英雄は己を振り返った②
読みやすくなった?
若干、俺は放心してると――。
「失礼致します。お坊ちゃま、おはようございます」
いつの間にか、黒く畏まった服を着こなした青年が俺に声をかけてきた。だけども、俺は青年の言ってる意味が分からなかった。
お坊ちゃま? 誰が? え? え? 頭がこんがらがってきたぞ。とと、とりあえず…
「…おはよう」
遅らせなかば、挨拶をした。挨拶とかは精霊たちからご教授してもらったな。
「お坊ちゃま。どうしたのです? 鏡なんかを見て…今日も麗しくお綺麗ですよ、ズィルバーお坊ちゃま」
青年の少々気になったか耳に入ってくる言葉に俺は…。「えっ」となる。今、聞き覚えのない言葉が聞こえたからだ。
ズ、ズィルバー? それって…俺のことか?
いや、俺はヘルトで…。英雄で…。なにがどうなってるんだ。知らないことが多すぎて…ますます、頭がこんがらがってきたぞ。
俺がこんがらがっている最中、白と黒が入りまじった服を着こなした女性が入ってきた。
こんがらがってる俺はこんがらがるのを吹き飛ばすほどことが起きてしまった。
げぇ~!? お、女の人!? い、嫌だ! 女の人は苦手だ! なんでかって…それは俺の異能力体質は異性。つまり、女の匂いとか、柔らかな感触が触れただけで、身体が熱くなり、体型が変わってしまうんだ。
俺はそれが嫌で、女の人との接触を避けていたんだ。
いや、待てよ。それは、英雄だった頃の俺のことで、この少年が“性転換”という異能力体質が受け継がれている確証がない。
そうだ。この少年が悪しき異能を受け継いでるわけがない。俺はその可能性に信じきるも、黒く畏まった服を着こなした青年が
「お前たち、お坊ちゃまは特殊体質だというのを忘れたのか? 不用意に近づいてはいけません」
注意が飛んできた。
ん? 特殊体質? なんだ、それ?
嫌な予感がするんだが…一応、聞いてみるか。
「なあ、俺の特殊体質ってなんなの?」
俺は思わず、英雄だった頃の一人称で青年に尋ねてみた。
「お坊ちゃま? お忘れになられたのですか? お坊ちゃまは性別が変わってしまう体質ですよ」
「え?」
性別が変わってしまう体質…それって…つまり…性転換じゃないですか!?
そんな、俺は…いや、この少年はこの体質と一生ついてまわるのか。
思わず、ガッカリしてしまう。俺が再び、放心してる中、女性たちは青年に
「申し訳ございません」
頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。
その後、俺は半ば、放心する中、彼女たちに着替えをテキパキと済まされていく。
俺は未だに混乱の中にいる。俺が性転換という異能力体質を背負いつづけるのかとおもうと思わず、自分を憎んでしまう。
と、束の間に
「お似合いですよ、お坊ちゃま」
「…あ、ありがとう」
ようやくとなって、正気を、意識を取り戻した俺は複雑な気持ちを抱えたまま、彼女たちから離れて、鏡というので自分を見てみる。
青色のカジュアルな服を着せられる。
「ねぇ?」
「なんでしょうか、お坊ちゃま」
「俺は誰で、キミが誰なの?」
俺はドアの傍にいる青年に尋ねた。
俺は今のところ、自分自身を把握しきれていない。この少年がどこの誰で、どんな人間で、どんな生い立ちをしてるのかさえ分からない。当然、この青年の名前もだ。
「お坊ちゃま…何を言っておられるのですか?」
「あ…あぁ~、ちょっと寝惚けてて名前が忘れてるんだ」
「そうですか…まぁ、お坊ちゃまは忘れがちなところがありますから…」
ん? ポツリと零した話の後半が聞こえなかったけど…
「ズィルバー・R・ファーレン様に仕える執事、ルキウスと申します」
「ルキウス。そっか。ごめん。つい忘れてしまった」
いまいち状況が掴めていないから、その『ズィルバー』という少年に成りきった方がいいかもな。
あれ? 俺の返答にルキウスが驚いてるけど、何かあったのかと首を傾げるも、俺はそれを無視して、ドアを開けようとノブに手にかけようとする。
しかし、そのタイミングでルキウスが止めてくる。“なにかな”と思い、顔を見上げる。
「お坊ちゃまの背丈では届きませんので、私が開けさせてもらいます」
ん? どういうことだと思い、目線を上にすれば、ドアノブが背伸びしないと届かない高さにある。
うぐっ!? 背が小さいとこんなに不便とは思わなかったと今さらながら、痛感する。
俺が背が小さいことに嘆いているとはいざ知らず、ルキウスがドアを開けてもらい、俺は部屋の外に出た。
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