英雄は帝都へ行く。
俺は父さん、母さん、姉さんたち、そしてレインと一緒にライヒ大帝国の首都、大帝都へ馬車で向かっている最中だ。
大帝都ヴィネザリア。千年前から栄え続けている都。その街並からは栄華を極めたと過言じゃないほどである。
馬車が大帝都へ近づいてきた。
俺は窓へ視線を向けて、大帝都を見る。
視線の先には荘厳なる正門がある。
(久しぶりの王都――いや、大帝都を堪能しよう)
と面持ちで俺は正門を見る。
頭上を仰げば巨大な城壁の見下ろすような威圧感に包まれる。城壁を囲む深い堀がある。
レインも正門を見て、
「千年ぶりに王都ヴィネザリアを見るわね」
「王都? 大帝都ではないのか?」
父さんはレインが言う「王都」という言葉に目を細める。
「千年前は王都だったのよ。それじゃあ、今は大帝都なんて時が流れたものね」
(そうだな)
俺は心の内で呟いた。
馬車は向こう側にかけられた橋の上。今は流れに任せて、屋敷以外の外の景色を堪能している。
馬車は流れに沿って橋を渡り、正門前で検問、荷物検査を受けると――、
「おぉ……」
「わぁ……」
窓から広がった光景に圧倒された。
正門から延びるのは石畳を敷き詰められた幅広い道。
広場に向かって、露天商が軒を連ねている。どの店も人で溢れており、露天商が声を張りあげて客寄せをしている。
「……千年前と比べて、建物が増えて高い。なにより、人の多さが違うわね」
レインは窓から見える範囲で辺りを忙しなく見回している。
俺もこれにはビックリだ。
千年前とは大違いだ。あの時はここまで露店が軒を連ねていない。粗野のある街並が多かった印象だ。
俺としてはあの街並も好きだったけど、今の時代の街並も凄い。
街路を抜けると、今度は壮大な噴水庭園が歓迎してくれる。
噴水から噴き出す天に昇る水柱は背後に見える雲と合わさって、神秘的に見える。
飛沫が煌めき、窓に触れるけど、その光景は目に焼きつく。
ふと、ここで俺は噴水の周りにある巨大な銅像を発見する。三体の巨大な銅像。それはレインも同じで彼女は銅像を見て
「あれ? リヒト?」
言葉を漏らす。
「噴水庭園にある三体の巨像。大帝国の歴史を築かせた伝説の偉人。[建国神]――初代皇帝、レオス・B・リヒト・ライヒ。[女神]――セリア・B・レイ・ライヒ。[戦神]――シュバルツ・B・ヘルト・ライヒ。この三人を神として奉っているのです」
俺が神。
しかも、ライヒ皇家との血縁か。確かに俺はレイを好いていた。だけど、形だけの夫婦にした。もちろん、レイもそれは承諾してくれた。
分かっていたからだ。俺は兵士。彼女は皇族。釣り合うはずがないってな。
それでも、彼女は俺を好いてくれた。
いや、今更、過去のことを蒸し返すのはよそう。それじゃあ、レイが悲しむからな。
馬車が噴水庭園を過ぎた途端、街並が変わりだした。正門では露天商が軒を連ねていたが、今度は鍛冶屋、服屋とか軒を連ねている。
「ここは商店街。商人や職人が店を構える区域です」
母さんが教えてくれた。もちろん、それはレインにだ。俺は横耳で盗み聞いていた。
「大帝都は皇宮クラディウスを中心に貴族街、商店街、庶民の街になっている」
「つまり、外縁へ行くにつれ、階級が低くなっているのね」
レインは今の時代の階級風潮を知る。俺も貴族社会ならぬ階級社会の主流を知った。
そして、俺たちを乗せた馬車は大帝都内にあるファーレン家に到着する。
到着した後、俺はレインと一緒に執事の案内で部屋へ連れてかれた。
部屋で少しの休息をとった後、食堂で食事を取る。
食事を取る際、父さんが明日の予定を口にする。
「明日、皇宮へ向かう。ズィルバー。お前も一緒に来てもらうぞ」
「分かりました。父さん」
久しぶりの皇宮。楽しみだ。
俺は貴族街の屋敷の部屋にある窓から見える街の景色を見ている。
時間は夜。
千年前とは違った景色が俺の目に入ってくる。俺はレインに話しかける。
「レイン。千年後の世界も楽しめそうだな」
「そうだね。見てよ。ヴィネザリア。千年前の面影がしっかりと残っているよね」
「何度か改築されているようだけど、千年前の面影が残っている」
これは美しさよりも懐かしさが込み上がってくる。明日には皇宮へ向かう。
つまり、懐かしき我が家に帰ってきた気分だ。
俺がリヒトやレイに雇われて、初めて訪れた場所。リヒトに忠誠を誓う形で契りを交わし、レイとは形とは言え、付き合うことになった場所。
多くの仲間たちを迎えて戦乱を潜り抜いた。帝国が誕生しても戦乱は続いた。俺が別れを告げたのは次なる戦場へ足を運んだとき以来だ。
だから、千年ぶりの帰還になる。今なき、リヒトやレイ、仲間たちはいない。だけど、彼らと歩んだ歴史はあの皇宮にはある。
それを思うと、胸がドキドキする。
「明日が楽しみだ」
「ええ」
俺とレインは明日が来るのを待ち望んでいた。
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