英雄は千年前の自分を振り返る。②
「[女神]様は精霊に優しい御方……」
「千年前を生きる人の話だと本当に思えるね」
ハルナやアヤはレイを本当の女神に思い崇拝している。
「リヒトやレイに出会った頃、私は彼らを信用できなかった。精霊であるからか美味しそうな食事を与えられても、高価なお洋服を用意しても私は彼らを信用できなかった。私の他に四人いたけど、彼女たちはすぐに順応した」
「レインさんはどうして、すぐに順応しなかったの?」
「人間が怖く見えていたのもある。しかも、王族や貴族は私たちをひどいことするのか思っていたから」
レインは当時、自分に非道なことされるのではないかと怯えていたと話す。
俺はその理由を知っているから。心の中で苦笑した。
あの時のレインは余計に感情的になっていたからな。子供によくある駄々っ子。レインは子供の頃は駄々っ子だったな。
まあ、そのなりを収めて、天然で優しい女の子になったのは俺のおかげか。
レインらが王宮に入ってから数週間後。
俺が貧民街の孤児や子供たちに物資を送る日のことだ。
俺が物資を運ぶ準備をしていた中、物資の中に紛れ込んで貧民街へ足を運んだ。俺を歓迎する子供たち。俺は物資を貧民街の彼らに分け与える際、紛れ込んでいたレインを見てビックリしたな。
あの時は盛大に声をあげたものだ。
俺は彼女を抱き上げ、
「一緒に物資を渡さないか」
言ったな。俺は嫌がるだろうと思ったが、レインは喜んでいたものだ。
おおかた、王宮から逃げられると思っていた。
物資を配り終え、俺は彼女に話し込んだことがあったな。
今でも、あの時の会話は鮮明に覚えている。
「王宮に連れてかれたのが嫌だったのか?」
「ッ――!?」
「隠す必要はない。ここには兵士たちもいない。リヒトやレイもいないんだ。好きなだけ話してもいいぞ」
あの時の俺はレインも気持ちを知りたくて話しかけたのだろうな。もしかしたら、昔の自分を重ねてしまったのかもしれない。
「私は人族が嫌い。特に欲深い人族なんて大っ嫌い」
「人間が嫌いか。確かにその通りかもな」
「え?」
「俺も正直に言えば、欲深い人間は嫌いだ。彼らは異種族差別することを大前提に考えているのが嫌い。この世界に生きている以上、種族に差がないと思っている。だけど、欲深い人間は違う。欲深き感情で戦争を引き起こし、自然を、大事な人を、自分の居場所を失う人が多くなった」
「私は人間が大っ嫌いなのは理由がそれよ。卑劣な人間は私たち精霊を攫い、ひどいことをする。私のお父さんも、お母さんも人間たちに攫われた。私は逃げ延びて、ここに暮らし始めた」
幼い頃のレインのつらいことを聞き、俺は戦乱の被害者だと知ってしまった。
家族を失い、居場所も奪われた。
欲深き権力者による非道な行いがレインの心を傷つけた。俺は自分と同じ境遇を持つ彼女に同情してしまったのかもしれない。
精霊という異種族だけの理由に家畜や奴隷のように扱う。欲深き人間がすること。
俺はレインの話を聞き、思わず頭を撫でた。
「な、なに――!?」
レインは俺に頭を撫でられたことに挙動し、「ビクッ!?」と背筋を伸ばす。俺に訝しげな視線を送る。
「いや、同情してしまってな」
あの時の俺は女の子の気持ちを理解できていなかった。だから、レインが俺にひどい言葉を飛ばしたのを覚えている。
「勝手に同情しないで!! 人間はいつもそうよ。勝手に人の気持ちを理解し、同じ目線で立とうとする!! あなただって、欲深い人間と一緒よ!!」
涙を流す彼女。俺は無力感を感じたと知り、なにも言えなかった。
ただ、あの時、言えたことは
「同情を引こうと思っていない。それは事実だ。正直に言えば、俺も王族、貴族なんて自分の欲望を満たしたいだけの浅ましい奴らだと思っているからな」
「…………」
「だけど、リヒトとレイは違った。いや、“異端者”と言った方がいいな」
「“異端者”?」
「リヒトは幼少の頃から精霊と話し合える。レイは母方の影響が色濃く反映。生まれて間もなく、二人は化物扱いされた。俺を含めた五大将軍はリヒトとレイに拾われた」
「え?」
「戦乱の時代。戦争が起きれば、人は死に身寄りのない子供が増えていく。俺もその一人だ」
「あなたが……」
「戦場を渡り歩き、街を渡り歩き、国を渡り歩いた。渡り歩く中、食べ物を盗み食いつないでいた――」
俺は自分の身に起きた過去を話す。
「…………」
過去を話す中、レインは終始無言で聞いていた。
「俺を拾ってくれたのが少年少女のリヒトとレイだった。二人は死にかけていた俺を拾い、王宮に連れてかれた。当然、スラム街の孤児を連れてくるなど、王族や貴族からも反発された。だけど、リヒトは「この国はおかしすぎる!! 王族や貴族が裕福に暮らしているのに、国民には戦争で得たものを反映されていない!! いくら、国が豊かになっても治安が悪くければ、国は衰退の一途を辿るのだぞ!! それが分からないのか!!」と激怒した。レイも激怒し、人としてあるまじき行為だと言い放ったそうだ」
「……信じられない」
「そうだろうな。とにかく、拾われたのは俺だけじゃなかった」
そう。リヒトとレイに拾われたのは俺、ルフス、ベルデ、アルブム、メランの五人。
俺たちはリヒトとレイが面倒を見てくれた。
身体を清め、服を与え、温かい食事をもらった。でも、貧民街で暮らしていた俺たちが温かな環境に暮らせるとは思えなかった。
女官や左官などが俺たちを毛嫌いしていた。特に俺は性転換という異能を持っている。男が女になったのを見られて、化物だと言われ、蔑まされたのを忘れもしなかった。
あの時、俺はこのままでは化物を匿わせたリヒトとレイの風聞が悪くなると思い、王宮を出て行こうとした。
それを止めてくれたのがレイだった。
彼女は俺を優しく受け止めてくれた。化物と罵る奴らにお構いなしに――。
化物の俺に温かく抱きしめてくれたレイ。俺はこの時ほど、自分が愛されていることを知った。彼女が俺を守ってくれるという言葉に俺は感涙にむせび泣いた。
そして、この時、誓った。
この命に代えてもレイを守り通す、と――。
俺は千年前に誓ったことを思い出して振り返っていた。
「――というのが、私が見たリヒトとレイかな」
レインは彼女が知っているかぎりのリヒトとレイのことを話した。
ティア殿下たちも聞けるだけ聞けたのか満足だった。
「ありがとうございます。レイン様。僕は伝説の神々のように、これからも日々精進していきます」
「私もレイ様もように誰にでも愛せる人になりたいです」
と、ユージとユリスはレインに感謝の言葉を述べる。
カズやハルナ、ユージ、アヤ、ユン、シノも感謝の言葉を述べる中、ティアだけは満足していなかった。
彼女が好きなのは[戦神]ヘルト一択。なので、レインからヘルトのことが聞きたかったのだろう。
レインもティアの気持ちを察していた。なので、
「ヘルトのことはまたの機会ね」
「うん」
次の機会ということでティア殿下は了承した。
俺はティア殿下を見て、どれだけ俺が崇拝しているんだよ。
心の中で苦笑した。
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