五神帝×五大公爵公子×五人の皇女_10
自分が離れたことに悔いるユージ。でも、バチンと頭を叩いた。
「痛っ!? 何をする、カズ!?」
「部下の心配している暇なんざねぇよ。っていうか、過保護すぎねぇか? 部下を信じろよ。この程度の毒に負ける軟弱者だったのか?」
「――!?」
カズの言い方にユージの付箋が触れたのか激高する。
「違う! シャルルたちは弱くない!」
「なら、彼女たちが生き延びることを信じろ。それによ……俺はレンとハルナとここに来ているのを気づいているだろ? 北方には信頼できる部下が守ってくれる。ユージ。お前も自分の居城を信頼できる部下に任せているなら信じてやれよ」
「カズ」
「やわな精神で世の中生きていけないのぐらい……お前が一番理解しているだろ?」
カズの口調が貴族らしい口調でなくなってきている。まるで友人と親しげに話す口調になっている。
「カズ。貴族らしくないよ。ゲルトさんに怒られるよ」
「うるせぇ。俺のことなんざどうでもいいだろ? ここは戦場だぜ。今更どうこう言ったって変わらねぇよ。ズィルバーだってなにげに公私混同を弁えていると思うが?」
「ズィルバーは変わり者だよ。生まれつきの異能のせいで口調があやふやだったじゃん。まあ、でも良くも悪くもあれがズィルバーの長所だと思うよ」
「違いない」
トリストラムを前にして余裕に談笑しているカズとユージ。
「余裕だな。近い距離とはいえ談笑ができるとは……」
「できるさ。だって――」
「だってもう……斬られているよね?」
二人が口に出した瞬間、ブシャーっと血が吹き出る。しかも、血が吹き出たのが右腕からであった。さらに言えば、小手や鎧の隙間から吹き出ていた。
「腕ごとを斬り落とすつもりだったのに、どうやらその鎧が頑丈みたいだね」
バシャッと距離を取って湖面に降り立つトリストラム。すぐさま小手や鎧を投げ捨てた。
「へぇ~」
「鎧があるのなら捨てればいいだけの話だ。そもそも、神の加護を持つ者同士の戦いに脆弱な鎧など無意味!」
「なるほど。全てにおいて己の身体もしくは技量が物を言うというわけか。経験が物を言うわけね」
「僕も身にしみたよ。僕らはまだまだ若いから勢いで突っ走っちゃうけど……勢いだけでは勝てないというわけね」
「そのとおりだ」
身軽になったトリスがアロンダイトをカズとユージに突きつける。なお、彼は気づいていた。
「この空間の外でもとてつもない“闘気”を感じるな。しかも、“煌星の剣”の波動……なるほど。奴が生きているのか。これはまた恐怖……」
(しかも、もう一方では雷と炎の気配が強い……これは面白い……)
トリスは深い笑みをこぼすのだった。
トリストラムが深い笑みをこぼした理由、それは別の異界で戦っている強烈な気配にあった。
西方で伝説を残した騎士だ。故に“闘気”の熟練度も高い。質の高い“闘気”だからこそ、外の状況も理解できてしまうのだ。
そう。雷と炎の気配を――
彼が笑みをこぼすのも束の間、大砂漠では砂塵が舞うほどの震動と大爆発が発生していた。
「――!? ユン! さすがに飛ばしすぎだ!」
「あぁ、俺に文句を言うのか? ユーヤ!」
「だから、少しペースを――」
(っていうか、性格が変わり過ぎじゃないか? 髪の色も変わっているし。口調も性格も荒いし……)
と、ユーヤに雑言を言いかけているユン。それもそのはず……今の彼は“人格変性”で人格が入れ替わっているのだ。
ユーヤからすればユンが人格を変えるなんていう事象を聞いたことがないし、見たことない。
そもそも、彼は今、この試練を受けていたマリリンとリリィの介抱をしていた。
「はっ……ハァ~……」
「息が……苦し……」
呼吸が荒かった。息苦しさを味わっている彼女たちの介抱するユーヤ。彼は“呼吸術”を学ぶ過程で医学にも精通している。そのせいでマリリンとリリィの身体に起きている症例を観察している。
「これは……魔力中毒、か……」
(でも、魔力中毒は大気中の外在魔力濃度に……はっ! そうか! 俺達は今、この地下迷宮にいる。フランが言っていた。ここの外在魔力濃度は異常に濃い。マリリンとリリィはこの異常な外在魔力濃度を浴び続けて中毒症状を引き起こしている。まずい。このままだと二人の命に関わる!)
なんとかしないといけないのだが、どういう処置をすればいいのかユーヤも判断ができない。故に――
(フラン。どうすればいい?)
『ひとまず、魔力循環系を安定させろ。外在魔力による中毒の場合、循環系が正常じゃないのが症例だ』
(そうか。レインさんがズィルバーにやっていた。“ヒーリング”!)
『ええ、それがいい。とにかく、彼女たちに自力で“自己魔力調整”ぐらいまであなたが二人の内在魔力を安定させて』
(わかった)
ユーヤはマリリンとリリィの後ろに回り、背中に触れる。その際、彼女たちがビクッと身震いするけど我慢してほしいというのがユーヤの本音だった。
むしろ、ゾワゾワと背筋を伸ばしているようで可愛らしいと思ったのは、ユーヤの本心だった。
「ユーヤ。何を……」
「今は俺の行動を信じろ」
有無を言わせない迫力を前に“闘気”を流し込んでマリリンとリリィを内側から安定させていく。
「ユーヤ……これは――」
「“ヒーリング”という奴だ。昔、レインさんがズィルバーにやらせていた治療法」
簡単に説明するユーヤ。
ユーヤがマリリンとリリィの治療に専念している間、ユンがスフィンクスとラミアなる魔獣の相手をしなければならない。
しかも、髪色が藍色の髪から金髪に変化し、瞳の色も黒瞳から金瞳へ変化している。しかも、右手の甲に刻まれし紋章が山吹色に輝いている。右目からも山吹色の魔力光が漏れ出している。
バリバリと青白い燐光と、山吹色の雷が混ざり合っている。
そして、ユンの前方で陣取っているのはスフィンクスとラミアの大群。最初は魔獣スフィンクス一体だけだったのに、ユンの脅威度を考えて、召喚主が追加で召喚したのである。
召喚主――ラムセス・U・マート。彼はマリリンとリリィの足につけた枷を壊したユーヤへ最初は目がいったけど、ユンがスフィンクスを消滅したのを見て認識を改める。
そもそも、雰囲気の変化と、雷だけで誰なのか容易に想像できた。
「ハッハッハッハッ。余のスフィンクスのみならず、ラミアまでも滅するとは存外、やりおるではないか、少年!」
「そうかよ。俺の戦いを優雅に眺めるだけかよ。俺と戦わねぇのか?」
バチバチと稲妻が走るユン。
ラムセスはユンの戦い方を見て既視感が否めない。
(――似ておる。髪の色もそうだが、あの神の加護は……間違いなく“伝令神”だな。しかも、人格が変貌している……あの異能は間違いなく“人格変性”よ。フッフッフッ――)
「ハッハッハッハッ」
急に笑い出すラムセス。ユンからすれば、なんだよ急に笑いだして、となる。
「笑いたくもなる。まさか、幾星霜の時を経て、ベルデの子孫に会えるとはな」
「へぇ~、俺の先祖様を知っているのか? こいつは意外だな」
なんてことをほざくユン。彼の言葉にフフッと口角を釣り上げるラムセス。彼が右手を突きつけた瞬間、魔獣共が一斉にユンめがけて押し寄せていく。横一線に魔獣が軍団となって押し寄せてくる。ユンは左右に視線を見やる。
(横にそらしても回避できず、上へ逃れても後ろで回復しているユーヤたちが巻き添えを食うわけか。そもそも、上へ逃れようにも、あの魔獣に踏み潰されるのがオチだな)
ユンが保有する真なる神の加護の一つ“伝令神”――。
“伝令神”は神経伝達速度を制御できる権能を秘めている。神経伝達速度。つまり、肉体の限界を超越できる。なぜ、そう言えるのか。
人体は電子パルスという神経伝達をする際の電気が流れる。電気信号が人体の限界を無意識下にセーブされる。
人族に限らず、耳長族、獣族、小人族、魔族などのすべての種族は肉体の限界を超えられないように調整されている。
それはなぜか、耐えきれないからだ。超人然とした力を行使すれば確実に肉体が崩壊する。しかも、余りある“闘気”を制御しきれないというのもある。
肉体の限界を超えた力を行使できるのは選ばれし種族のみ。
天使族、悪魔族、竜種、そして、■■■のみである。
そして、残念なことにユンは肉体の限界を超えて力を行使できる選ばれし種族――■■■である。
その恩恵を受けて人間の限界を超越し始めてきた。
「はぁ~」
ドクンと鳴動するかのように轟く雷鳴。
「アァアアアアアア――!!」
轟く雷鳴に呼応するようにユンの髪質に変化が起きる。迫りくる大群を前にしているのにここでまた変化が起きようとしている。
奇しくもユンはこれまでに空気を浴び続けてきた。神代以前の空気を――
空気を浴び続けてきた。否、“伝令神”の加護を行使するたびに周囲の外在魔力を取り込み続けた。そのせいか、ユンの魂の深部に眠りし力を呼び起こされてしまった。
「――!」
(何だ? ここに来て“闘気”が変質し始めておる。これではまるで……あのときの奴と同じよう……)
ラムセスの脳裏によぎるのはかつての強敵――ルフスと同様の変化であった。
ユンの変化はズィルバーやカズ、ユージと違う点がある。
それは異能による齟齬だ。
髪質が一度、金髪から藍色の髪に戻ってからの変化である。藍色の髪から銅色の髪へ変化している。瞳の色も銅色の瞳になっているが、右目だけは山吹色の魔力光が漏れ続けた。
ラムセスの思ったとおり、ユンの中で変化が起きている。正確に言えば、ユンの魂にだ。
もう一度言おう。
神代以前の空気を浴び続け、伝令神の“真なる神の加護”を引き出そうとした際、“雷帝ネル”の力を行使しようとした際、爆発的に解き放たれた“闘気”の残滓は身体へ回帰するのと同時に周囲の“闘気”を、魔力を、外在魔力を巻き込む。
そうして、ジワジワと魂の深部へと到達した神代以前の空気が、ユンの内在魔力の記憶を根源から呼び起こしたのだ。
神代から生きる魔獣、星獣は現代まで作り上げた技術で太刀打ちできない。神代の空気を帯びた技術、存在でしか勝てないのだ。
それは、神代の大英雄も然り。原初の悪魔も然り。天使も然り。そして、“オリュンポス十二神”も然り。
神代の神秘を継承し続ける一族のみにしか勝てる道理がないのだ。
ラムセス・U・マートは神代の大英雄。つまり、神代に生きた偉人なれば現代を生きるマリリンとリリィには荷が勝ちすぎている。
しかし、ユンの場合は違う。ユンの血筋は大英雄ベルデの末裔にして神代以前の空気を脈々と受け継がれている。だが、その力は魂の深部にて、根源にて眠り続けている。眠り続けられている故に過去千年は、その力は呼び起こされることもなかった。だが、幾星霜の時を経て、その力が今呼び起こされた。
きっかけは何だっていい。一つのきっかけで状況は大きく好転した。
それもズィルバーたちを後押しするように――
髪質もそうだが、“闘気”の色も銅色に変色したユン。しかも、人格までも――
「ん? 元に戻っている?」
(なんでだ? 俺はさっきまで“人格変性”で荒々しい人格に入れ替わっていたはず……なぜ?)
不思議に思うユン。だけど、気になることがある。“人格変性”で人格が変わったのなら“真なる神の加護”も入れ替わっていてもおかしくない。なのに、右手の甲に刻まれし“伝令神”の紋章が今も輝き続けている。不思議に思う反面、今気にするべき事柄でもないのも事実だ。
「ユン! よそ見するな、大軍が――」
「あぁ、わかっている」
バリバリと山吹色の雷が右手に帯びる。
「“斬り裂け、雷鳴手刀斬”!!」
雷撃を帯びた手刀が斬撃となって横薙ぎした。雷鳴一閃のごとく、スフィンクスとラミアが両断された。しかも、ただ両断されただけにとどまらず、雷撃が帯電してそのまま滅したのだ。一刀をもって全てを蹂躙したユン。そんなユンに憎らしげに舌を打つラムセス。
「余の魔獣を蹴散らすとはな……忌々しいな。ライヒ大帝国……」
「そうかよ。俺らが憎いか。そいつは願ったり叶ったりだな」
ニィっと口角を釣り上げ、不敵な笑みを浮かべるユン。逆にマリリンとリリィは「嘘でしょ」と絶句している。あれだけ逃げることが必死だったのにまさか、消滅させてしまうなんて夢にも思わなかった。否、夢としか言いようがない。それ以外としか言えなかった。
逆にユーヤからすれば――
「やりすぎじゃないか?」
吐露している。だけど、ユンとしては「関係ない」の一言に尽きる。
「敵を殲滅するには一撃でねじ伏せるにかぎる。特に相手が格上の場合は初撃をもって叩き潰すしかない」
「それはそうだけどよ……その場合だと体力の消耗が激しくないか?」
ユーヤは無駄な労力を割きたくないと言うもユンはため息を吐露した。
「うーん。今の俺……体力というか“闘気”が異様に多くなった感じがする。なんでか分からないけど……この程度なら問題ない」
「この程度、って……」
「それに、俺にはネルがいる。ネルの加護は――」
「――“神威”」
ユンが相棒の能力を言おうとした瞬間、ラムセスが告げる。
「雷属性は攻撃能力と補助能力に特化した特徴を持つ。そして、“雷帝ネル”の加護は“神威”。威力を何倍何十倍の威力に増大させる……忌々しいことこの上ない……だが、余の前では無意味だと知れ!」
ラムセスがパチンと指を鳴らすと、虚空からスフィンクスとラミアが大軍と押し寄せてくる。
「なっ――!?」
「嘘、でしょ!?」
「無限に湧いてくるのか……」
湧き続ける魔獣に、意気消沈するマリリンとリリィ。苦悶の表情を浮かべるユーヤ。しかし、ユンは違った。驚くこともあれど苦戦を強いられている感じはない。むしろ――
「むしろ、好都合……」
ニヤリと深い笑みを浮かべる。ユンの服装は東方の出身者らしく当世風の着物に公爵家にふさわしい羽織を羽織っているのだが、魔獣の大軍を見てもなお劣勢に立たされているとは思わなかった。
「うーん。どうやら、俺はまた感情的に“人格変性”を使って人格交代をしていたようだ」
呟くのと同時に右目から漏れる魔力光が消え去った代わりに左目から朱色の魔力光が漏れ出した。
右手の甲に刻まれし紋章の輝きが収まったかに思えば、今度は左手の甲に刻まれし紋章が輝き出した。
「うん?」
(紋章の輝きが変わった……いや、それよりあの少年の雰囲気が変わった!?)
「こっちのほうが戦いやすいかもしれん」
朱色の雷がユンの身体に帯びていく。帯びる雷がユンの体調を安定させていく。
「うーん。気分がいい。やはり、荒々しい感情に支配されるのもよろしくないな」
なんてことを言い出すユンに、ユーヤが思わず突っ込む。
「一々反応に困るから人格が変わるなら変わるで言ってくれる」
嫌味を言う始末。これにはさすがのユンも反論する。
「仕方ないだろ? 俺やズィルバーの異能はその時その時で変わるし。自在に扱えるほどまだまだ鍛錬を積んでいないからよ。文句を言わんでくれ」
「その言い方だと鍛錬を積めば扱いこなせる言い回しだぞ?」
「あぁ、使いこなしてみせる。実際、ズィルバーも特殊な条件で異能を自在に行使できる術を身に付けたそうだ」
「はっ? ズィルバーが?」
ユンの言い方から察するにズィルバーは特殊な方法で異能を――“両性往来者”を自在に使いこなしているらしい。そのような方法があるなんて一度も聞いたことがない、とほざくユーヤ。
ユンもその口だったけど、ズィルバーは事実だと公言した。
「まあ、とりあえず今は――」
バチバチと身体に雷が浸透していく。背中に羽織っている羽織を投げ捨てたユン。羽織を捨てた際の背格好はマリリンとリリィはドキッと顔を赤らめさせる。
「ちょっ――!?」
「なんて格好なの!?」
「おい、ユン。さすがにそれはまず――」
背格好を指摘しようとしたユーヤだったが、背中と両肩から銅色の“闘気”が雷となって放出する。
背中と両肩から高密度の“闘気”が漏れ出しているのもそうだが、問題はユンの服装にラムセスは既視感を持つ。
(あの服……東に住む忍一族の長が身に着けていた服装と酷似している……まさか、あの少年――!?)
「じゃあいくぜ」
バリバリと迸る雷が蛇の形を成していく。雷の蛇はユンの右手にまとわりつき高密度の塊として帯びていく。
「ユーヤ。二人を連れて下がれ。まだこの技は細やかな制御ができなくてね」
「はっ?」
「――!」
(まさか――!?)
「魔獣共! あの少年を八つ裂きにしろ!」
身の危険を感じ始末するよう指示を出すも時すでに遅しだった。
「遅いぜ。“瞬蓮閧”・“斬り裂け、雷鳴手刀斬”!!」
雷の蛇が薙ぎ払うかのように振るわれる。振るわれた雷の蛇が鞭のごとくスフィンクスとラミアの大軍を飲み込んでいく。
飲み込んだ敵は雷撃に飲み込まれて黒炭と化して消滅した。
雷撃によって発生した衝撃波が砂嵐をもろとも吹き飛ばしてしまった。
その衝撃波に飲まれたユーヤたち。だけど、ユーヤが炎の盾を生み出して衝撃をそらした。
「ったく、なーにが細やかな制御ができない、だ。大まかな制御すらできていないじゃないか」
「あの~、ユーヤ。私からすれば被害が及ばなかっただけ救いなのですが……」
「そもそも、あなただって人のこと言えません」
ユーヤは嫌味を言うけど、マリリンとリリィからすれば十分に彼もキチガイであることに変わりない。あと、助けてくれたことには感謝の言葉を述べている。
「とりあえず喋るぐらいに回復したな。ここを離れるぞ。安全な場所に避難を――」
「お言葉ですが、安全な場所なんてありますか?」
「ここ戦場なのに……」
二人の正論にユーヤの心が深く削れる。
「――言わないでくれ。俺だって気にしていた」
涙目ならぬ涙を流す。
「うわぁ~、無駄に嘘泣きはやめてください」
「やるだけ無駄だと思います」
「クソが……キミらはいつもいつも俺に罵声を浴びるよな」
「それは全員同じ気持ちです」
「“紅銀城”にいるみんな同じ気持ちです。いい加減に覚悟を決めてください。たまに怠惰になるのやめてください。アヤさんにチクっておきます」
「チッ……それだけは御免被るな」
舌を打つユーヤ。だけど、部下にそこまで言われた以上、やらざるを得ないのも事実である。
「わかった。ひとまず距離をとっていろ。俺とユンの邪魔になるからな」
と、言ってユーヤは“聖剣”を手に持ってユンのもとへ歩き出す。
「ふぅ~。さすがにまだまだ制御が必要だな」
(あのハムラの言う通り、あまりにも危険すぎる技だな。これは要注意だな)
『ユン。フランが来るぞ』
(あぁ、そうだな)
「遅くないか、ユーヤ」
ユンは振り返らずに歩み寄ってくる少年に声を飛ばす。
「悪いな。二人の回復に手間ど――」
「どうせ、俺に全部押し付けようとしたんじゃないのか? キミの惰性はアヤちゃんがいつも頭を痛めたことだし」
「チッ……余計なことを……」
嫌味を吐くユーヤ。自分の本質をよーく理解している。そもそも、ユーヤが怠惰になるという話も初めて聞いた次第だ。
「アヤちゃんや部下に任せないで自分もやれよ」
「うざっ!? キミも人のことを言える義理か?」
「うるさい。さっさとやるぞ。後で、カズやユージ、ズィルバーに流布してやる」
「やめろ! それだけはやめろ!」
いつになく気合が入るユーヤであった。
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