英雄は友人に会う。
俺は頬を赤面し続けているティア殿下を気にかけながら、テーブルに置いてある書物を読み始める。
まあ、読むのは魔法の本だ。屋敷にある図書室の本もいいが、帝級にある本だったら、最新版がある。と、思って読み始める。
本を読み始めて数分後、赤面し続けていたティア殿下が再起する。再起した彼女は俺の方を見る。
俺が本を読んでいるのを見て、ティア殿下は頬をリスのように膨らませる。
(遊んでくれない)
拗ねだした。
拗ね始めるティア殿下にレインが耳打ちする。
「こういう時は自分から近づかないと…」
「えっ……?」
「彼は他人の感情に疎い。だから、自分から積極的に行かないと…ね」
助言を耳打ちする。
俺は本を読んでいる中、レインがティア殿下に耳打ちした内容は聞き取れなかった。いや、聴覚を魔術で強化すれば聞き取れると思えば聞き取れる。だけど、それを積極的に聞きたいか、と言われたら聞きたくないと、俺は言うだろう。
なので、レインが耳打ちした内容は聞き取っていない。もし、聞こうとしても「教えない」とレインが答えるのが目に見えている。だったら、聞かない方が賢明だ。と、俺は考えている。
本を読み出して、さらに数分後のことだ。
俺のもとにティア殿下が歩み寄る。
「ねえ、ズィルバー…」
「なんでしょうか、ティア?」
「……ッ!?」
ん? どうしたんだ? 急に顔を真っ赤にして、俺はただ彼女の名前を口にしただけなのに……。
この時、俺がティア殿下のことをティアと口にしたことが原因だと知る由もなかった。
レインと女官だけはティア殿下の心情を理解し、苦笑を浮かべていた。
俺が本を読み、ティア殿下は俺に名前呼びされたことで赤面し、トリップしている。俺とティア殿下の様子を見て、レインと女官はというと――
(全く、あなたの鈍感さはどうにかしてほしいものね)
(殿下。殿方への名前呼びには慣れてください。あと、ズィルバー殿には自分から積極的に押していかないと…)
呆れかえっていた。
突如、扉を叩く音が部屋中に木霊した。
そして、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「ティア殿下。ズィルバー殿。そろそろ、お食事の時間ですので食堂の方へお越しになってください」
扉の向こうにいる衛士か女官かは知らないが声をかけられた。
「ズィルバー。本を読むのを止めて、お食事に行きましょう」
「殿下もいつまで惚けていないでお食事へ参りましょう」
「そうだな」
「え、ええ……そうね」
俺は本を読むのを止めて、ティア殿下も惚けから目を覚まして返事をした。
女官の案内で俺たちは皇宮の食堂へと歩き出した。
女官の案内で皇宮の食堂へ来た。
来て分かることは流石、皇宮だ、言うことだ。
豪華絢爛の食堂。天井には照明と思われる飾りが吊されている。豪華な置物まで置かれている。
なお、食堂には既に父さんや母さん、姉さんたちが席について待っていた。だけど、待っていたのは父さんたちだけではない。他にも別の貴族たちも席に座っていた。
服装から見て、地方貴族だとは分かるけど、どこの貴族までは分からないな。
とりあえず、俺たちは女官の案内で席に座った。
レインが俺の隣に座ったところで父さんが
「ズィルバー。殿下との仲はさらに深まったか?」
聞いてくる。ティア殿下との仲がさらに深まったか、ねぇ~。
「たぶんね」
「たぶん?」
「名前で呼んだくらいだよ」
俺は正直に部屋でしていたことを話す。レインもフォローする形で教えてくれた。事情を知った父さんは
「殿下を名前呼びするとは……」
ん? なんだ? 恐れ多いような反応しているけど、俺としては普通に接しただけだが――。
ここで俺は自分がしたことを振り返る。
そういえば、俺が前世で目上の人に対して話したのって、リヒトとレイぐらいだよな。
いや、皇族に対して、普通に接しているのが仇になったのか。と、考えに耽る。
レインは考え込んでいる俺を見て
(全く、あなたは……)
息を吐いた。
(ズィルバーいえ、ヘルトは千年前、リヒトやレイに同じ目線で話していた。その時の癖が魂に染みついている。だけど、矯正しろと言われても無理よね。ティアって女の子。レイに似すぎている。私でも彼女の面影を見てしまう。もしかしたら、彼女の魂の生まれ変わりがティアかもしれないと思ってしまう。こればかりは推測の域だから。なにも言えないわね)
レインは俺を見ながら、俺の態度が違うのかを心の中で言及した。
なお、俺や父さんたちが座っている位置は食堂にある大きくて長いテーブルの真ん中。俺の両隣に父さんとレインが座っている。母さん、姉さんたちは対面する形で座っている。
上座に近い方にティア殿下たちが座っている。上座は皇帝陛下。二番目の上座が皇太子殿下。位が低くなるごとに皇女殿下、皇后と皇族の皆様方が座っている。
俺は上座側に座っておられるティア殿下を含めた五人の皇女を見る。
高価なドレスを着ているが、可憐な乙女なのがわかる。だけど、俺から見たら、ティア殿下がレイの面影を感じる。
これは俺にしか分からないことだから仕方がないか。
給仕たちが昼食を運び終えたところで俺たちは昼食を食べ始めた。
さすがは宮廷料理というだけのことはある。上品かつ味わいが深いものだ。
だから、言えることは
「レイン。もう少し、行儀よく食べろ」
「だって、美味しいんだもん」
「仮にもキミは精霊階梯神位の精霊。行儀よくしないと神位精霊としての品位が損なわれるよ」
「むぅ~」
全く、その程度のことで頬を膨らませるなよ。そこは千年前から変わっていないな。
リヒトやレイが見たら、悲しむよ。
身体が成長しても心が成長していないって――。
なお、俺とレインの会話を聞いていた他の貴族や皇族はレインが精霊であることに驚きを隠せなかった。
レインが精霊だと知っていたティア殿下もレインが少々行儀が悪いのを見て、精霊としての品格を疑ってしまった。
昼食後、父さんは他の公爵家の当主らとともに皇帝陛下との会談があると言って、席を外し、母さんと姉さんたちは薔薇園を見て回ると口にした。
だけど、俺だけはティア殿下と一緒に他の公爵家のご子息、皇女らとともに庭園内の屋敷付近で遊ぶことになった。
もちろん、レインは俺たちの保護者として付いてきてくれた。
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