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転生英雄の学園譚  作者: 柊銀華
竜覚醒編
279/302

五神帝×五大公爵公子×五人の皇女_8

 カズは見栄を切った。

 たしかに自分は強くなったとて、トリストラムを一人で倒せるとは一ミリメルも思っていない。故にユージへ声を飛ばす。

「さっさと部下を安全な場所において戻ってこい。早くしないと野郎が来るぞ」

 カズの顔を見てユージもすぐに理解して頷く。

「わかった。でもむちゃするなよ。カズ」

 彼は離れ際にそう言い風を従わせて一時退避した。

「むちゃ言うなよ。危険承知で挑まねぇと勝てねぇだろ」

 口調が荒っぽくなるカズ。彼にレンが思念を飛ばす。

『カズ。相手はトリストラム・F・メリオダス。かつて西方で名のしれた騎士で、メランもそこそこ苦戦していたわ』

(そこそこ、って……相性でもあるのか?)

 と、カズは“オリュンポス十二神”にも相性があるのかと気にする。そもそも魔法にも相性がある以上、ない方がおかしいという話だ。

『メランが昔、愚痴っていた。()()()()()()()()()()()()、らしい』

(死ににくい……打たれ強い……いや、そういやズィルバーとユウトが傷を治していた輩がいたな。もしかしたら――)

 カズは一人考え事をしていると、ドゴーンと空気が震動した。

「もう出てきたか」

「先の一撃……見事なものだ。俺に与えられた加護がここまで遅いとは……貴様……間違いなく、“海洋神(ポセイドン)”の……“真なる神の加護”の保有者、か」

「チッ……あれだけ使えば自ずと分かるよな」

(ここからは槍術と足技で攻め立てるしかないな)

 カズの中でもトリスに同じが通じるとは思えない。ならば、別の方法で攻めるしかない。

「しょうがない。試してみるか」

 フーっと盛大に息を吐き、集中力を高めていく。バリバリと全身に紺碧の雷を帯びる。同時に荒々しい波が一瞬にして水面に映る鏡のごとく静かになった。

「……ほぅ。“静の闘気”をそこまで練り上げるとは……清澄な“闘気”を見るのは我が王以来だ」

「ふーん。キミも誰かに仕える騎士だったのか。じゃあ、弱いな」

「何? 目指すなら高みへ。はるかな高みへ駆け上がるのみ」

 不敵の笑みを浮かべるカズ。動じない“闘気”にトリスは大剣を構える。

「面白い――来い!」

「いくぞ」

 水面を蹴ってトリストラムへ接敵する。振り絞る槍が心臓へ伸びる。


『いい。あなたは無駄が多いの。無駄が……』

 思い起こされるのは、謎の美女の言葉だ。銀髪金色の瞳をした美女。彼女はハアハアと息を切らしているカズへキツイ言葉を送る。

『ハアハア……無駄? どこが……』

 ハアハアと息を切らし、雪原で横になっているカズ。

『そう。無駄。が魔力循環系マギ・サーキュレートリがなっていないわ』

『そりゃ、レンもキミも美人だ。美人さんなら無駄なんてないだろ……これは、嫌味だな』

 ハハッ。軽口を叩くカズ。すると、美女は頭を振る。

『これじゃあ私と魂融合もできないね。ほんとにメランを倒したの?』

『倒したとは言えんが認めてくれたのは確かだ。俺は北方を守りたいんだよ。この……』

 カズは見渡すかぎり辺り一面が雪景色の、銀幕の世界を――

『そう……こんな世界が好きなの? でも、寂しいものよ』

 美女は軽やかに雪原を歩く。絶え間なく降りしきる雪の中を――

『ここは私の魔力が漏れ出して生まれた世界よ。誰一人生き残れない世界を、あなたは好きだというの?』

『好きだな。雪は出会いと別れを繰り返す。燃え上がる熱も、悲しみの炎も雪が冷やしてくれる。いや、鎮火するが正しいかな』

 カズは美女こと“白氷竜アルザード”が創り出す世界を悪いように思えない。むしろ――

『俺はこの氷原で死する運命かもしれん』

 唐突に死生観を語りだす。

『どういう意味?』

『言葉通りさ。人は必ず死ぬ。遅いか早いかの違い。死を目の前に受け入れるか足掻くかどちらかだ』

『じゃあ、あなたはどちらなのかしら?』

 アルザードは潔く死を受け入れるのか、醜く足掻き続けるのかのどちらかを問う。その問いにカズは淡々と答える。

『潔く足掻き続ける……』

 斜め上の解答をしてきてアルザードも『はっ?』と呆然とする。

『何を言っているの?』

『ん? 潔く足掻き続けるだけさ……』

 カズの返答に嘘偽りなく淡々と堂々と答える。アルザードも嘘でないと理解し、ハァと息を吐いた。

『あのね。誰もが努力と屈辱を乗り越えて誰もが栄光を掴むものよ。それが人間だもの』

『でも、それは獣族(アンスロ)耳長族(エルフィム)も同じだろ?』

『そうね。あぁ質問を変えましょう』

 アルザードが急に別の問いを言う。いや、言う前にカズが持つ槍――神槍(ブリューナク)を拾い上げる。

『英傑の道を進むためならば家を捨てるか。家や家族を守るために英傑の道を諦めるか、どっちにしたい?』

 その問いは進路指導でもあり、人生選択の岐路に立たせるものだった。

 二つの選択を押しつけられてもカズは惜しみなく答えてみせた。

『決まっている。俺は戦うさ。英傑の道を進む……でも家を捨てるつもりもない』

 斜め上の解答にアルザードは目が点になる。

『あなた何を言って……』

『俺にとってはどっちも大切なものだ!』

 カズは戦うのも家を守るのも大事だと言い切る。それは欲張りとも言えるし。業突く張りとも言える。

 ただどちらの道を選択しても茨の道であることに変わりない。だけど――

『両方を選ぶと言うことはどっちか選ぶより辛い道なのよ。それをわかっているの?』

『あぁ……それが俺の覚悟だ』

 揺るぎない覚悟が宿った瞳を見て、アルザードは悟る。

(そう。この子は彼と同じ道を歩むのね。かつて彼が選んだ道を……自ら選択した……)

 理解する。カズがメランと同じ道を歩むと、それはかつて()()()()()()()()()()()()()()()ことを――。

『そう……仕方ないわね』

 カズの覚悟を知り、彼女も覚悟を決める。アルザードはスッと彼の胸に手を添える。

『アルザード?』

『あなたの覚悟は確かなようね。やはり、彼の血筋なのかしら……』

『え?』

『覚えといて。どちらも手に入れられるのはほんの一握りの選ばれた人間よ……あなたならできるわ、カズ。いい選択をしたね!』

 キラキラと身体が光りだす。

『何を――!?』

『安心なさい、魂融合よ。あなたの覚悟はしかと聞き届いた。あなたなら彼と同じように最高の栄冠を手にできるわ。ほんとに()()()()()()()()()()()()()

『ん? 姉さま?』

 アルザードの口から出た“姉さま”の言葉に訝しむも彼女から『気にしないでちょうだい』と言われる始末。

 気にしないで言われると気になってしまうのが人間の性と言えよう。

『いいじゃん、教えろよ』

『ダメよ。姉さまのことは教えられないわ。いい、私たちの存在は歴史から消え去ったの。だから、誰も姉さまのことを――』

『……わからん』

 カズはアルザードの言い分を遮って言う。

『え?』

『なんで悲しそうな顔をする。俺はハルナもレンもキミに悲しい顔をしてもらいたくない。だから、わからん』

『何がよ……』

『悲しそうな顔をしているのかが……』

『……え?』

 カズに言われるまでアルザードは自分が悲しげな表情を浮かべるのを気づかなかった。

『俺がこの道を選んだことを悔いているのか? 俺が屈辱と努力にまみれながら磨き続け、いずれ解き放とうとしている栄光の輝きを――』

 そう。誰もが一生涯手に入れられない輝きを――カズは屈辱だろうと努力だろうと何だろうと泥まみれになりながら磨き続け解き放とうとする。

 それが――

()()……()()()()()()、ね……』

 アルザードはカズの覚悟を知る。もはや、迷いのない彼の瞳には揺るぎない覚悟の炎が今もなお灯し続けている。

 ()()()()()()()()()()()()()()がようやく花を咲かし、()()()()()()()()()としている。

『千年……千年も待たされた……()()()()()()()()()()わよ、()()()

『ルシア?』

 聞き覚えのない名前にカズは聞き返す。

『あなたは知らなくていいわ。彼女との約定を私は果たしたいのよ。()()()()()()()()彼女を――()()()()()彼女を――』

『ん?』

 今、アルザードは一番大事な意味を口にした。カズは訝しむも徐々に身体の内側から何かが変化し始めているのを感じている。まるで、()()()()()()()()()()()ようだ。


『わかる? 今、私とあなたの魂が溶け合い融合しようとしているのを……』

『あぁ……これが“魂融合”ってのか……』

『ええ、そうよ。次元を一段階引き上げる。それは()()()()()()()()()()()のよ』

『ん? 種族的に、進化するのか?』

 アルザードの言い回しは人族(ヒューマン)に進化の兆しがあるように聞こえたのだ。

『ええ。でも、正確に言えばあなたは人族(ヒューマン)じゃなくて真人間(ハイヒューマン)という種族よ』

 キラキラと粒子がカズへ注いだままアルザードは語りだす。

『覚えといてあなたはメランの血を引く子孫。彼の子孫は間違いなく真人間(ハイヒューマン)として生まれる。でも、あなたは私と魂融合をしている今、あなたは――』

 アルザードはカズに告げる。自分が到達する次元は――


 彼女の口から言われたことを頭によぎるも、カズが振るった槍の穂先はトリストラムの心臓へ伸びていく。

 心臓へ迫る槍を前にしてもトリスは慌てることなく冷静に剣さばきで難を逃れてみせた。

「――! やっぱスゲェわ」

「驚いている反応ではないな。この私がさばくのを読んでいたか」

「読んでいるも何もこれぐらいはさばいてもらわないと英雄の名が廃るってものよ」

「なるほど……」

 剣を構えるトリス。その剣は滑らかな刀身に、陽の光が鈍く照らしている。彼の剣を見てカズは思ったのか。つい口が出た。

「随分と手入れされている剣だな。長く愛用している剣なのか?」

「この剣か。我が剣は祖国のサーマル王国に伝わりし宝剣……我が王より授けられし宝剣。その名は“アロンダイト”……」

「アロンダイト。初代様の手記に記されていたな。西方の山間に閉ざされし騎士の王国があった、と……」

「そのとおり、サーマル王国はライヒの力の前に屈し滅んだ。祖国は鉱山資源で発展した国だった。列国の脅威にさらされることなく平穏に暮らせたものだった。だが――」

「初代様らが領土拡大のために遠征した」

「そうだ。あの国は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「選ばれし者の国……これのことか……」

 カズは右手の紋章を見せる。紋章。そう“真なる神の加護”を見せる。而して、トリスは首を横に振る。

「違う。違うのだ!! あいつらは神にも……天使にも……悪魔にも……精霊にも……否! 断じて違う。あいつらは……ライヒ大帝国は、()()()()()()()()()()()()が統一した国!」

 アロンダイトを振るって剣圧で湖水を吹き飛ばす。

「――!」

(なんて剣圧……それに“闘気”も凄まじいものだ。気を抜いていたら吹き飛ばされる……)

 ビリビリと剣圧が衝撃波となってカズに押し寄せてくる。押し寄せる剣圧にカズは全身の身体を震わせて踏ん張った。

「サーマル王国最後の騎士として、ライヒの血をここで根絶やしにするまで!!」

「譲れないか……悪いけど、俺には関係のない話だ。だが、俺の大事なもんに手を出すってのなら容赦はしない!!」

 バリバリと紺碧の雷とともに“闘気”を放出する。

 ビリビリと空気が震動する。


 カズの気迫も“闘気”も並大抵の覚悟ではないと悟り、トリスも覚悟を決めて剣を構える。

「こい!」

「いくぜ――」

 カズは神槍(ブリューナク)を左手に持ち、右手に湖水で集まった水の槍を形成する。

「――“全てを呑込み渦巻く槍トゥル・テュルビュランス・シュペーア”!!」

 全身の筋肉を連動させ、運動連鎖を利用した投擲。腕のスナップでジャイロ回転に放たれる水の槍は湖水を巻き上げて水流となってトリスへ伸びていく。

「ほぅ。見事な投擲。だが、この程――ハッ!?」

 彼はアロンダイトの刃で斬り裂こうとしたが、既のところで身を翻して難を逃れる。身を翻した際、巻き上げた湖水が刃となってトリスの左脇腹をえぐった。

「――!」

「チッ……鎧が壊れた程度か……」

 脇腹をえぐったとはいえ彼が身につけていた鎧で重傷になる一撃を、軽傷になる一撃まで軽減された。

 プッと血唾を飛ばす。一見外部は軽傷に思えるが、内部は重篤なダメージを負っていた。カズは意識的にやったのか知らないが、先の投擲には紺碧の雷が帯びていた。つまり、“海洋神(ポセイドン)”の加護を帯びた一撃であり、掠めただけでも大ダメージを負うこととなる。なぜか、トリストラムが与えられし神の加護は“豊穣神(デメテル)”と“冥府神(ハデス)”の二神。この二神は大地の恩恵を一際強く与えられる一方で、“海洋神(ポセイドン)”は海の恩恵を一際強く与えられる。

 そう、相性の問題だ。

 良くも悪くも相性である。豊穣神(デメテル)海洋神(ポセイドン)との相性がすこぶる悪い。逆に海洋神(ポセイドン)豊穣神(デメテル)との相性がすこぶるいいのだ。

 相性の恩恵を受けてトリスは左脇腹の傷の回復が遅い。むしろ、再生する速度が微々たるものだった。相性の悪さが傷の進行を早まる一方だった。

 ハアハアと息を切らしている彼にカズは訝しむ。

(どうしたんだ? やけに息が荒い。まさか――)

 右手の甲を見るカズ。今もなお光り輝いている紋章に恩恵なのかと疑る。

(この右手の力なのなら好都合だな。そろそろ、ユージも来そうだし。時間を稼ぐか)

 水を蹴ってトリスの懐に入ったカズ。彼の手に握る蒼き槍が煌めく。

「“乱れ突き(リヴォーブ)”!」

 ランダムに放たれる突きがトリストラムへ伸びる。攻撃の手を緩めない槍の連撃を剣さばきで致命傷を避けるトリストラム。剣でさばかれてもなお、カズはまだ攻撃の手を緩めない。狙っているのだ。

 何を? トリスの隙を――。

「ハッ!」

「オラオラ!」

 カズが振るう槍の連撃を剣でさばき続けるトリス。しかし、槍には紺碧の雷が帯びている。つまり、海洋神(ポセイドン)の加護を帯びた一撃を、致命傷を避ける形でかすり傷を受けている状態だ。それは同時に蓄積させている。

 すこぶる悪い海洋神(ポセイドン)の呪を浴び続けているのだ。

 蓄積される呪がトリスの動きを阻害していく。カズの狙いはそこにあるのをトリスも気づいていた。

(このガキ……私の集中が途切れるのを待っているようだ……)

「いいだろ! 我慢比べといこうじゃないか!」

「上等だ!!」

 さらに攻撃の鋭さが増すカズの連撃。鋭さが増す連撃を剣だけでさばき続けるトリス。だが、鋭さが増す連撃を剣でさばき続けるのはかなり危険に等しい。なぜなら、このとき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()のだから。

「オラオラ!!」

 しかも、このときのカズは右目から漏れる紺碧の魔力光のみならず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 思い出してほしい。

 今、カズたちがいる場所はギーガス山脈の地下迷宮。地下迷宮自体は神代以前の空気が未だに残り続けている。神代以前の空気……つまり、千年以上前の空気が未だに漂い続けている。

 カズが神槍(ブリューナク)を使って連撃をしている。槍には“海洋神(ポセイドン)”の加護だけでなくカズ自身の“闘気”をまとっている。しかも、攻撃の鋭さが増せば爆発的に“闘気”を放出することとなる。

 爆発的に放出された“闘気”は周囲の外在魔力(マナ)を巻き込んで身体の中へ回帰する。そうして魂の深部まで到達した“闘気”が、神代以前の空気が、外在魔力(マナ)が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 その力の根源こそが“真なる神の加護”でもあり“竜種”でもあり“原初の悪魔”でもあった。


 カズが生まれ持つ力は“氷帝レン”の加護、“海洋神(ポセイドン)”の真なる神の加護、“白氷竜アルザード”の権能。そして、“原初の灰(パイオス)”の絶大な力だった。

 どれも神代以前の空気を呼応して呼び起こされてもおかしくない力。

 でも、レンの加護はメランの血筋と、彼の魂に呼応しなければ呼び起こされることがない精霊の力。

 他の力も神代以前の空気を、外在魔力(マナ)を浴びなければ呼び起こされることがないのだ。

 そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことなんてなかったのだ。

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