。
俺がバカにされるのはいいが、レインや姉さんたちをバカにする奴らを俺は許さない。
それにしても、レインの奴。いつの間にエルダ姉さんやヒルデ姉さんと仲良くなったんだ。女の子同士、意気投合したと考えていいだろう。
そして、俺たちを乗せた馬車は第二帝都へ入れる門に到着する。
馬車に備え付けてある窓から見てみる。大帝都よりも小さいが、水路で侵入させない作りをしている。橋も馬車一つか二つしか通れない幅にしてある。
大帝都は堅牢であっても人の往来が激しかったが、第二帝都は堅城鉄壁ともいえる城壁に囲まれていた。
馬車は橋を渡り、門を潜る。門を潜れば、最初に目にするのは人々の往来。見た目から見て、俺と同い年の少年少女ばかり。明日に控えている入学式の準備とかしているのだろう。
明日が入学式だ。俺も明日に備えて、宿屋で一夜を過ごそう。
と、思いきや、父さんが既に第二帝都に屋敷を用意してくれていた。正確に言うなら、エルダ姉さん、ヒルデ姉さんが在籍中に住まわせるためにあるようだ。
ちなみに学園には学生寮があって、大半の生徒はそこで過ごすことになる。
これからは俺とレインも、その屋敷に過ごすことになる。
どんな屋敷なのか楽しみでもあるが、屋敷をそんなにあっていいだろうか? と、俺は思ってしまう。だって、大帝都の貴族街にも屋敷を持ち、第二帝都にも屋敷がある。屋敷の維持する費用はどこからでているんだろう。もしかしたら、領民から異常な税収をしているのか? いや、父さんに限ってそんなことはしないな。
おそらく、皇族からの支援もあるんだろう。と、俺は考えた。
とりあえず、俺たちは第二帝都にある屋敷へ到着する。到着してすぐに俺は自室の窓から外の景色を眺めていた。
屋敷がある場所は貴族が密集している区域――貴族区。
貴族区は学園に通う貴族の子供たちに対して用意された区域。基本、学生寮に過ごしたくない生徒のために用意された区域だ。
窓から見える範囲だが、屋敷数もそれなりにあるな。
でも、見たところ、明かりがついていない。なんでだ? と、俺は首を傾げる。
コンコン。
扉がノックする音が部屋に木霊する。
「お坊ちゃま。御昼食の時間です」
「分かった。すぐ、行く」
もうお昼の時間か。
俺は軽く身だしなみを整えてから、扉を開けた。扉を開ければ、ルキウスが待機してくれていた。俺は彼と一緒に食堂へと向かう。
食堂へ向かう最中、俺はルキウスに物申す。
「ルキウス」
「はい」
「窓から見える範囲で見たんだが、貴族区には屋敷がそれなりにあるのに、どうして、明かりがついていないんだ?」
俺は率直な疑問を尋ねた。俺の質問にルキウスはこう答えた。
「第二帝都の貴族区にある屋敷のほとんどは公爵や辺境伯、伯爵。貴族区の屋敷のほとんどが伯爵ばかりです。それも今は空き家ばかり……」
「どうして、空き家ばかりなんだ? やはり、屋敷の維持費とか?」
「その通りです。ライヒ大帝国の貴族は皆、皇族からは年金を支給していますが、年金だけでは賄えないのが現実です。そのため、維持できない屋敷は空き家として処分されるのです」
「取り壊そうにもそれだけでお金がかかるから。あのまま放置というわけか……」
なんだか憐れとしか思えない。屋敷そのものが下級精霊とか棲みついてそうなのに――。
「お坊ちゃまの仰るとおりでございます。さらに言えば、空き家を利用して密会が起きているのもちらほら聞きます」
「人目に付かない場所だからな。誰にも気づかれないということか」
「お坊ちゃまは難しいことをご存じですね」
まあ、中身はそれなりに生きているからな。
「本屋敷の図書室の本を読んだからだよ」
「そうでしたか。お坊ちゃまがお勉強熱心で、このルキウスも嬉しいかぎりです」
なんか、ルキウス。勝手に喜んでいるな。
まあいいだろう。自分の主が成長しているのを間近で知って、喜ぶのは当然だからな。
食堂に着き、中に入れば、既に姉さんにレインが席について待機していた。
お早い、ご到着で――。と、俺は思ってしまう。
エルダ姉さんやヒルデ姉さんからなにか言われるのかが分からない。だけど、レインからは文句を言われそうだから。
さっさと席に座った方がいいな。俺はイソイソと席に座る。
俺が席に座ったところで扉が開き、給仕たちがカートを押して、お昼を運んできてくれた。
料理がテーブルに置かれたところで俺たちはお昼を食べることにした。
お昼を食べている最中、ヒルデ姉さんが俺にあることを教えてきた。
「ズィルバー。明日は入学式だけど大丈夫?」
「大丈夫です。ヒルデ姉さん。なにか心配でもあるのですか?」
俺は心配してくるヒルデ姉さんの顔を見て言い返す。
「心配と言えば、心配ね」
「なにが心配なんですか?」
ヒルデ姉さんは渋めな表情を浮かべ、話してくれた。
「実は学園では今、派閥があるのよ」
「派閥?」
「ライヒ大帝国の次期皇帝争いが学園で起きていてね」
「次期皇帝……ティア殿下たち以外にも皇族がいるのか?」
「長男の第一皇子。エドモンド・B・ライヒ。彼が次期皇帝と目されているんだけど……」
「けど?」
「実のところ、エドモンド殿下は苦手なのよね。傲慢すぎて自分こそが皇帝に相応しいと自画自賛しているところが……」
エルダ姉さんも割り込む形で教えてくれた。
「強引すぎる上に自己解釈が激しい方ね。私やヒルデを抱え込もうとする人」
姉さんらの話を聞き、俺は熟考する。
エドモンド殿下は自分こそが皇帝に相応しいと思い込んでいる。だとすれば、入学式の日にも俺に接触してくるかもしれないな。ファーレン公爵家のバックを得るために――。
下手をしたら、レインに手を出そうとするかもしれないな。
まあ、その際は話を断るとしよう。もしかしたら、ティア殿下や姉さんらを人質にとって無理やりしてくるかもしれないな。と、俺は考える。
「エドモンド殿下の無茶ぶりに迷惑を被った貴族が多い」
「殿下は今年で15歳。再来年に卒業するからそれまで辛抱するしかない」
穏やかな話じゃないのは確かだ。
「それでもう一人の皇位継承者は?」
「もう一人は私たちの同級生のエリザベス・B・ライヒ。第一皇女よ」
「エリザベス殿下は妹思いの御方。誰にも優しく、美しい御方」
「13歳にして、学園の生徒会長を務める。私たちが支持するならエリザベス殿下ね」
なるほど。第一皇子と第一皇女が次期皇帝争いをしているというわけか。
彼女も近いうちに俺に声かけしてくるかもしれん。
その時は慎重に答えないといけないな。下手をしたら、宮中が割れる可能性がある。影響で学園に及ぶかもしれないな。
「そういえば、ヒルデ姉さん。エドモンド殿下の無茶ぶりで被った貴族はそれなりにあるの」
「ええ。退学者が続出したのもエドモンド殿下の無茶ぶりのせいよ」
「そういえば、今年度の新入生もエドモンド殿下に恨みのある生徒がちらほらいると聞いたわね」
エルダ姉さんの貴重な情報。俺はしかと耳にした。
恨みのある生徒か。せっかくだ。お友達になってエリザベス殿下につく形で外堀を埋めていこう。
彼らには悪いが、恨み節を利用させてもらう。
俺は内心、ほくそ笑む。
なお、レインは俺を見て、
(あぁ~これはなにか企んでいる表情ね)
一息ついて呆れかえる。
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