五神帝×五大公爵公子×五人の皇女_12
「なるほど。そういうことか」
ようやくユンは答えに至る。そう“闘気”の使い方を――
(ズィルバーの話だと“闘気”を掌握すれば効率が良くなる。でも、今の俺は“解放”の段階。闘気を練り上げることだけで精一杯でも、練り上げ続けるのなら――)
ユンは一つの回答に至る。
(練り上げる量を制限すればいいだけの話だ)
という答えに至った。むろん、制限にも許容範囲があるのでしっかり微調整すれば敵を一撃で鎮めることができる。
「なら、こうするか」
プラプラとユンは拳を作るも力まずに練り上げた“闘気”だけを拳に流し込む。そして迫りくる魔獣に拳を添えるだけという超高等テクニックを披露する。
拳を添えただけで魔獣の精神を崩壊させて絶命に追いやった。
「おぉ~」
驚きと同時に感心するユン。彼とは裏腹に回復に専念しているマリリンとリリィは驚きのあまりに呆然としている。
「嘘、でしょ……」
「パーフィス公爵家の次期当主はここまで強さを秘めて……」
(いえ、それよりもなんて“闘気”の扱い方……普通、触れただけで“闘気”を流し込み内側から崩壊させる……)
(こんな技が……世にあっていいの!?)
そう。ユンがしたのは体組織崩壊と精神崩壊だ。通常、精神を崩壊させる技はない。それができるのは異種族たる天使族と悪魔族のみである。むろん、精神を崩壊させる技を竜種や精霊が有している。ただ使わないだけの話である。
しかし、人間が精神崩壊させる技を持ちやしない。そもそも、精神や感情を読み取れるには卓越した“静の闘気”を有していなければならない。
ユンは“動の闘気”を、“静の闘気”を解放させている。解放した“闘気”は激しく荒々しい。しかし、荒々しい“闘気”を制御してこそ“掌握”という到達する。
だがしかし、今は違う。ユンは拳に添えただけで魔獣の精神を崩壊させて絶命させたことのほうが驚きだろう。
触れただけで精神が崩壊するなら近接での攻撃が不可能を意味する。ましてやユンが得意とする属性は雷。
振り返る形になるが、雷属性は攻撃に特化した属性。肉体活性を行い限界以上の力を発揮することができる。
戦闘において無敵とも言える属性だ。
しかも精神破壊をする技まで繰り出されては近づこうにも近づけられなくなる。しかし少しでも動いた瞬間、ユンに拳を添えられて精神崩壊に期した。
バチバチとユンの身体に電気が帯びている。
「“神威”――“疾風迅雷”」
相手が動けば反射的に身体が反応してカウンターを転じる技。
これに精神破壊の技をすればわずかに動くだけでも絶命に追いやることができる。まさに危険極まりない技なのだ。
魔獣は本能で動いていけないと全身を支配するも理性がそれを邪魔する。指を一本動かしただけで拳を添えられて精神が崩壊し絶命する。そうなれば連鎖的に魔獣が動いてしまい、ユンの餌食となってしまった。
ラムセスはユーヤと切合に乗じる中、目の端でユンが魔獣を絶命させていくシーンを捉える。
(まずい。あの小僧。魔獣の精神を破壊しておる。魔獣は悪魔が憑依した人間ばかり……よって精神への耐性が著しく低下しておる。あの小僧は無意識に精神崩壊するだけの“闘気”を練り上げて放出しておる。厄介なこと――)
「よそ見は良くないぜ」
「――!」
ユーヤの手に握っている聖剣に宿る炎の色がレモン色から白い炎へ変じていた。
「“呼吸術”・“日”・“幻夜一閃”!!」
白い炎を帯びた刃がラムセスの胴へ伸びる。本来なら頸を獲りたいが背丈の関係上、刃が届かないので必然的に胴へ刃が走るのだった。
完全によそ見していたラムセスは驚きこそすれど歴戦の勇士の前には無意味。影縫にて見事に防いでみせた。しかし超高熱であるためかもしくは“動の闘気”をまとわせていたからか切れ味が倍増し、影縫に亀裂が入るどころか切れ込みが入る。
「チッ……」
苦々しい表情を浮かべるユーヤ。
(これでも届かないか……)
「ハハッ。この程度で余を殺せると思うな」
「そのようだ。だが……このままで終わらないのが――英雄だ!!」
「――!?」
スゥッと息を吸うユーヤ。ラムセスは目の前で“呼吸術”を使用すると思い蹴りを入れようとした。だが、現実は違った。
「“魔剣術”――」
「――!」
(まさか――)
ラムセスは仇敵の残影が映る。
「――“炎神斬波”!!」
白熱する炎が斬撃となる。ユーヤは聖剣を振り抜いたのと同時に炎の斬撃を放った。
炎の斬撃はラムセスを見事に両断してみせた。
「よし! なんとか――」
「なんとか、とは?」
「――!」
ユーヤは今、全身に悪寒が走り、すぐさま切り裂かれたラムセスから距離を取る。
それでも聖剣を両手に持って構える。
「ほぅ……距離をとっても態勢を崩さぬか。良い心がけよ」
「どういうこと? 今、胴体をぶった切ったはずだが?」
ユーヤは不思議でしょうがない。身体を両断されて無事な人間なんてそうそういない。いた時点で人間じゃない気がする。
(でも身体が流体になる異種族は存在する。でもそれは魔族の一つ、溶魔族の特性でしかない。人間が胴体を真っ二つにされて生きているはずがない!)
不可能だ、ありえないと結論づけるユーヤ。魔獣を倒し続けるユンもありえない現象を目の当たりにしている。
しかし現実は残酷だ。
ユンとユーヤの前に姿を現すのは五体満足のラムセスだ。
「どういうこと?」
動揺を隠しきれないユーヤ。ユンも顔色一つも変えていないが動揺しているのは確かであった。
二人の解せない面持ちを前にラムセスは語る。
「解せぬか。それもそうだな。余は今、貴様の手によって両断された。その事実は変わりない。だが残念だ。貴様らはすでに余のテリトリーにいるのだからな!」
「え?」
(今なんて言った?)
「余のテリトリー……」
(まさか!?)
すると、砂漠や砂塵が消え去っていき、巨大建造物の内部にいた。荘厳なる空間。黄金に支配された空間。
そして高い玉座に座るラムセス。
そう最初から掌の上で踊っていただけにすぎないのだとユンとユーヤは思い知らされた。
「ここは余のテリトリー……“神霊回帰神殿”。この領域にいる間、余は死ぬことがない!」
「――!」
(それはつまり、不死身ってことか!?)
(厄介だな。それに――)
ユンは周囲を見渡す。魔獣の姿が忽然と消えたのだ。
つまり、ここから先は魔獣なんぞ必要ないということだ。
「フッ」
不敵な笑みを浮かべラムセスは玉座から立ち上がり、階段を下りていく。
「貴様らの強さは理解した。だが、我ら大英雄の前では無意味だと知れ!!」
コッコッコッと階段を下りていく。
階段を下りていくラムセスはユンとユーヤなんぞ相手にならないと言い切る。たしかにそれは正論である。
そもそも、二人共ラムセスに勝てると到底思っていない。奇跡でも起きないかぎりありえないことだからだ。
「別に最初から勝てると思っていねぇよ」
「ほぅ。勝てぬとわかっていて挑みかかっておったのか。ではなぜ戦う?」
「そんなの決まっている。俺の部下が危険に晒されてそう簡単に見捨てられるか!」
決まり文句を言い放つユーヤにマリリンとリリィは感銘を受けて感涙する。
「なるほど。部下のために命を燃やすか。全くもって輝いておる。美しいものだ。目を開けられぬほどにな」
同じ地平線に立つラムセス。彼はユンとユーヤにこう問いかける。
「ならば、その果に何を望む?」
その問いにユンとユーヤは答える。
「果? そんなのは求めていない!」
「なんだと?」
「そもそも、果というのはなんだ? 武に果があるのか? 道に果があるのか? 答えてみろ! 歴史に名を残した大英雄よ。キミは何をもって果というのだ!」
ユーヤの問い返しにラムセスはこう言い返した。
「余にとっての果は世界を制することである。世界を統一し、天上の全ては余に平伏するためにある!」
まさかの支配欲、権力欲にまみれた我欲じみた道の果である。
彼の答えを聞き、ユンとユーヤはポカーンと唖然する。どこまで行っても権力者であり――
「天上におわせる創造神の頂きへ到達するために――」
力をもって世界を掴み取る武人でもあった。
「「――?」」
(創造神?)
(そんなの……聞いたことない)
ユンとユーヤは“創造神”の存在そのものを知り得なかった。でもフランとネルは知っていた。
『“創世竜アルトルージュ”様よ』
(え? ネル、知っているのか?)
『アルトルージュ様は竜種でもあり、この世界を生み出した創造神よ』
(この世界を生み出した創造神?)
(フラン。どういうことだ?)
『この世界は“創世竜アルトルージュ”様によって創造された。アルトルージュ様によって今の世界があると言ってもいい。アルトルージュ様は“全知全能”なる神。私たち“五神帝”を生み出した母なる神なの』
(母なる神……アルフィーリングにとって自慢のお姉さんだったんだろうな)
ユーヤは自分の魂と融合した“灼熱竜”の気持ちを理解する。
(彼女もお姉さんが好きだったんだろうな)
なんてことを胸中で吐露するが、フランは違った見解を示す。
『アルフィーリング様はルフス一筋。だから、彼と同じ魂を持つあなたにベッタリよ』
(…………)
聞きたくもない。知りたくもない恋愛事情を知り、無表情もしくは能面顔になってしまった。
(……知りたくなかった)
『――でしょうね。それで創造神の頂きはまさしく全知全能そのもの。人間ごときが到達していい領域じゃない。許されているのは神に認められた人間のみ』
(ふーん。つまり……)
「つまり、キミは生涯“負け犬”というわけか」
「――! なんだと?」
ラムセスがユーヤの言葉に反応する。負け犬という言葉に強く反応する。
「だって負け犬じゃん。初代様に地に伏せた敗北者。それ以外に何がある?」
「おいおい、ユーヤ。言いすぎだろ?」
「言い過ぎ? こんなの事実以外の何物でもない。頂点に到達する。到達していないじゃないか。キミは最初から敗北者でしかない!」
過去の栄光も伝説も全ては歴史学者、考古学者が読み解いた事実にすぎず勝者も敗者もへったくれもない。だが、こと戦いこと戦場において勝者と敗者は明確に分けられる。
「キミは生涯“敗北者”の烙印を押されたまま新たな未来の踏み台となる人生にすぎない!」
子どものユーヤがデカいことを口にした時点で、力を得て粋がっている野郎にすぎないと思われる。残念なことにユーヤは粋がるところか事実を述べているだけにすぎない。彼は聖剣を片手にラムセスに突きつける。
「不死身? 無敵? そんなのがなんだというのだ。この世に完璧なものなど存在しない! 必ず歪というのが生まれ、綻びが出るものだ!」
ユーヤの言葉にユンは「あっ……」となる。ようやく自分が無駄に意識していただけだと錯覚する。
「そっか。不死身とか無敵とかほざいていても特殊な条件下でしかその力が発揮されないということか」
ユンは意味的に理解する。逆にユーヤは意味的ではなく無意識かつ本能的に完璧なんぞ存在しないと豪語する。
「覚えておけ。この世界は完璧すぎるほど面白くともなんともない!」
ユーヤがそう言い切るのと床を蹴ってラムセスに接近する。接近する際、息を吸い込み、口端から真紅の炎が出る。
「“呼吸術”・“日”・“火炎車”!!」
聖剣を両手で握り、円を描くように振り下ろす。ユーヤはラムセスへ駆けるとき、身を翻し回転しながら剣を振り下ろしてきた。
彼が振るう技にラムセスは覚えている。
(この技は――“火炎車”!)
「真似事を!」
ラムセスは影縫で刃を受けるもただ剣を振り下ろした勢いだけではない。回転したことで得られる遠心力までも刃の重みに加算された。
「――! ええい、忌々しい!」
影縫に込められる“闘気”もそうだが、単純にラムセスも“動の闘気”を掌握させ爆発的に力を解き放つ。
「むん!」
「ちょっ!?」
(ここに来て、力が――!)
「ユン!」
「“神威”・“電光石火”――」
ユンは一瞬にラムセスの背後を回り、その身体を拘束する。
「――“大放電”」
全身に帯びる電気を放出し、ラムセスを感電させる。
「――! チッ――小癪な!」
彼はすぐさまユーヤを弾き飛ばし、左肘でユンの土手っ腹に肘鉄をかまそうとする。
「ユン!」
「心配するな! 格上との戦いはとっくに心得ている」
肘鉄を食らってもユンはわずかに表情を歪めるだけで拘束を解かなかった。
「――! 貴様、余の肘鉄を……」
「痛かったけど、攻撃される箇所がわかってしまえば……対処しやすい」
口ではそう言っているけど実際はそう簡単な話ではない。“静の闘気”で気配を先読みして“動の闘気”でより大きくまとわせないとダメージを軽減することもできない。まさしく綱渡りの防御方法である。
「それに背丈や体格の関係上、肘鉄が直撃する確率が低くなる……」
「くっ……体格の問題がここに来て余にアドバンテージを出るとは……なんという屈辱……」
ラムセスは影縫をクルッと持ち替えて反対の手でユンの両手を掴んで拘束させた。
「貴様はこれで余から逃げられん! この両腕を潰してやろう!」
迫りくる刃にユンは臆することもなければ怖がっている素振りもない。逆に笑っていた。
「逃げられない。そいつは嬉しい。俺も躱そうと思っていない!」
「余と共に道連れか! だが甘い。余は不死身、余は無敵なれば道連れできると思うな!」
荒げるラムセスにユンはニィっと口角を釣り上げる。
「道連れ? 誰がそんな事を考える? 俺は最初から逃げる気なんて毛頭ない」
端からユンは道連れ目的でラムセスに抱きついたのではない。ゼロ距離攻撃を確実のものにするために抱きついたのだ。
「感謝しているよ。俺に意識を向けてくれて……」
「何!?」
「優れた達人といえど、数秒は動けまい――“超放電”!!」
「――!」
ユンの体内に溜め込まれていた電気を放出し、ラムセスを感電させる。
“超放電”は“大放電”の十数倍の電気が込められている。
しかも、ネルの加護――“神威”に加え、アルフォードの権能――“運動”が加わった連鎖反応に爆発的な威力を発揮する。
さらに言えば、魔獣相手では無駄に“闘気”を使わなかったのでユンの体内で蓄え練り込み続けた“闘気”がこのタイミングで解き放った。
とは言っても――
(いきなり全出力を放出するのは無理だけどな……)
と、残念なことに初っ端から“闘気”を全力放出することはできない。むしろ、全力で放出したら反動で確実に戦闘不能。継戦能力がなくなってしまう。ならば――
(ならば、継続ダメージに切り替える。高出力で放出し続けるのはさすがの俺でも無理だ。なら、出力を抑えて帯電させたまま戦わせるのがいい)
でもユンは気がかりがある。
それは――
(問題は“神霊回帰神殿”っていう領域内で継続ダメージを与え続けるのは効果的なのか、だ)
ユンはあくまで長期戦を見据えての戦闘であり、もし――
(もし、“神霊回帰神殿”が継続ダメージすら無力化するとしたら間違いなく俺らは満身創痍になるのは間違いなし!!)
故に、ユンは拘束を解かずにひたすらに電撃を与え続ける。
生き物は電気を浴びると身体が弛緩して身動きが取れなくなる。しかし、それはあくまで数秒。数秒間、身動きが取れなくなるのは武人にとって死活問題であり、敵に大きな隙を与える。
それが――
「数秒は身動きが取れまい!」
「貴様――」
「ユーヤ!」
声を荒げ、友を呼ぶユン。彼に応じるまでもなくユーヤは床を蹴り、白き炎をまとって斬りかかる。
「“呼吸術”・“日”・“幻夜一閃”!!」
彼が振るう刃はラムセスの頸を獲りにかかる。彼の首へ迫る炎の刃。その刃をラムセスは影縫で受け止めたいけど、ユンが放出させている“超放電”の影響で身体が思うように動かせない。
故に――
「ユーヤ! 構わずにやれ!!」
「わかった!」
彼が振るわれた炎の刃はラムセスの首にめり込む。しかしこのままではユンの腕も焼かれてしまうことだろう。いやむしろ腕を切り落とされてもおかしくない。だけど、現代最速と言えるユン。
聖剣の刃が迫るのを見て瞬時にラムセスから距離を取った。
「なぬ!?」
(余から離れた!? いやそれ以前に速――ぐぅ……まだ、身体がしびれ……痺れ? 待て、なぜ余はまだ痺れておる!?)
そう。ラムセスはまだ痺れている。ユンはすでに離れているのに――。
では、なぜなのか。その答えが至る前に首の肉にめり込み、声を荒げて剣を振り抜いたユーヤ。
振り抜いた剣の勢いのまま宙に舞い上がるラムセスの頸。
トントンと床に転がっていくラムセスの頸。
ドサッと頸がない胴体が床に倒れ伏す。
ハアハアと息を切らすユーヤ。表情を変えないユン。そして、ポカーンと呆然するマリリンとリリィの二人であった。
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