激突×竜種×使徒_4
北の果にいる吸血鬼族の首魁とはよそに……第二帝都、“ティーターン学園”にて。
今、大きな問題に直面していた。
「「「――!?」」」
「これは……」
「ね、姉様!?」
学園の生徒会室にて集結するライヒ皇家と五大公爵家の未来を担う若者たちが集結していた。
むろん、ズィルバーやカズたちのような武芸に秀でた世界の命運を握る若人ではなく、世界の均衡を保つために集った若人が集結していた。
「これは一体……」
周囲を見渡す金髪の美少女。リズことエリザベス・B・ライヒ。
彼女と同じ制服を着こなしている双子。
ズィルバーの双子の姉――ヒルデ・R・ファーレン。
ズィルバーの双子の妹――エルダ・R・ファーレン。
「リズ。これは……」
「わからない。でも何か不吉なことが起きているに違いない」
リズの呟きにヒルデとエルダも頷く。否、ここにいる全員が同じだ。
全員というのは地方の公爵家。そう五大公爵家出身の娘たちが集まっていた。
カズ・R・レムアの妹――スズ・R・レムア。
ユン・R・パーフィスの妹――ミウ・R・パーフィス。
ユン・R・パーフィスの姉――セイ・R・パーフィス。
ユージ・R・ラニカの姉――ユナン・R・ラニカ。
ユーマ・R・ムーマの姉――ミリス・R・ムーマ。
彼女たちが集結していた。他にもエスルト・E・テルヌス。
生徒会のメンバーもそこにいた。全員が全員、リズの信ずる者。
今回は次の“決闘リーグ”に向けて派閥内での意見を統一するのが目的。なのだが、予想を超えて次の“決闘リーグ”は前回同様いやそれ以上に波乱が満ちていることに違いないと彼女たちは踏んでいる。
特にひときわ興味を惹かれるのは――
「やはり、ズィルバーの成長が著しいよね」
「ティアちゃんも!」
「だよね!」
弟と義妹の成長を嬉しく思うヒルデとエルダ。
「お兄ちゃんは狼になっていこうとしている。ハルナ義姉ちゃんも」
「わかる。お兄ちゃん。同じ人間なのか疑いたくなる」
頷きあうミウとスズの妹たち。
「ユージもいつの間にかお母さんと同じ痣が浮かび上がっちゃっているし」
「そうそう。ユーヤなんて覚悟を決めた男の面構えになったのよね」
「それだったらユンちゃんだって凛々しくなったよ」
姉たちは自分の弟の成長に憂う気持ちでいっぱいであった。
だが、今は憂うのも喜ぶのも別の話だ。
「ほらほら、話を脱線しない。今は次の“決闘リーグ”に向けて、我が派閥が掲げる指針を決めるわよ!!」
リズの一声でヒルデたちの顔つきが変わった。
「それじゃあ我が派閥の方針は――!?」
再び、バカでかい力が全身に重くのしかかってくる。
『――!?』
ヒルデたちも同じように重苦しい“闘気”をこの身に味わわされる。
「なにこれ!?」
「立て続けに大きい力……近くからじゃないのに――」
「目の前にいる感覚……これは――」
エルダが呟いたのを初めにセイとミリスが口にする。ユナンが窓を開けて駆け抜ける風を感じて状況を把握する。
「これは西の方から来ている」
「西……ッ!? この雷の気配……!?」
ユナンが契約している精霊は風属性の精霊。逆にセイが契約している精霊は水属性の精霊。なのに、風と雷の精霊の気配を色濃く感じ取る。
それは同時に他の姉妹も気づく。
「これは……氷の気配……お兄ちゃん……」
「炎の気配……ユーマ。西に向かっていると聞いていたけど、どうして渦中に――!?」
「ヒルデ姉さん!? これって!?」
「ズィルバーの気配……だけど、どうしてあなたがそこに――」
動揺を隠しきれないヒルデたち。
彼女たちが気になるのも不思議ではないが、リズが気になるのは他にある。
感じ取ってしまった。彼女たちの気配を――
「ティア、ハルナ、シノ、ユリス、アヤ……あなたたちがどうして、火中の栗を拾嘔吐するの?」
(それに気になる。あの娘たちから発せられる巨大すぎる力は何?
どこか既視感がある……)
リズはティアたちが今、別人じゃないかと思わせる力をはるか遠くから感じ取っている。彼女にとって感じたことのない力なのに既視感がある感覚に陥る。
戸惑いたくなるのだが、今気にすべきことは一つ。
「みんな! 大きすぎる力に――」
「会長!」
水を差すかのように学院生が生徒会室に割り込んでくる。
「何? 今、会議中よ?」
エスルトが受け持つ。
「エスルト次期総代! 実は規制してきた学院生らがパニックを……!」
「パニック!? もしかして、この巨大すぎる……」
「はい。肌に感じているこの力にみんながパニックに!?」
「――!?」
事態の収拾に取り掛からないといけないと判断したエスルトはリズに頭を下げて自分が対応することにした。
「会長。ここは私が受け持ちます」
――だけを告げて、生徒会室を退室する。
残されたリズたちは事態の大きさに頭を抑えたくなる。
「一体何が起きているというの?」
リズが思わず吐露する。ヒルデとエルダも誰もが答えることができない。
誰も……誰もが答えることができない。
この異常事態を誰もが答えることが――
大帝都ヴィネザリア。
皇宮クラディウス。
第四十九代皇帝ウィッカー・B・マンヒー・ライヒ。
彼は政務に切り詰めている最中、その身にのしかかる巨大すぎる力を感じ取った。
「――!?」
(何だ、この力は!?)
「陛下!?」
「ガイルズか。そなたも気づいたか」
「はい。この力は一体……」
彼のそばにて政務の補佐をしている帝国宰相のガイルズ。
彼ですら巨大すぎる力を肌で感じ取ってしまった。
「わからぬ。だが、不吉な前兆であることに違いない」
皇帝は自分が今、大変な時代に即位したものだとしみじみに実感する。
「これは政務も大変になるな」
「陛下……」
「ガイルズ。すぐに“聖霊機関”を呼べ。状況を――」
ガイルズに状況確認をお願いしようとしたタイミングで大内裏に入ってくる輩がいた。
「陛下。失礼します!」
「貴様らは“聖霊機関”!? 何用だ?」
ガイルズが思わず詰問する。
入ってくるのは一人の女性。しかも、背格好からして少女に相違ないが身にまとう“闘気”は常人のそれではなかった。
まさに怪物。大英雄級の領域に属する実力者である。
「不躾で申し訳ございません。“聖霊機関”・“七大天使”が一人――クウェールと、申します」
「“七大天使”!?
初代皇帝陛下の時代から存在するとされる世界最高峰の諜報員……!?」
驚きを隠せないガイルズ。
それもそうだ。
七大天使は皇帝陛下直属の“聖霊機関”の最高位。
その存在は歴史を紐解いても明かされることができない特殊な存在なのだ。
ただ一つだけ言えるのは“聖霊機関”全体が天使族であることだ。
「……して、“七大天使”がなぜこのような場へ?」
皇帝はクウェールに要件を問う。
「はい。西方の果……“ドラグル島”……“ギーガス山脈”の地下迷宮最深部にて。巨大な力を感知しました。
その力は初代皇帝リヒト様の魂と融合した創造神と同等の力であります」
クウェールが突拍子もないことを言い出す。
「は?」
ガイルズは絶句して言葉が出てこない。皇帝に至ってはただただ呆然としていた。
「“ギーガス山脈”? 地下迷宮?
一体何を言い出すのだね!?」
ガイルズが思わずクウェールに詰問する。彼女もそう返してくるのは想像できていたので、動揺することなく答える。
「知らない、とおっしゃるのもわかります。なぜなら“ギーガス山脈”の一部が“ドラグル島”なんです」
「“ドラグル島”とは、巨大な山の表出している部分だというのか!?」
ガイルズが聞き返す。クウェールはそのとおりだと頷く。
「それよりも初代皇帝陛下を、名前を呼べるのは選ばれた者たちしか口にできない」
皇帝は口にする。皇帝ですら初代皇帝陛下の名前を口にすることが許されない。
否、歴代皇帝ですら初代皇帝と初代媛巫女、初代五大将軍の名前を口にすることができない。できるのは選ばれし者のみ。
クウェールはその選ばれし者の一人なのだと。
「初代皇帝リヒト様並びに初代媛巫女レイ様、初代五大将軍ヘルト様、アルブム様、メラン様、ベルデ様、ルフス様は偉大でした。誰もができない歴史を刻み込んだ。誰もができないことへの挑戦に踏み込んだ」
「誰もができない挑戦……」
「その挑戦は今もなお続いています。ウィッカー皇帝陛下」
「何だ?」
「これより世界は予想打にしない展開へ進みます。おそらく“ティーターン学園”を中心に大きく動くことでしょう」
「と、なれば……すぐに国民に避難を……」
「落ち着けガイルズ。まだそうと決まったわけではない。だが、来たるべき日に備えて手を打つべきだ」
皇帝は自分がすべきことをすればいいと切り替える。
「それで、クウェールよ。貴殿はそれだけを告げるためにここに来たのではなかろう?」
「はい。おっしゃるとおりでございます。全てはリヒト様の掌の上……いえ、偉大なる創造神様の掌の上と言いましょう」
彼女はそう告げて席を外した。
しかし、皇帝と宰相は――
「一体、何を言って……」
「まさか、伝説の方々は一体何を……」
理解できずにいた。
同時にリズたちの下へ“聖霊機関”・七大天使の一人――フラルが生徒会室に入ってきた。
「あなたは?」
ヒルデがリズを守るかのように前に出る。エルダがリズの後ろにまわり背後を固める。まさにナイトと言える。
フラルもヒルデとエルダが取った行動に呆気にとられる。
「見たところ高貴な身分だと思います」
「リズ! すぐに避難を!」
「ここは私たちが!
ッ!? リズ!?」
リズはヒルデの前に出てフラムへ歩み寄っていく。
「――!? ヒルデ! リズの髪の色が……」
「金色から紅色に……」
事態が急変する。リズの雰囲気が激変した。髪の色もそうだが、瞳の色も変わっていた。
そう。それはまさに――
「異能……」
「まさか、リズも異能を――」
驚きを隠せないヒルデたち。しかし、驚くのは次だ。
「ふむ。千年も経てばあの男の系譜も多少なりとも変わるか」
「――!? リズ?」
「あなた、誰?」
警戒心を強めるヒルデたち。リズ? は手を開いたり閉じだりして感覚を確認する。
「うーん。どうやらあの娘の復活に呼応して我が目覚めたという感じか。
ならば、顕界できるのも数分が限度か」
「偉大なる創造神様。お久しゅうございます」
頭を下げるフラル。リズ? も頭を上げるようにジェスチャーする。
「顔をあげよ、フラル。否、“神の光”・ ファルシュ・ハート」
「いえ、偉大なる創造神様のお顔を拝謁することこそが烏滸がましいことです」
「よい。我も数分が限界よ。ならば顔を見よ」
――だけを告げるリズ?
フラルも彼女に言われて顔を上げる。リズを見つめたままフラルが告げる。
「お伝えします。あなた様の妹弟らが“ギーガス山脈”の地下迷宮におられます」
「そうか。ならば、我もいずれ目覚めるというもの。
しかして、我がいなくても“アルクェイド”と“レイン”がおれば万事は整えられる」
「しかし、かの“聖霊竜”様でも……」
「だからこそ、彼女いや彼に任せられる。万事はすべて彼に任せよ。すべてがうまくいく」
リズ? が言う“彼”とは一体誰なのか? それと我とは一体誰なのか? 創造神とは何なのか?
ヒルデたちの頭には全然追いつかない。
「“聖霊竜”様、って誰よ!? レイン様は何を企んでいるの!? この国で何をなそうとするの!?
答えてよ!!」
ヒルデがリズ? へ向けて詰問する。フラルからすれば畏れ多いことをなさっているのだが、知らなければ意味をなさない。なので慌てて止めに入ろうとするもリズ? が制止させる。
「いきなり見ず知らず人が出てこれば困惑するのもわかる。故に我が何者か語っておこう」
リズ? は改めて自己紹介する。
「我は……いや、私は“創世竜アルトルージュ”。この世界の万物を創造した神……」
「“創世竜”?」
「この世に八体しか存在しない“竜種”。自然界の法則そのもの……神の頂きに近しい存在……」
「神に近しい存在?」
エルダが言い返す。セイらも顔を見合わせる。特にセイとミウは神なる存在を見たことがある。
“全能神”を――
「ん?」
フラッと態勢を崩れかけるアルトルージュ。
「どうやら数分が限度ね。なら……先んじて、伝える」
アルトルージュはヒルデたちに告げる。
「この肉体の主……彼女を皇帝にさせよ!」
「皇帝……」
「リズを、この国の頂点に立て、と……」
エルダが問い返し、セイらは再び、顔を見合わせる。
「その通り。本来、私がこの世界に干渉するなんぞあってはならない。だが、かの者たちの計画を成就するためには私らの力が必要……」
「かの者たち?」
「それは一体……」
名を尋ねようとするもアルトルージュは首を横に振る。
「それは口にできない。世界の法則に干渉する。だけど、あなたたちの先祖は偉大なる功績を残して歴史に刻み込んだ。
刻まれた歴史は、血は、魂は……あなたたちにも流れている。その意志は今もなお続き紡ごうとする」
「私たちの中に……先祖様の血が……」
「あなたたちがすべきことは彼女を皇帝にさせるために尽力する。力を蓄える。それこそが今すべきこと……」
「今すべきこと……」
「それは勢力を拡大すること、でしょうか?」
ユナンがアルトルージュに問い返す。
「全てよ。全て――」
言いかけたところで、意識がリズに戻ってしまった。
「あれ……私……一体……」
先程まで誰かに意識を乗っ取られていた感覚があった。
「さっきまで誰かに……ねぇ、私になにか……あれ?」
「「「「…………」」」」
ヒルデたちが口を揃えて呆然としていた。
なんとも言えない空気が漂っていた。
呆然としていたが、フラルは空気をぶった切るように告げる。
「今更ながらで申し訳ございませんが、私は“聖霊機関” ・七大天使の一人……フラルと申します」
この空気をぶった切る胆力にヒルデたちは唖然としていた。
(この状況で自己紹介する胆力に感服する……)
(っていうか、“聖霊機関”!? 皇家直属の諜報機関。しかも、七大天使といえば――)
(“聖霊機関”の中でも最高位に位置付けされている世界最高峰の諜報員。
その存在も顔も知らないとされている)
(皇家出身のリズも知らないとなると皇帝陛下も知らなかった場合もある。謎多い諜報員……それが七大天使……)
(でも、ズィルバーだけは違った……つまり――)
(あの子は七大天使の正体を知っているということね)
ヒルデとエルダはズィルバーだけが七大天使の正体に気づいていた。
それは同時に、ライヒ大帝国に起こりうる未来を知っていることを意味する。
「五大公爵家の皆様、ライヒ皇家の皆様にお伝えします。この国は今、大きな転換点へ突入いたします」
「大きな……」
「……転換点?」
ユナンとミリスが聞き返す。
「はい……その転換点こそ、この国の……いえ、世界の未来を決める戦いとも言えます」
「世界の未来を決める戦い……」
「戦わないといけないのですか?」
スズとミウにはスケールの大きすぎる戦いに頭が追いつかない。そもそも、戦う以外の道がないのか気になって仕方がない。
しかして、フラルが告げる。
「はい。戦う以外の選択肢がありません。そもそも、世界は今、混沌に包まれようとしている。すべての原因は間違いなくライヒ大帝国……この国が世界の中心に位置している」
「ライヒ大帝国が……」
「世界の中心に……」
ヒルデとエルダが驚愕して呟き、セイらは顔を見合わせるのだった。
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