強者×強者×激突_2
不敵に笑ったヘルト。
「グッ……」
ボタボタと血がこぼれ落ちるユウトことドラグル。
「さすが、史上最強の大英雄なのだ! この私の鎧を容易く砕くとは……」
「フッ。場数が違う。いくら雰囲気を自分に寄せていようが、肉体までは全盛期の肉体を再現できまいて」
「く、悔しいのだ!」
(まあ、俺も僅かな時間による軌跡に等しい。だが、この短い軌跡でこのバカを正気に戻してやろう)
「さーて、次はどんな技を披露しようか」
「むぅ~、舐めるなのだ!
“創星覇竜波”!!」
再び放たれる光線を前にアルトゥールらが結界の構築を再開する。
「悪いけど、その業は見切った」
「――!」
『――!』
ヘルトは一度見た技の傾向と対策を構築する。
そもそも、こと戦闘においてヘルトに匹敵しうる技量の持ち主は原初の赤以外にいない。
「汝は我が盾となりし者。汝は我が剣となりし者。我が盾は永劫不朽にして不滅。その綻びもなければ無垢のままであれ!」
「あれは“神聖詠唱”!?」
「無理よ。“オリュンポス十二神”の……しかも、“守護神”の盾では――」
声を張り上げるアルフィーリングの言う通り、一つの言語では無意味だ。
だが――
だが、二種言語による“二重詠唱”ならばどうだ?
「汝は我が盾となりし者。汝は我が剣となりし者。我が盾は永劫不朽にして不滅。その綻びもなければ無垢のままであれ!」
「これは“二重詠唱”!?」
「そうか。“神聖詠唱”と“古代竜言語”を同時に詠唱すれば……」
「その効力は累乗される」
(さすが、アルクェイドが魅入られた大英雄。常識の埒外をやってのける!!)
まさに、大英雄。誰もが為しえない芸当をやすやすとやってのける。
恐れを知らない。後悔を知らない。後悔とはやってから後悔するものだと自負している。
それこそが大英雄なのだ。
「汝は我が腕なり。我は汝の腕なり。天より授かりし盾の名は――」
「汝は我が腕なり。《mraich.》我は汝の腕なり。天より授かりし盾の名は――」
“神聖詠唱”と“古代竜言語”の“二重詠唱”がまだ続く。
「その名は――」
「その名は――」
紡がれる守護神に賜りしその盾の名は――
「顕現せよ!――“不滅なる神盾”!!」
「顕現せよ!――“不滅なる神盾”!!」
星の意匠が施された“闘気”の大盾。否、大盾というのは語弊がある。それはまさしく――
「障壁!?」
「守護神の武装を“古代竜言語”で再現した!?」
「バカな!? それを再現するには多言語を理解するのと同時に言語一語一語の意味を理解しなければ成立しません!」
“二重詠唱”というのは異種族の誰もが体得することができるとても難しい技術。
技術なのだが、同時に多言語を理解し、意味すらも理解しなければならない。
なぜなら、類似する言語を照らし合わせて詠唱させなければならないのだ。
それだけ難しい技術なのだ、“二重詠唱”とは――。
なのに、ヘルトはいとも容易くやってのける。まるで簡単そうに――
「――!」
(なぬ!? 私の“創星覇竜波”を防いでいるのだ!?)
ドラグルの“創星覇竜波”をヘルトは“不滅なる神盾”で完璧に防いでいる。
「どうした? この程度か?」
さらにそこから煽るだけの余裕があったのだ。
余裕がある。それはまさしく傲慢というものだった。
「まだ、まだなのだ!」
ドラグルは“創星覇竜波”の出力を上げる。
なのに、ヘルトは“不滅なる神盾”で防ぎきっている。
むしろ、防ぎぎるどころか光線の軌道すらも変更しつつある。
他者の“闘気”に干渉するのも高等技術。しかも、強ければ強いほど難易度が上がっていく超高等技術となる。
「すごい……」
感嘆の息を漏らすシノア。
それもそのはずだ。先程まで苦戦していたドラグル相手にヘルトは臆するどころか拮抗しているからだ。
『さすが、ヘルト。僕ができないことを平然とやってのける』
(“二重詠唱”というのもですか?)
『“二重詠唱”というのは様々な呼び方をされるけど、基本は同言語かつ別々の魔法を詠唱する技術。
他言語かつ同じ魔法を詠唱するのは極めて難しい』
(言語が別々だと難しいのですか!?)
『ああ、それを平然とやってのけるヘルトは恐ろしい。基本、検証しないと実戦に用いない。でも、アイツは実戦かつぶっつけ本番でやってのける。緊張している戦場で、だ。
だからこそ、アイツは史上最強なんだよ。
誰もできないことを平然とやってのける』
(誰にも、できないことを……)
シノアは伝説の偉人がいかに伝説かつ歴史に名を残せた意味を真の意味で理解した。否、無理やり理解させられた。
『シノア。キミはまだ子どもだ。キミはまだ雛鳥だ。だけど、キミは……キミたちは着実に強くなっている。成長している。
雛鳥はいずれ大きく羽ばたいていく。鷹や鷲のように世界へ羽ばたいていく。
今はただ世界の広さに打ちのめされているだけ』
(世界の広さ……)
『世界ってのは大きく広く、そして深い。誰も経験したことがない事象で満ち溢れている。
それを駆け抜け、道を残してきたのが偉人たちだ。
前人未到という名の道を歩んできたのがヘルトたちだ』
(前人未到の道を歩む……)
シノアは学んだ。
自分たちがそのスタート地点に立ったのだと……
「さて、一気に終わらせる必要がある」
(さすがに全盛期を維持し続けるだけの“闘気”はまだない。あとどれくらい保つか)
フゥーっと息を吐くヘルト。
「“不滅なる護神の槍”」
「――!」
放たれたのは槍の刺突。
しかも、ただの刺突ではない。ヘルト自身が練り上げた“闘気”。その“闘気”によって放たれる刺突は想像を絶する威力を伴う。
「――!?
あの技は……」
「何、知っているの?」
ハルナはヘルトが使用する技を誰かと重ねた。
「ええ、前にズィルバーが使用した技に似ている」
「ズィルバーが?」
「うん。思えば彼は博識で戦闘経験が豊富だった。まるで、長い時を歩んできたような……」
ハルナは一つの可能性に至るけど確証のない事実にみんなを巻き込ませるわけにはいかない。
何より――
(ティアの心が壊れかねない。今はまだ……)
まだ、それ以上考えることを放棄した。
「“不滅なる護神の槍”」
「おっ」
「“不滅なる護神の槍”」
「ちょっ」
「“不滅なる護神の槍”」
「止めるのだ!?」
「“不滅なる護神の槍”」
ヘルトは連続して“不滅なる護神の槍”を放ち続ける。
基本、大技の使用には集中力を必要とする。にもかかわらず、ヘルトはいとも簡単に使用している。
つまり、彼にとってそこまで疲れを要するほどの大技ではないということだ。
「それ! それ! それ!」
「容赦がないのだ!」
ヘルトは“不滅なる護神の槍”を連発していた。しかし、少しずつ趣向を変えていく。
「“不滅なる英雄の太刀”」
煌星の剣から繰り出される斬撃。
“闘気”の斬撃だけども“守護神”の“真なる神の加護”を帯びた斬撃であり、斬撃の強度に関しては硬いと言えよう。
「危ないのだ!」
「“不滅なる英雄の太刀”」
本来、“不滅なる英雄の太刀”は斬る技だ。
ヘルトはそれを斬撃に切り替えて繰り出している。
趣向の切り替えまさしく戦の申し子の戦い方である。
しかし、“不滅なる護神の槍”と“不滅なる英雄の太刀”では決定打にならない。
それをヘルトが気づかないはずがない。
「…………」
(ここまで鬱陶しくされると集中力が切れる……はずだが、さすがに“竜皇女”……そう簡単に集中力を切らせないか。いや、逆か。
鬱陶しすぎて怒りの感情を溜め込んでいるって感じか。別の意味で厄介だな)
二つの技をバラバラに放ち続けたヘルト。彼は表情を崩さずに小声で詠唱をする。
「其は天より授かりし聖剣。其は神より賜りし聖剣。其は秘めたる力を封じし聖剣。煌星のごとく輝く聖剣よ。汝は我が身に認められし聖剣。その真の力を我に見せよ」
「其は天より授かりし聖剣。其は神より賜りし聖剣。其は秘めたる力を封じし聖剣。煌星のごとく輝く聖剣よ。汝は我が身に認められし聖剣。その真の力を我に見せよ」
技を連発しても“二重詠唱”で詠唱する。
使用するのは“神器”の解放。
そう、“煌星の剣”の解放である。
「解き放て」
「解き放て」
彼が詠唱を終えたのと同時に“煌星の剣”が光りだした。
使用したのは――
間違いなく“神器”の解放。
そう。“煌星の剣” 本来の姿への解放である。
輝くのと同時に形状が変化していく。
ドクンドクン
脈動する“煌星の剣”。
徐々に形状が変化していく。
光り輝く。まばゆい閃光が轟いている。否、閃光がみんなの視界を覆っていく。
「――!?
何も見えな――」
煌めく剣閃がドラグルないしはユウトの身体に直接叩き込まれた。
強烈なまでの一撃がユウトの身体を斬り裂く。
「うぐっ!?」
ゲホゲホと咳き込み、ゴホゴホと咽るドラグル。
閃光が落ち着くと、彼らの視界に入るのは剣を振り終えたヘルトがいた。
「今、何が……」
シノアたちの目には何も見えなかった。
血が混じる吐瀉物を吐き出すドラグル。
今の一撃で鎧が砕け、傷口から血が流れ落ちる。
「しかし、さすがに硬いな。神級の鎧ということだけあって砕くのに苦労する」
(解放するにあたり、■■■の力を引き出すのは身体にも負担がかかる。だけど、一瞬だけ解放すれば身体への負担も軽減できる)
「ぐっ……さすがに大英雄という奴は厄介極まりないのだ!
まるで、“原初の赤”を相手にしておるのだ」
「ふーん。“原初の赤”か。懐かしい名前だな。俺も焦りたくなる相手は“原初の赤”ぐらいだ」
ヘルトもドラグルが口にした名称に嫌ってほどに嫌っている。
「ハアハア……さすがに回復まで時間がかかるのだ!」
「自己再生か。残念だけど……それを許していられるほ――ッ!?」
「ん?
どうしたのだ?」
「…………」
ヘルトは言葉の続きを言おうとしたけど、全身から大量の汗が流れ落ちる。
「――ッ!?」
(クソ……“煌星の剣”の本来の力……本来の姿に戻し、■■■の力に引き出すのも悪くないが、今の身体だと剣自体が適応してくれていないな)
全身に重くのしかかる痛みが負担となって押し寄せてくる。
そもそも、“神器”というのは本来の力を発揮する場合、主を認めるのと同時に肉体そのものに適応しなければならない。
肉体そのもの。
つまり、本来の所有者の肉体じゃなければ、その力を発揮することなんて不可能。
本来の所有者であっても本来の肉体じゃなければ、■■■の力は発揮されず、発揮できる力は神級が限界である。
超常的な力を振るった代償がヘルトの身体に重くのしかかっている。
「――ッ!?」
(さすがにこれ以上の力を発揮するのも無理だな。レインならともかく、“煌星の剣”を引き出せるのは今の俺でも無理か)
判断するヘルト。
「ぐぅ……」
ハアハアと肩で呼吸をしているドラグル。傷を治癒したとしても憑依したうえでの意識の覚醒はユウトの肉体へも負担が大きい。
おそらく長時間の覚醒も難しいのだろう。
角もそうだが、鎧が綻び始めている。
「どうやらその力を維持するだけの身体が出来上がっていないみたいだね」
「言うではないか。貴様も限界と見えるぞ」
「さすが、“竜皇女”……いや、“竜人”と言うべきかな。
その肉体も……いや、ユウトの肉体は徐々に人外の域に到達すると考えてもいいかな?」
「アハハハ。よくぞ見抜いたのだ。
貴様こそ、“真人間”でありながら、神に至ろうとしているではないか」
「もともと、俺らとキミの進化はルーツ……いや、ルートが違うだけ。
そうなれば必然と進化の進む先も違う」
言っていると、ボロボロと肉体が綻び、解れ始めていく。
「チッ……どうやら限界か」
「ならば――」
ボロボロと鎧が崩れ落ちていく。
「どうやら先程の一撃が思いの外、効いているみたいだな」
「そのようなのだ。これでは戦いを継続するのも無理なのだ。だが、この剣だけでも十分なのだ!」
ドラグルは“天魔の剣”を突きつけようとするも――
「――!?」
カランカラン
床に落としてしまう。プルプルと腕が痺れていた。
「まさか、身体が……」
「言っただろ。思いの外、効いている、って……それはユウトの身体にも影響が出ているのと同義だ。ユウトの肉体がキミの力、反応に追いつかなくなっている、ってことだ」
「そのようなのだ。悔しいけど、ここは潔く退くとするのだ」
ふぅ~っと息を吐くドラグル。
徐々に意識がドラグルからユウトへと戻っていく。
否、ドラグルの意識をユウトの魂と溶け合い、同一化して引っ込むのだった。
ヘルトもアルクェイドが唱えた魔法“英霊覇導”の効力が切れた。
「ハアハア……」
肩で呼吸をしているヘルト否、ズィルバー。
彼は未だに五体満足でいるユウトを見る。
「いい加減に目が覚めたか。
このバカユウト!」
嫌味を吐くだけで精一杯なズィルバー。
「……あぁ、なんとか…………」
ユウトも目を覚まして言葉を返すだけが精一杯だった。
とにかく、難を逃れた一行はハァ~っとその場に座り込むほど疲れ果てた。
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