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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
学園入学前
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英雄は千年前の自分を振り返る。

 レインが昔話を始めるのと同時に俺は千年前の自分を振り返る。


「時は千年前、史実や本で読んでいるなら知っていると思うけど、その時代は戦乱の時代だった。対立する国同士の争い。異種族間での争いが絶えなかった」


 そう。あの時代はギリメシアの神々に支配されていた。特にオリュンポス十二神に選ばれし者たちが主権を争い。自然と民草の暮らしが悪くなり、衰退の一途を辿った国が多かった。

 当然、戦争が起きれば、人が死ぬ。それは戦いによる死だけじゃない。飢餓による死が絶えなかった。

 俺は戦争孤児だった。

 俺は幼少時、国同士の争いで父を失い、飢餓で母を失った。親を失い、路頭を彷徨い、幾多の戦地を渡り歩いた。

 身寄りのない幼少の俺が生き残るには野営地や行商に食べ物を盗むほかなかった。

 いろんな野営地、行商、露店の食べ物を盗んでいた。

 もちろん、食べ物を盗みあうのは俺だけじゃない。孤児、スラムの子供たちまでもが俺のように真似て、食べ物を盗み始める。

 食べ物の盗みが謳歌し、国は兵士を送り込む。しかも、俺は生まれつき、“両性往来者(トラフィックダイト)”という性転換の異能を持っていたため、よく兵士の目を掻いぐり回っていた。

 なお、孤児やスラムの子供らと食べ物の奪い合う際、俺は最初の頃、殴り飛ばしていた。だが、次第に彼らを気にかけてしまい、食べ物を盗んでは盗めない孤児やスラムの子供らに食べ物を提供した。

 戦争によって国が豊かになろうと治安が悪くなる。国として豊かになればなるほど、治安が悪くなっていく一方だった。

 あの時の俺はこう思った。神々に選ばれた傲慢な権力者が互いの利権を求めて、争い続ける。こんなことをし続ける意味があるのか、と――。


 月日が流れ、俺が食べ物を提供していた孤児やスラムの子供らの拠点を特定されて、国の兵士たちが動いた。

 訓練などされていない子供たちが兵士に勝てるわけがない。当然、逃げ惑うことしかなかった。だけど、国の兵士たちは逃げ惑う子供たちを殺した。醜くひどい惨殺だった。

 それは今でも覚えている俺はあの時――。


 俺が昔のことを振り返っている中、レインは当時の自分のことを話した。


「争いに絶えない時代に私は生まれた。幼い少女として……人型を形取る精霊は人間社会に溶け込めることが出来る。だけど、周りの人が全員、欲望に満ち溢れた人間たちばっかり、精霊の力を我が物にしようとする人が多かった。恐怖に怯え逃げ惑う日々。そんな私を助けてくれたのがヘルトだった」

「ヘルト様が……?」

「そう。最初、彼は私のことを孤児だと思って、食べ物を与えてくれた。ヘルトは貧しい子供たちに食べ物や着る服を与えていたの」

「どうして?」


 顔を見合わせティア殿下たち。


「当時、戦争ばっかりしていた国の治安は悪く、一部の街は荒廃して飢餓に苦しんでいた。ヘルトはそんな貧しい人たちに物資を送り続け、子供たちに勇気と希望を与えていた。その当時から、ヘルトは戦場で果敢に暴れ回り、周辺諸国からは『戦の申し子』と呼ばれていたそうよ」

「「「「「「「「「へぇ~」」」」」」」」」

「でも、ヘルトが貧しい子供たちに物資を送り続ける事に反対する貴族がいた。貴族の息がかかった兵士たちが私を含めた子供たちに手をかけようとしたの」

「そんな…!?」

「…ひどすぎる」

「その際、私は力を使ってしまった。私が精霊だとバレてしまい、兵士たちに連れて行かれそうだった。そこにヘルトが来てくれた。彼は私を兵士たちから解放し、息の掛かった貴族の名を吐かせた後、謹慎処分を降された。だけど、私が精霊であることがバレたのは事実。私はまた逃げ惑う日々に戻ると思った」


 レインの口から語られる自分の身に起きた過去。

 それを聞いているティア殿下たち子供にはまだ早いことだが、彼らは真剣に聞いていた。


「でも、私が精霊だと分かっても、普通に接してくれた。彼には他の人間とは違って見えた。むしろ、私を力のある子供だと判断したのか。王宮に連れてかれたの」

「王宮?」

 ユリスが言葉を漏らし、首を傾げる。

「クラディウスのことよ。千年前は王宮だったの。王宮に連れられた私が目にしたのは私と同じくらいの女の子がいた」

「レインさんの他にも女の子がいたの?」

「ええ、四人の女の子がいたの。彼女たちも私と同じく精霊。今は私と同じ精霊階梯神位の精霊よ」


 レインが言う四人の女の子。

 それは自分と同じ神位精霊のことだ。

 俺はレインの話を聞いて、その時のこと思い出す。

 レインが話しているのはあの時のことか。

 あの時、俺やルフス、アルブム、メラン、ベルデはリヒトの命令で「王都にいる人の姿をした精霊を探し出せ」と命じられた。

 まあ、あの時の俺はスラムに物資を送り続けていた。精霊を探す合間に寄ろうと軽い気持ちで――。

 だけど、まさか、あの時の虹色の髪をした幼い少女が精霊でレインだったとは思いもよらなかったがな。

 俺はあの時、レインがスラムにいたことに驚いたがな。


「私を含めた彼女たちは五大将軍に連れてかれて、リヒトとレイの前に立たされていた」

「五大…将軍…?」


 と、ユーヤが五大将軍を知らず、首を傾げる。


「ヘルトを含め、リヒトに仕える大将軍。王都と王国の東西南北を守護する五人の大将軍。当時の子供たちの憧れの存在だった」

「へぇ~、ヘルト様と肩を並べる人たちがいたんだ」

「ええ。私たちが彼らに連れてかれた場所がリヒトとレイの前だった。あの時は私たちを使い捨てにする気かしらと思った。でも、彼は私たちに対話を求めた」

「対話?」

「今の時代じゃあ、精霊は高位の存在として確立した。だけど、千年前、精霊は異種族と思われていた。対等に話を持ちかけたのがリヒト。傲慢な王様だったけど、欲深い権力者ではなかった。『唯我独尊』。その言葉に相応しい御方」

「唯我独尊…」

「初代皇帝って…そんなにすごい人だったのね」


 カズとハルナは初代皇帝の偉大さを知った。


「もちろん、対話なんてできるはずがない。出会った頃はリヒトなんて信用できなかった」


 レインが言ったことに俺は当然だと思う。あの時代、欲深き権力者は精霊を道具としか考えられなかった。精霊に非道な実験をするのは日常茶飯事。異種族差別主義は当然であり、人族こそが頂点に立つべき存在なのだ認識だった。


「でも、私たち精霊を丁重にもてなし、世話をしてくれたのがレイ。あの人は私たちを愛してくれた」


 レイは人族と異種族の間に生まれた子供。リヒトの姉にして王族だったが冷遇されていた。異種族との子供というだけで差別され、つらい日々を過ごしていた。

 普通だったら、心が壊れたりするのだが、彼女は壊れることなく、人族、異種族、精霊を分け隔てなく愛し続けた。


「リヒトとレイ。二人は今まで見てきた人間とは変わっていると思ったのが当時の私の印象ね」

「変わっている?」

「だって、精霊や異種族を愛し、対等関係を持とうとしたのよ。変わっていると思うわよ」


 まあ、リヒトとレイは幼い頃の境遇のせいか。誰にも優しくするのが信条だったからな。

 俺は今でもレイが変わり者だったという印象を覚えている。

 だが、俺は彼女に惚れていたのもまた事実。

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