英雄は死後の皆の気持ちを知る。
レインから語られる英雄ヘルトの死後――。
「神代。あなたが過労で死んだのと同時に私は世界に顕界された」
「精霊は契約者が死ぬと接続が切れて、世界に顕界するからな」
俺が死後、レインは1人孤独だったんだな。
つらい思いさせてしまった。
「私はすぐにあなたの身体を揺さぶったよ。でも、あなたは一行に目が覚まさないし。温もりが徐々に冷たくなっていくんだもん。あの時は焦ったわ」
「今、思えば、リヒトとレイの忠告を聞いていればよかったと思うよ」
恥ずかしくて涙も出ないよ。
「そこに偶然、通りかかった兵士が死体になったあなたを発見して、国に運んでもらった」
そうか。俺の亡骸は兵士の手によって運ばれたのか。
「兵舎についたら、あなたの死が兵士たちの間に広がっていき、宮殿にまで広がった。リヒト様とレイ様は自らの足を運んで、あなたの亡骸を見て、死んだのを確認したら、大いに悲しんだことか」
リヒトとレイまで悲しませたのか。
「葬儀は国葬で国中の全員が参列したんだから」
俺の葬儀に帝国中の誰もが参列したのか。それは見てみたかったものだ。
まあ、死んでしまったら、見られるものじゃないけどな。
「貴方の葬儀の際、リヒト様はこう告げたの。「我が最愛の友よ。君のことは忘れぬ。君の墓は丁重に弔うよ」って……」
「リヒトが……」
「リヒトはその言葉の通りに貴方の墓を丁重に扱った。でも…」
「でも?」
「そこから度重なる悲劇が起きた。あなたが死んだことで周辺国は好機だと判断したのか。ライヒ帝国に戦争を仕掛けた」
「…戦争」
まあ、それもそうだな。
当時の俺は数多の戦地を駆け回った英雄。
武勲をたて、周辺国に敗戦の味を味わわせた英雄だ。
その俺が死ねば、周辺国が一斉に戦争を吹っ掛けてくるのは予想が付く。
「だけど、戦争そのものはあなたが残した策略のおかげで国の財政が困窮しかけた。もちろん、戦争で得た賠償金でなんとか賄ったよ。それに続く形でレイが病に倒れた」
「ッ!!?」
レイが病で倒れた!?
「あなたが死んだことがショックだったようで、心労を患って、身体がみるみる弱っていき、貴方を追うように息を引き取った」
レイが俺の後を追うように息を引き取った。
「それだけじゃない。あなたとレイ様が死んだことがショックでカルニウス様も後を追うように息を引き取った」
カルニウスも……。
「どうやら、俺は皆に迷惑をかけてばかりだったようだな。俺の身勝手な判断でレイが死んだ。レイが死んだことでカルニウスも死んだ。俺が身勝手なばかりに……皆に……」
俺は目元、目尻から涙が止めどなく、溢れてくる。
俺が不甲斐ないばかりに国を、レイを、カルニウスを苦しませた。
俺が不甲斐ないばかりに――。
俺は自分を卑下した。
そんな俺にレインが
「なに、勝手に卑下しているの?」
言ってくる。卑下する? するじゃないか。俺の所為で……
「俺の所為で、リヒトやレイン、皆に迷惑をかけてしまったんだぞ。卑下するなっていうのが無理な話だ」
「あのね。言っておくけど…確かに、あなたが死んだことで皆が悲しんだし。各国が帝国に侵攻しようとしたよ。でもね…」
「でも?」
「あの時、誰もがあなたに頼り続けていた。あなたが戦場に出れば、戦は負けることはなかった」
そうだ。俺が戦場に出れば、負けなしだった。いや、敗北、敗走、敗戦したことがなかった。
俺がいれば、負けることなんてなかった。俺がいれば、帝国を守り通せると思った。
だが、それが、身体を蝕んでいたんだろうな。
だから、あの道端で息を引き取るようなことになったんだ。
「頼り続けたからこそ、あなたは死んでしまった。あなたが死後、兵士たちは稽古に励んだ。全てはあなたのおかげでもあるの。だから、自分を卑下にしないで。それだと、死んでしまったレイに示しがつかないわよ」
レイに示しがつかないか…それもそうだな。俺の異能を知った上でも、彼女は俺に手を差し伸べてくれたよな。
レイのためにも俺も頑張ってみるか。
「悪かった、レイン。そして、ありがとう。俺……神代の皆のために頑張っていこうと思う」
「それでこそよ」
俺は決意を改めて、もう一度、自分を強くなることを決めた。
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