五神帝×五大公爵公子×五人の皇女_1
ズィルバー、ユン、カズ。男三人を止めようとする三人の皇女。
ティア、ハルナ、シノ。女三人が男三人を地方から離れさせないようにしている。“白銀の黄昏”に至ってはニナやジノらが西方へ赴いている。彼らに指示を送ってすぐに向かわせばいいと言おうとするティア。
しかし、ズィルバーはやんわりと否定する。
「今、ニナとジノらが向かっているのは『剣峰山』。力の波動から見て、場所は“ドラグル島”かな。今から急がせたところで到底間に合わない。しかも、北と東も動く気マンマンみたいだ」
「北と東……もしかして、カズくんとユンくんも? ダメよ! 今、あなたが動いたらこの学園が!」
ティアはズィルバーに動かれたくないみたいだ。だけど、彼は問題ないと言い返す。
「大丈夫。原初の連中もしばらくは動かないさ。地方の魔法陣が発動された今、下手に動くこともままならない」
「魔法陣? 地方の領主城に施された魔法陣? でも、あれって使用者がいないと……」
「そうだね。でも、東西南北の魔法陣が起動した今、相互干渉し合っている」
「干渉し合っている?」
ティアには理解しがたい話で、途方もない話にしか思えない。ズィルバーも「それもそうだな」と呟いていた。
「話したところで頭が追いつかないのはわかっていたよ。でも、一つだけ言えるのはカズとユンは西方の状況をいち早く理解している。しかも、悪しき状況だ。これは由々しき事態と言えよう」
(本来なら俺が出張って対処すべきなんだろうけど……でも、“ドラグル島”か)
「まあいいか。カズとユンが動くのなら俺が出張るまでもないか」
ペラッとページを捲るズィルバー。
自己完結しちゃっているズィルバーにイラッとくるティア。ワナワナと髪が逆立っているティア。
「あっ――」
ズィルバーもまずいと判断した。ティアの怒り方は誰かにそっくりだった。
「だから、私にもわかりやすく説明なさい!」
ピシャーッと風紀委員会本部に雷が落ちた。ズィルバーは本を閉じて鋭い一撃を防ぐ。ご丁寧に“動の闘気”で強度を上げて――。
「そう怒らんでくれ、ティア。ちゃんと説明する」
まず真っ先にティアをなだめる方に意識を割いた。
「じゃあ、ちゃんと説明してくれる?」
ニコッと微笑むティア。でも、目が全然笑っていなかった。
(あっ、これは完全にブチキレていますやん~。ヤバいな)
思っていたタイミングで――
「ズィルバー!」
ちょうどいいタイミングでレインが部屋に入ってきた。
「レイン」
(あぁ~、助かった。危うく死にかけるところだった。いや、ティアに怒られて勉学に集中できなくなりそうだった……)
「何かあったのか?」
「今ね。ヴァンとフランからお願いされたのよ。手を貸してくれって……」
「フランとヴァンが?」
(意外だな。あの二人がレインに助けを求めるなんて……いや、助けを求めざるを得ない状況なのかもしれない)
「レイン様。今、ズィルバーを離れてはまずいのでは?」
ティアが話に割り込んで具申する。ズィルバーは中央を守る要。その要が動かれては防衛しがたいと考えている。まだ子どもなのに大人の考えをしている。それはレインもそうだが、ズィルバーも頭が固くなっている気がしてならない。
「ティアちゃん。今、ズィルバーを動いてもらわないといけないの。お願い、許して」
頼み込むレインにティアも断りきれない。しかし、ズィルバーを“白銀の黄昏”本部からいなくなるのは彼女としても困るのだ。
むろん、レインもわかっている。だからこそ、ティアに我慢をお願いする。そもそも論。ズィルバーとしては――
「だったら、ティアも来ればいい話じゃない」
――であった。
あと、レインへフランとヴァンが助けを求める理由を聞かなければならない。
「実は、ユージくんとユーヤくんが何気に消耗が激しい。ユーヤくんはルフス様の“呼吸術”を習得した上に使用した反動で疲れが出ているみたい――。ユージくんは“大いなる風巫女の舞”の第一楽章を演奏してかなり疲れているみたいなの」
なんと二人が究極なまでの無理難題に挑戦した反動をもろに受けてしまったようだ。もちろん、二人が知らない間に――。
「あっ、そうですか」
(“呼吸術”……神楽剣術だな。ルフスが得意としていた剣術だったな。“大いなる風巫女の舞”……噂では知っていたが、本当に実在するとは思わなかった。ってことは、ユージは伝説のシーヴァ一族の末裔か。なら、噂には聞いていたけどほんとにいたとは思わなかった)
ズィルバーですら噂の産物があるのだと知り、うーんと頭を痛めた。とにもかくにもユージとユーヤが疲弊していることに変わりない。
しかも――
「二人共疲弊している以上、私たちが動かないと……」
「たしかに、だが……俺はここに張り付けにされているからね。おいそれと行けれないよ」
「でも、ズィルバー――」
「どうやら、カズとユンはハルナとシノを連れて西方へ急いだようだ。でも、場所が“ドラグル島”……あの竜皇女の力が蘇ることでもあったら事態は最悪になる」
「“竜皇女”? もしかして、“ドラグル島”の……」
「うん。“竜人”ドラグル・ナヴァール。竜人族の始祖。だが、その真実も名前も歴史から葬られている。名前を知っているのは遺跡の碑文に記されている者のみ。彼女の名前も力も詳しくは知らない」
「遺跡? それってどこの遺跡? もし、本当なら世紀の大発見じゃあ――」
「確か、その遺跡……」
「“ドラグル島”の地下迷宮に記されているわ。あと、遺跡は南方の樹海にいくつか点在しているけど、ここ千年で自然に侵食している恐れも――」
「そんな……」
ブーブーとぶーたれるティア。考古学を専攻している学生なのでもし、見つけて論文にすれば一躍有名となろう。
数多くの考古学者、歴史研究家も悔しがるのは間違えなしだ。
「ズィルバー! 今すぐ行きましょう!」
「…………」
ズィルバーはティアの目を見て無表情になる。欲深い瞳になっている。考古学の端くれとして血が騒いだのだろう。
「やれやれ、困ったものだ」
(でも、ニナとジノを動かすわけにはいかん。二人には内通者を絞り出し排除する目的と修行を任せる予定だ。もちろん、勉学も忘れずにな――。ナルスリーもシューテルも同様に頼んでしまった以上、“九傑”にも“八王”にも“虹の乙女”にも頼めないな)
「しかたない。ここを手薄になるのは致し方ないが、助けに行くか」
本をテーブルに置いて服を整えるズィルバー。彼の紅と蒼のオッドアイがティアとレインを見つめる。
「じゃあ行こうか」
「ええ」
ズィルバーとティア。カズとハルナ。ユンとシノ。
公爵公子と皇女。三つの煌めきが“ドラグル島”へ向けて動き出した。
バリ……バリ……
電気が山を、森を切り裂いていく。
青白い光を身にまとって自然を駆け抜けていく一つの機影。一人の少女を抱きかかえたまま少年が自然を駆け抜けていく。
少女――シノ・B・ライヒを抱きかかえる少年――ユン・R・パーフィス。彼は両手に“聖甲”を装着したまま雷速でライヒ大帝国を横断している。
電気を帯びたまま稲妻のごとく駆けるユン。彼はシノを抱えたまま手甲になったネルに思念を飛ばす。
(ネル。ホントなのか? ユージとユーヤが疲弊しているのは……)
『間違えない。フランとヴァンが助けを求めるなんてめったにない。とりあえず、レンも動いている。急いで』
(ってことはカズも動いたのか。ズィルバーは動くのか?)
ユンは東から西へ横断する以上、ズィルバーと鉢合わせる可能性もある。彼が動いている可能性だってある。
ユンは今も“電光石火”で自然を駆け抜けた。
公道へ出たユンとシノ。馬車や冒険者が通る公道をユンはシノを抱えたまま雷速で駆け抜けていく。しかも、舗装された道路をそのまま駆け抜けていく。道路を突っ切るのではなく、道路の道沿いに駆け抜けていく。しかも、雷速のまま――。
ユンはその足で第二帝都へ向かう。今もまだいるのであろうズィルバーとティアに会いに行く。
「ユン――!」
「シノ。喋るな。チクッとして痛いだろ?」
「そ、そうだけど……隣に――」
「隣?」
チラッと隣に目をやるユン。目をやると「やあ」と挨拶してくるズィルバー。彼は雷速で駆け抜けているユンと楽々と並走している。むろん、ティアを抱きかかえたまま――。
「やあ、ユン。シノを抱きかかえたまま走っているとはデートかい?」
「なっ!? ズィルバー。お前って奴は……」
「冗談だ。急いできている理由もなんとなく察している。西方へ急ぐぞ。嫌な予感がする」
「気づいていたのか?」
「ああ、こんなの気づかないほどバカじゃない。とにかく急ごう」
ズィルバーに言われるまでもなくユンは「言われなくても」と言い返して速度を上げる。
ズィルバーとティア。ユンとシノ。四人が西方へ向かおうとした矢先、北の方から彗星が迫ってくる。
「「――!」」
「「え?」」
目を向けるズィルバーとユン。呆けた顔を浮かべるティアとシノ。
彗星が四人の前で止まる。その際、反動の衝撃波が襲いかかるもズィルバーとユンは“動の闘気”を身体にまとわせて相殺させた。
「おいおい、登場が派手すぎないか? カズ」
「びっくりしたぞ、カズ」
燐光が消えるとハルナを抱きかかえたカズが姿を現す。
「悪い悪い。急ぎだったから。中央に立ち寄っていこうと思って」
「嘘つけ。北方から西方へ一直線に行けないからだろ? 北と西の境目は山脈地帯が多くて通れないだけだろ?」
「うるさい、ズィルバー。まあ、たしかにそうだけど……」
ズィルバーに言われてグレるカズ。ユンはハァと息を漏らす。
「とりあえず、西方へ急ぐぞ。ユージとユーヤが心配だ」
ユンに言われてズィルバーとカズは黙る。「たしかに」とこぼしている。
「正論すぎて言い返せない」
「そうだな。ユージとユーヤが心配なのも事実……行くか?」
カズの声掛けに二人も頷いた。すると、三人はそのまま西方へ超高速で向かうのだった。
その際、通りすがりの行商人と冒険者がポカーンと眺めていた。
雷を帯びて駆けるユン。彗星のごとく駆け抜けるカズ。そして、光の翼を生やして空を駆けるズィルバー。
「しかし、ズィルバーのそれは何?」
「ん? ああ、背中の翼のこと? 天使族のモノマネさ。“闘気”と聖属性魔法で形をなしているだけで神級精霊なら加護で他属性の魔法を最低レベルは扱えるからさ。まあ、風属性の精霊には劣るけどね」
「へぇ~、“闘気”ってそんな事もできるのか……初めて知った」
「それを言うなら、カズ。キミのそれは何?」
「言えてる。明らかに水を操っているよね?」
「ん? これ? 大気中の水分を操っているだけ」
「は?」
端的すぎる返答に反応が困るユン。でも、ズィルバーはなんとなく理解した。
「ああ、なるほど。大気中の水分を足場にして移動していると――」
(なんとも曲芸じみたことを……)
「うん。ズィルバーの言う通り!」
「意味わからん」
ユンには理解が追いつかなかった。当然、抱きかかえられたままのティアとシノ、ハルナも理解が追いつかない。
「安心しろ、俺も意味がわから――っと、そろそろ、“緑銀城”だ。このまま通り過ぎるぞ」
「ちょっと待て、ズィルバー! 一応、アペルト公爵に話を告げておかないと!」
「悪い、ティア。緊急事態だ! このまま通り過ぎる!」
ティアが待ったをかけるも彼は無視してそのまま“ドラグル島”へ直行する。
“緑銀城”から巨大湖まで馬車で三時間の距離にある。近いかと言われればそうじゃない。湖畔の町にたどり着きやすいからだ。
「すごい。行商人が多いな」
「そりゃ、目の前に巨大湖があれば漁業が盛んになる」
「え? 巨大湖? あれ、海じゃないの?」
(あれ? 前に話したような話さなかったような……まあいいか)
「元々、“ドラグル島”ってのは太古の昔は巨大山脈だった」
「じゃ、じゃあ……ここって……」
「そう。カルデラ湖。元々、西方は巨人族の集落が多い。あの島は巨大山脈の一部という噂。真実はあの島に行けばいいだけの話」
ズィルバーがそう言えば、「たしかに」と呟くユン。カズも「言えてる」と吐露する。
湖畔まで来て軽く談笑していたズィルバーたち。すると、そこへ――
「キミらは――!」
「ん?」
声が飛んでくる六人は同時に振り返れば、見知らぬ男性が近づいてくる。壮年の男性で髪の色がユージにそっくりだ。
「あっ、ティア殿下、シノ殿下、ハルナ殿下も……どうしてここに?」
「アペルト公爵!」
「急な来訪に申し訳ない」
「実はユリスが心配で……」
ティア、シノ、ハルナの三人で壮年の男性――アペルト公爵に説明する。
「ユリスちゃん? 彼女ならユージと一緒に“ドラグル島”へ」
彼の返答を聞き、「やはり」とズィルバーが吐露する。
「島に近づいてわかったけど、どうやら、あの島から感じるのは禍々しい“闘気”だけじゃない。もっと強力で大英雄級の“闘気”を――」
「え?」
「たしかに、“静の闘気”を強めると、より深く感じる……」
「デッカイ“闘気”を――」
カズとユンもズィルバーと似たような言い回しをする。シノとハルナも呆ける。危険性を示唆する男三人がすぐさま動き出す。
「アペルト公爵。お話は後ほど。今は“ドラグル島”へ急ぎます」
「では、すぐに船を――」
彼は漁師に船の手配を要請するも漁師たちは無理だと言い切る。
「無理です、公爵様! この時期だと波が荒れます。ただでさえ、波が……」
「…………」
(たしかに島の地下で派手に暴れているようだな)
ズィルバーは“静の闘気”を地下へ張り巡らせる。どうやら、島の地下に迷宮が広がっていた。
「まずいな。ヴァンとフランの加護があるとはいえ疲弊していることに変わりない。しかも、部下と離れ離れになっている」
「え?」
ズィルバーの呟きにティアが呆けるもすぐに“静の闘気”を使用して気配を探る。
「ホント。地下で激しい戦闘が……」
「ああ、ユージもユーヤも疲弊しているな」
「ユリスとアヤがなんとか対応しているけど、まずいね……」
カズらも“静の闘気”を使って気配を探る。探った結果、非常にまずい状況なのがわかった。
「たしかにまずい」
「でも、この気配……親衛隊だろ? なんであいつらも……?」
「大方、あのユウトのレベルを基準にしたのだろ。経験の浅い連中には酷というもの」
六人が話し合う。けど、その内容をアペルトらには理解が追いつかなかった。
「どうする? このまま水中から行く?」
「いや、巨大山脈自体は硬い。下手に亀裂を入れたら水が流れて水没する可能性が高くなる」
「ってなると、正攻法しかないか」
「そうなると……あの島に行くというわけか」
「そうなるな」
男三人は視線を水平線に見やる。ティアたちも同じように水平線に浮かぶ島に視線を転じる。アペルトは改めて漁師らに船を出せないのか尋ねるも彼らは「無理だ!」と答えた。
「無理です! ユージ様やユリス様一行がどのように行ったのか知りませんが、この荒波を乗り切る船はございません」
「風が荒れている分、波が湿気っている。これでは彼らを島に――」
悔やむ気持ちでいっぱいのアペルト。しかし、ズィルバーは謝罪する。
「気にしないでください。急に来た俺たちが悪いのです。アペルトさんは悪くありません」
「ズィルバーくん」
「それに島への移動なら精霊の力を使えばなんとかなります」
「え?」
「じゃあ、ティア。ごめんよ」
「ふぇ!?」
「シノ。失礼」
「ちょっ!?」
「ハルナ。濡れるけど我慢しろよ」
「まっ――」
ズィルバーとユンはティアとシノを抱き上げ、カズはハルナを抱きかかえて湖に潜った。
「ちょっ……キミた――」
ズィルバーは白い翼を生やして空へと舞い上がり、ユンは雷を帯びて駆け出す。
同時に湖に渦を巻く。
渦の中心にケホケホとハルナが現した。水中では両手に渦巻く水流ができあがっていく。
「行くよ、“生きる乱気流”」
水流が水龍となって渦の中心へ上っていく。
渦の中心にいたハルナが下から上ってくる水龍で空へ舞い上がっていく。舞い上がった彼女をカズが抱きとめる。
「びっくりさせてごめん。じゃあ行くよ」
「…………うん」
ハルナは間近でカズの顔を見て顔をほんのり赤くする。
彼は「ん?」と首を傾げるも追求せず、水龍を従えて“ドラグル島”へ直行する。ズィルバーとユンも湖面に触れることなく“ドラグル島”へ向かった。
男三人の移動方法にアペルトは頬を引きつる。
「まるで、ユージにそっくりだな」
(やれやれ、規格外の次世代が生まれたものだ)
呆れ果てるのだった。でも、漁師らは巻き上げた水流で水しぶきと同時に落ちてきた魚を回収に必死だったと記載しておこう。
湖面を駆け抜けていくズィルバー、ユン、カズ。男三人は女三人を抱き上げたまま“ドラグル島”へと向かう。
ズィルバーとユンは先ほどと同じ方法なのに対し、カズだけは水龍を生み出し乗って移動している。
彼の移動方法を横目に見るズィルバーとユン。二人がさっそうと声を投げる。
「おい、カズ。ハルナがずぶ濡れだが……風邪引かないか?」
「ん? あぁ~、たしかにハルナは風邪をひくよ。でも、慣れているらし――」
「慣れていないわ!」
バコッとハルナの鋭い一撃が右頬に直撃する。タラリと汗を流す四人。
痛そう、というのが彼らの心境だ。
そこでふと、ズィルバーは“守護神”の加護を使って“ドラグル島”を見る。島の上空で小竜が徘徊しているのが見える。不可解な減少が起きているとズィルバーは判断する。
「どうやら、島の方では厄介な状況らしい」
「ズィルバー……って、右目から空色の魔力が漏れているじゃない」
「“守護神”の加護を使っているからしょうがない。――で、だ。島の上空に竜が徘徊している」
「竜が徘徊している? “竜人族”の島なんでしょ? 徘徊しても……」
「いや、時期的に見ておかしい。今、秋から冬にかけて寒くなる時期だ」
「たしかに北方はすでに大寒波のシーズンに近づいている。小竜と言っても爬虫類だろ? そろそろ、産卵期じゃないのか?」
「それなら、夏頃にたらふく食べ物を食さないといけないだろ。にもかかわらず、この徘徊は……」
「身の危険を感じているというわけね。生態系を崩壊しかねる何かが――」
「この感じだと島に入ったらとんでもないことになるわね」
「そうだけど……でも、気になっていたのだけど……西方に入ってから全身を舐め回す感覚がして……」
「あっ、ハルナも?」
「じゃあ、ティアも?」
「私だけじゃなくシノも気づいていると思うよ。西方に入ってから妙に風がしつこくまとわりついて……」
彼女たちの話からズィルバーは察する。
「ユージめぇ。俺たちが来ているのも知っているな」
彼の言葉にカズが反応する。
「じゃあ、俺らが来ている理由も――」
「いや、そこまで把握していない。俺たちの身体に風がまとわりついているのが、その証拠……ユージも俺たちがなんで来ているのか把握できない。おそらく、ヴァンとフランが危険だと判断しての助力を申した、というのが自然だな」
ズィルバーはユージも把握しきれていないのだと分析する。しかし、彼は違和感もあった。
(しかし、風がすごいな。まるで西方全域がユージの覚醒を喜んでいるような……はっ! まさか、レイン)
『もしかして、風属性精霊のこと?』
(ああ、他属性と言えど、“聖帝”のキミなら多少なりとも――)
『そう思ってレンとネルと一緒に確認したよ。そしたら、なんと……ヴァンが踊ってくれたおかげみんな、気分がいいらしいの』
(はっ? ヴァンが踊った? どういう――はっ、“大いなる風巫女の舞”――!)
『おそらくね。西方に伝わる舞踊曲……東方に伝わる特殊な一族……西方にもいたのね』
(特殊な一族……シーヴァ一族――)
「やはり、ユージはシーヴァ一族の末裔か」
「シーヴァ一族? ナニそれ?」
ズィルバーがこぼした言葉にティアが反応して返した。
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