五神帝×五大公爵公子×五人の皇女_17
魔剣の空気を醸し出している双剣。それも当然だ。
第三始祖を媒体した魔剣なので禍々しいのもおかしくない。それよりも気になるのは禍々しすぎることだ。ズィルバーもまさかここまでの禍々しさとは予想もしなかった。
(やれやれ、吸血鬼族を精霊へ転じさせたのはよかったけど……これはこれで失敗したかもな)
禍々しく放ち続ける内在魔力を前にしても怖いと感じた時点で怖いものだ。
ズィルバーも失敗したなと感じている。どうしたものだろうかと頭を捻らせる。
(この剣を誰にやろうか。“八王”に……いや、アイツラにやった瞬間、発狂しかねない。となると、“虹の乙女”も無理だな。彼女たちでは、この剣の魔力に異常をきたす恐れがある。それぐらいなら“四剣将”に……いや、シューテルもナルスリーもすでに精霊と本契約を結んでいる。ニナとジノも時期尚早だろう)
「…………うーん」
二人を救う目的が悪い方向へ進んでしまった。
(仕方ない。しばらくは放置だな)
安置する方針を取った。
(自分が巻いた種だがいずれ、自分で刈り取るしかないようだ)
『自業自得でしょ?』
レインに正論を言われて何も言い返せない自分がいるのがもどかしい。
(仕方ない。将来的に皇族親衛隊に押し付けるか)
『それじゃ人が悪くない? そもそも、第三始祖を精霊にさせるだけでも危険な行いなのによくそんなバカなことをするよね』
(悪かったな。でもあの頃は実験をしたかったこともある。吸血鬼族を精霊にさせればどうなるのかを――)
『結果はどうなったの?
あれのせいでどんな被害が出たのか忘れたとは言わせないよね?』
(忘れるものか。あの精霊が産み落としてしまったせいで厄介な特性が生まれたのを忘れていない。あの双子の精霊を生み出した責任は取るつもりでいる。そもそも、あの鬼子共が誰に契約したのかが気がかりだ)
『シューテルくんの可能性は?』
(シューテルは複数の精霊を同時に契約している。アイツラも二人で一人の精霊だ。複数契約の趣旨とは違う)
ズィルバーはウロボロスの使徒の猛攻を躱しながらレインと思念で話し合っている。
それはそれで超高等テクニックなのだが、戦闘中に“精霊文字”を詠唱するのだから。規格外も良いところである。
それはようやくたどり着いたカズたちもズィルバーの戦いを見て絶句している。どうやれば戦闘中に他言語を言祝ぐことができるのだろうか疑いの目を向けたくなる。
否、規格外は失礼に値する。もはや、キチガイというのが正論かもしれん。
そんなことよりも別の問題が発生しかける。
ドックン!
「「「「「――!?」」」」」
『『『『『――!?』』』』』
主と精霊が同じタイミングで強大すぎる力を感じ取った。
「何だ!? この“闘気”……」
「人の魔力じゃない……なんだ、この人の鋳型をした魔力は……」
「これは竜種に似た魔力……でも、竜種ってのはもういないんじゃあ……」
「場所は下……っていうか、キララさんとノイさんの気配がする」
「この気配……まさか!?」
カズ、ユン、ユーヤ、ユージの4人は不思議に思う中、ズィルバーだけは違った。感じたこともある“闘気”に彼は一つの答えに至る。
「まさか、もう覚醒したのか!?」
「ん? 覚醒?
ズィルバー。何か知っているのか?」
「まずいな。レイン!」
『わかっているわ。レン! フラン! ヴァン! ネル! 気づいているの?』
『皆まで言うな』
『わかっている。これは紛れもなく“創世竜アルトルージュ”様の気配……でもこれは違う。彼女の力が覚醒したのなら間違いなく危険』
『暴走する危険性が高いな』
『いや、これははっきり言って暴走していると同じよ』
“五神帝”が思念を通して話し合っている。その話を聞いているズィルバーたちからすれば勘弁してほしい。だがズィルバーの言う通り、非常にまずい状況に陥ったのは確かだ。
「とりあえず、当初の目的は達成したんだろ?」
ズィルバーはユージに確認を取らせる。
「僕らはこの島に来た吸血鬼族を追い払うこと……ズィルバーが吸血鬼族を剣にさせた時点で危険は回避したと同じだ」
「だが、別の問題が発生した今、ここを脱出するのがベストなんだが――」
言い難そうにしているユーヤ。それはカズもユンも同じである。
「わかっている、ティアたちだろ? ひとまず、彼女たちの下へ急ぐぞ」
ズィルバーは目の前のことよりもティアたちの方を優先しようとする。
「急ぐ? 急ぐも何もあの怪物を何とか……ってあれ?」
「あの化け物は?」
忽然と姿を消したウロボロスの使徒。薄暗い広間に溶け込んでズィルバーたちを足止めするつもりなのかと警戒を強めるカズたち。しかしズィルバーは警戒を強めるどころか無警戒だった。これでは狙われかねない。
そもそも、“静の闘気”を扱える彼らが空間と同化している敵の気配に気づかないはずがない。なのに、五人が“静の闘気”で敵の気配を感じ取れていない。とすれば見えてくる答えは一つ。
「どうやら奴は先程の“闘気”の下へ向かったみたいだ」
「向かったみたい、って言うけど、このままじゃ――」
「心配するな」
ズィルバーが窘める。どうやら彼はさほど問題ないようだ。
「ウロボロスの使徒なんぞ“竜皇女”の力を覚醒した野郎の前では無意味だよ」
「野郎? これ……誰の“闘気”なのかわかったのか?」
ユージは強大すぎる力の持ち主が誰なのかズィルバーはわかっていた。
「ん? そんなの決まっているだろ? ユウトだろ?
あいつがドラグル島出身なのも説明がつく」
「ユウト……あぁ、皇族親衛隊の期待の星か。彼がドラグル島出身なのが意味あるの?」
「大アリだ。あの島は“竜人族”の聖域のようなものだが、実際はあの島は“竜皇女”が転生されるための舞台装置だったのだろう」
「舞台装置?」
「そうだ。ドラグル島もとい“ギーガス山脈”は“竜皇女”ドラグル・ナヴァールを眠らせた王墓だったのだろう。仮にも竜種の子どもだ。竜人族の間でも丁重に弔われた。
しかし、“竜種”は不滅だ。その特性が良くも悪くも彼女が生き返るのは必然だった。でも半分が人間の血だったのもあり、復活するのにそれ相応の時間を要する」
「つまり?」
「つまり、転生による復活しかなかった、ということだ」
「転生、って……」
「そう簡単に生き返るとか口にするなよ。この世は終わりがあってこその人生だろ?」
言い返すカズにズィルバーは頷く。
「確かに終わりがあるからこそ、人生というのは儚くも美しい。でも、寿命がない生命体。“不滅”の生命体がいるのも事実だ」
「それが“竜種”であり、“原初の悪魔”だって言うのか?」
「そうだ。悪魔族、天使族、精霊、竜種は基本、寿命の概念がない。いや正確に言えば、不老という概念がない」
「不老……年老いていかない、ということか?」
「そうだ。人間ってのは老いる。寿命という縛りがある。だけど、四つ種族だけは寿命の概念がない。だからこそ不老不死と言われている」
ズィルバーたちはウロボロスの使徒を追いかけるように大迷宮の最深部へ向かっていく。
各々の移動手段で――
最深部へと向かう。向かっている最中、ズィルバーがみんなに特異性を語る。
「“竜種”ってのはこの世に八体存在する。そのうちの五体はすでに俺たちの魂と融合している。それはすでにカズたちもわかっていることだろ?」
「「「「…………」」」」
彼に言われて図星になるカズたち四人。
「言っておくがティアたちも“竜種”と魂融合をしている」
「ハルナたちも?」
(何しろティアたちは彼女の魂を分割されて転生している。そうなれば必然と“竜種”の力も分割されている。“彩虹竜アルトゥール”の権能が分散されているかもしれんが、それでも“竜種”ってのは意識を分割する権能も実在する。特に“彩虹竜アルトゥール”はいろんな意味でも規格外……彼女の強さもそれにあったと今でも否めない)
「彼女たちもだ。あと、皇族親衛隊のシノアもおそらく“彩虹竜アルトゥール”の権能を有している」
「だけど、竜種ってのは八体しかいないんだろ? あの使徒はどうなる?」
ユーヤの質問にズィルバーは答える。
「いいや。ウロボロスも例外的に竜種に括られている。だけど、竜種という側面を持っているだけで、その力はそこまで高くない」
「高くないと言われても、それはあくまでズィルバーの見解で――」
「でも実際にウロボロス……いや“滅界竜ウロボロス”はそこまで強くない。特異性は異常なまでの不滅性だ」
「不滅性?」
「吸血鬼族……魔族の中でも異常なまでの再生力を持つ異種族。
吸血鬼族はウロボロスの因子を色濃く反映されている。むろん、吸血鬼族全体でそれを知っている輩は数少ない」
「数少ない、と言われても……」
ズィルバーの話を聞いてもとてもじゃないが信じられずにいるカズたち。
「それに甘く言いたくないけど、魔族全体でウロボロスの因子を持っている」
「――! 魔族ってことはユキネもタークも暴走する可能性があるのか?」
「いや、暴走する可能性が高まるのは因子が多ければ多いほど暴走する可能性が上がる。しかも、魔族の大半はとっくの昔に血が薄まっている上に確固たる一族に変質しているから。暴走する可能性があるのかと言われるとないに等しい」
「ない、って……でも、それって――」
「ユンの言う通り、暴走する可能性が低いというだけで暴走しないとは言えない」
「じゃあ……」
「大丈夫だ。ウロボロス本体が異界に封印されている今、奴の影響はこちら側に及ばない。せいぜい、先の使徒を生み出すのが精一杯」
ズィルバーは気にすることでもないと言う。
「――!」
「「「「――!?」」」」
「どうやら、最深部へ到着する。気を抜くなよ」
「わかっている」
「いつでもいけるぜ」
意気込むカズとユン。ユージとユーヤは違う。
「僕らは後方に回る。あいにくと連戦するだけの体力がな……」
ユージは連戦するだけの力がないと言っているがズィルバーは見抜いている。
「ユージ。疾うの昔に体力は回復しているはずだ。言っておくがバレバレだぞ」
「あれ? わかる?」
「“神命”で体力が回復しているはずだ。嘘を付くな。“静の闘気”は極めれば相手の“闘気”を介して心境が読み取れる」
「あれ? バレた?」
「バレバレだ。ヴァンの加護は“神命”。体力・気力・“闘気”を回復させる。いや、活力を与えてくれる権能。その効果範囲は主が指定した対象のみ。この場合はキミの部下が対象だ」
「アハハハ。さすがにズィルバーにはお見通しか」
「当たり前だ。“五神帝”が本気を出せば俺らの活力なんざ一瞬で回復できる」
「本気……」
「え? レンはまだ本気を出していないのか!?」
驚きを隠せないカズ。ユンも両手首にはめた手甲を見る。
「ネルは今まで俺を信じていな――」
「そうじゃない。彼女たちが本気を出せば使い手への負担が計り知れないからだ」
「負担……って、どれくらい?」
「ざっと見積もっても身体が爆散する」
「「「「ヒィ!?」」」」
怖じけるカズたち。でも、ズィルバーは心配していない。
「心配するな。レインたちは主の俺たちにそのような無謀なことをしない。そもそも、精霊剣は今の状態でも強力すぎる剣だからな」
「おーい、ズィルバー。その言い方だとまだ上があるように聞こえるが……」
「ってか、今更ながら左手に持っている剣は何? 見たことない剣だが……」
「左手……あぁ、“煌星の剣”のことか」
彼は左手に握る聖剣――“煌星の剣”に目をやる。
(このまま剣を維持するだけでも“闘気”を使う。移動している間だけは消しておくか)
彼は剣を手放すと、剣は虚空に消えた。右手に握られていた“聖剣”も手放すと同時にレインが姿を見せる。
「レイン。治癒を頼む」
「全く、むちゃしすぎよ。“神器”は維持するだけでも身体に負担がのしかかるのよ」
彼女の指摘にズィルバーは目をそらす。
「ズィルバー? どうしてこっちに見ないの?」
「さあね」
「なんで無視するの? こっちを見なさい!」
きついお小言をしてくるレインにハァとズィルバーはため息をこぼした。
「なんで息を吐いたの?」
詰め寄るレインに、彼女たちが窘める。
「レイン。今、それを言う暇がある?」
「だいたい、今は“神器”を話している暇がある?」
「今はシノちゃんたちを助けることを優先しないと……」
「というかそれを話している暇がある?」
四面楚歌を受けているレイン。やれやれとなるズィルバー。
「そこまでにしてくれ。って、そろそろ着くぞ。ひとまず、陣形は俺とユンが前衛、カズとユーヤが遊撃、ユージが後衛に回ってほしい」
「了解した」
「えぇ~、俺が遊撃? 俺じゃあ相手を掻き乱せるかどうか……」
「遊撃ってのは攻撃と防御を同時に扱えなければならない。カズ。
キミの属性は水より高位属性の“氷”だ。氷属性の場合だと攻防が自在に扱える。遊撃に向いている」
「えぇ~」
「カズ。ズィルバーの指示に従ったほうがいい。私の場合はヴァンと連携を取るべきだ」
「連携? 合体技か?」
嫌そうな顔をするカズ。
「ユーヤ。キミは火属性攻撃を中心にやれ。
フランの加護――“浄化”で疲労を軽減したとしても“神楽剣術”で身体を酷使している。身体の回復に専念しろ」
「うへぇ~、そこまでわかるのか。ズィルバーに秘密を隠せないなぁ~」
ショックするユーヤ。
「いいや、あいつが異常なだけだ」
「フラン。ズィルバーにひどいことを言わないで!」
プンプンとふくれるレイン。
「それは失礼した」
謝罪するフラン。
「ユージは後衛から風の刃で援護しろ。カズとの連携を取って合体技を繰り出せ」
「僕に合体技? 嫌だよ。僕は独奏だよ。ってか、みんなそうでしょ?」
ユージの言う通り、ズィルバーたちは単独行動を得意とする戦士。
良くも悪くも連携攻撃が得意としない。
「俺だってそれぐらいわかっている。わかっているからこそ指示を出せないといけないだろ? レン、フラン、ネル、ヴァン。文句を言うなよ」
ズィルバーは名指しで文句を言わせないように促す。
彼女たちもわかったと言わんばかりに従わざるを得なかった。コクリと頷いてくれた。
「仕方ない――!」
「「「「――!」」」」
「――! おい、ズィルバー……」
「わかっている」
(どうやら最悪な方向へ進んでいるな。あれ? そういえば、皇族親衛隊はどうなっているんだ?)
「おい、ユージ。他の皇族親衛隊は?」
「あっ、そういえば、忘れていたよ。シャルルたちのことで頭いっぱいだったから」
「すぐに状況を調べてくれ」
「ちょっと待って。ヴァン!」
「任せろ」
ヴァンはユージに言われて風を行使して他の状況を調べる。
二人が他の戦況を調べると、判明したことがある。
「まずい。そろそろ四人の限界が近い!?」
「このままだと全滅が近――え?」
「どうして……?」
ユージとヴァンは意外な顔を浮かべている。いや、意外というよりあり得ない表情を浮かべている。
「嘘、だろ……」
「なぜ、そこに――」
驚きを隠せない二人。訝しむズィルバーたちだが、すぐに“静の闘気”で気配を探れば彼らも驚愕の表情を浮かべる。
「はっ?」
「嘘でしょ?」
すべからく動揺している。遅れてカズたちも気づく。
「まさか……」
「どうして……」
「なんでシノたちが親衛隊のところにいるんだよ!?」
「っていうか、この気配はノイさんの気配もある。でも、どうして!?」
動揺を隠しきれないズィルバーたち。
同時にズィルバーは予想外の力を感じ取る。
「――! レイン。これは――!?」
「間違いない。これは……“彩虹竜アルトゥール”様の気配……」
「「「「――!?」」」」
「「「「……?」」」」
主と精霊がそれぞれ別々の反応をする。
「嘘? アルトゥール様?」
「でも、あの方の気配が複数に感じるけど……」
「どういうことよ」
「私に聞かないで……」
オロオロするレインたち。しかしズィルバーだけは冷静に状況を俯瞰的に見る。
(ティアたちが親衛隊のところへいるのもそうだが、アルトゥールの気配が複数もあるのは気がかりだ。
そもそも、かの竜は彼女の魂と融合した。なら、なぜ……――!)
ここで彼は一つの可能性に至る。
(まさか、“無垢なる色彩”ってのは――!?)
「ズィルバー?」
レインが声をかけているけど彼はうんともすんともしない。
(仮にそうだったとしても、あの竜は何を企んでいる。竜種の中で異質だったのがアルトゥールだって……アルクェイドが言っているぐらいだ)
「ったく、竜種ってのはどいつもこいつも規格外で甚だしい」
「ズィルバー?」
訝しむレイン。彼が急に苛立つとは思わなかった。
「とりあえず、俺たちは最深部に回る。ティアたちのところへ行きたいが、入れ違いになる可能性もある」
「……だな」
「悔しいが、そっちへ行けないのがもどかしい」
ズィルバーの方針に頷くカズたち。本当ならティアたちを助けに向かいたいのだが、いけないもどかしさを感じている。
「急ぐぞ」
「あぁ!」
最深部へ急ぐズィルバーたち。
逆にシャルルたちやマリリンとリリィらはどういう感覚をしているのか気になって仕方なかった。
そういった感じでズィルバーらは地下迷宮最深部へ到着するのだった。
一方、その頃、メリナ、シーホ、ミバル、ヨーイチらはクレティアン・T・ウェールズと試練を繰り広げていた。彼が奏でる音の刃に困惑していたところへ、七色の光となって姿を現した。
ティア、シノ、ハルナ、ユリス、アヤ、シノアの六人。
なぜ、彼女たちがここにやってきたのもそうだが、彼女たちが放つ異様な“闘気”に、クレティアンは警戒するのだった。
感想と評価のほどをお願いします。
ブックマークとユーザー登録もお願いします。
誤字脱字の指摘もお願いします。




