継承×無尽蔵×精密眼
ユーヤがユージの成長ぶりに驚くも、そうなったのは数刻前。
魂の世界にてユージとユリスはアルブムとアルフェン相手にしごかれていた。
「弓術・“一糸縫い”!」
風を帯びた矢弾がアルブムの脳幹狙って射抜くも――。
「どこを見て撃っている?」
ユージが放った矢弾は彼にかすりもせずに通り抜けていく。
(やはり、移動撃ちは難しい。しかも、同じところを撃つのも難しい……)
苦悶の表情を浮かべるユージ。彼は今、聖弓を手にして風で生み出した矢をアルブムめがけて射ているけど一向に当たるどころかかすりもしていない。
精密性もそうだが正確性もユージに足りていない証拠だ。
「どうやら正確性と精密性が足りんな」
「クソ……」
(初代様は動いていない。ミスショットが多いのは僕の腕が悪い。射撃の腕は環境も考慮して射る必要がある。環境を味方にしないといけないというのに……この乱気流じゃあコントロールが定まらない!)
ユージとユリスは今、荒れ狂う乱気流、暴風が吹きすさぶ世界にいる。その世界にてアルフェンは当初、見届ける選択をしていたがアルブムからユリスの相手を任された。かと言っても一時的なものであり、タイミングが来たらバトンタッチする予定である。
とにかく、ユージはアルブムと同じ弓を使う戦闘スタイル。ならば、弓術を磨かないといけない。しかし、今の彼の腕ではアルブムを蜂の巣にするのは不可能に等しい。
「子孫よ。やけにミスショットが多い。西方は比較的、風が吹き続けている。ヴァンの補助がないと僕に攻撃できないのかな?」
「――!」
挑発なのはわかっている。わかっているのにヴァンのサポートがないと正確性が上がらない。今のユージではアルブムに矢が定まらない。
(どうする? 風属性の加護は制御もそうだけど宙に浮くことができる。でも浮くことに集中しすぎると攻撃に意識を割けられない。クソ。まさか、僕が風に翻弄されるなんて……)
屈辱を味わわされている。今まで味方になってくれた風がユージに反旗を翻している。一見、アルブムは何もしていないように見えるが実際はしていた。
「“荒れ狂う暴風”。これは風属性精霊魔術。ヴァンがよく使う術さ。そもそも、人と精霊は絆を育ませないといけない。精霊と契約できたら即使えるという考えが烏滸がましい。子孫よ。キミはヴァンの性格を考えたことがなかったか?」
「ヴァンの……性格……」
(そんなことを考えたこともなかった。当然だよな。精霊だって生き物なんだ。意志もあり性格もある。それを知らないでみんなは精霊の力を行使している。おそらく、長きに渡る歴史の中で失伝された技術……いや、コミュニケーションかな。とにかく、僕は何も知らない子どもなんだ。いや、僕は無知な子どもなんだ。無知で子どもならなんだって手を出して吸収していけばいい。ヴァン。お願い! 僕に力を貸してくれ。僕はキミのことをもっと知りたい!)
ユージの思念がヴァンに語りかける。彼女もすぐに答える。
『私の考えを否定しない?』
(否定? どうして? ヴァンを見たとき怖いお姉さんに思えたよ)
『…………ショック』
ガーンとしょぼくれるヴァン。
(なんで!? 僕は最初に見たときそう思っただけ。でも今はヴァンって優しくて笑顔があふれるチョー頼れるお姉さんに思える)
『…………褒めたって何も出ないから』
(可愛いね、ヴァンは)
『――! うるさい!』
プイッとそっぽを向くヴァン。僅かなやり取りとはいえ、二人の中で絆が芽生えた。
(とにかく、僕を助けてよ、ヴァン)
『もちろん。私はあなたの契約精霊。主のお願いを聞くわ』
ヴァンは――“聖弓”は――ユージへ活力を与える。ヴァンの加護は“神命”。
主に活力を与え続ける加護。
風は始まりを告げる。
風は命を芽吹かせる。
風は命を育む。
風は命を実らせる。
風は命を枯らす。
風は終わりを告げる。
風は命を運ぶ。
そう。風とは生命の循環である。風がなくては生まれる命も終わり命も来ない。命が芽吹き、育み、実り、枯れる。輪廻は巡りエネルギーを産ませる。
産まれるエネルギーは活力となり、力となり、自信につながる。
「いくぞ!」
言葉に重みが出る。覇気がこもる。力がはらんでいる。
「――!」
(ここにきて、急激に“闘気”が増大している。“闘気”の上達は日々の鍛錬と生死をさまよう実戦を経験しなければ上達しない。ましてや……子孫はまだ子ど――)
アルブムはユージがしている狙いを気づく。
(なるほど。限界突破ね)
「面白い! 貴様の限界がどこまでか。この僕が見定めてもらおう!」
「――!」
ユージは矢を手に弦を極限まで引っ張る。曰く、弦を引っ張り具合にも限界がある。その限度で常人か超人か分かれる。
そもそも、弓を扱う者ならば至極当然知り得ている。弓を引き絞れれば引き絞るほど威力が増すというもの。
而して、引き絞れれば弓の消耗が早まる。引き絞るだけの膂力が必要となる。限界だと思った矢先に矢を放てば伝説にも届かない一撃となろう。それが常人の域だ。しかし、ユージは本能で「限界だ」と叫んでいても理性で無理やりねじ伏せる。ユージが手にする弓は精霊剣の一振り“聖弓”。つまり、ヴァンの機嫌次第で限界が大きく変わる。
(ヴァン。ごめん。キツいと思うけど我慢してくれ。後で現代のスイーツをたくさん用意してあげる!)
『……おやつで揺すらないで。でも、それで乗ってあげる。レインもレンもネルも「美味しい」と言ってくるから無償に食べてみたいと思っていたの』
(じゃあ、僕が用意してあげる。とびっきり美味しいの!)
ヴァンと約束を果たし、ユージは万力で聖弓を引き絞る。先述の通り、引き絞れれば引き絞るほど威力が増す。しかし、ユージの膂力では引き絞るだけの反発力に耐えられない。そもそも、耐えうるだけの足腰がまだ弱い。故に腰を落とし、腕を限界以上に引っ張る。
ブチブチと筋繊維と腱が切れる音がする。骨まで軋むほどの痛みが全身に走る。
「まだ、だ……」
呼吸が荒く鼓動が早まっているのをアルブムは“静の闘気”を使わずともはっきりと分かる。
「おいおい、マジでやる気か……」
(その域は神域だぞ……まさか、無理やり超人の域に…………)
顔の頬を引き攣るアルブム。“静の闘気”でユージの内部を見る。
(筋繊維と腱が切れている!? いや、“神命”で無理やり超回復させている。間違えなく反動でスクラップになるぞ!?)
痛みを伴わず、渾身の一射を撃ち抜く気でいるユージにアルブムは顔を青ざめる。
「ふぅ~」
息を吐き、集中力を増すユージ。今の聖弓は猛牛の如く暴れる神弓を腕力だけで押さえつけている。しかも、撃つまでの間に内部の“闘気”の調整から風魔法の反復制御に意識を割いている。まさに大魔法に必要な工程をたった一人でこなしているのだ。ユージが弓で放てる最大射程はざっと千メル。優れた使い手でも五百メルが限界であり、その点において、ユージは天才と言えよう。
集中力を高めている彼が次に取った行動は意外にも弓術士にとってしてはいけないこと、あってはならないことをしている。
『え?』
「はっ?」
「ほぅ」
「ユージ? どうして、目を……」
そう、彼は目を閉じた。目を閉じるのは遠距離攻撃を得意とする使い手にとって最大のアドバンテージを自ら放棄しているというもの。
目を閉じ、アドバンテージを完全放棄するだけに飽き足らず意識すらもアルブムに向けていない。
もはや、無理筋にもほどがある条件だが、今のユージは子どもながらにあの手この手で手を出しまくって強くなろうと模索している。
(僕は弓の腕前に関しては才能がない。でも、音楽が好きだ。感覚を鋭くしろ。聴覚よ。もっと聞き分けろ! 初代様の位置を正確に割り出せ!)
極限までに張り詰めた感覚が、集中力が、ユージの限界という壁を打ち破り新たな境地に足を踏み入れた。
(――! 見える。初代様の位置が、ユリスも、あのアルフェンって人も……ッ! 暴風で軌道が少し違う。このままだと軌道が少しそれて腕をもがく程度に終わる。でも、風の流れから見て、一ミリメルが左へやればいける)
一瞬の誤差を瞬時に修正するユージ。
すべての条件が整った。あとは撃ち抜くだけ――。
(いま!)
「――“|全てを撃ち抜く疾風の矢”!!」
聖弓から放たれる渾身の一射。その一射は疾風のごとく暴風の壁を貫き、アルブムへ伸びていく。その速度は音を超えて光にも届きうる一射であった。しかし、その反動がユージへと返ってくる。
「グッ――!?」
『ユージ!?』
ブチブチと筋繊維と腱が切れ、ボキボキと指があらぬ方向に曲がっていた。想像を絶するほどの痛みがユージに襲いかかり、痛みで集中力をかき乱す。
而して、アルブムへ伸びる矢弾は彼の予想を遥かに上回る威力と速度だった。
(ほぅ。やるじゃないか。これは真っ向から受けきら――)
「悪いけど、ここは俺に受け持たせよう」
「おい、アルフェ――」
バァーン!!
ユージの渾身の一射がアルフェンを突き刺さった。突然、間に割り込まれた上に心の臓を矢弾が突き刺さる。突き刺さった衝撃はかまいたちとなってアルフェンの身体を切り刻んでいく。
「――!」
(風が刃になった!? しかも、これはかまいたち? まさか、子孫は斬れ味を前提においている弓術士か?)
アルブムはユージの風の使い方を見る。
風というのは吹き飛ばす使い方もあれば、斬り裂く使い方もあれば、跡形もなく破壊し尽くす使い方もある。アルブムは基本、何もかも吹き飛ばして破壊し尽くす使い方が多かった。しかし、ユージは斬り裂く使い方を好んでいる傾向がある。そこに跡形もなく破壊し尽くす側面がチラホラ見える。
(斬れ味もヘルトの斬撃に匹敵しうる威力が込められている。おそらく、風に“動の闘気”が流し込まれている。まあ、無意識だけど相当な斬れ味だ。“裂空竜アルフェン”の皮膚を斬り裂くなんてそうそうできない。だが――)
「ハア……ハア……」
息を切らしているユージ。額から脂汗がにじみ出て垂れ落ちている。右腕はすでに使い物にならないほど怪我をしている。にもかかわらずユージは二撃目を射ようと右腕を上げようとするも痛みで構えることすらできなかった。
「あぐっ!?」
『バカ! もう右腕は……』
(ヴァン。風を右腕に……)
『え? まさか、傷を治癒して無理やり!? 無理よ、傷の治癒は聖属性の特権。たしかに風属性でも傷を治せるけどあくまで応急処置。ユージはただの人間じゃないから片腕がひしゃげているだけで……普通、右腕なんて使い物にならないわ!』
ヴァンからキツく言われてユージは悔しがる。しかし、彼の予想とは裏腹にかの者はユージを称賛し始める。
「見事な一撃……我の皮膚を斬り裂き、心の臓を突き刺すとは……何より貴殿の魂が輝きを増した」
「は? いきなり、何を言う? 僕の魂が、輝いている? っていうか、僕の戦いに割り込むなよ!」
怒鳴りつけるユージ。言葉に怒りを孕んでいる。今もなお、風が怒りに呼応してアルフェンを斬り刻み続ける。眼光も怒りにはらんだ視線を向けている。
『ユージ……』
ヴァンも彼がここまで怒りを露わにするのは初めてのことだった。
「ユージが怒っている……」
ユリスも今までになくユージが怒っているのがはっきりと分かる。
(ユージが怒るなんてめったにない。温厚で優しい。穏やかだし、シャルルたちから信頼が厚い。にもかかわらず、彼が怒るなんてめったにないことよ。つまり――)
ユリスは青年に目をやる。青年がアルブムを守ったことがユージの付箋に触れたと考えうる。いや、それしかあるまい。
(ユージが怒ったらただじゃ済まない。前に騎士団へ不平不満を漏らす冒険者がメンバーを傷つけ貶したとき、彼がその冒険者を全身に傷だらけにしても治療院送りにされた。あれほどまでにユージが仲間想いだったのを忘れない。それに西方へ来る冒険者や旅人、悪魔団の連中に見せつけた。西方を貶す輩はどんな手を使ってでも心をへし折らせる、と――)
あのときほどユリスがユージに恐怖を抱かなかったことはない。
彼の怒りに秘めた眼光を向けられてなお、青年――“裂空竜アルフェン”は関心の眼差しを送る。
「素晴らしいまでの眼光……まさに、我と融合するにふさわしい」
「はっ? 融合? ふざけているのか? よくも、僕の戦いに邪魔を……“竜種”とかほざいていたけど、僕の邪魔をするなら消し去ってやるまで!!」
言う始末。ユージの迫力を前にアルブムも人型に戻ったヴァンも気圧されている。しかし、アルフェンだけはユージの迫力を前にしても気圧されることなく、むしろ素晴らしいと思ってしまった。
「素晴らしい……だが、我を消し去るのは不可能と言える。不滅の存在たる竜種は自らの敗北をもって新たな主と融合する」
「はっ? だから、何を――」
キラキラと急に光りだした青年。風に粉微塵に斬り裂かれているのに身体から粒子が漏れ出し、霧散し始める。
「まさか、まだ少年に――」
「キミが勝手に割り込んだだけだろ?」
「――そう言われると何も言えなくなる。だが、はっきりと言わせるとキミの右腕はもはや修復不可能に等しい。それはキミが理解しているはず……」
「…………」
青年に言われるまでもなくユージの表情が曇った。どうやら図星であり、聖属性で治癒しても回復不可能に等しい。
「ったく、真人間が限界を超えた一撃を使えば必ず反動が来る。そもそも、■■■■■の力を無意識に使った反動で魂までもボロボロじゃないか。いくら魂が強くなったとしても、二撃目を撃とうとしたら確実に爆散していた」
青年は言い切る。
「そもそも、キミは生まれながらアルブムと同じ力を持ち、先天的に魂が進化する土台ができあがっていた。あとは肉体と精神を成長させる土台が必要だった。キミは三年間、血反吐を吐くほどに土台を作り上げてきた。まだ強固じゃなくてもしっかりと構築されている。今のキミなら次の領域へ足を踏める」
「次の、領域……?」
ユージには青年の言葉が理解できない。本質が読み取れない。
「大英雄の道。つまり、アルブムがたどり着いた領域へ通じる道……」
「初代様と、同じ道……」
「ただし、在り方は違う。彼は彼の道……キミはキミの道を歩め」
「でも、僕はまだ……」
ユージには英傑へ進めるだけの自信がない。むろん、青年も理解していた。
「もちろん、子どものキミが自信を持てというのが土台無理な話。でも、キミは見せてくれた。あとは道標のみ……」
青年が言葉を紡げば紡ぐほど粒子が霧散し、ユージの身体にまとわりつく。粒子が徐々に身体に溶け込んでいく。いや、身体に溶け込んでいるのではない。魂に溶け込んでいる。溶け込んだ魂がユージの一部となっていく。
「身体が……温かく……」
フラッと身体が身じろぐ。青年は消えゆく中、大事なことを告げる。
「我と融合を果たせばキミは……西方随一の、強さを――」
と、言いかけたところで身体が粒子となって散っていきユージへ溶け込んでいき、魂の融合と進化が始まった。
「…………あれ?」
身体がフラつき始めるユージ。彼はそのままパタリと倒れ伏し、スヤスヤと眠りにつく。
いきなりの展開。怒涛の急展開。予測しろというのが無理な話。
急に眠りについたユージの下へユリスが近寄る。
「ユージ!」
心配の気持ちがいっぱいですぐにでも起きてほしいというのが彼女の本心。しかし、アルブムがやんわりと止める。
「やめておけ。子孫は今、進化の眠りについている。竜種と融合しての進化は身体への適応が必要でね。起きるまで僕らにできることは待つだけ」
「その話を信じろ、と?」
(とてもだが信用できない。いくらユージの先祖様といえども信じることができない)
警戒心の強いユリスがアルブムを見つめる。警戒の強い色が宿る彼女の視線に彼は苦笑する。
「信用できない。それもそうだ。いきなり信用しろというのが土台無理な話。でも、話だけは聞いてほしい」
「……話だけです。その話を信じるかは私が判断します」
警戒心を解かずにユリスはアルブムを見る。
「用心深い。でもいいことだ。まるで彼女にそっくり……用心深いところも……」
「彼女?」
(初代様が結婚なさったのは二十歳後半だって歴史書に記されていた。もしかして、初代様の妻は用心深かったのか?)
「レイさ」
「え?」
(その名前は……女神様の御名のはず……待ってください、女神様が用心深い話を聞いたことが――)
「レイは真人間と耳長族との半血族。普通の真人間とも耳長族とも違い、強い自我を持っていたからか。人格が多くて性格の多さに困り果てていた。ヘルトだけは彼女の性格を見抜いて接していた。僕の場合は彼女が用心深くて接するのに苦労したよ」
「はぁ~」
(女神様の話はいろいろと噂がありますね。髪の色が変わるとか……いろいろと伝承が残されている。[戦神ヘルト]はどのようにして女神様の性格を……)
「まあ、彼女の性格が変わるときって髪の色が違う」
「え? 髪の色で性格が変わるのですか?」
初耳だったのか思わず食い込んだユリスにアルブムは語る。
「彼女の異能は“無垢なる虹”。昔、■■■■と“■■■■■■■■■”と融合した反動で人格が分散し性格もバラバラになった。ヘルトの傍にいるときはいつも通りなのに僕らだと髪の色に沿った性格になっちゃう」
アルブムは普通に語っているけどもユリスの耳には聞き慣れない言語となって入ってきて理解できなかった。
「髪の色が極彩色になって綺麗だった」
彼は昔を思い出し、「彼女に何度惚れたことか」と語る。
「まあ、そんな彼女もヘルトに恋していたし。僕なんて歯牙にもかけられなかったよ」
勝ち目がなかったとアルブムは言葉を吐く。
「でも、一つだけ言えるのはキミの用心深さは彼女に似ていることかな。言っておくけど髪の色で性格が決まるなんてことはないよ。あくまで参考だ。異能で性格が決まるなんてことはない。しかし、■■■■の副産物で性格が誘導されることは極稀にある」
「その副産物とは? それと聞き取れない言語があります」
「ん? 今の聞き取れない? そっか。それほどの時が流れたのか。なら仕方ない」
アルブムは時代の変化に吐露する。而して、彼はユリスの疑問に答える気もない。
「今のキミは僕の聞き取れない言葉があって不思議に思っているだろうけど、それ以上は言えない」
「なぜ?」
「ああ、誤解しないでくれ。僕の口から語らなくてもヴァンが知っている。でも詳しく知りたかったら“緑銀城”の図書室に“異種族言語”所蔵されている。要するに異種族言語をまとめた辞書ゾーン。あとは言語書も残されている。気になるなら城に戻ったあと、じっくりと調べるといい」
「異種族、ですか。しかし、初代様の口から明かせば――」
「ごめん。それだけはできない。僕の時代とキミたちの時代で言語に変化があるかもしれない。だから、僕の口からは語れない。でも、キミに聞き取れる言語がある。ということがキミが聞き取れないのは歴史の闇に隠された異種族だね。あの異種族の言語ならキミが知らないのも無理もない」
アルブムは自分だけ納得してしまい、ユリスはイライラを募らせる一方。
「あぁ~、もう! 隠し事は抜きにして教えてください!」
苛立ちを隠せずに彼へ詰め寄るユリス。すると、人型に戻ったヴァンがアルブムに語る。
「もしかして、古代竜言語じゃない? ほら、竜人族が書き記した」
「古代竜言語?」
「あと、ユリスちゃんが気にしているのは“獄炎詠唱”ね」
「獄炎詠唱?」
(古代竜言語もそうですけど、獄炎詠唱とはいったい……)
ユリスには聞き馴染みもない言語に首を傾げる。知らない言語を知りたい欲求が出始めてきた彼女へヴァンが止める。
「ユリスちゃん。知りたい気持ちがわかるけど、古代竜言語はこの遺跡で学べるから我慢して」
優しいお姉ちゃん風に装って振る舞えばユリスも渋々納得する。
「わかりました。では、ユージが目を覚ませば試練は終わるのですか?」
「いや、試練は僕を倒すまで……メランもベルデもルフスも終えたのに僕だけ終えないのはおかしな話だ。それにこれはリヒトが定めた掟。僕がおいそれと破れないよ」
試練はアルブムを倒す以外に方法がないのだと彼女は理解させられるのだった。
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